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第7章
第2話(3)
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「なに言ってんの、充分名誉でしょ。刃物持った奴に立ち向かったんだから。ふつう、ちょっと様子がおかしいってだけでもスルー案件だから」
「それが正解だと思います。俺のはただの向こう見ずなので」
「いやいや、見事な活躍だったって聞いてるよ? 実際、それで早乙女くんは助けられたわけでしょ?」
この際、目一杯恩を売っちゃえという坂巻に群司は苦笑した。
「恩着せがましいことして、これ以上嫌われたくないんで」
坂巻はチェッと残念な顔をする。
「しかし残念だったね。助けたのが女の子だったらさ、正義のヒーロー登場ってことでその先の進展も期待できたのにね」
「主任、動機が不純ですよ」
すかさず坂巻班の女性研究員に窘められて、坂巻は「はい、ごめんなさい」としおらしく謝罪した。
「まあ、なにはともあれ、生命に関わる大ごとにならなくて済んで、ほんとよかったよ。しばらくは無理しないようにね」
「ありがとうございます」
群司は坂巻班のメンバーや周囲の研究員にも挨拶をして、バイオ医薬研究部をあとにした。そのまま、おなじフロアの薬理研究部にも足を運ぶ。
「すみません、いま少しお時間いいですか」
自席の端末で、なんらかの入力作業を行っていた早乙女に声をかけると、その背中がビクッとふるえた。
振り返った早乙女は、群司の姿をとらえてわずかに目を見開く。口許に、赤紫の殴られた痕が生々しく残っていた。
「あ、作業中にすみません。ご挨拶だけ」
群司が言うと、早乙女は椅子から立ち上がった。心なしか、顔が蒼褪めているように見えた。
「昨日は警察のほうの対応、全部お任せしちゃってすみませんでした。門脇部長のほうにも挨拶に行ってくださったそうで」
「傷は?」
群司の言葉を流して、早乙女が単刀直入に尋ねた。その視線が、左腕に向けられていた。
「ああ、大丈夫です。手当てが早かったので、さほど時間もかからずよくなるだろうと」
「十針以上縫ったと聞いた」
「そうですね、瞬間的にスパッといっちゃってたみたいで。けど、それが逆によかったみたいですよ? 縫い目もきれいだし、これなら治りも早くて痕もほとんど残らないだろうってことでしたから。まあ、女の子じゃないんで、それはべつにかまわないんですけど」
軽い調子で群司が言っても、早乙女の表情は硬いままだった。
「ところで俺、警察には出向かなくていいんですかね? 必要があれば、今日は挨拶に顔出しただけなんで、このあと行ってきますけど。早乙女さん、なにか聞いて――」
「必要ない」
言葉の途中で、早乙女が切って捨てるように言った。
「それが正解だと思います。俺のはただの向こう見ずなので」
「いやいや、見事な活躍だったって聞いてるよ? 実際、それで早乙女くんは助けられたわけでしょ?」
この際、目一杯恩を売っちゃえという坂巻に群司は苦笑した。
「恩着せがましいことして、これ以上嫌われたくないんで」
坂巻はチェッと残念な顔をする。
「しかし残念だったね。助けたのが女の子だったらさ、正義のヒーロー登場ってことでその先の進展も期待できたのにね」
「主任、動機が不純ですよ」
すかさず坂巻班の女性研究員に窘められて、坂巻は「はい、ごめんなさい」としおらしく謝罪した。
「まあ、なにはともあれ、生命に関わる大ごとにならなくて済んで、ほんとよかったよ。しばらくは無理しないようにね」
「ありがとうございます」
群司は坂巻班のメンバーや周囲の研究員にも挨拶をして、バイオ医薬研究部をあとにした。そのまま、おなじフロアの薬理研究部にも足を運ぶ。
「すみません、いま少しお時間いいですか」
自席の端末で、なんらかの入力作業を行っていた早乙女に声をかけると、その背中がビクッとふるえた。
振り返った早乙女は、群司の姿をとらえてわずかに目を見開く。口許に、赤紫の殴られた痕が生々しく残っていた。
「あ、作業中にすみません。ご挨拶だけ」
群司が言うと、早乙女は椅子から立ち上がった。心なしか、顔が蒼褪めているように見えた。
「昨日は警察のほうの対応、全部お任せしちゃってすみませんでした。門脇部長のほうにも挨拶に行ってくださったそうで」
「傷は?」
群司の言葉を流して、早乙女が単刀直入に尋ねた。その視線が、左腕に向けられていた。
「ああ、大丈夫です。手当てが早かったので、さほど時間もかからずよくなるだろうと」
「十針以上縫ったと聞いた」
「そうですね、瞬間的にスパッといっちゃってたみたいで。けど、それが逆によかったみたいですよ? 縫い目もきれいだし、これなら治りも早くて痕もほとんど残らないだろうってことでしたから。まあ、女の子じゃないんで、それはべつにかまわないんですけど」
軽い調子で群司が言っても、早乙女の表情は硬いままだった。
「ところで俺、警察には出向かなくていいんですかね? 必要があれば、今日は挨拶に顔出しただけなんで、このあと行ってきますけど。早乙女さん、なにか聞いて――」
「必要ない」
言葉の途中で、早乙女が切って捨てるように言った。
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