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第6章:光の心臓編
173 薄気味悪い
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こころと友子が飛び込んだ先は丁度雪が積み上げられて山になっており、バフッ! と柔らかい音を立てて雪の中に着地した。
部屋の窓からそれを見たリアスは、こころに特に怪我が無いことを確認し、ホッと一息ついた。
以前、こころは自分が友子を説得すると宣言した。
あの時、友子を手に掛ける覚悟はあるかと問うた時、こころは咄嗟に答えられなかった。
しかし、一晩経った後の彼女の目に迷いは無く、覚悟が出来たことをリアスは悟った。
彼女の覚悟を疑うつもりは無いし、ひとまず、この場は彼女に任せて問題は無いだろう。
リアスがそう考えて窓から離れた時、廊下からタッ、と誰かが駆け出すような音がした。
「おい、今の音……!」
「ッ……!」
身を乗り出して声を荒げるフレアの言葉に、リアスはすぐに顔を上げて音がした方を見た。
──まさか、他にも仲間が……!?
──この場から離れたということは、リートを倒すのでは無く、こころとトモコの戦いに加勢するつもりなんじゃ……!
もしそうだとしたら、二対一になってこころが不利になってしまう。
それならすぐに自分がこころに加勢して二対二にすれば、少なくとも数的な有利不利は無くなるが……そうなれば、こころの友子への説得を邪魔することになってしまう。
──それに、私がこの場を離れたら、リート達が……!
リアスが凄まじい速度で思考を巡らせていた時、視界の隅に、棚の上に並べた回復薬の小瓶が入って来た。
それを見た瞬間、リアスはすぐさま小瓶の一つを手に取り、ベッドの上に座ったフレアに投げつけた。
フレアはそれをほぼ反射的に片手で受け取り、すぐに自分の受け取った物を確認して驚いたような表情を浮かべた。
「私がアイツを追うから、アンタがリートを守りなさい。必要なら、その回復薬を使って」
リアスは薙刀を構え直しながら端的にそう言い、部屋から離れていった友子の仲間を追って駆け出す。
それにフレアが「おいッ!」と声を荒げたが、リアスはすぐに部屋を飛び出し、一段飛ばしで階段を駆け下りて一階のロビーに向かう。
すると、丁度宿屋の扉から一人の少女が外に飛び出していくのが見えた。
──させない……!
リアスはすぐさま片手に魔力を込め、少女の目の前の地面に向かって氷魔法を放つ。
ただでさえ雪が積もった地面は氷魔法で凍っても視覚的には判別しづらく、少女は気付かず「ひゃぁッ!」と可愛らしい悲鳴を上げながら氷で足を滑らせた。
──今の内に……!
リアスはすぐさま少女の元に駆け寄り、薙刀の刃を彼女の首元に突き付けながら口を開いた。
「殺されたくなかったら、両手を挙げてこちらに体を向けなさい」
「は、はい……ッ!」
冷ややかな声で命令するリアスの言葉に、少女は震えた声で答えながら両手を挙げ、ゆっくりとこちらに体を向けた。
向かい合う形で彼女の顔を見たリアスは、その目を僅かに見開いた。
「……ユズ……?」
「お、お願いします……! どうか、殺さないで下さい……! 私……本当は、貴方達と争いたくないんです……!」
驚いたような表情で呟くリアスに対し、柚子は両手を挙げたまま、怯えたような表情でそう懇願した。
彼女とは、アランの心臓が封印されていたラシルスのカジノとダンジョンにて、それぞれ遠目に何度か見たことがある程度の接点しか無い。
自分の攻撃を何度も防いで見せた面白い子だからと、アランがやけに名前を覚えていた程度。
こころは確か、日本にいた頃に自分が所属していたとある集団にて、リーダー的存在だったと言っていた。
正義感が強く真面目な性格で、皆から慕われる“優等生”だった、と。
……しかし……。
「こッ、こんなこと言っても、信じて貰えないと思うん、ですけど……私、昔からこういう、争いごととか苦手で……出来ることなら、お互いに話し合って、平和的な解決方法を見つけたいと思ってるんです。だから、どうか、武器を下ろして……話し合いませんか……?」
両手を挙げたまま、怯えた表情を浮かべて命乞いをする柚子の言葉に、リアスは静かに薙刀を構え直した。
──……何なの……? この子……。
心の中で訝しむように呟きながら、彼女は薙刀の柄を握る力を強める。
他人の感情に人一倍鋭い彼女だからこそ気付くことが出来た、山吹柚子という少女の持つ異常性。
彼女の語る言葉は……本心では無い。
感情のこもっていない、上辺だけのもの。
