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第2章:火の心臓編
035 解決策と大切な人
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料理屋を出ると、途端にまた熱気が私達の体を包んだ。
麓の段階でこれとは、火山の麓にあるというダンジョンに入ったらどうなるのだろう。
……そもそも、ダンジョンって火山の中にあるのか?
「ダンジョンは火山の下にあって、ここよりも暑いみたいじゃのぉ」
すると、私の疑問に答えるように、隣からそんな声がした。
振り向くとそこでは、いつの間にかどこかで買ったジュースのようなものを飲んでいるリートがいた。
彼女の言葉に、私は「え……?」と聞き返した。
「えっと……どこ情報?」
「通りすがりの冒険者共じゃ。……どうやら、この辺りでは妾の心臓のダンジョンは割とメジャーな方らしいのぉ」
そう言ってから、リートはジュースらしき飲み物をまた飲み始める。
……美味しそう。
暑さのせいで喉が渇いていた私は、唾を飲み込むことで何とか凌ぐ。
すると、彼女はストローから口を離して続けた。
「しかし、困ったのぉ。ここよりも暑いとなると、戦いどころではなくなってしまうし……」
「……私がリートを抱えて一気に心臓の守り人の所まで突っ切ったりとかは……」
「下層のレベルの魔物を一瞬で切り殺せる自信があるなら、考えてやろう」
「……」
リートの言葉に、私は無言で頬から伝う汗を拭った。
この暑さ以上の気温の中でそれは、流石にキツいな。
ダンジョンから出る時に、まともに魔物と戦えていないのもつらい。
レベル30の時代にあれだけ圧倒的な力の差を見せつけられたせいで、今のところ勝てる気が全くしない。
前よりも強くなっているのは分かっているけど、なんていうか、こう……精神的な面でね。
「……まぁでも、ダンジョン攻略の方法に全くの目処が無いわけでは無い」
言いながら、リートはジュースの入った器をこちらに差し出してくる。
それに困惑していると、彼女は私を見上げて続けた。
「飲め」
「……はい」
突然の言葉に驚くが、丁度喉が渇いていたので、有難く受け取る。
ストローに口を付けて中の飲み物を吸うと、林檎のような甘い味がした。
かと思うと突然凄く冷たい感触があり、キィンと頭が痛むような感覚がした。
「ッ……!?」
私はストローから口を離し、小さく声を発しながら頭を押さえた。
何だろう、これ……たまに見る、かき氷を一気に食べたら頭がキーンとするやつか?
と言っても、かき氷を食べたことが無いから分からないけど……。
しかし、しばらくすると頭痛が治まり、徐々に体を包み込んでいた熱気が晴れていくような感覚がした。
それに、私は頭から手を離した。
「……これは?」
「闇魔法の凍結をそれに少し付与させたのじゃ。元々は体の外側の空間を凍らせて相手の動きを止めるものじゃが、飲み物に付与させることでそれを体内に取り込み、体を内側から冷やしておるのじゃ」
「……それって水属性の魔法じゃないの?」
「水属性の場合は水を出現させてそれを体の周りに付着させて凍らせる感じじゃが、凍結の場合は元々ある水を凍らせておる感じかのぅ。体を凍らせているのは、恐らく血液か、体表にある汗なんかを凍らせておるのだと思うぞ」
「……良く分からない」
「まぁ、妾も詳しいことはよう分からん。とりあえず、こんな感じで液体さえあれば暑さは何とかなるから、水でも買い溜めておこう」
リートはそう言って、水を売っている場所を探して歩き出す。
それに付いて行こうとした時、私は、彼女のジュースを持ったままであることに気付いた。
「あっ、リート!」
「ん?」
「これ、まだ残ってて……」
私はそう言いながら、もう中身が大分少なくなっているジュースの器を掲げて見せた。
すると、彼女は「おぉ」と言って受け取ろうとして、何かに気付いたのかピタッと動きを止めた。
何だろうかと思っていると、彼女は少し顔を赤らめて、すぐに顔を背けた。
「リート……?」
「いらん。残りは全部やる」
素っ気ない口調で言うと、こちらに背を向けて歩き出す。
突然の言葉に驚きつつも、私は仕方無くストローを咥えて残ったジュースを飲みながら、彼女の後を追って歩き出す。
ジュース自体は美味しいので、こちらとしては好都合だけど……。
