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学校

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「お父さま。わたし、学校に通ってみたい」

 家を出よう。そう決めたクロエは伯爵に貴族の女性が通う学校に自分も入学したいと頼んだ。普段めったに自分の要望を言わない娘からの頼み事に伯爵は快く承諾してくれた。

「クロエ。急に学校に通いたいなんて、どうしたの?」

 妹の心変わりに何かあったのではないかと心配したエリーヌが理由をたずねてくる。クロエは自分の表情と声に気をつけながら何でもないことのように言った。

「お姉さま、以前わたしに他に何かやりたいことはないかってたずねたでしょう? あれからわたしなりに考えてみて、もっと勉強してみたいなと思ったの」
「でも……それなら家庭教師でも十分じゃないかしら」

 姉の言うことも最もである。女性が知識を身につけた所でそれを生かす場所は少ない。結婚していずれは男性を支える立場になることを踏まえれば、必要以上の学力は疎まれた。

 それでもクロエは行くと決めた。

「他の人と一緒に勉強することで学ぶこともあると思うの」

 本当はディオンの手の届かない場所へ逃げるためだった。取り返しのつかないことが起きないよう回避するためだった。そしてこうした理由含めて、決して姉に知られてはいけなかった。

 エリーヌはまだ何か言いたげな表情で心配を露わにしていたが、クロエの意思が変わらないものだと悟ると諦めたように微笑んだ。

「わかったわ。あなたがそこまで望んでいるなら、私も応援するわ」
「ありがとう、お姉さま」
「でも寂しくなるわね」

 休みの日には帰っていらっしゃいと言う姉にクロエはもちろんよと頷いた。



「――クロエさまは週末お帰りになられるの?」

 同級生の言葉にクロエはいいえと微笑んだ。

「調べたいことがあるので寮で過ごそうと思っていますわ」
「まあ、勤勉ね」

 それに比べてわたくしったら……というご令嬢たちの会話を聞きながら、クロエは姉のエリーヌに思いを馳せた。

(お姉さまとマルセル様、上手くやっているかしら)

 学校に入学してから半年が経った。その間一度も家へは帰っていない。手紙だけは書いて送っているので向こうの様子は知っている。姉は変わらずディオンへ愛を注いでいるようで、結婚するのが待ち遠しいと綴られていた。

 結婚は半年後。不安や愚痴は書いていないのでおそらく上手くいっているのだろうと信じたい。

(やっぱり家を出てよかった)

 物理的に距離を置くことで、ディオンも姉とより向き合える。そして気づくはずだ。彼女がかけがえのない相手であると。

(せめて結婚式には出ないとな……)

 早くその時がきて何事もなく終わればいい。この時のクロエはそう思っていた。

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