……それ自体は、別に珍しいことでも無い。
そもそもリアスと柚子は敵同士なのだし、殺されそうになれば思ってもいない虚言で生き延びようとするのは必然のこと。
問題は……その上辺だけの命乞いの裏にある、彼女の本心が全く見えないこと。
こんなこと、今まで無かった。
心臓の守り人であるリアスが今までに関わったことのある人間など高が知れているし、身近にいる人々は基本的に考えていることが分かりやすいタイプが多いが……それでも、どれだけ相手が表面上を取り繕っていようが、その裏に隠された本心を見通すことが出来た。
しかし……柚子だけは、本心が見えない。
彼女の言葉が上辺だけのものである、ということだけは分かるが……その裏に隠された思考や感情が、一切見えてこないのだ。
そもそも、彼女の被っている“仮面”自体がよく出来たもので、普通に生活していて彼女が猫を被っているということに気付く人間はまずいないだろう。
リアスの場合、現状自分が柚子を殺そうとしている優位な状況で、心に余裕があったから辛うじて気付けたが……もし対等以下の立場だったら、きっと柚子の言葉が本心でないことにすら気付けなかった。
自分の本心をひた隠し、感情を押し殺して“良い子”の皮を被る。
一瞬、どことなくこころと似通った部分があるように感じたが……──隠せているように見えて結構顔に出るタイプのこころと、目の前にいる少女を一緒にするのは、流石に気が引けた。
──今後のことを思うと、この子はここで殺しておかなくちゃ……。
初めて見る異様な人間を前に、リアスはこころに極力クラスメイトを殺さないで欲しいと頼まれていたことすら忘れ、すぐさま柚子に向かって素早く振り下ろした。
それを見た柚子はその目を大きく見開き、足元の凍ってない地面を蹴ることでその場を離れ、リアスの薙刀を躱しつつ距離を取りながら盾を構え直す。
「あ、はは……交渉決裂、ですか……」
「……」
困ったような笑みを浮かべながら呟く柚子に対し、リアスは何も答えないまま薙刀を構え直し、長い刃を柚子の方に向ける。
それを見た柚子は少し怯む素振りを見せたが、すぐに表情を引き締めつつ盾を構えて臨戦態勢をとった……──かと思えば突然素早く踵を返し、友子とこころが落ちたであろう方角に向かって駆け出した。
「ッ! 待ちなさいッ!」
それを見たリアスはすぐさま薙刀を構え直し、柚子の後を追って走り出す。
元々防御力重視のステータスである彼女の足はあまり早く無く、あっという間に手の届く距離まで追いつくことが出来た。
──ここで何かすると目立つし、ひとまず一旦人気の無い場所に行かなくちゃ……!
リアスはそんな風に考えつつ、目の前を走る柚子の襟首に手を伸ばした。
「──れ給え! ロックボールッ!」
刹那、柚子は突然後ろに振り向きながら早口で呪文を唱え、至近距離まで迫っていたリアスに向かって手を伸ばす。
ほぼゼロ距離で射出された岩の弾を、リアスは反射的に首を横に傾ける形で何とか躱し、数歩よろめいて立ち止まった。
「……争いごとは嫌いなんじゃなかったの? “優等生”さん?」
リアスは弾が掠った頬を指で撫でながらそう言い、目の前に立つ柚子に視線を向けた。
それに柚子は僅かに表情を固くした後、左手の拳を強く握りしめながら口を開いた。
「私だって、出来ることなら穏便に済ませたかったですよ。でも、貴方がそのつもりなら、それに対抗するまでの話です……!」
──ここまでしても、全く本性を見せないなんて──
「──ホント……薄気味悪いわね」
緊張した面持ちで言う柚子に対し、リアスは彼女に聴こえない程度の声でそう呟きながら、薙刀を構え直した。
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こころと友子が飛び込んだ先は丁度雪が積み上げられて山になっており、バフッ! と柔らかい音を立てて雪の中に着地した。
部屋の窓からそれを見たリアスは、こころに特に怪我が無いことを確認し、ホッと一息ついた。
以前、こころは自分が友子を説得すると宣言した。
あの時、友子を手に掛ける覚悟はあるかと問うた時、こころは咄嗟に答えられなかった。
しかし、一晩経った後の彼女の目に迷いは無く、覚悟が出来たことをリアスは悟った。
彼女の覚悟を疑うつもりは無いし、ひとまず、この場は彼女に任せて問題は無いだろう。
リアスがそう考えて窓から離れた時、廊下からタッ、と誰かが駆け出すような音がした。
「おい、今の音……!」
「ッ……!」
身を乗り出して声を荒げるフレアの言葉に、リアスはすぐに顔を上げて音がした方を見た。
──まさか、他にも仲間が……!?