と、そこまで考えて、私はとあることに気付いて「あっ」と声を漏らした。
「そっか……間接キスになるのか」
「っ」
私の言葉に、リートが一瞬ピクッと肩を震わせた。
……まさか……。
「間接キスを意識して……?」
「自惚れるな」
私の仮説は、こちらに振り向きざまにビシッと人差し指を立ててきたリートによって否定される。
それに立ち止まって驚いていると、彼女はフイッとまた前に向き直って続けた。
「ずっと妾ばかりが飲んでいたから、お主も喉が渇いたじゃろうと思っただけじゃ。これは、妾の優しさなのじゃぞ?」
「……ていうか、ずっと思ってたんだけど、これどこで買って来たの?」
「おー。近くにこういうのが売ってる屋台があったから、そこで買ったのじゃ」
「……私の分も買ってくれれば良かったのに……」
私はそう言いつつ、ストローを咥えてジュースを飲む。
すると、彼女は「スマンスマン」と悪びれる様子も無く謝った。
……謝る気ねぇな、コイツ。
「まぁ、このジュースも中々の値段じゃったからのぉ。二人分買うとなると、それなりの値段になるのじゃ」
「……だから、自分の分だけ?」
「結局お主も飲んでおるのじゃから、別に似たようなものじゃろ?」
どこか不敵な笑みを浮かべながら言うリートに、私はヒクッと頬を引きつらせた。
一瞬、間接キスを意識するような可愛い一面があると勘違いした私が馬鹿だった。
今更そんなことを気にする程の純真さが、彼女にあるとは思えない。
そんな風に呆れていると、「それに」と彼女は続けた。
「お主、大事なことを忘れているのではないか?」
「大事なこと……?」
つい聞き返すと、彼女はニヤリと笑い、それに答える。
「お主は奴隷じゃろ?」
……そうだった。
というか、ついさっき言われたばかりだった。
けど、なんていうか色々とフランク過ぎて、忘れてしまっていた。
私は小さく溜息をつきつつ、ジュースを啜る。
すると、リートは小さく笑ってから続けた。
「それにしても、お主が急に間接キスを意識しているなんて子供みたいなことを言うから、少し驚いたぞ」
「……友達もロクにいなかったから、こういうのに慣れていないんだよ」
私はそう言いながら、空になった器を道の途中にあったゴミ箱に捨てる。
すると、リートは目を丸くしてこちらに振り向いた。
「……そうなのか?」
「あー……うん。昔から人と距離取ってて……」
私の言葉に、彼女は「ほー」と呟く。
昔は母に認めて欲しくて勉強ばかり頑張っていて、自分から人に関わろうとしなかった。
母に認めてもらうことを諦めてからも、ずっと人と距離を取っていたせいで、今更人と仲良くすることなど出来なかった。
「……いなかった、ということは……今はおるのか?」
「うん。いるよ」
コテンと首を傾げながら聞いてくるリートに、私は迷わず頷いた。
人と話すことは苦手だろうに、勇気を振り絞って自分から友達になろうと言ってきてくれた、大切な友達。
友達になってから、ロクに友達らしいことは何も出来ていないけど……。
「生まれて初めて出来た、大切な友達なんだ」
「……お主はそやつのことが好きなのか?」
まさかの言葉に、私は「ふぇっ?」と間抜けな声を上げてしまう。
すると、リートはそっぽを向きながら続けた。
「なんか、そんな感じの顔をしていたからの。恋愛に性別は関係無いじゃろ?」
「そっ、そんなんじゃないよ……!」
思いもしなかった言葉に、私は慌ててそう言った。
女同士とか今まで考えたことも無かったから、驚いてしまった。
彼女のことは大切だけど、恋愛感情とかそういうのは無い……と、思う。
そういう感情があるとしたら、彼女よりも……──。
「そんなんじゃ、ないけど……すごく、大切な人だよ」
思考が変な方向に逸れそうだったので、私はひとまずそう言っておいた。
私の言葉に、リートは無言で私の顔を見上げた。
それに目を合わせてみると、しばらく見つめ合った後に「そうか」とだけ呟いて、視線を前に戻す。
……しかし、リートに振り回され過ぎて、少し彼女のことを忘れていたかもしれない。
まだ三日程しか経っていないが、かなり彼女のペースに巻き込まれているな……。
「……会いたいなぁ」
少し溜息をついてから、私は、その吐息混じりに呟いた。
その声は、人ごみの喧騒の中に消えていった。
麓の段階でこれとは、火山の麓にあるというダンジョンに入ったらどうなるのだろう。
……そもそも、ダンジョンって火山の中にあるのか?
