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第1章
第2話(3)
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「じつはもうすでに開発済みで、ごく一部のかぎられた層にだけ出まわってるっていう都市伝説っぽい話、ありますよね」
ウーロンハイを片手に、ほろ酔いの態で群司は切り出した。同席のメンバーは、専門職ならではの関心を示して群司に視線を集めた。
「へえ、初耳だなあ。それってどんな?」
「あれ? 聞いたことないです? 俺らの周りだと、結構話題になってますよ?」
群司はさも意外そうに言った。
「遺伝性疾患の治療はもちろんなんですけど、どっちかっていうとドーピングっぽい感じがするんですよね」
「ドーピング? っていうと、スポーツ競技なんかで問題視されるやつ?」
「ですです。それのマルチバージョン」
群司の説明に、皆、怪訝な顔をした。
「俺が聞いた噂だと、筋力増強とか運動能力や神経への作用だけにかぎらないんです」
「というと?」
「知力、思考力、判断力といった方面での劇的な向上に加えて、代謝にも作用してより若さを保てる。それどころか若返りも可能、みたいな。塩基配列に直接働きかけるんで、デザイナーベビーほどではないにせよ、ある程度外観を整えることもできるんだそうです」
「いやいや、そりゃまさに魔法の薬だ」
「っていうか八神くん、じつはすでに、その薬常用してんじゃないのぉ?」
「そうだそうだ。若くてイケメンで将来有望なデキる人材。モテ要素しかないとか、冴えないおっさんたちの敵だ! それも全部ドーピングのせいだったんだな?」
「まさかその見た目で、すでにアラ還とか言うなよ~?」
坂巻の言葉に乗っかるようにしてあちこちから野次が飛ぶ。賑やかな笑い声があがった。
「で? その魔法の新薬が実際に認可されて、すでに市場に出まわってるって?」
「未承認なんじゃないですかね。だから都市伝説化してるっていうか」
どこ情報だよ~と、またしてもテーブルのあちこちからツッコミが入った。
「そんなのが開発されてんなら俺が飲みてぇわ! 若返ってイケメンになって頭脳も明晰になれるうえに成人病、花粉症ともさようなら。っつーか、それ、完全にノーベル賞ものじゃん。ほんとに実在するなら、とっくに世界中で大騒ぎだろ」
皆の声に、群司は「ですよねぇ」と苦笑いで応じた。
「まあ、なんかそういう噂を耳にしたせいか、遺伝学の中でも、そういった方面からアプローチできる新薬の研究、みたいなのに興味が湧いたんですよね。動機としては不純かもしれないですけど。で、ちょうどよくこちらの天城製薬さんでアシスタントの募集があったんで、実際の現場はどんな感じなのか経験してみたくてお世話になることにしました」
なるほどなぁと皆、納得した様子で頷いた。
「動機はどうあれ、研究のテーマとしてはおもしろそうだよな」
坂巻は興味深そうに呟いた。
「群ちゃんがどういう方向で研究進めるのかも気になるし、今後の進捗も教えてよ。うちにある文献で役に立ちそうなのがあればいくらでも貸すし」
「ありがとうございます。助かります」
群司は素直に礼を述べる。
「都市伝説はともかく、いずれは難治疾患に明るい見通しが立てられる時代が来るといいなとは思ってます。権力や欲望がらみの魔法の薬なんてのは論外ですけど」
「おお、さすが若い! 正義漢だねぇ。嫌いじゃないよ、そういう熱意」
「いいぞいいぞっ。ノーベル賞狙っちゃえ!」
酒の勢いも手伝って、場は盛り上がる。
「魔法の新薬って、『フェリス』って言うらしいですよ?」
さりげなく付け加えた群司の発言は、酒の席での戯れ言と見做されたか、へえ、と薄い反応で受け流された。
ウーロンハイを片手に、ほろ酔いの態で群司は切り出した。同席のメンバーは、専門職ならではの関心を示して群司に視線を集めた。
「へえ、初耳だなあ。それってどんな?」
「あれ? 聞いたことないです? 俺らの周りだと、結構話題になってますよ?」
群司はさも意外そうに言った。
「遺伝性疾患の治療はもちろんなんですけど、どっちかっていうとドーピングっぽい感じがするんですよね」
「ドーピング? っていうと、スポーツ競技なんかで問題視されるやつ?」
「ですです。それのマルチバージョン」
群司の説明に、皆、怪訝な顔をした。
「俺が聞いた噂だと、筋力増強とか運動能力や神経への作用だけにかぎらないんです」
「というと?」
「知力、思考力、判断力といった方面での劇的な向上に加えて、代謝にも作用してより若さを保てる。それどころか若返りも可能、みたいな。塩基配列に直接働きかけるんで、デザイナーベビーほどではないにせよ、ある程度外観を整えることもできるんだそうです」
「いやいや、そりゃまさに魔法の薬だ」
「っていうか八神くん、じつはすでに、その薬常用してんじゃないのぉ?」
「そうだそうだ。若くてイケメンで将来有望なデキる人材。モテ要素しかないとか、冴えないおっさんたちの敵だ! それも全部ドーピングのせいだったんだな?」
「まさかその見た目で、すでにアラ還とか言うなよ~?」
坂巻の言葉に乗っかるようにしてあちこちから野次が飛ぶ。賑やかな笑い声があがった。
「で? その魔法の新薬が実際に認可されて、すでに市場に出まわってるって?」
「未承認なんじゃないですかね。だから都市伝説化してるっていうか」
どこ情報だよ~と、またしてもテーブルのあちこちからツッコミが入った。
「そんなのが開発されてんなら俺が飲みてぇわ! 若返ってイケメンになって頭脳も明晰になれるうえに成人病、花粉症ともさようなら。っつーか、それ、完全にノーベル賞ものじゃん。ほんとに実在するなら、とっくに世界中で大騒ぎだろ」
皆の声に、群司は「ですよねぇ」と苦笑いで応じた。
「まあ、なんかそういう噂を耳にしたせいか、遺伝学の中でも、そういった方面からアプローチできる新薬の研究、みたいなのに興味が湧いたんですよね。動機としては不純かもしれないですけど。で、ちょうどよくこちらの天城製薬さんでアシスタントの募集があったんで、実際の現場はどんな感じなのか経験してみたくてお世話になることにしました」
なるほどなぁと皆、納得した様子で頷いた。
「動機はどうあれ、研究のテーマとしてはおもしろそうだよな」
坂巻は興味深そうに呟いた。
「群ちゃんがどういう方向で研究進めるのかも気になるし、今後の進捗も教えてよ。うちにある文献で役に立ちそうなのがあればいくらでも貸すし」
「ありがとうございます。助かります」
群司は素直に礼を述べる。
「都市伝説はともかく、いずれは難治疾患に明るい見通しが立てられる時代が来るといいなとは思ってます。権力や欲望がらみの魔法の薬なんてのは論外ですけど」
「おお、さすが若い! 正義漢だねぇ。嫌いじゃないよ、そういう熱意」
「いいぞいいぞっ。ノーベル賞狙っちゃえ!」
酒の勢いも手伝って、場は盛り上がる。
「魔法の新薬って、『フェリス』って言うらしいですよ?」
さりげなく付け加えた群司の発言は、酒の席での戯れ言と見做されたか、へえ、と薄い反応で受け流された。
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