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第6章:光の心臓編
169 信じられない
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「「だって私達、双子だからね」」
二重になった声で言いながら、砂煙の中から現れた少女は両手に持った二丁拳銃を構え、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
それを見たアランとミルノは、武器を構えるのも忘れて呆気にとられた表情を浮かべた。
「なッ……まさか、あの二人、合体して……!? 嘘でしょ……!?」
「そ、それに、あの武器も、見たことない……! 一体、何が起こってるの……ッ!?」
信じられないと言った様子で言うアランとミルノ。
それもそのはず。なぜなら、二人だったはずの少女が、一瞬の間に合体して一人の人間になったのだから。
今まで見てきた友子や柚子のオーバーフローとは比べ物にならない、あまりにも突飛で常識離れした異様な能力を前に、二人は言葉を失う。
二人の人間が一人になるなど、常識的に考えれば有り得ない。
鏡映しのように瓜二つな身体を持ち、同じ両親の元に同時に生まれ、同じ人を想い、同じ願いを抱いた双子だからこそ成し得た所業。
魔力やステータス等の全体的な能力値、適合魔法属性、思考は二人分に。
武器の二丁拳銃は、二人の使っていた武器が合体し、そこに四種の魔力が加わり生み出された。
二つの武器が合体することで銃身が作り出され、土属性魔法と林属性魔法によって銃弾を錬成し、火属性魔法で着火し風属性魔法で速度を増幅した状態で射出する仕組みになっている。
双子は呆気に取られた二人の思考を遮るように、パァンッ! パァンッ! と二発の乾いた銃声を鳴らす。
あまり広くないダンジョン内に突如として響き渡った爆発音に、ミルノがビクッと肩を震わせて顔を顰めたのと、彼女の太腿とアランの肩に穴が空いたのはほぼ同時だった。
「ッ……!?」
「ミルノちゃん……!?」
足を撃ち抜かれその場に崩れ落ちるミルノに、アランは自身の肩が撃たれたのも忘れて彼女の元に駆け寄る。
すると、再度パァンッ! と乾いた銃声が響き渡り、彼女の足元を銃弾が抉った。
「ちょっと、花鈴。さっきから狙い外し過ぎ」
「ごめんごめん! 次は絶対外さないから!」
真凛と花鈴はそんな風に話しながら、二丁拳銃の銃口をアランとミルノに向ける。
それに、ミルノを庇うように立ったアランは、大槌を構えながらギリッと歯ぎしりをした。
──何あの武器……!?
──弓矢みたいな遠距離武器なのは分かってるけど、予備動作も全然無いし、速すぎて何が飛んできてるのかも分からない……!
──あの爆発音みたいなのが、何かを飛ばす合図みたいな感じなのは分かってるんだけど……!
パァンッ!
アランがグルグルと目まぐるしい速度で思考を巡らせていた時、花鈴と真凛はまたもや銃弾を放った。
その音を聴いたアランは、咄嗟に頭と胸を守るように大槌を構えた。
直後、放たれた銃弾は大槌にぶつかり、乾いた音を立てた。
「くッ……! ……ぅぉりゃぁぁぁああああッ!」
一瞬顔を顰めたアランだったが、すぐに大槌を盾のように構えたまま、花鈴と真凛に向かって突進した。
それを見た双子は大きく目を見開いたが、すぐに二丁拳銃を構えて何度も引き金を引き、銃弾を連射する。
しかし、乾いた破裂音と共に放たれた銃弾はどれも大槌に弾かれ、アランに命中しない。
そんなことをしている間にアランは双子の懐に潜り込み、大槌を振るう構えをとった。
今、二人の距離はほぼゼロ距離。
どんなに高性能な遠距離武器でも、距離を詰めてしまえばほとんど機能しなくなる。
アランはその弱点を突くべく距離を詰め、一気にカタを付けるべく大槌を構え直した。
この距離ならば双子の二丁拳銃は機能せず、一撃必殺と言っても過言では無いアランの攻撃で決着を着けられる。
そう。……普通の二丁拳銃ならば、だ。
ジャキンッ!
