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25. 残された者の責任
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「お兄様……」
あの日。マリアンヌはほぼ即死の状態で息を引き取り、ダヴィドはすぐに医者が駆けつけて手当を施したが、出血がひどく、長く苦しんだ後にこの世を去った。
葬儀は身内だけの、ごく簡単なもので済ませることとなった。もちろん愛人に刺されて死んだという理由は伏せて、伯爵は突然の病死、マリアンヌの方は産後の体調が芳しくなく、伯爵の死が引き金となった、という形で公表した。
けれどこんな話をどこまで世間の人々が信じるかは別で、新聞では愛人との痴情のもつれが原因ではないかとあることないこと書かれている。そしてそれが全くの虚偽ではないだけに、イレーナや残った使用人たちは何としても醜聞を晒すまいと、毅然とした態度を貫いた。他にそれしか道がなかった。
(それでも、さっきのようなことはこれからも起こるでしょうね……)
すれ違った夫人たちの言葉を思い出し、イレーナは暗い気持ちになった。二人が亡くなってもうすぐ一年経とうとしているが、噂が消えることはない。イレーナが生きている限り、何かと話題に上ることだろう。
「ありがとう、お兄様」
だがそんなことは覚悟の上だった。
「私は大丈夫。あれくらいで泣きべそかいていたら、きりがないもの。平気よ」
兄はそんな妹の態度に、何か言いたげな様子であった。
「なぁ、イレーナ。あの子はどうするつもりなんだ?」
あの子というのは、ダヴィドとマリアンヌの子ども、ノエルのことだった。今はまだイレーナの屋敷で育てられている。
「いつまでもお前が面倒を見るつもりじゃないだろう?」
イレーナは兄の顔をじっと見つめた。
「お兄様。私はノエルを伯爵の子として、正式な跡取りとして、育てるつもりです」
リュシアンは眉をわずかに寄せ、自身の髪をくしゃりとかき混ぜる。そしてどう妹を説得すべきか考えあぐねるように言った。
「お前の血をひいてもいない。まして愛人の子なのにか?」
「私がお母様と同じことをするんじゃないかって、不安?」
いいや、とリュシアンは意外にも否定した。
「お前はそんなことしないよ。俺のことを兄として慕ってくれた優しい子だからね」
俺が心配しているのは、とリュシアンは向かい合ったイレーナの手をとった。
「お前が血も繋がっていない子どものために自分の人生を犠牲にすることだ」
「それは――」
ちがう、と言いかけたイレーナを遮り、リュシアンはなおも言った。
「お前は父上の命で愛人のいる夫に嫁がされ、正式な妻であるのに夫にないがしろにされ、二人のせいで散々な目に遭った。勝手に死んで、それで残された子どもの面倒まで見るなんて、そんなのおかしいだろう。なんでお前がそこまでする必要がある」
「お兄様……」
「俺は今度こそ、お前に幸せになってほしいんだ」
握りしめられた兄の手は、懇願するように震えていた。
「……ありがとう、お兄様。私の幸せを願ってくれて」
「じゃあ――」
「でも、やっぱりノエルは私が育てます」
「イレーナ!」
ごめんなさいとイレーナは困ったように謝った。
「伯爵は私にノエルのことを託したんです」
『――すまない、イレーナ。こんなことになって、ほんとうに……すまない。どうか、どうかノエルのことを……』
死ぬ間際になってようやくダヴィドは残される我が子の行く末を心配した。それはあまりにも遅すぎる父親としての言葉であったが、ダヴィドだけは母親と違い息子のことを気にかけてくれた。そう思えばノエルも多少報われるのではないか。イレーナはそう思いたかった。
「私は夫の最後の頼みを無下にすることはできません」
「だが……」
「それにどんな事情があれ、私は一度結婚して家を出ています。もう、お兄様の妹、という立場ではいられません」
それでも納得できないとリュシアンの顔は言いたげであった。イレーナとて、兄がすんなりと納得してくれるとは思っていなかった。
「……まぁ、まだお前も伯爵の死からそんなに経っていないから気が動転しているんだろう」
もう一度よく考えなさい、とひとまずその話はそこで終わりとなった。