「ダンジョンは火山の下にあって、ここよりも暑いみたいじゃのぉ」
すると、私の疑問に答えるように、隣からそんな声がした。
振り向くとそこでは、いつの間にかどこかで買ったジュースのようなものを飲んでいるリートがいた。
彼女の言葉に、私は「え……?」と聞き返した。
「えっと……どこ情報?」
「通りすがりの冒険者共じゃ。……どうやら、この辺りでは妾の心臓のダンジョンは割とメジャーな方らしいのぉ」
そう言ってから、リートはジュースらしき飲み物をまた飲み始める。
……美味しそう。
暑さのせいで喉が渇いていた私は、唾を飲み込むことで何とか凌ぐ。
すると、彼女はストローから口を離して続けた。
「しかし、困ったのぉ。ここよりも暑いとなると、戦いどころではなくなってしまうし……」
「……私がリートを抱えて一気に心臓の守り人の所まで突っ切ったりとかは……」
「下層のレベルの魔物を一瞬で切り殺せる自信があるなら、考えてやろう」
「……」
リートの言葉に、私は無言で頬から伝う汗を拭った。
この暑さ以上の気温の中でそれは、流石にキツいな。
ダンジョンから出る時に、まともに魔物と戦えていないのもつらい。
レベル30の時代にあれだけ圧倒的な力の差を見せつけられたせいで、今のところ勝てる気が全くしない。
前よりも強くなっているのは分かっているけど、なんていうか、こう……精神的な面でね。
「……まぁでも、ダンジョン攻略の方法に全くの目処が無いわけでは無い」
言いながら、リートはジュースの入った器をこちらに差し出してくる。
それに困惑していると、彼女は私を見上げて続けた。
「飲め」
「……はい」
突然の言葉に驚くが、丁度喉が渇いていたので、有難く受け取る。
ストローに口を付けて中の飲み物を吸うと、林檎のような甘い味がした。
かと思うと突然凄く冷たい感触があり、キィンと頭が痛むような感覚がした。
「ッ……!?」
私はストローから口を離し、小さく声を発しながら頭を押さえた。
何だろう、これ……たまに見る、かき氷を一気に食べたら頭がキーンとするやつか?
と言っても、かき氷を食べたことが無いから分からないけど……。
しかし、しばらくすると頭痛が治まり、徐々に体を包み込んでいた熱気が晴れていくような感覚がした。
それに、私は頭から手を離した。
「……これは?」
「闇魔法の凍結をそれに少し付与させたのじゃ。元々は体の外側の空間を凍らせて相手の動きを止めるものじゃが、飲み物に付与させることでそれを体内に取り込み、体を内側から冷やしておるのじゃ」
「……それって水属性の魔法じゃないの?」
「水属性の場合は水を出現させてそれを体の周りに付着させて凍らせる感じじゃが、凍結の場合は元々ある水を凍らせておる感じかのぅ。体を凍らせているのは、恐らく血液か、体表にある汗なんかを凍らせておるのだと思うぞ」
「……良く分からない」
「まぁ、妾も詳しいことはよう分からん。とりあえず、こんな感じで液体さえあれば暑さは何とかなるから、水でも買い溜めておこう」
リートはそう言って、水を売っている場所を探して歩き出す。
それに付いて行こうとした時、私は、彼女のジュースを持ったままであることに気付いた。
「あっ、リート!」
「ん?」
「これ、まだ残ってて……」
私はそう言いながら、もう中身が大分少なくなっているジュースの器を掲げて見せた。
すると、彼女は「おぉ」と言って受け取ろうとして、何かに気付いたのかピタッと動きを止めた。
何だろうかと思っていると、彼女は少し顔を赤らめて、すぐに顔を背けた。
「リート……?」
「いらん。残りは全部やる」
素っ気ない口調で言うと、こちらに背を向けて歩き出す。
突然の言葉に驚きつつも、私は仕方無くストローを咥えて残ったジュースを飲みながら、彼女の後を追って歩き出す。
ジュース自体は美味しいので、こちらとしては好都合だけど……。
と、そこまで考えて、私はとあることに気付いて「あっ」と声を漏らした。
「そっか……間接キスになるのか」
「っ」
私の言葉に、リートが一瞬ピクッと肩を震わせた。