「ッ……!?」
「アランちゃんッ!」
突然近くから聴こえた刃物を出すような音に、アランは目を見開き、離れた場所にいたミルノが声を上げる。
それに、アランは咄嗟に両足を強く踏ん張る形で動きを止め、ほぼ反射的に仰け反るような体勢を取った。
刹那、彼女の目の前を何やら刃物のようなものが横切っていった。
「なッ……」
小さく声を漏らしながらも、アランはそのまま体勢を立て直しながらバックステップで距離を取り、顔を上げた。
見るとそこでは、銃口の下部から短刀のようなものが突き出た二丁拳銃を構える双子の姿があった。
その姿にアランが息を呑んだ時、双子は彼女に向かって一気に距離を詰めて銃剣を振るった。
「おわッ……!?」
小さく声を漏らしながらも、アランは素早く体を捻って襲い来る刃を躱す。
しかし双子はすぐさまそれに反応し、小柄なアランの体に容赦なく二刀の刃を振るっていく。
ただでさえ状況が理解出来ていない中で素早い攻撃を躱すことは困難であり、次第に少女の振るう刃が皮膚を掠め、追い詰められていく。
そんな中で、足の傷が回復したミルノがこちらに向かって弓矢を構えているのが視界の隅に入った。
「ッ……!」
それを見たアランは、すぐに地面を強く蹴って横に跳ぶ。
直後、ミルノは素早く三本の矢を放った。
放たれた矢は風を切る音を立てながら真っ直ぐに飛び、そして……──乾いた破裂音が聴こえると同時に、空中で粉々に砕け散った。
「なッ……──ぐッ!?」
ミルノの攻撃も通用しなかったことに絶望しかけた時、アランは肩を掴まれて固い地面に押し倒された。
それに驚く間も無く少女が馬乗りに跨り、銃口下から突き出た短刀の刃を首筋に突き付けられる。
「アランちゃん……ッ!」
ミルノが咄嗟に弓矢を構えるが、それより先にアランに刃を突き立てている方とは逆の手に握られた拳銃の銃口が、彼女の方へと向けられる。
まだ少女の持つ武器の仕組みは一切分かっていないが、ここで下手に動けば、自分とアランの両方の命が危ういということだけは分かった。
結果、ミルノはグッと口を噤み、静かに弓矢の構えを解いた。
──これで終わりにする……。
双子は心の中で呟きながら、アランの首筋に刃を突き付けた右手と、引き金に掛けた左手人差し指に力を込める。
まずは自分達の目的を邪魔する心臓の守り人二人を排除し、そこから速やかに光の心臓の回収に向かえば良い。
二人の能力は特殊なものゆえに魔力の消費や身体への負担が大きく、一度に使える時間が限られてくる。
光の心臓の守り人との戦いを考えれば、これ以上この二人との戦いを長引かせる訳にはいかない。
そんな考えから、速やかにこの戦いに終止符を打つべく、両手にさらに力を込めようとした瞬間だった。
ゴウッと鈍い音と共に、突然ダンジョン内に突風が吹き荒れ、砂煙が巻き起こったのは。
「ッ……!? 一体何が──ッ!?」
突然起こった現象を理解する間も無く、双子の視界に閃光が走り、頬に鈍い痛みが走った。
顔面を蹴り飛ばされたのだと気付いた時には体勢を崩し、勢いよく地面を転がっていた。
数メートル程地面を跳ねたところで彼女等はなんとか体勢を立て直し、すぐに自分の顔を蹴った人物の方を見る。
そして、その目を大きく見開いた。
「なッ……だ、誰……!?」