「それで、今日は家に泊まっていくか?」
「いいえ。少し休ませてもらったら、家へ帰るわ」
自分にはまだすべきことがあった。
◇
「お帰りなさいませ、奥様」
「ええ、ただいま」
自分の屋敷へ帰って来たのはもう日が沈む時刻だった。分厚い冬用のコートを脱いでメイドに渡していると、部屋に熱い紅茶が運ばれてきた。それを口にして、ようやく一息ついた心地になる。
「……ノエルは?」
「乳母に寝かしつけられて、今は眠っています」
「そう」
イレーナは後で様子を見に行こうとしばし目を閉じた。ダヴィドが死んで、父まで旅立った。再婚する気がないならそれでもいい。家へ帰ってきて、のんびり暮らせばいいと兄は言ってくれたが、そう簡単にはいかない。
(ダヴィド様が生きていれば、すべてを捨ててお兄様のところへ行ったかもしれないけれど……)
だがもう彼はこの世にいない。残された使用人たちは、イレーナの指示を仰ぐしかない。彼が治めている領地のことも、これからはイレーナが考えていかなくてはいけない。兄が帰って来いとイレーナに言ったのは、そういった重責から逃れさせる意図も含まれていたのだろう。
(でも、逃げるわけにはいかない)
すくっとイレーナは立ち上がり、子ども部屋へと向かった。物音を立てぬようそっと中へ入ると、乳母のアネットが慈しむような眼差しでゆりかごを揺らしていた。
「あ、奥様」
「ノエルは寝たかしら?」
「はい。たった今」
そっと中を覗き込む。ふっくらとした頬をした赤ん坊は目を閉じてすやすやと寝息を立てていた。
(大きくなったわね)
この前までは本当に小さかったのに、手も足も伸びて、もうゆりかごでは収まらないくらいだ。そろそろベッドで寝かせてもよいのだろうか。
「奥様。これからノエル様はどうなるのでしょうか」
イレーナがそんなことを考えていると、アネットがひどく不安な表情で尋ねてきた。彼女はノエルが生まれてからずっとそばで世話してきた女性だ。両親に死なれたノエルの境遇を誰よりも嘆き悲しんでいた。彼らが亡くなった今、イレーナよりもずっとノエルのことが心配なのだろう。
「やっぱり別のお屋敷で育てることになるんでしょうか……?」
つまり養子として手放すか、と聞いているのだ。
「いいえ。養子には出さないわ」
「それじゃあ、マリアンヌ様かダヴィド様の遠縁の方に預けるのですか?」
二人が亡くなり、ぜひノエルを引き取りたいと申し出る人間が出てきたのだ。それはダヴィドの親類にあたる者であったり、マリアンヌの両親でもあった。彼らはノエルが可哀想でならない。ぜひ自分たちのもとで可愛がってやりたいと、涙ながらに訴えてきた。しかしその本心は――
「いいえ。あの人たちがこの子を育てることもないわ」
口ではどんなに上手いことを言えても、彼らの魂胆が別にあるのは透けて見えた。ダヴィドの血を引いたノエルを後継者として祭り上げ、伯爵の領地や財産を我が物にしたいという欲望が。
『あなたのようなお若い人には、子どもの世話などできないでしょう?』
マリアンヌの父親の三日月型なった目。その横で愛人の子に似ている孫を憎々しげに見つめる夫人の目。
二人のもとでノエルが幸せになるとは、イレーナには到底思えなかった。
(たとえ孤児院に預けても、親類だと称して引き取ろうとするでしょうね……)
ならば、とイレーナはノエルの安らかな寝顔を見つめながら言った。
「この子はダヴィド様の後継者として、私の息子としてこの屋敷で育てます」
「本当ですか!」
アネットの顔がぱぁっと輝き、嬉しそうに手を叩いた。その拍子でノエルが目を覚まし、声を上げて泣き始めた。
「ああっ、ごめんなさい! 私ったらつい嬉しくて……」
よしよしと抱き上げてあやすアネットの姿に、イレーナは自然と頬をほころばせた。赤ん坊は必死に泣いている。その声が、かつての自分は嫌いで、怖くてたまらなかった。今も、どこかでイレーナの幼い思い出を蘇らそうとしている。
でも、もう大丈夫だとイレーナは思った。
(声を上げて泣いているのは、小さい身体で必死に生きている証拠。自分を見てと、必死で温もりを求めているからこそ……)
「イレーナ様……?」
ノエルの両親は、もういない。生まれて一年も経たずに、この子は一人ぼっちになってしまった。その事実が痛いほどイレーナの胸を抉った。あふれる涙を拭いながら、イレーナは誓うようにつぶやいた。
