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第2章
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「まあでも、くれるって言うものはもらっておけばいいんじゃないですか?」
「えっ、そんなわけにはっ」
「いえいえ、金額を提示したのは雇い主であるヴィンセント本人ですし、あなたにそれだけ出しても惜しくないという彼なりの評価のあらわれだと思いますよ?」
「いえ、ですけど、そんな……」
「大丈夫です。たしかに優雅な独り身でお金も有り余るほど持ってますけど、ボランティア精神で誰彼かまわず施しを与えるような人ではありませんから。そこは、彼なりの価値基準に合致した金額を提示したんだと思います」
はあ、と曖昧に応じつつ、そうか、独身なのか、と思った。
あらためて部屋の様子を見ると、あまりに生活の質とレベルが違いすぎていて、自分のどこをそこまで気に入って価値を見いだしてくれたのか、どうしても理解できない。こんな豪邸で、ドラマか映画の世界の王侯貴族ように贅沢な暮らしをしている彼からすれば、狭いアパートで地味に暮らしている自分は、さぞ貧相に映ったことだろう。
「先程の勤務態様についてなんですが」
「あ、はい」
早瀬の言葉に、莉音は居ずまいを正した。
「必要に応じて清掃をしたり食事の用意をしてもらったりという内容になりますので、殊更フルタイムで勤めていただかなくても大丈夫ですから。仕事柄、海外に行くことも多いですし、夜も会食や接待といったかたちで外で食べることもわりとありますからね」
「それは、はい。社長さんのご都合に合わせます」
「ええ。そうしていただけると助かります」
しかしそれだと、あえて自分を雇う必要はあるのだろうかとさらに疑問が深まった。
「なので、比較的自由になる時間は多いと思うんですが、ヴィンセントの提案として、通いではなく、いっそ住み込みにしてはどうか、と」
「はあ、なるほど。住み込み――って、えっ!?」
またしても意想外な提案に、さらにひっくり返った声が出た。
「えっ? すっ、住み込みっ!? って、ま、まさかここにってことですかっ!?」
「ええ、そうです。いま、まさにいらっしゃるこの家に。ご覧のとおり、部屋はいくらでも余ってますしね。家賃も浮くし、通う手間が省けて楽だろうと」
「いえっ、で、でもそんなっ! 先程社長さんは、他人がご自分の領域に踏みこむことを好まれないと、たしかそういうお話だったかと」
「まあ、そうなんですよね。だからほんと、佐倉さんの件に関しては異例中の異例なんですよ。そんなわけで私も、そこまで見初められたなら社員枠で採用してはどうか、というような提案もしたわけなんですけれども」
本当にわけがわからない。話せば話すほど混乱が深まっていく。どうしてたったあれだけのことで、ここまでしてもらえるのかがわからなかった。
「えっ、そんなわけにはっ」
「いえいえ、金額を提示したのは雇い主であるヴィンセント本人ですし、あなたにそれだけ出しても惜しくないという彼なりの評価のあらわれだと思いますよ?」
「いえ、ですけど、そんな……」
「大丈夫です。たしかに優雅な独り身でお金も有り余るほど持ってますけど、ボランティア精神で誰彼かまわず施しを与えるような人ではありませんから。そこは、彼なりの価値基準に合致した金額を提示したんだと思います」
はあ、と曖昧に応じつつ、そうか、独身なのか、と思った。
あらためて部屋の様子を見ると、あまりに生活の質とレベルが違いすぎていて、自分のどこをそこまで気に入って価値を見いだしてくれたのか、どうしても理解できない。こんな豪邸で、ドラマか映画の世界の王侯貴族ように贅沢な暮らしをしている彼からすれば、狭いアパートで地味に暮らしている自分は、さぞ貧相に映ったことだろう。
「先程の勤務態様についてなんですが」
「あ、はい」
早瀬の言葉に、莉音は居ずまいを正した。
「必要に応じて清掃をしたり食事の用意をしてもらったりという内容になりますので、殊更フルタイムで勤めていただかなくても大丈夫ですから。仕事柄、海外に行くことも多いですし、夜も会食や接待といったかたちで外で食べることもわりとありますからね」
「それは、はい。社長さんのご都合に合わせます」
「ええ。そうしていただけると助かります」
しかしそれだと、あえて自分を雇う必要はあるのだろうかとさらに疑問が深まった。
「なので、比較的自由になる時間は多いと思うんですが、ヴィンセントの提案として、通いではなく、いっそ住み込みにしてはどうか、と」
「はあ、なるほど。住み込み――って、えっ!?」
またしても意想外な提案に、さらにひっくり返った声が出た。
「えっ? すっ、住み込みっ!? って、ま、まさかここにってことですかっ!?」
「ええ、そうです。いま、まさにいらっしゃるこの家に。ご覧のとおり、部屋はいくらでも余ってますしね。家賃も浮くし、通う手間が省けて楽だろうと」
「いえっ、で、でもそんなっ! 先程社長さんは、他人がご自分の領域に踏みこむことを好まれないと、たしかそういうお話だったかと」
「まあ、そうなんですよね。だからほんと、佐倉さんの件に関しては異例中の異例なんですよ。そんなわけで私も、そこまで見初められたなら社員枠で採用してはどうか、というような提案もしたわけなんですけれども」
本当にわけがわからない。話せば話すほど混乱が深まっていく。どうしてたったあれだけのことで、ここまでしてもらえるのかがわからなかった。
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