突然巻き起こった風の勢いが徐々に収まり、砂埃が晴れた先に立っていたのは……焦げ茶色の外套を身に纏い、フードを深く被って顔を隠した少女、リンだった。
まだ僅かに残っている風が彼女の外套をはためかせ、本来ならば右腕があるはずの部分を不自然なまでに大きく揺らしている。
彼女は驚愕の表情を浮かべている双子を一瞥すると、すぐに地面に倒れているアランの方に顔を向け、ソッと左手を伸ばした。
「あなタは、大丈夫でスか? 立ち上がルことガ、出来まスか?」
「……? ……ッ! う、うん……!」
訛りが強く拙い言葉遣いに、アランは一瞬キョトンとしたような表情を浮かべたが、すぐに頷いて少女の手を取って立ち上がる。
突然現れた乱入者が敵ではないことを察知したミルノは、すぐに不安そうな表情を浮かべながら二人の元に駆け寄った。
「あ、アランちゃん、大丈夫……!? あのッ、あ、貴方は、一体……?」
「……せつメいは、後でシます。とりあえズ……この場所かラ、離れましょウ」
「させない……!」
淡々とした口調でこの場から逃げようという算段を立てる三人に、双子はすぐに二丁拳銃を構え、引き金に指を掛ける。
リンはそれにユラリと双子の方に顔を向け、小さく息をついた。
──……ッ……?
その様子を見た双子は一瞬何とも言えない既視感に駆られたが、すぐに二丁拳銃を構え直して口を開いた。
「私達はギリスール王国から来た者です。貴方の目的は知りませんが、私達の邪魔をする行為は王国への反逆とみなします。罪に問われたく無ければ、今すぐここから離れて下さい」
「<……そんなこと、言われなくても知ってんだよ>」
冷静に説得する真凛の言葉に、リンは誰にも聴こえない程度の声でそう呟いた。
それから彼女はアランとミルノの方に視線を向け、ゆっくりと口を開いた。
「今かラ私が合図をしマす。合図が聴こえタら、私に付いてくルように、全力で走っテ下さい」
「ッ……分かった……!」
「わ、分かりました……!」
突然のリンの指示に、二人は不思議そうな表情を浮かべながらも、小さく頷く。
まだリンの正体は分からないが、自分達を危機的状況から救い出してくれた事実に変わりは無く、少なくとも敵では無いと感じたからだ。
二人の反応を見たリンは口元に小さく微笑を浮かべると、左手に魔力を込めながら口を開いた。
「聖なる風よ。旋風を起こしかの敵に打ち勝つ為、今我に加護を与えてくれ給え。ヴィルベルヴィント」
リンがそう呟いた瞬間、彼女の左手の先に小さな風の渦が生まれ、すぐに旋風となって地面を削り砂煙を上げる。
凄まじい砂埃によって視界を塞がれた双子は、咄嗟に目を庇うように腕を構えながらも、三人がいた方向を睨んだ。
「今ッ!」
リンはそう声を張り上げると同時に近くにいたミルノの腕を掴み、双子がいる側とは逆の方向に向かって駆け出した。
その声を聴いたアランも近くに落ちていた大槌を拾い、すぐに二人を追いかけるようにして走り出す。
「「待てッ!」」
それを察知した双子はすぐに地面を強く蹴り、凄まじい旋風や土煙を無視して三人の方に向かって駆け出す。
視界もままならない状況では銃弾を乱射するのは魔力の無駄遣いとなり、光の心臓の守り人との交戦も考慮すると、あまり良い手段では無い。
しかし、それでも双子の高ステータスならば砂煙の中でも三人に追いつくこと自体は容易く、すぐに三人の姿を視界に収めることが出来た。
──貰った……ッ!