……まさか……。
「間接キスを意識して……?」
「自惚れるな」
私の仮説は、こちらに振り向きざまにビシッと人差し指を立ててきたリートによって否定される。
それに立ち止まって驚いていると、彼女はフイッとまた前に向き直って続けた。
「ずっと妾ばかりが飲んでいたから、お主も喉が渇いたじゃろうと思っただけじゃ。これは、妾の優しさなのじゃぞ?」
「……ていうか、ずっと思ってたんだけど、これどこで買って来たの?」
「おー。近くにこういうのが売ってる屋台があったから、そこで買ったのじゃ」
「……私の分も買ってくれれば良かったのに……」
私はそう言いつつ、ストローを咥えてジュースを飲む。
すると、彼女は「スマンスマン」と悪びれる様子も無く謝った。
……謝る気ねぇな、コイツ。
「まぁ、このジュースも中々の値段じゃったからのぉ。二人分買うとなると、それなりの値段になるのじゃ」
「……だから、自分の分だけ?」
「結局お主も飲んでおるのじゃから、別に似たようなものじゃろ?」
どこか不敵な笑みを浮かべながら言うリートに、私はヒクッと頬を引きつらせた。
一瞬、間接キスを意識するような可愛い一面があると勘違いした私が馬鹿だった。
今更そんなことを気にする程の純真さが、彼女にあるとは思えない。
そんな風に呆れていると、「それに」と彼女は続けた。
「お主、大事なことを忘れているのではないか?」
「大事なこと……?」
つい聞き返すと、彼女はニヤリと笑い、それに答える。
「お主は奴隷じゃろ?」
……そうだった。
というか、ついさっき言われたばかりだった。
けど、なんていうか色々とフランク過ぎて、忘れてしまっていた。
私は小さく溜息をつきつつ、ジュースを啜る。
すると、リートは小さく笑ってから続けた。
「それにしても、お主が急に間接キスを意識しているなんて子供みたいなことを言うから、少し驚いたぞ」
「……友達もロクにいなかったから、こういうのに慣れていないんだよ」
私はそう言いながら、空になった器を道の途中にあったゴミ箱に捨てる。
すると、リートは目を丸くしてこちらに振り向いた。
「……そうなのか?」
「あー……うん。昔から人と距離取ってて……」
私の言葉に、彼女は「ほー」と呟く。
昔は母に認めて欲しくて勉強ばかり頑張っていて、自分から人に関わろうとしなかった。
母に認めてもらうことを諦めてからも、ずっと人と距離を取っていたせいで、今更人と仲良くすることなど出来なかった。
「……いなかった、ということは……今はおるのか?」
「うん。いるよ」
コテンと首を傾げながら聞いてくるリートに、私は迷わず頷いた。
人と話すことは苦手だろうに、勇気を振り絞って自分から友達になろうと言ってきてくれた、大切な友達。
友達になってから、ロクに友達らしいことは何も出来ていないけど……。
「生まれて初めて出来た、大切な友達なんだ」
「……お主はそやつのことが好きなのか?」
まさかの言葉に、私は「ふぇっ?」と間抜けな声を上げてしまう。
すると、リートはそっぽを向きながら続けた。
「なんか、そんな感じの顔をしていたからの。恋愛に性別は関係無いじゃろ?」
「そっ、そんなんじゃないよ……!」
思いもしなかった言葉に、私は慌ててそう言った。
女同士とか今まで考えたことも無かったから、驚いてしまった。
彼女のことは大切だけど、恋愛感情とかそういうのは無い……と、思う。
そういう感情があるとしたら、彼女よりも……──。
「そんなんじゃ、ないけど……すごく、大切な人だよ」
思考が変な方向に逸れそうだったので、私はひとまずそう言っておいた。
私の言葉に、リートは無言で私の顔を見上げた。
それに目を合わせてみると、しばらく見つめ合った後に「そうか」とだけ呟いて、視線を前に戻す。
……しかし、リートに振り回され過ぎて、少し彼女のことを忘れていたかもしれない。
まだ三日程しか経っていないが、かなり彼女のペースに巻き込まれているな……。
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