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第4章:土の心臓編
074 魔女の味方について-クラスメイトside
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グランルを発った一行は南に進んでいき、フォークマン大陸とタースウォー大陸を繋ぐ航路の港町となるイブルー国のイブルー港へと辿り着いた。
イブルー港からはタースウォー大陸に向けて二本の航路が出ており、一本は真っ直ぐ南下していきオーシン国に、もう一本は南東の方に進んでいきスリン国に向かう。
魔女の心臓があるというラシルスはスリン国の南側の隣国にあるため、一行はスリン国に向かう船に乗った。
「クラインさん」
波に揺られる船の上にて、背後から名前を呼ばれ、海を見つめていたクラインは静かに振り向いた。
するとそこには、こちらを見上げて立っている柚子の姿があった。
クラインは僅かに驚いた様子を見せたが、すぐにフッと微笑を浮かべ、口を開いた。
「どうしましたか? 我が娘よ」
「……その冗談はあまり好きではありません」
「ふふ、それは申し訳ない」
悪びれる様子もなく笑いながら言うクラインに、柚子は小さく溜息をつき、彼の隣に立って海を見つめた。
彼女の様子に、クラインも海を見つめながら、続けた。
「それで? 私に何の用ですか?」
「……魔女に、仲間がいるという話ですけど……」
海を見つめたまま呟くように放たれた柚子の言葉に、クラインは僅かに息を呑んだ。
それに、柚子はゆっくりとクラインを見上げ、「知っていたんですか?」と続けた。
「……さぁ、何の話でしょう」
「お店の店主の方に、魔女に連れがいたという話を聞いた時も、写真を見せられた時も、あまり驚いた様子ではなかったじゃないですか。まるで……前から知っていたような感じでした」
「……素晴らしい観察眼ですね」
笑いながら言うクラインに、柚子は「はぐらかさないでください」と少し怒った様子で言う。
「今後の信用問題に関わることです。正直に答えて下さい」
「……私が、魔女側の裏切り者なのではないかと疑っているのですか?」
微笑を浮かべながら言うクラインに、柚子はギクッという擬音が似合いそうな反応を見せて固まった。
それに、彼はクスクスと笑いながら「冗談ですよ」と答えた。
「魔女の仲間については置いといて、私は皆さんの味方です。大体、魔女を倒す為に皆さんを召喚したのは私なんですから、裏切るはずがないじゃないですか」
「……それもそう、ですね」
呟きながら、柚子は目を伏せた。
言われてみれば、彼は自分たちを召喚し、戦わせている張本人なのだ。
そんな強引な手段をとっている彼が、今さら自分達を裏切って魔女側につくとも思えない。
納得した様子の柚子に微笑み、クラインは海の方に視線を戻しながら続けた。
「魔女の仲間については……申し訳ございません。以前グランルにて魔女に関する情報収集を行った頃から、一人か二人程一緒に行動している人物の情報が入ってきていたので知っていました。ですが、寺島さんのことがあり、皆様の関係が怪しくなっていた頃でしたので黙っていたのです」
「……それは……」
「負担を掛けてしまってはいけないと思って……申し訳ございません」
クラインの言葉に、柚子は驚いた様子で彼の顔を見上げた。
しかし、すぐに目を伏せて口を開く。
「こちらこそ……ごめんなさい。そこまで考えられなくて……」
「それは仕方ないですよ。超能力者じゃあるまいし、人の考えを読むことなんて出来ませんから。私の説明不足です」
「そんなこと……」
「では、魔女の味方について一つ、良い情報をあげましょう」
クラインの言葉に、柚子は目を丸くして「良い情報?」と聞き返した。
すると、クラインは「はい」と頷き、柚子に顔を向けて続けた。
「魔女の味方は……以前、ダンジョンで亡くなった三人の内の誰かである可能性が高いです」
その言葉に、柚子は息を呑んだ。
潮風が二人の間を吹き抜け、彼女の髪と、クラインのフードを揺らした。
驚きに言葉を失う柚子に、クラインは続けた。
「写真に写っていた仲間らしき人物は、魔女がヴォルノに来るより前……ダンジョンにいた頃から一緒に行動していたと思われます。そして、魔女がダンジョンからいなくなった時期と、三人が亡くなった時期も重なります。……指輪からの魔力反応が無くなったのも、魔女が指輪に何かしらの細工をしたと考えれば、不自然な点はありません」