双子はすぐに刃を出した二丁拳銃を構え、一番後ろを走っていたアランの背中に狙いを定める。
自分より小柄な後ろ姿に刃を振り下ろそうとしたその時、凄まじい速度で目の前に人影が現れた。
旋風によるものか、急いで逃げようとしたことによるものか……彼女の被っていたフードが取れ、隠れていた素顔が露わになる。
砂煙の中で僅かに霞む視界の中、その顔を見た双子は、その目を大きく見開いた。
「なッ……!?」
「────────────」
アランと双子の間に立ったリンは、驚いた反応を示す二人の耳元で何かを囁くと、風魔法を纏った右足で彼女等の腹を蹴り抜く。
双子の姿が砂煙の中に消えるのを確認すると、彼女はすぐにアランとミルノを促し、素早くその場を離れた。
旋風が収まり砂煙が晴れていく中、これ以上三人を追うことは難しいと判断した双子は合体を解いた。
合体していたことによる疲労からか、花鈴は荒い呼吸を何度も繰り返しながら、その場にへたり込んだ。
「ハァ……ハァ……ねぇ、真凛……さっきのって……」
「ッ……ハァ……うん……私も、まだ……信じられない……」
荒い呼吸を繰り返しながら問い掛ける花鈴に、同じように息を切らす真凛はそう言いながら、頬を伝う汗を手の甲で拭った。
もう少しでアランとミルノを仕留められるというところで邪魔してきた、外套の人物。
フードで顔を隠し、たどたどしい話し方で話していたことによって気付けなかったが……先程砂煙の中で見た顔には、見覚えがあった。
顔だけでは無い。彼女と接触した時間は僅かなものだったが、その中で見られた幾つかの所作には何とも言えない既視感があった。
そして極めつけは、先程自分達を蹴り飛ばす寸前に囁いたあの言葉。
『弱い者イジメは楽しいか? 偽善者が』
流暢な口調で囁かれたその言葉を聞いた瞬間、双子の疑惑は確信に変わった。
だが、信じられなかった。
なぜなら“彼女”は、すでに死んでいる筈の人間なのだから。
「まさか……東雲さんが生きているなんて、ね……」
真凛はそう呟きながら、東雲理沙が心臓の守り人二人を連れて逃げていった方角をジッと見つめた。
二重になった声で言いながら、砂煙の中から現れた少女は両手に持った二丁拳銃を構え、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
それを見たアランとミルノは、武器を構えるのも忘れて呆気にとられた表情を浮かべた。
「なッ……まさか、あの二人、合体して……!? 嘘でしょ……!?」
「そ、それに、あの武器も、見たことない……! 一体、何が起こってるの……ッ!?」
信じられないと言った様子で言うアランとミルノ。
それもそのはず。なぜなら、二人だったはずの少女が、一瞬の間に合体して一人の人間になったのだから。
今まで見てきた友子や柚子のオーバーフローとは比べ物にならない、あまりにも突飛で常識離れした異様な能力を前に、二人は言葉を失う。
二人の人間が一人になるなど、常識的に考えれば有り得ない。
鏡映しのように瓜二つな身体を持ち、同じ両親の元に同時に生まれ、同じ人を想い、同じ願いを抱いた双子だからこそ成し得た所業。
魔力やステータス等の全体的な能力値、適合魔法属性、思考は二人分に。
武器の二丁拳銃は、二人の使っていた武器が合体し、そこに四種の魔力が加わり生み出された。
二つの武器が合体することで銃身が作り出され、土属性魔法と林属性魔法によって銃弾を錬成し、火属性魔法で着火し風属性魔法で速度を増幅した状態で射出する仕組みになっている。
双子は呆気に取られた二人の思考を遮るように、パァンッ! パァンッ! と二発の乾いた銃声を鳴らす。
あまり広くないダンジョン内に突如として響き渡った爆発音に、ミルノがビクッと肩を震わせて顔を顰めたのと、彼女の太腿とアランの肩に穴が空いたのはほぼ同時だった。
「ッ……!?」
「ミルノちゃん……!?」
足を撃ち抜かれその場に崩れ落ちるミルノに、アランは自身の肩が撃たれたのも忘れて彼女の元に駆け寄る。
すると、再度パァンッ! と乾いた銃声が響き渡り、彼女の足元を銃弾が抉った。
「ちょっと、花鈴。さっきから狙い外し過ぎ」
「ごめんごめん! 次は絶対外さないから!」
真凛と花鈴はそんな風に話しながら、二丁拳銃の銃口をアランとミルノに向ける。
それに、ミルノを庇うように立ったアランは、大槌を構えながらギリッと歯ぎしりをした。
──何あの武器……!?