「私があなたを守るわ……」
あの日。マリアンヌはほぼ即死の状態で息を引き取り、ダヴィドはすぐに医者が駆けつけて手当を施したが、出血がひどく、長く苦しんだ後にこの世を去った。
葬儀は身内だけの、ごく簡単なもので済ませることとなった。もちろん愛人に刺されて死んだという理由は伏せて、伯爵は突然の病死、マリアンヌの方は産後の体調が芳しくなく、伯爵の死が引き金となった、という形で公表した。
けれどこんな話をどこまで世間の人々が信じるかは別で、新聞では愛人との痴情のもつれが原因ではないかとあることないこと書かれている。そしてそれが全くの虚偽ではないだけに、イレーナや残った使用人たちは何としても醜聞を晒すまいと、毅然とした態度を貫いた。他にそれしか道がなかった。
(それでも、さっきのようなことはこれからも起こるでしょうね……)
すれ違った夫人たちの言葉を思い出し、イレーナは暗い気持ちになった。二人が亡くなってもうすぐ一年経とうとしているが、噂が消えることはない。イレーナが生きている限り、何かと話題に上ることだろう。
「ありがとう、お兄様」
だがそんなことは覚悟の上だった。
「私は大丈夫。あれくらいで泣きべそかいていたら、きりがないもの。平気よ」
兄はそんな妹の態度に、何か言いたげな様子であった。
「なぁ、イレーナ。あの子はどうするつもりなんだ?」
あの子というのは、ダヴィドとマリアンヌの子ども、ノエルのことだった。今はまだイレーナの屋敷で育てられている。
「いつまでもお前が面倒を見るつもりじゃないだろう?」
イレーナは兄の顔をじっと見つめた。
「お兄様。私はノエルを伯爵の子として、正式な跡取りとして、育てるつもりです」
リュシアンは眉をわずかに寄せ、自身の髪をくしゃりとかき混ぜる。そしてどう妹を説得すべきか考えあぐねるように言った。
「お前の血をひいてもいない。まして愛人の子なのにか?」
「私がお母様と同じことをするんじゃないかって、不安?」
いいや、とリュシアンは意外にも否定した。
「お前はそんなことしないよ。俺のことを兄として慕ってくれた優しい子だからね」
俺が心配しているのは、とリュシアンは向かい合ったイレーナの手をとった。
「お前が血も繋がっていない子どものために自分の人生を犠牲にすることだ」
「それは――」
ちがう、と言いかけたイレーナを遮り、リュシアンはなおも言った。
「お前は父上の命で愛人のいる夫に嫁がされ、正式な妻であるのに夫にないがしろにされ、二人のせいで散々な目に遭った。勝手に死んで、それで残された子どもの面倒まで見るなんて、そんなのおかしいだろう。なんでお前がそこまでする必要がある」
「お兄様……」
「俺は今度こそ、お前に幸せになってほしいんだ」
握りしめられた兄の手は、懇願するように震えていた。
「……ありがとう、お兄様。私の幸せを願ってくれて」
「じゃあ――」
「でも、やっぱりノエルは私が育てます」
「イレーナ!」
ごめんなさいとイレーナは困ったように謝った。
「伯爵は私にノエルのことを託したんです」
『――すまない、イレーナ。こんなことになって、ほんとうに……すまない。どうか、どうかノエルのことを……』
死ぬ間際になってようやくダヴィドは残される我が子の行く末を心配した。それはあまりにも遅すぎる父親としての言葉であったが、ダヴィドだけは母親と違い息子のことを気にかけてくれた。そう思えばノエルも多少報われるのではないか。イレーナはそう思いたかった。
「私は夫の最後の頼みを無下にすることはできません」
「だが……」
「それにどんな事情があれ、私は一度結婚して家を出ています。もう、お兄様の妹、という立場ではいられません」
それでも納得できないとリュシアンの顔は言いたげであった。イレーナとて、兄がすんなりと納得してくれるとは思っていなかった。
「……まぁ、まだお前も伯爵の死からそんなに経っていないから気が動転しているんだろう」
もう一度よく考えなさい、とひとまずその話はそこで終わりとなった。
「それで、今日は家に泊まっていくか?」
「いいえ。少し休ませてもらったら、家へ帰るわ」
自分にはまだすべきことがあった。
◇
「お帰りなさいませ、奥様」
「ええ、ただいま」
