上 下
12 / 34

【セルヴィス視点】変なスライムを拾った日

しおりを挟む
───リリアーナがいなくなって10年。
今更人の住む町に戻るつもりもない。どうせ迫害されるだけだろうし、それなら出来るだけリリアーナを感じていたかった俺は、リリアーナの家に住み続けた。

畑を世話し、森で採取した材料で薬を作り、魔物を狩る。
時々は町に出て薬や魔物の素材なんかを決まった店で売り捌き、必要な物を買って帰る。
極たまに町や森の中でリリアーナを通して知り合った冒険者に出会うが、基本は誰とも話さない日々。

……出会ったばかりの頃、リリアーナは口下手だったっけ。

思い出した姿に、つい微笑む。あの時は威圧しか感じなかったけど、内心ではきっとパニックになってたんだろな。
100年もこんな生活をしてたなら、それは話し方も忘れるよな。

リリアーナの墓の前で、かつてのリリアーナに想いを馳せる。
そんな何の変化もない日々を暮らすオレの前に、は現れた。


「ピ、ピィィ~?」

「……。何だよ、お前?」

家の前の畑で薬草の手入れをしていると、スライムがゆっくりと近づいてきた。
まるで春の空のような薄い水色の小さなスライム。いや、なんでここにスライムが?

「ピィ! ピィピ、ピィ!ピィィ!」

「やけに人懐っこいスライムだな。大抵の魔物はここには近寄れないはずだけど……、変だな。」

興奮してる?のか、やたら鳴きながら足にすり寄ってくるスライム。顔も何もない魔物だけど、なんとなく動きを見てると喜んでいるような?
でもいくら人懐こくても魔物だ。近くにある湖から漂う清浄な空気は、大抵の魔物には不快に感じるらしく近寄らないとリリアーナが昔言っていたし、実際に近寄ってくる魔物は見た事がない。

リリアーナのような魔族ならともかく、弱いスライムがなぜ?

(ん?)

見ると足元のスライムは、全身が汚れだらけだ。

「ピィ!?」

「お前、随分ボロボロだな。」

持ち上げてみると、所々抉られたような跡や、表面がザラザラになってる部分もある。怪我?スライムは傷ついてもすぐに治るイメージだったけど……小さいし、もしかしたら生まれたてで治癒力が弱いとか?

「獣や他の魔物にでも追われたか?…仕方ない、治療してやるか。」

「ピ……!?」

別に放っておいても良いけど、こいつはすり寄ってきた時の姿といい、ピーピー鳴いてる姿といい…、魔物というより人懐こい小動物みたいで可愛いし、ちょっとだけ特別扱いしてやろうって気になった。
そんな気まぐれを起こした俺に、スライムは何故か驚いたように鳴いた───人間の言葉が理解できるのか?
いや、まさかね。知能の低いスライムにそんな芸当できるわけないか。


家にスライムを入れるために結界を解き、汚れを落とし治癒力を高める薬草を与えてやる。生態もよく知らないスライムに出来る治療なんてこの程度だけど、元々治療なんて必要ないくらい治癒力の高い魔物なんだから大丈夫だろ。

治療も終わったしと外に出そうとすると、スライムは俺の手にしがみつくようにくっついて離れない。

「ほら。治療は済んだし、森に帰りなよ。」

引っぺがすとピーピー鳴いて体の一部を触手のように伸ばして腕にしがみつこうとする。なんか駄々をこねる子供に見えてきた。

「いい?俺はお前を飼うつもりはないの。諦めて帰れ。」

わかるわけない、と思いつつ諭しながら家の外まで連れて行く。
まだ必死でしがみつこうとするスライムから逃げて、さっさと家の中に引っ込み結界を張り直した。
これであのスライムは、もうこの家に入ってこれない。

全く、変なスライムだったな。




暫くして窓から外を覗いてみると、まだスライムは家の前でジッとしていた。

「……ウソでしょ。」

何でまだいるの。まるで扉が開くのを待ってるみたいに……知能の低いスライムが?

いつまで経ってもスライムは家の前から離れない。夜が近くなってようやく移動したと思ったら、庭の片隅にある物置小屋の屋根の下で動かなくなってしまった。
その姿はまるで庭で飼われる犬のよう。


───野良犬に餌をやると家に居ついてしまうって聞いた事あるけどさ。まさかスライムもそうなのか?


結局そのスライムは一週間、雨の日だろうとひたすら庭に居続けた。
俺の姿を見つける度に嬉しそうに寄ってきて懐いてくる姿に、最初こそ出来るだけ冷たくあしらってたけど……まぁ、徐々に絆されてしまったんだよね。

それにコイツを見てるとリリアーナを彷彿とさせる。
リリアーナも尻尾振りまくるバカ犬みたいに俺に纏わりついてたし、どっか似てるんだよ。

あの馬鹿に似たところがある、人懐こいスライム。

気付けば俺は、まるでリリアーナに本当はしてやりたかったように、スライムの事を甘やかすようになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...