──弓矢みたいな遠距離武器なのは分かってるけど、予備動作も全然無いし、速すぎて何が飛んできてるのかも分からない……!
──あの爆発音みたいなのが、何かを飛ばす合図みたいな感じなのは分かってるんだけど……!
パァンッ!
アランがグルグルと目まぐるしい速度で思考を巡らせていた時、花鈴と真凛はまたもや銃弾を放った。
その音を聴いたアランは、咄嗟に頭と胸を守るように大槌を構えた。
直後、放たれた銃弾は大槌にぶつかり、乾いた音を立てた。
「くッ……! ……ぅぉりゃぁぁぁああああッ!」
一瞬顔を顰めたアランだったが、すぐに大槌を盾のように構えたまま、花鈴と真凛に向かって突進した。
それを見た双子は大きく目を見開いたが、すぐに二丁拳銃を構えて何度も引き金を引き、銃弾を連射する。
しかし、乾いた破裂音と共に放たれた銃弾はどれも大槌に弾かれ、アランに命中しない。
そんなことをしている間にアランは双子の懐に潜り込み、大槌を振るう構えをとった。
今、二人の距離はほぼゼロ距離。
どんなに高性能な遠距離武器でも、距離を詰めてしまえばほとんど機能しなくなる。
アランはその弱点を突くべく距離を詰め、一気にカタを付けるべく大槌を構え直した。
この距離ならば双子の二丁拳銃は機能せず、一撃必殺と言っても過言では無いアランの攻撃で決着を着けられる。
そう。……普通の二丁拳銃ならば、だ。
ジャキンッ!
「ッ……!?」
「アランちゃんッ!」
突然近くから聴こえた刃物を出すような音に、アランは目を見開き、離れた場所にいたミルノが声を上げる。
それに、アランは咄嗟に両足を強く踏ん張る形で動きを止め、ほぼ反射的に仰け反るような体勢を取った。
刹那、彼女の目の前を何やら刃物のようなものが横切っていった。
「なッ……」
小さく声を漏らしながらも、アランはそのまま体勢を立て直しながらバックステップで距離を取り、顔を上げた。
見るとそこでは、銃口の下部から短刀のようなものが突き出た二丁拳銃を構える双子の姿があった。
その姿にアランが息を呑んだ時、双子は彼女に向かって一気に距離を詰めて銃剣を振るった。
「おわッ……!?」
小さく声を漏らしながらも、アランは素早く体を捻って襲い来る刃を躱す。
しかし双子はすぐさまそれに反応し、小柄なアランの体に容赦なく二刀の刃を振るっていく。
ただでさえ状況が理解出来ていない中で素早い攻撃を躱すことは困難であり、次第に少女の振るう刃が皮膚を掠め、追い詰められていく。
そんな中で、足の傷が回復したミルノがこちらに向かって弓矢を構えているのが視界の隅に入った。
「ッ……!」
それを見たアランは、すぐに地面を強く蹴って横に跳ぶ。
直後、ミルノは素早く三本の矢を放った。
放たれた矢は風を切る音を立てながら真っ直ぐに飛び、そして……──乾いた破裂音が聴こえると同時に、空中で粉々に砕け散った。
「なッ……──ぐッ!?」
ミルノの攻撃も通用しなかったことに絶望しかけた時、アランは肩を掴まれて固い地面に押し倒された。
