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〈奇跡の再会〉後編

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 3月12日には名古屋、3月13日には大阪、3月17日には神戸、3月19日には広島・呉軍港、4月12日には福島・郡山、4月15日には神奈川・川崎……
 色々な県出身の者から聞いたとのことだが、大阪出身の隊員から聞いた大阪空襲では地下鉄に逃げて被害のない地域に脱出できた者もいたそうで……
 その話を聞いた時は、避難所にいた勤労学生の女の子が尽力したのかもしれないと思った。

 その子から聞いた話だが、地下鉄は駅構内が崩壊したり、火災やガス漏れ、水が流入しない限り安全で……豪雨や津波などによる浸水もある程度時間がかかるそうだ。
 最も心配なのは人が出入口に押しかける群衆雪崩の圧死で、誰かがパニックになっても我先にと追従せず冷静になった方がいい……とも言っていた。

 「菊水作戦」は4月6日から始まっていて、百里原海軍航空隊では4月10日に『正気隊』という部隊名で特攻作戦に参加することになった旨の訓示が上官からあったそうで……
 鹿児島の串良くしら基地から出撃する4月28日・5月4日の出撃に間に合うように出発していく仲間を見送ったが……
 最後の想いを日記や手紙に残して飛び立っていく仲間を見送るのは心苦しかった。
 僕達は療養明けということもあって、すぐには編成に組み込まれず……飛行訓練に励んでいた。

 5月5日……十一連空が解散され、第十航空艦隊直卒に改編し、解散した名古屋海軍航空隊・姫路海軍航空隊・宇佐海軍航空隊隊員が百里原海軍航空隊に編入された。

「宇佐空編入ってことは……さ、坂本くん? し、島田くん?」

「よう、高田~篠田~また会ったな! だから言っただろ?」

 約7ヶ月振りの再会だったが、相変わらず坂本くんは爽やかで……ヒロは感動のあまり、固まっていた。

「す、すごいよ……奇跡だよ、また会えるなんて……」

「相変わらず高田は純粋だな……篠田は…………驚き過ぎだ」

 島田くんは相変わらずクールだった。
 僕達は久し振りの再会に肩を寄せ合って喜びを分かち合い、昔話に花を咲かせた。
 興奮気味だった気持ちが落ち着いてきた頃、坂本くんが……

「東京の方は酷い空襲があったと聞いたが、貴様達の所は大丈夫だったか?」

「それが……」

 僕達が今まであった事を話すと……二人とも自分の事のように悲しんでくれた。

「俺達の地元の千葉には、まだ大規模な空襲はないが……いよいよ危ないかもしれないな」

「まあ、家の下に防空壕があるから大丈夫だろ」

「その防空壕はあかん……みんな蒸し焼きになったんや……静子おばさんもそこで死んだ……もし家族もそれで油断しとるんなら、手紙で連絡しといた方がええ! 軍事郵便は検閲があるから、少し離れた所にある郵便局からならこっそり出せるから」

「わ、分かったよ……」

「坂本くんは? お正月に涼子さんとかに会えた?」

「じ、実はな…………俺達…………結婚して子供ができたんだ」

「え~!? いつの間に?」

「しょ、正月に色々あってバタバタとな……」

「え~おめでとう! 生まれるの楽しみだね! 男の子かな? 女の子かな?」

「赤ちゃん、女の子でもお前に似たら足が早うなるやろな~大っきくなったら競争や!」

「こいつに似た男だったら絶対キザになりそうだよな……」

「アッハッハ貴様ら気が早すぎだぞ! 男の子でも女の子でも涼子に似て美人な優しい子になるに決まってるじゃないか~」

「それは、それは……ごちそうさまで~す」

 僕達は久し振りに大笑いした。
 自分達が特攻隊に編成されるかもしれないということを、その瞬間は完全に忘れていた……

 しばらく談笑していたら、総員集合がかけられた。

「え~ただ今より5月12日に出撃する事になった『第三正気隊』の編成を発表する! まずは坂本亘! 貴様は優秀だからな、期待しているぞ!」

「待って下さい! 坂本くんは……」

「高田!…………いいんだ……いつかは来る事だから」

「でも!」

「ここにいる者は皆、大切な家族を残して来ているんだ……俺だけ特別、というわけにはいかないよ」

 その後も発表は続いたが、僕達四人の中で呼ばれたのは坂本くんだけだった。

「なんで坂本が…………俺が代わってやりたい気分や……」

「坂本くんは、生まれる赤ちゃんを見られないってこと?」

「クソッ、あいつに先を越されるなんて……」

「おい貴様ら、出発はまだ先だが……四人で写真を撮らないか? この奇跡の出会いに感謝して……」

 百里原基地にはカメラがあって、各基地に出発する前に写真を撮るのが恒例になっていた。
 四人で撮るのは初めてで、発表のショックが大きくて三人とも中々笑えなかったが……
 坂本くんがみんなを笑わそうと僕達の脇の下を小突いた。
 
 そうして撮った四人の写真は、みんな最高の笑顔だった。
 特に坂本くんは、全く悲壮感を感じさせない……とても綺麗な笑顔だった。
 その笑顔の奥に本当はどんな思いを抱えていたのか……僕達は全く分かっていなかった。
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