──この場から離れたということは、リートを倒すのでは無く、こころとトモコの戦いに加勢するつもりなんじゃ……!
もしそうだとしたら、二対一になってこころが不利になってしまう。
それならすぐに自分がこころに加勢して二対二にすれば、少なくとも数的な有利不利は無くなるが……そうなれば、こころの友子への説得を邪魔することになってしまう。
──それに、私がこの場を離れたら、リート達が……!
リアスが凄まじい速度で思考を巡らせていた時、視界の隅に、棚の上に並べた回復薬の小瓶が入って来た。
それを見た瞬間、リアスはすぐさま小瓶の一つを手に取り、ベッドの上に座ったフレアに投げつけた。
フレアはそれをほぼ反射的に片手で受け取り、すぐに自分の受け取った物を確認して驚いたような表情を浮かべた。
「私がアイツを追うから、アンタがリートを守りなさい。必要なら、その回復薬を使って」
リアスは薙刀を構え直しながら端的にそう言い、部屋から離れていった友子の仲間を追って駆け出す。
それにフレアが「おいッ!」と声を荒げたが、リアスはすぐに部屋を飛び出し、一段飛ばしで階段を駆け下りて一階のロビーに向かう。
すると、丁度宿屋の扉から一人の少女が外に飛び出していくのが見えた。
──させない……!
リアスはすぐさま片手に魔力を込め、少女の目の前の地面に向かって氷魔法を放つ。
ただでさえ雪が積もった地面は氷魔法で凍っても視覚的には判別しづらく、少女は気付かず「ひゃぁッ!」と可愛らしい悲鳴を上げながら氷で足を滑らせた。
──今の内に……!
リアスはすぐさま少女の元に駆け寄り、薙刀の刃を彼女の首元に突き付けながら口を開いた。
「殺されたくなかったら、両手を挙げてこちらに体を向けなさい」
「は、はい……ッ!」
冷ややかな声で命令するリアスの言葉に、少女は震えた声で答えながら両手を挙げ、ゆっくりとこちらに体を向けた。
向かい合う形で彼女の顔を見たリアスは、その目を僅かに見開いた。
「……ユズ……?」
「お、お願いします……! どうか、殺さないで下さい……! 私……本当は、貴方達と争いたくないんです……!」
驚いたような表情で呟くリアスに対し、柚子は両手を挙げたまま、怯えたような表情でそう懇願した。
彼女とは、アランの心臓が封印されていたラシルスのカジノとダンジョンにて、それぞれ遠目に何度か見たことがある程度の接点しか無い。
自分の攻撃を何度も防いで見せた面白い子だからと、アランがやけに名前を覚えていた程度。
こころは確か、日本にいた頃に自分が所属していたとある集団にて、リーダー的存在だったと言っていた。
正義感が強く真面目な性格で、皆から慕われる“優等生”だった、と。
……しかし……。
「こッ、こんなこと言っても、信じて貰えないと思うん、ですけど……私、昔からこういう、争いごととか苦手で……出来ることなら、お互いに話し合って、平和的な解決方法を見つけたいと思ってるんです。だから、どうか、武器を下ろして……話し合いませんか……?」
両手を挙げたまま、怯えた表情を浮かべて命乞いをする柚子の言葉に、リアスは静かに薙刀を構え直した。
──……何なの……? この子……。
心の中で訝しむように呟きながら、彼女は薙刀の柄を握る力を強める。
他人の感情に人一倍鋭い彼女だからこそ気付くことが出来た、山吹柚子という少女の持つ異常性。
彼女の語る言葉は……本心では無い。
感情のこもっていない、上辺だけのもの。
……それ自体は、別に珍しいことでも無い。
そもそもリアスと柚子は敵同士なのだし、殺されそうになれば思ってもいない虚言で生き延びようとするのは必然のこと。
