77 / 192
第9章
第2話(5)
しおりを挟む
「これ、もしかして脅しのつもりでした?」
ベルトをはずしてもらいながら尋ねると、早乙女はあっさりそうだと認めた。
「会社でずっと俺に当たりがきつかったのも、俺を遠ざけるため?」
「できれば研究アシスタントなんて早くやめて、普通の日常を取り戻してくれればいいと思ってた。それなのに、来年から正社員になることが決まって、それどころか、いちばん踏みこんでほしくなかった領域にまで……」
「すみません」
群司は苦笑しながら謝罪を口にした。
「だけど俺にも、どうしても引けない事情があったんです」
「わかってる。だから少し怖い思いをしてもらおうと思った。それで引くような性格じゃないのはわかってたけど、それでも、ほんの少しでも思いとどまってくれたら、と」
「それで俺が、最後まで引かなかったらどうするつもりだったんです?」
「このままここに、拘束しておくつもりだった」
「えっ? もしかしてこれって、結構マジな監禁だったんですか?」
思わず本気で驚いた群司に、早乙女はどこまでも真面目にそうだと頷いた。
「君が私を疑っているのはわかってたから、それを逆手にとって、野心に目が眩んだ末の凶行とでも思ってくれればいいと考えていた」
「騙しとおせると思ってたんですか?」
「ビタミン剤でも飲ませて、試験薬の効果を試すふりでもしておこうかと」
フェリスの完成を目指すための人体実験。そう思わせることで、群司の目を、自分のほうに向けさせておこうとしたのだという。
「え、それじゃあ最初に置いていった錠剤もビタミン剤?」
「あれは市販の解熱剤」
真相を明かされて、しばし絶句した群司は額に手を当てて天を仰いだ。
「ムチャクチャだ……」
呟いたあとに、不意に笑いがこみあげてきた。
神経質で生真面目で、ひどく繊細そうなのに想定外に大胆な真似をする。いっそ型破りと言ってもいい。
理知的で、ともすると人形のように温度を感じられない、感情の欠落した人間だと思っていただけに、そのギャップの大きさに振りまわされっぱなしだった。
「笑いごとじゃない」
早乙女は不満そうに言うと、足枷から解放された群司をうながした。
群司がいたのはベッドルームで、その隣はダイニングキッチンとひと繋がりのリビングになっていた。そのリビングを抜けた先の廊下にトイレがあり、おなじ並びに洗面所とバスルームがある。
いずれの部屋も清潔で落ち着いた雰囲気の、シンプルなインテリアで統一されていた。
案内をした早乙女は、洗面所でフェイスタオルとバスタオルを用意すると、群司に差し出した。
「着替えは用意しておくから、脱いだ衣類は洗濯機の中へ」
「ありがとうございます」
礼を言って受け取る際に、うっすらと赤くなっている手首が目に留まる。群司が、力任せに押さえこんだ痕だった。
「すみませんでした。俺、加減できなくて。痛みますよね」
群司が詫びると、早乙女は大丈夫だとかぶりを振った。
「気にしなくていい。先に煽ったのはこちらだから」
「けど」
「大丈夫、ギリギリのところでちゃんと加減してくれてた」
穏やかに言うと、早乙女は群司を残して洗面所を出て行った。
ベルトをはずしてもらいながら尋ねると、早乙女はあっさりそうだと認めた。
「会社でずっと俺に当たりがきつかったのも、俺を遠ざけるため?」
「できれば研究アシスタントなんて早くやめて、普通の日常を取り戻してくれればいいと思ってた。それなのに、来年から正社員になることが決まって、それどころか、いちばん踏みこんでほしくなかった領域にまで……」
「すみません」
群司は苦笑しながら謝罪を口にした。
「だけど俺にも、どうしても引けない事情があったんです」
「わかってる。だから少し怖い思いをしてもらおうと思った。それで引くような性格じゃないのはわかってたけど、それでも、ほんの少しでも思いとどまってくれたら、と」
「それで俺が、最後まで引かなかったらどうするつもりだったんです?」
「このままここに、拘束しておくつもりだった」
「えっ? もしかしてこれって、結構マジな監禁だったんですか?」
思わず本気で驚いた群司に、早乙女はどこまでも真面目にそうだと頷いた。
「君が私を疑っているのはわかってたから、それを逆手にとって、野心に目が眩んだ末の凶行とでも思ってくれればいいと考えていた」
「騙しとおせると思ってたんですか?」
「ビタミン剤でも飲ませて、試験薬の効果を試すふりでもしておこうかと」
フェリスの完成を目指すための人体実験。そう思わせることで、群司の目を、自分のほうに向けさせておこうとしたのだという。
「え、それじゃあ最初に置いていった錠剤もビタミン剤?」
「あれは市販の解熱剤」
真相を明かされて、しばし絶句した群司は額に手を当てて天を仰いだ。
「ムチャクチャだ……」
呟いたあとに、不意に笑いがこみあげてきた。
神経質で生真面目で、ひどく繊細そうなのに想定外に大胆な真似をする。いっそ型破りと言ってもいい。
理知的で、ともすると人形のように温度を感じられない、感情の欠落した人間だと思っていただけに、そのギャップの大きさに振りまわされっぱなしだった。
「笑いごとじゃない」
早乙女は不満そうに言うと、足枷から解放された群司をうながした。
群司がいたのはベッドルームで、その隣はダイニングキッチンとひと繋がりのリビングになっていた。そのリビングを抜けた先の廊下にトイレがあり、おなじ並びに洗面所とバスルームがある。
いずれの部屋も清潔で落ち着いた雰囲気の、シンプルなインテリアで統一されていた。
案内をした早乙女は、洗面所でフェイスタオルとバスタオルを用意すると、群司に差し出した。
「着替えは用意しておくから、脱いだ衣類は洗濯機の中へ」
「ありがとうございます」
礼を言って受け取る際に、うっすらと赤くなっている手首が目に留まる。群司が、力任せに押さえこんだ痕だった。
「すみませんでした。俺、加減できなくて。痛みますよね」
群司が詫びると、早乙女は大丈夫だとかぶりを振った。
「気にしなくていい。先に煽ったのはこちらだから」
「けど」
「大丈夫、ギリギリのところでちゃんと加減してくれてた」
穏やかに言うと、早乙女は群司を残して洗面所を出て行った。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる