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第2章:火の心臓編
028 迷惑な連中
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しばらく食事を進めて、もう完食間際となった時に、事件は起こった。
いや、私は完食していたのだが、リートの食べる速度が遅くて待っていたのだ。
と言っても、残っていたのはサラダのみで、それも大分少なくなっていた。
……いや、全部食べ終える寸前だったからこそ、奴等は来たのかもしれない。
「お嬢さん達二人だけ? 俺達も今二人でさぁ。良かったらこの後ちょっと散歩しない?」
ヘラヘラと笑いながら言うのは、緑髪に鼻の大きい男だった。
それに、横にいた白みがかった金髪……ロイヤルブロンド? に狐目の男も「そーそー」と同調する。
「俺達こう見えても結構腕の立つ冒険者なんだよ。お嬢さん達って観光客? この辺って荒くれ者が多かったりするからさ、俺達が護衛しても良いぜ?」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、狐目の男はテーブルに手を置き、私の顔を覗き込みながら聞いて来る。
それに、私は服の裾を握り締め俯きながら、リートの様子を伺う。
彼女はまるで男たちなどいないかのように、平然と食事を続けている。
一応は彼女の奴隷という立場である私には、彼等の言葉を受けることも断るということも出来ない。
……というか、年上の男というのはどうにも苦手で、仮に奴隷でなくても多分何も言わなかったと思う。
縮こまりながら、私は男たちの様子を伺った。
彼等の言うことは間違っていないようで、腰にはそれぞれ剣がぶら下がっているし、軽い鎧のような防具を身につけている。
オズオズと観察していた時、突然緑髪の男が私の肩をガッと強く掴んだ。
「ッ……」
「ねー、話聞いてる? 一緒に俺達と……」
「毒」
男の言葉を遮るように、リートがポツリと何かを呟いた。
一瞬、何を言ったのか分からず、ふと顔を上げた。
しかし次の瞬間、男の顔色が一瞬で真っ青になり、白目を剥いて床に崩れ落ちた。
「あがッ……かッ……!?」
「ちょっ……!?」
突然のことに驚き、私は椅子から立ち上がる。
その間にも男の顔色はどんどん変わって行き、青から紫、緑と、色鮮やかに変化していく。
口からはぶくぶくと泡が噴き出し、まるで陸に打ち上げられた魚のように、ビクンビクンと体を痙攣させている。
尋常じゃないその様子に、私は言葉を失った。
「な、何これ……」
「おいッ! 大丈夫か!?」
男の様子に、すぐに狐目の男がそう言いながら駆け寄る。
それを見てリートは「ふんっ」と小さく息をつき、髪を耳に掛けて足を組む。
すると、それを見た狐目の男が、ハッと顔を上げた。
「まさか……アンタがやったのか……?」
「あぁ、そうじゃが?」
恐る恐ると言った様子で尋ねる男に対し、リートはそう平然と答えた。
すると、彼は細かった目をカッと見開き、すぐに腰に提げていた鞘から剣を抜いて立ち上がった。
「うおおおおおおおおッ!」
「危ないッ!」
リートに向かって襲い掛かる男に、私はそう叫びながら同じように剣を抜き、男の剣を受け止める。
突然のことで体勢もまともに整えることも出来なくて、かなり強引な応戦ではあったが、それでもステータスの差のおかげか男の攻撃を止めることが出来た。
自分のステータスに自信があったのか、私に剣を止められた彼は、信じられないと言った表情で私を見つめた。
「な……んで……」
「まぁ、そんなに怒らなくても良い。ソイツには毒魔法を掛けたが、死んではおらん。HPが1になったところで魔法が解けるようにしておる。安心せい」
私と剣を鍔迫り合いながら呟く男の言葉に、リートはのんびりした口調でそう呟いた。