それに驚く間も無く少女が馬乗りに跨り、銃口下から突き出た短刀の刃を首筋に突き付けられる。
「アランちゃん……ッ!」
ミルノが咄嗟に弓矢を構えるが、それより先にアランに刃を突き立てている方とは逆の手に握られた拳銃の銃口が、彼女の方へと向けられる。
まだ少女の持つ武器の仕組みは一切分かっていないが、ここで下手に動けば、自分とアランの両方の命が危ういということだけは分かった。
結果、ミルノはグッと口を噤み、静かに弓矢の構えを解いた。
──これで終わりにする……。
双子は心の中で呟きながら、アランの首筋に刃を突き付けた右手と、引き金に掛けた左手人差し指に力を込める。
まずは自分達の目的を邪魔する心臓の守り人二人を排除し、そこから速やかに光の心臓の回収に向かえば良い。
二人の能力は特殊なものゆえに魔力の消費や身体への負担が大きく、一度に使える時間が限られてくる。
光の心臓の守り人との戦いを考えれば、これ以上この二人との戦いを長引かせる訳にはいかない。
そんな考えから、速やかにこの戦いに終止符を打つべく、両手にさらに力を込めようとした瞬間だった。
ゴウッと鈍い音と共に、突然ダンジョン内に突風が吹き荒れ、砂煙が巻き起こったのは。
「ッ……!? 一体何が──ッ!?」
突然起こった現象を理解する間も無く、双子の視界に閃光が走り、頬に鈍い痛みが走った。
顔面を蹴り飛ばされたのだと気付いた時には体勢を崩し、勢いよく地面を転がっていた。
数メートル程地面を跳ねたところで彼女等はなんとか体勢を立て直し、すぐに自分の顔を蹴った人物の方を見る。
そして、その目を大きく見開いた。
「なッ……だ、誰……!?」
突然巻き起こった風の勢いが徐々に収まり、砂埃が晴れた先に立っていたのは……焦げ茶色の外套を身に纏い、フードを深く被って顔を隠した少女、リンだった。
まだ僅かに残っている風が彼女の外套をはためかせ、本来ならば右腕があるはずの部分を不自然なまでに大きく揺らしている。
彼女は驚愕の表情を浮かべている双子を一瞥すると、すぐに地面に倒れているアランの方に顔を向け、ソッと左手を伸ばした。
「あなタは、大丈夫でスか? 立ち上がルことガ、出来まスか?」
「……? ……ッ! う、うん……!」
訛りが強く拙い言葉遣いに、アランは一瞬キョトンとしたような表情を浮かべたが、すぐに頷いて少女の手を取って立ち上がる。
突然現れた乱入者が敵ではないことを察知したミルノは、すぐに不安そうな表情を浮かべながら二人の元に駆け寄った。
「あ、アランちゃん、大丈夫……!? あのッ、あ、貴方は、一体……?」
「……せつメいは、後でシます。とりあえズ……この場所かラ、離れましょウ」
「させない……!」
淡々とした口調でこの場から逃げようという算段を立てる三人に、双子はすぐに二丁拳銃を構え、引き金に指を掛ける。
リンはそれにユラリと双子の方に顔を向け、小さく息をついた。
──……ッ……?
