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第10章
第1話(4)
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「君がプロジェクトに関与することが決まった直後に余人を交えずというのは、不自然な気がして」
そこまで注意を払っていなかった己の軽率さが悔やまれた。
「すみません、俺、坂巻さんにはずっとよくしてもらってて、完全に油断してました」
社内でも終始孤高を貫く如月は、特定のだれかと深く関わることなく、社員すべての動向に注意を払ってきたのだろう。だからこそ、坂巻の不審な動きにも気づけた。
「プロジェクトに関する情報を探ってたってことは、天城顧問の息がかかっている可能性は低いってことになりますよね? 繋がりがあるのなら、わざわざ調べる必要はないはずですし」
「俺もそんな気がしてる。だが、現時点で断定はできない」
自分自身が信頼されている立場でないからと、如月はあくまでも慎重な姿勢を見せた。坂巻に不審な動きをさせることで、如月の注意をそちらに逸らす、あるいは出方を見るといった可能性も否定できないからだ。
「じつは研究アシスタントをはじめて少ししたころに、坂巻班の人たちとの飲みの席で、カマをかけたことがあるんです」
群司は正直に打ち明けた。
「あらゆる望みを叶えてくれる、魔法の薬が存在するって噂話を聞いたことがありますかって。そのときは同席した人たちはだれも真に受ける様子はなくて、ただの与太話として軽く流されたんですけど、それは表向きのことだったのかもしれませんね」
群司が薬を盛られた、まさにあの居酒屋ではじめて飲んだときのことだった。
坂巻に関しては、おそらくそのときに目をつけられた可能性が高い。群司の推測に、如月も同意した。
「坂巻さんがああいう行動に出たのは、マージナル・プロジェクトに関する情報を引き出すためなのか、それとも兄貴の件が絡んでいるのか」
酒に混ぜられていたアミタールは、バルビツール酸系の催眠剤の一種だが、朦朧とした意識下で巧みに誘導すれば必要な情報を引き出すこともできる。ただし、発言内容の信憑性については必ずしも高いとは言いきれない。他の成分も調合されていたようだし、いわゆる自白剤的な使われかたをしたのだろうが、そこまでして群司から聞き出したかった事実とはなんだったのか。
いろいろなことが腑に落ちないまま、群司は如月を顧みた。
「いずれにせよ、俺が天城製薬に目をつけられていることは間違いないですし、いまさらなにも知らなかったというのは相手にも通じないと思うんです。だから琉生さんがどんなに頑張って俺を天城製薬から引き離そうとしても、手遅れなんです」
「開きなおるな。素人がここまで調べあげて単独で乗りこんでくるなんて、無謀すぎるにもほどがある」
「ほら、俺ってこう見えて結構優秀なんで、いろいろ調べてくうちに真相にたどり着いちゃったんですよね」
バカ、と如月に睨まれて群司は笑った。
「琉生さんって、結構容赦ないですよね。まあ、はじめのころから当たりはきつかったですけど。それって俺限定ですか?」
如月は途端に、プイッと横を向いた。そんな子供じみた仕種が新鮮で、口許の笑みがさらにひろがった。
そこまで注意を払っていなかった己の軽率さが悔やまれた。
「すみません、俺、坂巻さんにはずっとよくしてもらってて、完全に油断してました」
社内でも終始孤高を貫く如月は、特定のだれかと深く関わることなく、社員すべての動向に注意を払ってきたのだろう。だからこそ、坂巻の不審な動きにも気づけた。
「プロジェクトに関する情報を探ってたってことは、天城顧問の息がかかっている可能性は低いってことになりますよね? 繋がりがあるのなら、わざわざ調べる必要はないはずですし」
「俺もそんな気がしてる。だが、現時点で断定はできない」
自分自身が信頼されている立場でないからと、如月はあくまでも慎重な姿勢を見せた。坂巻に不審な動きをさせることで、如月の注意をそちらに逸らす、あるいは出方を見るといった可能性も否定できないからだ。
「じつは研究アシスタントをはじめて少ししたころに、坂巻班の人たちとの飲みの席で、カマをかけたことがあるんです」
群司は正直に打ち明けた。
「あらゆる望みを叶えてくれる、魔法の薬が存在するって噂話を聞いたことがありますかって。そのときは同席した人たちはだれも真に受ける様子はなくて、ただの与太話として軽く流されたんですけど、それは表向きのことだったのかもしれませんね」
群司が薬を盛られた、まさにあの居酒屋ではじめて飲んだときのことだった。
坂巻に関しては、おそらくそのときに目をつけられた可能性が高い。群司の推測に、如月も同意した。
「坂巻さんがああいう行動に出たのは、マージナル・プロジェクトに関する情報を引き出すためなのか、それとも兄貴の件が絡んでいるのか」
酒に混ぜられていたアミタールは、バルビツール酸系の催眠剤の一種だが、朦朧とした意識下で巧みに誘導すれば必要な情報を引き出すこともできる。ただし、発言内容の信憑性については必ずしも高いとは言いきれない。他の成分も調合されていたようだし、いわゆる自白剤的な使われかたをしたのだろうが、そこまでして群司から聞き出したかった事実とはなんだったのか。
いろいろなことが腑に落ちないまま、群司は如月を顧みた。
「いずれにせよ、俺が天城製薬に目をつけられていることは間違いないですし、いまさらなにも知らなかったというのは相手にも通じないと思うんです。だから琉生さんがどんなに頑張って俺を天城製薬から引き離そうとしても、手遅れなんです」
「開きなおるな。素人がここまで調べあげて単独で乗りこんでくるなんて、無謀すぎるにもほどがある」
「ほら、俺ってこう見えて結構優秀なんで、いろいろ調べてくうちに真相にたどり着いちゃったんですよね」
バカ、と如月に睨まれて群司は笑った。
「琉生さんって、結構容赦ないですよね。まあ、はじめのころから当たりはきつかったですけど。それって俺限定ですか?」
如月は途端に、プイッと横を向いた。そんな子供じみた仕種が新鮮で、口許の笑みがさらにひろがった。
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