それから彼女は立ち上がり、私の肩を抱きながら続けた。
「あと、先程の護衛の話じゃが、それも不要じゃ。……お主等では、妾達の足元にも及ばん」
「何を……ッ!」
「イノセ、殺さぬ程度に懲らしめてやれ」
「……これまた難しい注文を……」
まだ力を上手く制御出来ないと言うのに……。
とはいえ、どうせまた奴隷に拒否権は無いだのと言われて却下されるのが目に見えているので、従っておくしか無い。
ひとまず私は剣を動かし、男の剣を絡め取るようにして手から離させる。
カランカランと乾いた音を立てながら剣が転がるのを横目に見つつ、私は男の懐に潜り込み、ひとまず鳩尾に肘鉄を喰らわせてみた。
すると、男の体はくの字に曲がり、少しして目を見開きながらその場に崩れ落ちた。
腹を押さえて膝をつき、背中を丸めて呻き声を上げている。
「あの……お客様……」
すると店長と思しき中年の、シルバーヘアのオジサンが、そうオズオズと声を掛けてきた。
あぁ……流石にこの惨状は迷惑か、と、私は床に倒れ伏す男二人を一瞥した。
店主が出てきたことに驚いたのか、私が肘鉄を喰らわせた方はすぐに腹を押さえたまま立ち上がり、毒魔法を喰らった方を引きずるようにしてそそくさと出ていってしまった。
「えっと……」
「申し訳ありません」
謝ろうとした正にその時、リートがそう謝りながら頭を下げた。
まさか彼女から謝ると思っていなかったので、私はつい驚いてしまう。
すると、リートは顔を上げて、続けた。
「少々我慢が利かずに、このような乱闘騒ぎを起こしてしまい、本当に申し訳ない。金ならある程度は出せるし、片付けや雑用も出来る範囲ならするのじゃが……」
「い、いえ、そんな……」
リートの謝罪に、オジサンはどこか驚いたような様子でそう言う。
いや、私も驚いた。普段の横暴さからは想像も出来ない腰の低さだ。
ポカンと口を開けて固まっていると、オジサンは頬をポリポリと掻いて、続けて口を開いた。
「一応、一連のやり取りは見ていましたし……あの二人はこの辺じゃ有名なチンピラで、この店でも良く女性客に声を掛けたりしていて、こちらも迷惑していたんですよ。一応冒険者だから力では勝てませんし、声を掛ける女性客も冒険者は避けるものですから、皆逆らえないみたいで……やり方は気になりますが、彼等もこれで少しは懲りたと思うので、むしろ感謝したいくらいです」
その言葉に、私とリートは顔を見合わせた。
慰謝料くらいは払わなければならないかと思っていたが、まさか感謝されるとは思ってもいなかった。
しかし、なるほど……私達は普通の服を着ていたから、冒険者ではないと思ったのか。
一応剣は持っていたが、食事の邪魔にならないようにテーブルの横に立てかけていたから、気付かなかったのかもしれない。
何はともあれ、迷惑な連中だ。
「それでも、妾達が乱闘を起こしたことには変わらん」
言いながら、リートは私達の定食の伝票を確認する。
それからレジカウンターまで行って伝票を置き、持っていた小袋から何枚か貨幣を出し、ジャラジャラと払った。
慌てた様子で店員の青年がレジに立ち、彼女が払った貨幣を数える。
その間に彼女は私の服を引っ張り、小声で「行くぞ」と言ってきた。
「えっ、なんでッ……」
「ちょっと! 倍以上あるじゃないですか!」
驚いていると、背後から青年がそんな声を上げてくるのが聴こえた。
すると、すでに店の扉を開けていたリートはそれに振り返り、不敵な笑みを浮かべて言った。
「迷惑代じゃ。邪魔したのぉ」
それだけ言って、スタスタと歩いて行ってしまう。
袖を掴まれている私は引きずられるように付いて行くことしか出来ないが、しばらく歩いていてようやく我に返り、慌てて彼女の隣に並んで口を開いた。
「良かったの? 恩を売るチャンスだったのに」
「別に良いことをしたわけではないしのぉ。あんなことで感謝される方が、居心地が悪いわい」