その様子を見た双子は一瞬何とも言えない既視感に駆られたが、すぐに二丁拳銃を構え直して口を開いた。
「私達はギリスール王国から来た者です。貴方の目的は知りませんが、私達の邪魔をする行為は王国への反逆とみなします。罪に問われたく無ければ、今すぐここから離れて下さい」
「<……そんなこと、言われなくても知ってんだよ>」
冷静に説得する真凛の言葉に、リンは誰にも聴こえない程度の声でそう呟いた。
それから彼女はアランとミルノの方に視線を向け、ゆっくりと口を開いた。
「今かラ私が合図をしマす。合図が聴こえタら、私に付いてくルように、全力で走っテ下さい」
「ッ……分かった……!」
「わ、分かりました……!」
突然のリンの指示に、二人は不思議そうな表情を浮かべながらも、小さく頷く。
まだリンの正体は分からないが、自分達を危機的状況から救い出してくれた事実に変わりは無く、少なくとも敵では無いと感じたからだ。
二人の反応を見たリンは口元に小さく微笑を浮かべると、左手に魔力を込めながら口を開いた。
「聖なる風よ。旋風を起こしかの敵に打ち勝つ為、今我に加護を与えてくれ給え。ヴィルベルヴィント」
リンがそう呟いた瞬間、彼女の左手の先に小さな風の渦が生まれ、すぐに旋風となって地面を削り砂煙を上げる。
凄まじい砂埃によって視界を塞がれた双子は、咄嗟に目を庇うように腕を構えながらも、三人がいた方向を睨んだ。
「今ッ!」
リンはそう声を張り上げると同時に近くにいたミルノの腕を掴み、双子がいる側とは逆の方向に向かって駆け出した。
その声を聴いたアランも近くに落ちていた大槌を拾い、すぐに二人を追いかけるようにして走り出す。
「「待てッ!」」
それを察知した双子はすぐに地面を強く蹴り、凄まじい旋風や土煙を無視して三人の方に向かって駆け出す。
視界もままならない状況では銃弾を乱射するのは魔力の無駄遣いとなり、光の心臓の守り人との交戦も考慮すると、あまり良い手段では無い。
しかし、それでも双子の高ステータスならば砂煙の中でも三人に追いつくこと自体は容易く、すぐに三人の姿を視界に収めることが出来た。
──貰った……ッ!
双子はすぐに刃を出した二丁拳銃を構え、一番後ろを走っていたアランの背中に狙いを定める。
自分より小柄な後ろ姿に刃を振り下ろそうとしたその時、凄まじい速度で目の前に人影が現れた。
旋風によるものか、急いで逃げようとしたことによるものか……彼女の被っていたフードが取れ、隠れていた素顔が露わになる。
砂煙の中で僅かに霞む視界の中、その顔を見た双子は、その目を大きく見開いた。
「なッ……!?」
「────────────」
アランと双子の間に立ったリンは、驚いた反応を示す二人の耳元で何かを囁くと、風魔法を纏った右足で彼女等の腹を蹴り抜く。
双子の姿が砂煙の中に消えるのを確認すると、彼女はすぐにアランとミルノを促し、素早くその場を離れた。
旋風が収まり砂煙が晴れていく中、これ以上三人を追うことは難しいと判断した双子は合体を解いた。
合体していたことによる疲労からか、花鈴は荒い呼吸を何度も繰り返しながら、その場にへたり込んだ。
「ハァ……ハァ……ねぇ、真凛……さっきのって……」
「ッ……ハァ……うん……私も、まだ……信じられない……」
荒い呼吸を繰り返しながら問い掛ける花鈴に、同じように息を切らす真凛はそう言いながら、頬を伝う汗を手の甲で拭った。
もう少しでアランとミルノを仕留められるというところで邪魔してきた、外套の人物。
フードで顔を隠し、たどたどしい話し方で話していたことによって気付けなかったが……先程砂煙の中で見た顔には、見覚えがあった。
顔だけでは無い。彼女と接触した時間は僅かなものだったが、その中で見られた幾つかの所作には何とも言えない既視感があった。
そして極めつけは、先程自分達を蹴り飛ばす寸前に囁いたあの言葉。
『弱い者イジメは楽しいか? 偽善者が』
流暢な口調で囁かれたその言葉を聞いた瞬間、双子の疑惑は確信に変わった。
だが、信じられなかった。
なぜなら“彼女”は、すでに死んでいる筈の人間なのだから。
「まさか……東雲さんが生きているなんて、ね……」
真凛はそう呟きながら、東雲理沙が心臓の守り人二人を連れて逃げていった方角をジッと見つめた。
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※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。
※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。
女神様から同情された結果こうなった
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