「……あの三人の内の誰かが、魔女に味方をしている……ということですか……?」
「……確証はありませんが」
クラインの言葉に、柚子は目を伏せた。
東雲理沙。
葛西林檎。
猪瀬こころ。
この三人の内の誰かが自分達を裏切って魔女の味方をしているなど、考えられなかった。
信頼とかそういう話ではない。
三人の中に、日本に帰れる可能性を捨ててまで魔女の味方をするようなとち狂った思考をした人間がいるようには思えなかったのだ。
「元々異世界から来た皆様には、この世界への愛着は無に等しい。……元々この世界で生きている人間に比べれば、この世界を害する魔女に味方をする可能性は高いです」
「……そんなこと……」
「魔女が何かを吹き込んだ可能性もありますから……騙されて味方している、という可能性も考えられます。魔女は闇魔法が使えるとのことなので、洗脳魔法のようなもので操られている可能性もあります」
──自分から味方しているわけではない、か……。
そう考えると、三人の内の誰かが味方していると考えても、特に違和感がなかった。
しかし、一体誰が……と思考を巡らせた時だった。
『……こころ……ちゃん……?』
ヴォルノの料理店にて、写真を見つめながら呟いた友子の声がリフレインする。
その言葉を思い出した柚子は、息を呑んで動きを止めた。
あの時は魔女に仲間がいるという事実衝撃を受けていた為に気にする余裕が無かったが、今思い返してみると、あれは魔女の味方をしている少女が猪瀬こころだった……と考えるのが妥当だろう。
柚子はあの写真は遠目に見ただけだったので気付けなかったが、手に取って近くで見た友子ならば、よく観察出来ていたことだろう。
髪色や目の色が変わっている様子だったが、こころの友達である友子であれば、嫌でも分かるはずだ。
あの後、友子はずっと上の空といった様子で、心配して話しかけてもその反応は鈍かった。
それは船に乗ってからも変わらず、今も一人でどこかにいる。
なぜそんな状態になっているのか謎だったが、魔女の味方についての推測も踏まえて考えてみれば、想像は容易だった。
「……山吹さん? どうかされましたか?」
クラインに声を掛けられ、柚子はハッと我に返った。
顔を上げると、そこには不思議そうな表情でこちらを見ているクラインの姿があった。
柚子はすぐに「い、いえっ」と言いながら視線を逸らした。
「何でも無い、です……魔女の味方についての情報、ありがとうございました」
「お役に立ったのであれば何よりです。また何か気になることや困ったことがあれば、遠慮なくお申し付けください」
「分かりました。本当に、ありがとうございます」
お礼を言うと、柚子はすぐに踵を返し、歩き出す。
魔女の味方がこころなのではないかと気付いてしまった友子は、今頃かなり動揺していることだろう。
──……大切な友達が自分を裏切って魔女の味方をしているかもしれない、なんて……最上さんじゃなくても驚くよね。
内心で呟きながら、柚子は首を軽く掻いた。
それどころか、死んだと思っていたこころが生きているかもしれないというだけで、十分衝撃だ。
──……私が何とかしないと……。
──クラスの皆を……守らないと……。
そんな、焦りにも似た責任感が、柚子の歩を速める。
『また何か気になることや困ったことがあれば、遠慮なくお申し付けください』
その時、脳内にクラインの言葉が反芻した。
柚子はそれに一瞬足を止め、頭に手を当てた。
──流石にこんなことまで、クラインさんに頼るわけにはいかない。
──これは私達の問題なんだから、私達だけで解決しないと……。
──大体、クラインさんは私達を召喚して戦わせてるだけであって、私達の味方ってわけではないのに……。
「……そういえば……」
悶々と考え込んでいた柚子は、とあることを思い出し、頭から手を離した。
先程クラインと話していた時、一瞬……フードの影に隠れた彼の顔が見えた気がした。
影の奥に薄っすらと見える程度だったが、その顔に何か、違和感を抱いた。
──……だって、あの顔は……──。
一瞬湧き上がった疑問に、柚子はしばし考える素振りをしてから、首を横に振って思考を振り払った。
先程も思い至った通り、クラインはあくまで自分達を戦わせているだけで、それ以上でもそれ以下の関係でも無い。
例え自分の予測が合っていたところで、自分達の戦いには何の支障もない。
──今は、それよりも……──。
柚子は心の中でそう呟くと、すぐに引き締めた表情で顔を上げ、改めて歩き出した。
