47 / 192
第6章
(5)
しおりを挟む
「たしかに、逮捕時のあの興奮のしかたは常軌を逸してる印象だったかな。けど、薬物反応は出なかったって話だったよね」
「そうみたいですね。俺もネットニュースで見ましたけど」
群司は、坂巻の反応を見ながら頷いた。
「けど、納得してない?」
坂巻はそんな群司をチラリと見やる。群司もまた、ふたたび「そうですね」と頷いた。
坂巻は「そうだなぁ」と呟いて天を仰ぎ、ガリガリと無造作に頭を掻いた。
「薬物か、脳の器質性障害か。あの短い映像だけで判断するのは難しいかな」
「やっぱりそうですよね」
同意しつつ、群司は「でも」と付け加えた。
「絶対に可能性がないわけでもない。そうとも言えますよね?」
「まあ、言えなくもないねぇ」
答えたあとで、坂巻はふっと笑った。
「なに? 群ちゃんは松木大臣にヤク中であってほしいの?」
「あ~、いや。そういうわけではないですけど」
群司は否定した。
「ただ、ここ最近の傾向を見るかぎり、こういうケースが不自然に増えてるのはどうしてなのかなって」
「こういうケースって?」
「世界中の有名人たちがこぞって突如、理性をなくして凶暴化するケースです。松木さんみたいに」
群司が言いきると、坂巻は黙りこんだ。
「偶然と言ってしまえばそれまでですけど、でもなんだか、パターン化してるような気がするんです。そして、そうなるメカニズムはなんだろうって考えると、共通するなにかが見えてくるんじゃないかって思えてきて。たとえば、なんらかの生物を媒介にして脳に影響を及ぼす感染症であったり、あるいは日常的に摂取している食べ物や飲み物の中に含まれるなんらかの要素が作用したり」
「もしくは、ごく一部の人間だけが享受できる薬物……とまではいかなくとも、サプリメントのような『なにか』、とか?」
さりげない様子で補足を加えた坂巻を、群司は見据えた。
「そういう可能性は、坂巻さんから見て、ありうると思いますか?」
「そうだねぇ……」
手の中でコーヒーの缶を弄びながら、坂巻は愉しげな様子を見せた。
「まあ、製薬会社の研究部門に身を置く立場としては、そういう方向に妄想を働かせると、なかなか愉快ではあるよね」
「プロの目から見たら、やっぱり妄想の域を出ませんか?」
「現時点で科学的根拠はどこにもないからね。ただ、いろんな可能性を踏まえて、柔軟な発想力で検証していこうとする姿勢は大事だと思うよ? 将来的に、それがどんな発見に繋がっていくかは、だれにもわからないことだからさ」
言ったあとで、坂巻は身を乗り出した。
「ね、この話ってさ、俺以外にもだれかにしたことある?」
「あ~、あります。その、薬理研究の早乙女さんに」
群司の言葉に、坂巻は目を瞠った。
「えっ、早乙女くんって、あの?」
「あの、早乙女さんです」
群司がしっかり肯定すると、坂巻は「うわっ、チャレンジャー!」と本音を漏らした。
「そうみたいですね。俺もネットニュースで見ましたけど」
群司は、坂巻の反応を見ながら頷いた。
「けど、納得してない?」
坂巻はそんな群司をチラリと見やる。群司もまた、ふたたび「そうですね」と頷いた。
坂巻は「そうだなぁ」と呟いて天を仰ぎ、ガリガリと無造作に頭を掻いた。
「薬物か、脳の器質性障害か。あの短い映像だけで判断するのは難しいかな」
「やっぱりそうですよね」
同意しつつ、群司は「でも」と付け加えた。
「絶対に可能性がないわけでもない。そうとも言えますよね?」
「まあ、言えなくもないねぇ」
答えたあとで、坂巻はふっと笑った。
「なに? 群ちゃんは松木大臣にヤク中であってほしいの?」
「あ~、いや。そういうわけではないですけど」
群司は否定した。
「ただ、ここ最近の傾向を見るかぎり、こういうケースが不自然に増えてるのはどうしてなのかなって」
「こういうケースって?」
「世界中の有名人たちがこぞって突如、理性をなくして凶暴化するケースです。松木さんみたいに」
群司が言いきると、坂巻は黙りこんだ。
「偶然と言ってしまえばそれまでですけど、でもなんだか、パターン化してるような気がするんです。そして、そうなるメカニズムはなんだろうって考えると、共通するなにかが見えてくるんじゃないかって思えてきて。たとえば、なんらかの生物を媒介にして脳に影響を及ぼす感染症であったり、あるいは日常的に摂取している食べ物や飲み物の中に含まれるなんらかの要素が作用したり」
「もしくは、ごく一部の人間だけが享受できる薬物……とまではいかなくとも、サプリメントのような『なにか』、とか?」
さりげない様子で補足を加えた坂巻を、群司は見据えた。
「そういう可能性は、坂巻さんから見て、ありうると思いますか?」
「そうだねぇ……」
手の中でコーヒーの缶を弄びながら、坂巻は愉しげな様子を見せた。
「まあ、製薬会社の研究部門に身を置く立場としては、そういう方向に妄想を働かせると、なかなか愉快ではあるよね」
「プロの目から見たら、やっぱり妄想の域を出ませんか?」
「現時点で科学的根拠はどこにもないからね。ただ、いろんな可能性を踏まえて、柔軟な発想力で検証していこうとする姿勢は大事だと思うよ? 将来的に、それがどんな発見に繋がっていくかは、だれにもわからないことだからさ」
言ったあとで、坂巻は身を乗り出した。
「ね、この話ってさ、俺以外にもだれかにしたことある?」
「あ~、あります。その、薬理研究の早乙女さんに」
群司の言葉に、坂巻は目を瞠った。
「えっ、早乙女くんって、あの?」
「あの、早乙女さんです」
群司がしっかり肯定すると、坂巻は「うわっ、チャレンジャー!」と本音を漏らした。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる