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第6章
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「けど、群ちゃんが気になったその眼鏡美人、やっぱ男ってとこに根深さを感じるよね」
「……根深いですか?」
「そうだよぉ。さっき自分でも言ってたじゃん? 予防線張ってたかもって。そういうのってさ、本人気にしてないつもりでも、結構トラウマになってるものなんだよ。付き合ってた娘とうまく行かなくなったことが原因で、女性不信とかになっちゃったんじゃないの?」
「や~、俺、そこまで繊細な質じゃないと思うんですけど」
「なに言ってんの。男はみんな、デリケートでナイーブなのよ? 俺だって何度、枕を涙で濡らしたことか」
「それ、くわしく聞かせてもらうことできます?」
「ダメダメ。古傷を抉られたら、また泣いちゃうからぁっ!」
くだらないことで盛り上がっていると、すぐ近くのテーブルに座っていた男性社員が「えっ!?」という声をあげた。思わず坂巻とともに振り返ると、気づいた男が、「あ、すみません」とばつが悪そうに頭を下げた。
「なんかいま、ネットニュースチェックしてたら、松木大臣が死亡したって速報が出てたんで」
「えっ!?」
これには群司も坂巻も、おなじように声をあげた。
男が手にしていたスマホの画面をこちらに向ける。それを見た群司と坂巻は、すぐさま自分の携帯を取りだして最新のニュースにアクセスした。
「うわ、マジか……」
記事の内容を確認しながら、坂巻が呟く。群司もまた、画面を見たまま茫然とした。
いくつかのサイトや記事を素早くチェックしてみたが、いずれも内容は似たり寄ったりで、死因は心臓発作とのことだった。
事件のあと、逮捕後の勾留期間中も松木は錯乱状態がつづいていて、その症状は時間が経つにつれひどくなる一方だったという。このままでは取調べに支障をきたすため、嘱託医の判断を仰いでいたところ、突如苦しみだし、その場で救急搬送。搬送先の病院に到着した時点ですでに心肺停止が確認され、医師らの迅速な対応も虚しく、そのまま死亡が確定したとのことだった。
事件はおそらく、容疑者死亡のまま書類送検。不起訴処分となるだろうと記事はまとめていた。
「なんとも、やりきれないねぇ」
坂巻は呟いた。情報をもたらしてくれた男性社員が、「ほんとですよね」と渋い顔で同意する。この事件では、多くの死傷者が出ている。被害に遭い、犠牲となった人々のためにも、こんな呆気ない終わりが許されていいはずもなかった。
ちょうどそこへ、何人かの集団が通りかかり、男性社員は彼らに軽く手を挙げると、気安い調子で互いに声を掛け合った。
同僚たちに合流すべく、彼は席を立つ。坂巻と群司に挨拶をすると、そのまま同僚たちとともに休憩コーナーから去っていった。
その様子を見送った群司は、あらためて携帯の画面に視線を落とし、口を開いた。
「松木外相、薬物中毒が疑われてましたよね。坂巻さんはどう思います?」
群司の問いかけに、坂巻は「う~ん、そぉねぇ……」と考えこみながら言った。
「……根深いですか?」
「そうだよぉ。さっき自分でも言ってたじゃん? 予防線張ってたかもって。そういうのってさ、本人気にしてないつもりでも、結構トラウマになってるものなんだよ。付き合ってた娘とうまく行かなくなったことが原因で、女性不信とかになっちゃったんじゃないの?」
「や~、俺、そこまで繊細な質じゃないと思うんですけど」
「なに言ってんの。男はみんな、デリケートでナイーブなのよ? 俺だって何度、枕を涙で濡らしたことか」
「それ、くわしく聞かせてもらうことできます?」
「ダメダメ。古傷を抉られたら、また泣いちゃうからぁっ!」
くだらないことで盛り上がっていると、すぐ近くのテーブルに座っていた男性社員が「えっ!?」という声をあげた。思わず坂巻とともに振り返ると、気づいた男が、「あ、すみません」とばつが悪そうに頭を下げた。
「なんかいま、ネットニュースチェックしてたら、松木大臣が死亡したって速報が出てたんで」
「えっ!?」
これには群司も坂巻も、おなじように声をあげた。
男が手にしていたスマホの画面をこちらに向ける。それを見た群司と坂巻は、すぐさま自分の携帯を取りだして最新のニュースにアクセスした。
「うわ、マジか……」
記事の内容を確認しながら、坂巻が呟く。群司もまた、画面を見たまま茫然とした。
いくつかのサイトや記事を素早くチェックしてみたが、いずれも内容は似たり寄ったりで、死因は心臓発作とのことだった。
事件のあと、逮捕後の勾留期間中も松木は錯乱状態がつづいていて、その症状は時間が経つにつれひどくなる一方だったという。このままでは取調べに支障をきたすため、嘱託医の判断を仰いでいたところ、突如苦しみだし、その場で救急搬送。搬送先の病院に到着した時点ですでに心肺停止が確認され、医師らの迅速な対応も虚しく、そのまま死亡が確定したとのことだった。
事件はおそらく、容疑者死亡のまま書類送検。不起訴処分となるだろうと記事はまとめていた。
「なんとも、やりきれないねぇ」
坂巻は呟いた。情報をもたらしてくれた男性社員が、「ほんとですよね」と渋い顔で同意する。この事件では、多くの死傷者が出ている。被害に遭い、犠牲となった人々のためにも、こんな呆気ない終わりが許されていいはずもなかった。
ちょうどそこへ、何人かの集団が通りかかり、男性社員は彼らに軽く手を挙げると、気安い調子で互いに声を掛け合った。
同僚たちに合流すべく、彼は席を立つ。坂巻と群司に挨拶をすると、そのまま同僚たちとともに休憩コーナーから去っていった。
その様子を見送った群司は、あらためて携帯の画面に視線を落とし、口を開いた。
「松木外相、薬物中毒が疑われてましたよね。坂巻さんはどう思います?」
群司の問いかけに、坂巻は「う~ん、そぉねぇ……」と考えこみながら言った。
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