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グランルを発った一行は南に進んでいき、フォークマン大陸とタースウォー大陸を繋ぐ航路の港町となるイブルー国のイブルー港へと辿り着いた。
イブルー港からはタースウォー大陸に向けて二本の航路が出ており、一本は真っ直ぐ南下していきオーシン国に、もう一本は南東の方に進んでいきスリン国に向かう。
魔女の心臓があるというラシルスはスリン国の南側の隣国にあるため、一行はスリン国に向かう船に乗った。
「クラインさん」
波に揺られる船の上にて、背後から名前を呼ばれ、海を見つめていたクラインは静かに振り向いた。
するとそこには、こちらを見上げて立っている柚子の姿があった。
クラインは僅かに驚いた様子を見せたが、すぐにフッと微笑を浮かべ、口を開いた。
「どうしましたか? 我が娘よ」
「……その冗談はあまり好きではありません」
「ふふ、それは申し訳ない」
悪びれる様子もなく笑いながら言うクラインに、柚子は小さく溜息をつき、彼の隣に立って海を見つめた。
彼女の様子に、クラインも海を見つめながら、続けた。
「それで? 私に何の用ですか?」
「……魔女に、仲間がいるという話ですけど……」
海を見つめたまま呟くように放たれた柚子の言葉に、クラインは僅かに息を呑んだ。
それに、柚子はゆっくりとクラインを見上げ、「知っていたんですか?」と続けた。
「……さぁ、何の話でしょう」
「お店の店主の方に、魔女に連れがいたという話を聞いた時も、写真を見せられた時も、あまり驚いた様子ではなかったじゃないですか。まるで……前から知っていたような感じでした」
「……素晴らしい観察眼ですね」
笑いながら言うクラインに、柚子は「はぐらかさないでください」と少し怒った様子で言う。
「今後の信用問題に関わることです。正直に答えて下さい」
「……私が、魔女側の裏切り者なのではないかと疑っているのですか?」
微笑を浮かべながら言うクラインに、柚子はギクッという擬音が似合いそうな反応を見せて固まった。
それに、彼はクスクスと笑いながら「冗談ですよ」と答えた。
「魔女の仲間については置いといて、私は皆さんの味方です。大体、魔女を倒す為に皆さんを召喚したのは私なんですから、裏切るはずがないじゃないですか」
「……それもそう、ですね」
呟きながら、柚子は目を伏せた。
言われてみれば、彼は自分たちを召喚し、戦わせている張本人なのだ。
そんな強引な手段をとっている彼が、今さら自分達を裏切って魔女側につくとも思えない。
納得した様子の柚子に微笑み、クラインは海の方に視線を戻しながら続けた。
「魔女の仲間については……申し訳ございません。以前グランルにて魔女に関する情報収集を行った頃から、一人か二人程一緒に行動している人物の情報が入ってきていたので知っていました。ですが、寺島さんのことがあり、皆様の関係が怪しくなっていた頃でしたので黙っていたのです」
「……それは……」
「負担を掛けてしまってはいけないと思って……申し訳ございません」
クラインの言葉に、柚子は驚いた様子で彼の顔を見上げた。
しかし、すぐに目を伏せて口を開く。
「こちらこそ……ごめんなさい。そこまで考えられなくて……」
「それは仕方ないですよ。超能力者じゃあるまいし、人の考えを読むことなんて出来ませんから。私の説明不足です」
「そんなこと……」
「では、魔女の味方について一つ、良い情報をあげましょう」
クラインの言葉に、柚子は目を丸くして「良い情報?」と聞き返した。
すると、クラインは「はい」と頷き、柚子に顔を向けて続けた。
「魔女の味方は……以前、ダンジョンで亡くなった三人の内の誰かである可能性が高いです」
その言葉に、柚子は息を呑んだ。
潮風が二人の間を吹き抜け、彼女の髪と、クラインのフードを揺らした。
驚きに言葉を失う柚子に、クラインは続けた。
「写真に写っていた仲間らしき人物は、魔女がヴォルノに来るより前……ダンジョンにいた頃から一緒に行動していたと思われます。そして、魔女がダンジョンからいなくなった時期と、三人が亡くなった時期も重なります。……指輪からの魔力反応が無くなったのも、魔女が指輪に何かしらの細工をしたと考えれば、不自然な点はありません」
「……あの三人の内の誰かが、魔女に味方をしている……ということですか……?」
「……確証はありませんが」