問題は……その上辺だけの命乞いの裏にある、彼女の本心が全く見えないこと。
こんなこと、今まで無かった。
心臓の守り人であるリアスが今までに関わったことのある人間など高が知れているし、身近にいる人々は基本的に考えていることが分かりやすいタイプが多いが……それでも、どれだけ相手が表面上を取り繕っていようが、その裏に隠された本心を見通すことが出来た。
しかし……柚子だけは、本心が見えない。
彼女の言葉が上辺だけのものである、ということだけは分かるが……その裏に隠された思考や感情が、一切見えてこないのだ。
そもそも、彼女の被っている“仮面”自体がよく出来たもので、普通に生活していて彼女が猫を被っているということに気付く人間はまずいないだろう。
リアスの場合、現状自分が柚子を殺そうとしている優位な状況で、心に余裕があったから辛うじて気付けたが……もし対等以下の立場だったら、きっと柚子の言葉が本心でないことにすら気付けなかった。
自分の本心をひた隠し、感情を押し殺して“良い子”の皮を被る。
一瞬、どことなくこころと似通った部分があるように感じたが……──隠せているように見えて結構顔に出るタイプのこころと、目の前にいる少女を一緒にするのは、流石に気が引けた。
──今後のことを思うと、この子はここで殺しておかなくちゃ……。
初めて見る異様な人間を前に、リアスはこころに極力クラスメイトを殺さないで欲しいと頼まれていたことすら忘れ、すぐさま柚子に向かって素早く振り下ろした。
それを見た柚子はその目を大きく見開き、足元の凍ってない地面を蹴ることでその場を離れ、リアスの薙刀を躱しつつ距離を取りながら盾を構え直す。
「あ、はは……交渉決裂、ですか……」
「……」
困ったような笑みを浮かべながら呟く柚子に対し、リアスは何も答えないまま薙刀を構え直し、長い刃を柚子の方に向ける。
それを見た柚子は少し怯む素振りを見せたが、すぐに表情を引き締めつつ盾を構えて臨戦態勢をとった……──かと思えば突然素早く踵を返し、友子とこころが落ちたであろう方角に向かって駆け出した。
「ッ! 待ちなさいッ!」
それを見たリアスはすぐさま薙刀を構え直し、柚子の後を追って走り出す。
元々防御力重視のステータスである彼女の足はあまり早く無く、あっという間に手の届く距離まで追いつくことが出来た。
──ここで何かすると目立つし、ひとまず一旦人気の無い場所に行かなくちゃ……!
リアスはそんな風に考えつつ、目の前を走る柚子の襟首に手を伸ばした。
「──れ給え! ロックボールッ!」
刹那、柚子は突然後ろに振り向きながら早口で呪文を唱え、至近距離まで迫っていたリアスに向かって手を伸ばす。
ほぼゼロ距離で射出された岩の弾を、リアスは反射的に首を横に傾ける形で何とか躱し、数歩よろめいて立ち止まった。
「……争いごとは嫌いなんじゃなかったの? “優等生”さん?」
リアスは弾が掠った頬を指で撫でながらそう言い、目の前に立つ柚子に視線を向けた。
それに柚子は僅かに表情を固くした後、左手の拳を強く握りしめながら口を開いた。
「私だって、出来ることなら穏便に済ませたかったですよ。でも、貴方がそのつもりなら、それに対抗するまでの話です……!」
──ここまでしても、全く本性を見せないなんて──
「──ホント……薄気味悪いわね」
緊張した面持ちで言う柚子に対し、リアスは彼女に聴こえない程度の声でそう呟きながら、薙刀を構え直した。
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