自分の屋敷へ帰って来たのはもう日が沈む時刻だった。分厚い冬用のコートを脱いでメイドに渡していると、部屋に熱い紅茶が運ばれてきた。それを口にして、ようやく一息ついた心地になる。
「……ノエルは?」
「乳母に寝かしつけられて、今は眠っています」
「そう」
イレーナは後で様子を見に行こうとしばし目を閉じた。ダヴィドが死んで、父まで旅立った。再婚する気がないならそれでもいい。家へ帰ってきて、のんびり暮らせばいいと兄は言ってくれたが、そう簡単にはいかない。
(ダヴィド様が生きていれば、すべてを捨ててお兄様のところへ行ったかもしれないけれど……)
だがもう彼はこの世にいない。残された使用人たちは、イレーナの指示を仰ぐしかない。彼が治めている領地のことも、これからはイレーナが考えていかなくてはいけない。兄が帰って来いとイレーナに言ったのは、そういった重責から逃れさせる意図も含まれていたのだろう。
(でも、逃げるわけにはいかない)
すくっとイレーナは立ち上がり、子ども部屋へと向かった。物音を立てぬようそっと中へ入ると、乳母のアネットが慈しむような眼差しでゆりかごを揺らしていた。
「あ、奥様」
「ノエルは寝たかしら?」
「はい。たった今」
そっと中を覗き込む。ふっくらとした頬をした赤ん坊は目を閉じてすやすやと寝息を立てていた。
(大きくなったわね)
この前までは本当に小さかったのに、手も足も伸びて、もうゆりかごでは収まらないくらいだ。そろそろベッドで寝かせてもよいのだろうか。
「奥様。これからノエル様はどうなるのでしょうか」
イレーナがそんなことを考えていると、アネットがひどく不安な表情で尋ねてきた。彼女はノエルが生まれてからずっとそばで世話してきた女性だ。両親に死なれたノエルの境遇を誰よりも嘆き悲しんでいた。彼らが亡くなった今、イレーナよりもずっとノエルのことが心配なのだろう。
「やっぱり別のお屋敷で育てることになるんでしょうか……?」
つまり養子として手放すか、と聞いているのだ。
「いいえ。養子には出さないわ」
「それじゃあ、マリアンヌ様かダヴィド様の遠縁の方に預けるのですか?」
二人が亡くなり、ぜひノエルを引き取りたいと申し出る人間が出てきたのだ。それはダヴィドの親類にあたる者であったり、マリアンヌの両親でもあった。彼らはノエルが可哀想でならない。ぜひ自分たちのもとで可愛がってやりたいと、涙ながらに訴えてきた。しかしその本心は――
「いいえ。あの人たちがこの子を育てることもないわ」
口ではどんなに上手いことを言えても、彼らの魂胆が別にあるのは透けて見えた。ダヴィドの血を引いたノエルを後継者として祭り上げ、伯爵の領地や財産を我が物にしたいという欲望が。
『あなたのようなお若い人には、子どもの世話などできないでしょう?』
マリアンヌの父親の三日月型なった目。その横で愛人の子に似ている孫を憎々しげに見つめる夫人の目。
二人のもとでノエルが幸せになるとは、イレーナには到底思えなかった。
(たとえ孤児院に預けても、親類だと称して引き取ろうとするでしょうね……)
ならば、とイレーナはノエルの安らかな寝顔を見つめながら言った。
「この子はダヴィド様の後継者として、私の息子としてこの屋敷で育てます」
「本当ですか!」
アネットの顔がぱぁっと輝き、嬉しそうに手を叩いた。その拍子でノエルが目を覚まし、声を上げて泣き始めた。
「ああっ、ごめんなさい! 私ったらつい嬉しくて……」
よしよしと抱き上げてあやすアネットの姿に、イレーナは自然と頬をほころばせた。赤ん坊は必死に泣いている。その声が、かつての自分は嫌いで、怖くてたまらなかった。今も、どこかでイレーナの幼い思い出を蘇らそうとしている。
でも、もう大丈夫だとイレーナは思った。
(声を上げて泣いているのは、小さい身体で必死に生きている証拠。自分を見てと、必死で温もりを求めているからこそ……)
「イレーナ様……?」
ノエルの両親は、もういない。生まれて一年も経たずに、この子は一人ぼっちになってしまった。その事実が痛いほどイレーナの胸を抉った。あふれる涙を拭いながら、イレーナは誓うようにつぶやいた。
「私があなたを守るわ……」
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