クラインの言葉に、柚子は目を伏せた。
東雲理沙。
葛西林檎。
猪瀬こころ。
この三人の内の誰かが自分達を裏切って魔女の味方をしているなど、考えられなかった。
信頼とかそういう話ではない。
三人の中に、日本に帰れる可能性を捨ててまで魔女の味方をするようなとち狂った思考をした人間がいるようには思えなかったのだ。
「元々異世界から来た皆様には、この世界への愛着は無に等しい。……元々この世界で生きている人間に比べれば、この世界を害する魔女に味方をする可能性は高いです」
「……そんなこと……」
「魔女が何かを吹き込んだ可能性もありますから……騙されて味方している、という可能性も考えられます。魔女は闇魔法が使えるとのことなので、洗脳魔法のようなもので操られている可能性もあります」
──自分から味方しているわけではない、か……。
そう考えると、三人の内の誰かが味方していると考えても、特に違和感がなかった。
しかし、一体誰が……と思考を巡らせた時だった。
『……こころ……ちゃん……?』
ヴォルノの料理店にて、写真を見つめながら呟いた友子の声がリフレインする。
その言葉を思い出した柚子は、息を呑んで動きを止めた。
あの時は魔女に仲間がいるという事実衝撃を受けていた為に気にする余裕が無かったが、今思い返してみると、あれは魔女の味方をしている少女が猪瀬こころだった……と考えるのが妥当だろう。
柚子はあの写真は遠目に見ただけだったので気付けなかったが、手に取って近くで見た友子ならば、よく観察出来ていたことだろう。
髪色や目の色が変わっている様子だったが、こころの友達である友子であれば、嫌でも分かるはずだ。
あの後、友子はずっと上の空といった様子で、心配して話しかけてもその反応は鈍かった。
それは船に乗ってからも変わらず、今も一人でどこかにいる。
なぜそんな状態になっているのか謎だったが、魔女の味方についての推測も踏まえて考えてみれば、想像は容易だった。
「……山吹さん? どうかされましたか?」
クラインに声を掛けられ、柚子はハッと我に返った。
顔を上げると、そこには不思議そうな表情でこちらを見ているクラインの姿があった。
柚子はすぐに「い、いえっ」と言いながら視線を逸らした。
「何でも無い、です……魔女の味方についての情報、ありがとうございました」
「お役に立ったのであれば何よりです。また何か気になることや困ったことがあれば、遠慮なくお申し付けください」
「分かりました。本当に、ありがとうございます」
お礼を言うと、柚子はすぐに踵を返し、歩き出す。
魔女の味方がこころなのではないかと気付いてしまった友子は、今頃かなり動揺していることだろう。
──……大切な友達が自分を裏切って魔女の味方をしているかもしれない、なんて……最上さんじゃなくても驚くよね。
内心で呟きながら、柚子は首を軽く掻いた。
それどころか、死んだと思っていたこころが生きているかもしれないというだけで、十分衝撃だ。
──……私が何とかしないと……。
──クラスの皆を……守らないと……。
そんな、焦りにも似た責任感が、柚子の歩を速める。
『また何か気になることや困ったことがあれば、遠慮なくお申し付けください』
その時、脳内にクラインの言葉が反芻した。
柚子はそれに一瞬足を止め、頭に手を当てた。
──流石にこんなことまで、クラインさんに頼るわけにはいかない。
──これは私達の問題なんだから、私達だけで解決しないと……。
──大体、クラインさんは私達を召喚して戦わせてるだけであって、私達の味方ってわけではないのに……。
「……そういえば……」
悶々と考え込んでいた柚子は、とあることを思い出し、頭から手を離した。
先程クラインと話していた時、一瞬……フードの影に隠れた彼の顔が見えた気がした。
影の奥に薄っすらと見える程度だったが、その顔に何か、違和感を抱いた。
──……だって、あの顔は……──。
一瞬湧き上がった疑問に、柚子はしばし考える素振りをしてから、首を横に振って思考を振り払った。
先程も思い至った通り、クラインはあくまで自分達を戦わせているだけで、それ以上でもそれ以下の関係でも無い。
例え自分の予測が合っていたところで、自分達の戦いには何の支障もない。
──今は、それよりも……──。
柚子は心の中でそう呟くと、すぐに引き締めた表情で顔を上げ、改めて歩き出した。
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