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5章
しおりを挟む反抗の意志を示さないように注意しながら一週間をすごしました。もっとも、部屋から出て散歩でもしようものなら、
「おうじょさま、おねがいですからへやにいてください!」
なんてメッシちゃんが泣きそうな顔で言ってくるので、部屋で大人しくしていました。
一週間後の夜、私はそわそわしていました。メッシちゃんが部屋まで持ってきた夕食は喉が通らず、半分くらい残してしまいました。
「ごめんねメッシちゃん、残してしまって」
「いえいえ、おきになさらないでください。それよりもどこかおからだにわるいところなどございませんか」
メッシちゃんが心配そうに聞いてきます。
「大丈夫よ。メッシちゃんは優しいのね。ちょっと疲れちゃったみたい。しばらくひとりにさせて」
クライスがやってくるのに、メッシちゃんがうろうろしていては大変です。
「かしこまりました、おだいじに……」
とぼとぼと部屋を出ていくメッシちゃんの後ろ姿に違和感を覚えましたが、頭の中はすぐにクライスのことに切り替わりました。
数分後、部屋のドアをノックする音が聞こえてきました。私はドアに駆け寄りました。たった一週間会わなかっただけなのに、もう彼のことが恋しくなっています。勢いよくドアを開けると、そこにクライスはいませんでした。
「おやセシル、満面の笑みを浮かべてどうしたのかな」
ドアの前にはベイル王子が立っていました。
「ええと、何かございましたか」
なるべく平静を装ったつもりですが、表情がうまく作れません。
「いやあ、セシルの面倒を見させている召使が気になることを報告しに来てくれてね。夕食にはほとんど手をつけず、心ここにあらずという雰囲気だったと」
紳士的に語りかけてくるベイル王子がかえって不気味です。
「妻の様子がおかしいと聞いて、大人しくしていたら夫失格です。急いで顔を見に来たというわけです」
「それはどうもありがとうございます。でも……」
「でも来てほしかったのは別の人だったのに、ですか?」
「え」
まずい。動揺が態度に出てしまいました。ちょっと考えたら、ベイル王子がクライスとの接触に勘付いているのかはまだわからないのに。
「セシル、俺は悲しいよ。何か隠しているんだな」
「いえ、決してそんなことは」
「まあいい。ちょっと外の景色を見に行かないか。我が城自慢の屋上庭園だ。少しは気も紛れるだろう」
有無を言わさぬ雰囲気がありました。ここで断ったら何をされるのか分かりません。
「では少しだけ時間をください。少し冷えるだろうから、羽織るものを用意しますので」
「分かった。部屋の前で待っている」
ベイル王子が後ずさり、私はドアを閉めました。力が抜け、その場にへたり込んでしまいました。これからクライスがこの部屋にやってくる。何か伝言を残しておかないと。私は机に傷を付け、クライスへのメッセージを書き残しました。その後クローゼットから毛皮を取り出して再び部屋を出ました。
「おまたせしました、参りましょう」
ベイル王子はメッシちゃんと何やら話していましたが、私の呼びかけに気付くと途端に話を止めました。
「では行きましょうか」
私はベイル王子の後ろをついていきました。メッシちゃんが申し訳なさそうにして私の部屋に入っていくのを横目で捉えました。クライスへのメッセージが見つからないように祈りながら私は歩みを進めました。
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