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第2章

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「うちの会社、これでも結構大きくて、待遇もそれなりにいいんですよ。従業員も日本支社だけでも相当数いますしね。ホテル運営なんかのいわゆるサービス業がメインなんですけど、ほかにもいろんな分野を手広く扱っているので、どこかしらの業種か部署で、適性に合ったところが見つかるんじゃないかって思ったんですけどね」
「そっ、そういうのはよくないと思いますっ。僕が言うのもおかしいですけど」

 社長秘書が率先して会社のトップに不正を提案するというのは如何なものなのだろうか。
 この人たちの会社、大丈夫なのかなと話を聞いている莉音のほうが心配になってきた。その話の中心に据えられているのが、ほかでもない自分だから余計である。

 反応に困っている莉音を見て、早瀬が楽しげに笑った。
「うちの社長が気に入ったのは、あなたのそういうところなんでしょうね」
「え? あの……?」
「打算がなくて、素直で誠実で。とても得がたい美徳だと思います」
「いえ、そんなことは……」

 早瀬の態度は人当たりがよくて穏やかなのだが、どこか値踏みされているような居心地の悪さをおぼえた。

「大丈夫ですよ、そんな警戒しないでください」

 そう言われても、やはりなにか裏があるのではないかと勘ぐってしまう。あまりにも話がうますぎる気がするのだ。

「当然ですが、だれにでもこういうことをしているわけではありません」
 莉音の心中を推し量ったかのように早瀬は補足した。
「というか、こういう話を持ちかけたのはあなたがはじめてです」
 社長の独断で気に入った人間を採用していたら、会社が立ちゆきませんからと苦笑した。

「そもそも、うちの社長は日頃、他人に対して関心が薄い人なんです。そんな人がいつになく強い関心を見せて、やたら気にかけている様子だったので、だったらいっそのこと我が社にスカウトしてはどうかと提案したわけなんです。こんなことははじめてのことでしたからね」
「でも、それってたぶん……」
 莉音はおずおずと意見を口にした。

「僕に特別関心を持たれたというわけじゃなくて、僕が特殊な状況で関わった人間だからだと思うんです。そうじゃなかったら、きっとそこまで気にかけてくださることもなかったんじゃないかなって」
「そういうこともあるかもしれませんね」
 早瀬はあっさりと認めた。

「ただ、佐倉さんのそういう謙虚で、なおかつ客観的な立場から冷静に物事を判断できる素養というのは、やはり非常に優れた資質であると私は思います。ヴィンセントの目に留まったのも、おそらくはそういう部分も含まれているのでしょう」
「はあ……」

 そうなんだろうか、と莉音はいまいち納得しきれなかった。

「ともあれ、まあ、そんなこんなであなたが弊社社長のお気に召したことは間違いありません。ですので、だったら会社のほうではなく、プライベートのほうでお願いしてみてはどうかという話になりまして、このような運びとなりました。まあ、佐倉さんにもいろいろご都合やご事情がおありかと思いますので、昨日も言ったとおり、無理なら無理でそのように言っていただいてかまいませんので」
「あ、いえ」

 莉音はぷるぷると首を横に振った。
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