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第6章:光の心臓編

175 守り人の代役

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「ここまで来れば、問題無いかな……?」

 光の心臓が封印されているダンジョンの下層にて、二丁拳銃を扱う双子の元から逃げるべくミルノを連れて走ってきたアランは、ようやく見つけた細い脇道に逃げ込んだところでそう呟きつつ足を止めた。
 彼女の言葉に、強引に腕を引っ張られる形で走ってきたミルノは自分の膝に両手をついて荒い呼吸を繰り返す。
 アランも少し息が切れていたが、何度か深呼吸をして息を整えつつ、通路の壁から軽く顔を出す形で双子と理沙がいる方向を確認する。
 しかし、かなりの距離を走ってきた通路は緩く湾曲しており、こちらから二人の様子を伺うことは出来そうになかった。
 ──リンちゃん、無事でいてくれると良いけど……。

「ミルノちゃん、大丈夫? 本当はもっと休んでたいけど、出来れば早くルミナちゃんの所に……」
「で、も……リンさん、が……」

 心配しつつ急かすように言うアランに対し、ミルノは荒い呼吸を繰り返しながら、掠れた声で呟くように言った。
 彼女の言葉にアランは微かにその顔を強張らせたが、すぐにその場にしゃがみ込み、伏し目がちになっていたミルノと目を合わせて続けた。

「そのリンちゃんが先に行けって言ったんだよ? それに私達じゃあの子達には敵わないし、ここで戻っても足手まといにしかならないでしょ?」
「だ、だからって……あ、あの二人は、強いし……やっぱり、リンさん一人に任せる、のは……」
「リンちゃんは強いから大丈夫だよ! 上層でも私達のこと助けてくれたし、今回も大丈夫だって!」

 元気づけるように明るい声で言うアランに、ミルノはまだ納得いっていないような表情で渋々頷いた。
 それにアランはしばし考えるように間を置いたあと、すぐに何かを思いついたような表情で立ち上がり、ポンッと胸の前で手を打った。

「もしリンちゃんが危ない状況でも、私達が先にルミナちゃんの方を何とかしてから助けに行けば、リンちゃんの怪我を直して一緒に逃げることが出来るじゃん?」

 「だから……ねっ? 急ごう?」と続けながら、彼女は未だに自分の膝に手をつく形で息を切らしているミルノに手を差し出す。
 それを見たミルノは一瞬だけ目を丸くしたが、少し間を置いてから表情を引き締めてコクッと一度頷き、差し出された掌に自分の手を置いて軽く握った。
 アランはそれに「んっ」と満面の笑みで頷くとその手を握り返し、彼女の手を引く形で光の心臓が封印されている方へと向かった。
 二人が逃げてきた方向は幸いにも心臓が封印されている場所に向かっており、それからは特に目立った障害も無く、割とすぐに辿り着くことが出来た。

「まさか、本当にダンジョンを攻略するとは……流石は心臓の守り人様、と言ったところですか?」

 心臓の部屋に入って来た二人に対し、ルミナは相変わらず瞼が固く閉じられた瞳を向けながら、淡々とした口調で呟くように言った。
 彼女の言葉に、アランは一瞬ムッとした表情を浮かべたが、すぐにその顔を引き締めて口を開いた。

「そんなことはどうでも良いよ! とにかく約束は果たしたんだから、これでリートちゃんを治療してくれるんだよね!?」
「約束……? 何を言っているんですか?」

 急かすように言うアランに、ルミナはキョトンとしたような表情を浮かべながらそう聞き返す。
 その言葉を聞いたアランはカッと目を見開き、すぐに身を乗り出して続けた。

「ルミナちゃんが言ったんじゃんッ! このダンジョンを攻略したらリートちゃん達を治療してくれるってッ! だからこうして、ここまで来たって言うのにッ……!」
「あ、アランちゃんっ……!」

 今にも殴り掛かりそうな勢いで怒鳴るアランを、ミルノは慌てた様子で宥める。
 そんな二人のやり取りに、ルミナは呆れたように小さく溜息をつきつつ口を開いた。

「えぇ、確かに私は言いましたよ? ……今まで心臓の魔女がしてきたように、このダンジョンを攻略し、光の心臓を回収して見せて下さい、と」

 どこか演技がかったような口調で語られたその言葉に、アランは訝しむような表情で口を噤み、ミルノも不思議そうにルミナを見つめた。
 先程までの喧騒が嘘のように静まり返った二人の様子に、ルミナはやれやれと言ったように軽く首を横に振りながら続ける。

「それともまさか、ダンジョンの最奥までやって来た心臓の魔女に快く心臓を差し出した、なんて……言いませんよね?」
「っ……ま、まさか……ルミナ、さんと……た、戦え、って……こと……?」
「えッ!?」

 か細い声で呟いたミルノの言葉に、アランはギョッとしたような表情で声を上げる。
 ルミナはそれにクスッと小さく笑いながら二人の方に向き直り、すぐに首を軽く横に振った。

「いえ。ここに来る前にも言いましたが、私の扱う光魔法の大半は回復魔法で構成されており、単騎での戦闘には不向きです。お二人と戦っても、勝ち目などありませんよ」
「だったら……!」
「なので、私の代わりに光の心臓を守ってくれる代役を用意しているんです」

 ルミナはそう言い終わるのと同時に、パチンッと軽く指を鳴らして見せた。
 刹那──金色の岩で構成された壁の一部が、ゴゴゴゴッと鈍い音を立てながら盛り上がり始めた。

「なッ……!?」
「アランちゃん……!」

 ミルノは驚いた様子で声を漏らすアランの手を取り、すぐさま盛り上がった壁から距離を取るように引き寄せた。
 直後、盛り上がった岩は壁から分離し、地面の上に着地する。
 驚いた様子でその光景を見つめていたアランは、やがて訝しむようにその目を細めた。

「何、あの生き物……? ドラゴン……では、無いよね……?」
「た、多分……」

 周囲の風景に溶け込むように変色した小型の鱗で覆われた巨体を、五本の指が二股に分かれた奇妙な形状の四肢で支えている、四足歩行の生き物。
 円錐状の眼球はギョロギョロと左右バラバラに動き、長い尾はとぐろを巻いている。
 巨大なカメレオンのような見た目をした魔物を前に、アランとミルノは警戒を露わにしながらもしっかりと武器を構えて向き直る。

「この子はダンジョンに住む魔物の中でも特に私の魔力に順応し、私の言うことを聞いて心臓の守り人としての役割を代わりに果たしてくれる優秀な片腕です。……なので、貴方達がこの子を倒すことが出来たのなら、このダンジョンを攻略出来たものとして認めてあげましょう」

 ルミナは瞼を瞑ったまま淡々と語りつつ、光の心臓が置いてある壁の出っ張りに浅く腰掛けた。
 彼女の言葉に呼応するかのように、カメレオンのような魔物は四肢を強く踏ん張り、ギョロギョロと動く不気味な双眼を二人へと向けた。
 それに、アランは大槌を構えて表情を引き締めながら、すぐに口を開いた。

「しょうがない。さっさと勝つよ、ミルノちゃんッ!」
「う、うん……! 頑張る……!」

 迷いのないアランの言葉に対し、ミルノはどこか自信無さそうに答えながらもしっかりと頷き、同じように弓矢を構えた。

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