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第4章
第2話(2)
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「さっき君は、そこまで甘えられないと言ったが、私はむしろ、もっと甘えてほしいと思っている」
真摯な眼差しを向けられて、莉音はどう答えていいのかわからず困惑の表情を浮かべた。そんな莉音に向かって、ヴィンセントは悪戯めいた笑みを閃かせた。
「困ったときはお互いさま。最初にこの言葉を教えてくれたのは君だ。また私に困ったことが起こったときに助けてもらうためにも、いまは遠慮なく寄りかかってくれてかまわない。むしろぜひ、そうしてほしい」
「そ……」
あまりに強引すぎる理屈に莉音は一瞬絶句し、直後に反論した。
「そんなのずるいです。そんなふうに言われちゃったら、逃げ道がなくなっちゃうじゃないですか」
「逃げ道をことごとく排除して、狙った相手を確実に懐の内に絡めとる。それがビジネスで成功する最大の秘訣だ」
至極真面目な顔で言われて、莉音はとうとう笑い出した。
「そんな秘訣使われちゃったら、僕に勝てるはずないじゃないですか。わかりました。じゃあ、お言葉に甘えてお願いします。ほんとはちょっとだけ、心細かったので」
「無理もない。あんなふうに勝手に自分の家に踏みこまれたうえに荒らされれば、だれだっていい気はしない。気持ちが悪いし、不安になって当然だ」
ヴィンセントの言葉に、胸の裡がほんのりあたたかくなった。
「アルフさん、ありがとうございます」
「礼には及ばない。ただたんに、点数稼ぎがしたいだけだから」
「点数稼ぎ? ですか?」
「そう。莉音は一緒に暮らしている私より、早瀬のほうに打ち解けている。だからこの機に、しっかり距離を縮めて懐いてもらおうと企んでいる」
悪びれる様子もなく堂々と宣言されて、莉音はこらえきれなくなって吹き出した。
「や、やめてください、そんな真顔で。雇い主であるアルフさんに敬意を払うのは当然じゃないですか。早瀬さんはその雇い主の部下なんですから、おふたりを同列に扱うことなんてできません」
「それでも、もう少し気安くなってほしい」
「僕は充分打ち解けてます。早瀬さんとはまだ一度もご一緒したことがないご飯も、アルフさんとは毎日一緒にいただいてますし」
莉音が言うと、ヴィンセントはそれもそうかと妙に納得した様子を見せた。
「私が褒めるせいか、早瀬は莉音の手料理に強い関心を寄せている。食事の時間帯に訪ねてこないよう、注意しておく必要があるな」
どこまでも真顔で言うヴィンセントに、莉音は笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を指先で拭った。そんな莉音を見て、あざやかなサファイア・ブルーの双眸がふっとなごむ。莉音の抱える不安を少しでも取り除こうとする意図があっての発言であることはあきらかだった。
軽口にまぎらせて差し伸べられる思いやりが、とても嬉しかった。
真摯な眼差しを向けられて、莉音はどう答えていいのかわからず困惑の表情を浮かべた。そんな莉音に向かって、ヴィンセントは悪戯めいた笑みを閃かせた。
「困ったときはお互いさま。最初にこの言葉を教えてくれたのは君だ。また私に困ったことが起こったときに助けてもらうためにも、いまは遠慮なく寄りかかってくれてかまわない。むしろぜひ、そうしてほしい」
「そ……」
あまりに強引すぎる理屈に莉音は一瞬絶句し、直後に反論した。
「そんなのずるいです。そんなふうに言われちゃったら、逃げ道がなくなっちゃうじゃないですか」
「逃げ道をことごとく排除して、狙った相手を確実に懐の内に絡めとる。それがビジネスで成功する最大の秘訣だ」
至極真面目な顔で言われて、莉音はとうとう笑い出した。
「そんな秘訣使われちゃったら、僕に勝てるはずないじゃないですか。わかりました。じゃあ、お言葉に甘えてお願いします。ほんとはちょっとだけ、心細かったので」
「無理もない。あんなふうに勝手に自分の家に踏みこまれたうえに荒らされれば、だれだっていい気はしない。気持ちが悪いし、不安になって当然だ」
ヴィンセントの言葉に、胸の裡がほんのりあたたかくなった。
「アルフさん、ありがとうございます」
「礼には及ばない。ただたんに、点数稼ぎがしたいだけだから」
「点数稼ぎ? ですか?」
「そう。莉音は一緒に暮らしている私より、早瀬のほうに打ち解けている。だからこの機に、しっかり距離を縮めて懐いてもらおうと企んでいる」
悪びれる様子もなく堂々と宣言されて、莉音はこらえきれなくなって吹き出した。
「や、やめてください、そんな真顔で。雇い主であるアルフさんに敬意を払うのは当然じゃないですか。早瀬さんはその雇い主の部下なんですから、おふたりを同列に扱うことなんてできません」
「それでも、もう少し気安くなってほしい」
「僕は充分打ち解けてます。早瀬さんとはまだ一度もご一緒したことがないご飯も、アルフさんとは毎日一緒にいただいてますし」
莉音が言うと、ヴィンセントはそれもそうかと妙に納得した様子を見せた。
「私が褒めるせいか、早瀬は莉音の手料理に強い関心を寄せている。食事の時間帯に訪ねてこないよう、注意しておく必要があるな」
どこまでも真顔で言うヴィンセントに、莉音は笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を指先で拭った。そんな莉音を見て、あざやかなサファイア・ブルーの双眸がふっとなごむ。莉音の抱える不安を少しでも取り除こうとする意図があっての発言であることはあきらかだった。
軽口にまぎらせて差し伸べられる思いやりが、とても嬉しかった。
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