「……大体、なんであの時魔法なんて使ったの? 別に無視したままさっさと店を出れば良かったのに」
言ってから、店を出た後も付き纏われた可能性があるかと考え直す。
まぁ、それでも店内で乱闘を起こすことに比べれば、店の外でやった方が良かったのは間違い無いだろう。
あそこでやった意味なんて無いよなぁ、なんて考えていると、リートがこちらをジッと見ていることに気付いた。
「……リート?」
「……ッ」
つい名前を呼ぶと、彼女はビクッと肩を震わせ、目を見開いた。
しかし、すぐにどこか不機嫌そうな表情になり、プイッと顔を背けた。
「……別に理由なんて無いわい。しつこかったから我慢出来なかっただけじゃ」
その言葉に、私は少し間を置いてから、小さく苦笑して「そっか」と呟いた。
いや、私は完食していたのだが、リートの食べる速度が遅くて待っていたのだ。
と言っても、残っていたのはサラダのみで、それも大分少なくなっていた。
……いや、全部食べ終える寸前だったからこそ、奴等は来たのかもしれない。
「お嬢さん達二人だけ? 俺達も今二人でさぁ。良かったらこの後ちょっと散歩しない?」
ヘラヘラと笑いながら言うのは、緑髪に鼻の大きい男だった。
それに、横にいた白みがかった金髪……ロイヤルブロンド? に狐目の男も「そーそー」と同調する。
「俺達こう見えても結構腕の立つ冒険者なんだよ。お嬢さん達って観光客? この辺って荒くれ者が多かったりするからさ、俺達が護衛しても良いぜ?」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、狐目の男はテーブルに手を置き、私の顔を覗き込みながら聞いて来る。
それに、私は服の裾を握り締め俯きながら、リートの様子を伺う。
彼女はまるで男たちなどいないかのように、平然と食事を続けている。
一応は彼女の奴隷という立場である私には、彼等の言葉を受けることも断るということも出来ない。
……というか、年上の男というのはどうにも苦手で、仮に奴隷でなくても多分何も言わなかったと思う。
縮こまりながら、私は男たちの様子を伺った。
彼等の言うことは間違っていないようで、腰にはそれぞれ剣がぶら下がっているし、軽い鎧のような防具を身につけている。
オズオズと観察していた時、突然緑髪の男が私の肩をガッと強く掴んだ。
「ッ……」
「ねー、話聞いてる? 一緒に俺達と……」
「毒」
男の言葉を遮るように、リートがポツリと何かを呟いた。
一瞬、何を言ったのか分からず、ふと顔を上げた。
しかし次の瞬間、男の顔色が一瞬で真っ青になり、白目を剥いて床に崩れ落ちた。
「あがッ……かッ……!?」
「ちょっ……!?」
突然のことに驚き、私は椅子から立ち上がる。
その間にも男の顔色はどんどん変わって行き、青から紫、緑と、色鮮やかに変化していく。
口からはぶくぶくと泡が噴き出し、まるで陸に打ち上げられた魚のように、ビクンビクンと体を痙攣させている。
尋常じゃないその様子に、私は言葉を失った。
「な、何これ……」
「おいッ! 大丈夫か!?」
男の様子に、すぐに狐目の男がそう言いながら駆け寄る。
それを見てリートは「ふんっ」と小さく息をつき、髪を耳に掛けて足を組む。
すると、それを見た狐目の男が、ハッと顔を上げた。
「まさか……アンタがやったのか……?」
「あぁ、そうじゃが?」
恐る恐ると言った様子で尋ねる男に対し、リートはそう平然と答えた。
すると、彼は細かった目をカッと見開き、すぐに腰に提げていた鞘から剣を抜いて立ち上がった。
「うおおおおおおおおッ!」
「危ないッ!」
リートに向かって襲い掛かる男に、私はそう叫びながら同じように剣を抜き、男の剣を受け止める。
突然のことで体勢もまともに整えることも出来なくて、かなり強引な応戦ではあったが、それでもステータスの差のおかげか男の攻撃を止めることが出来た。
自分のステータスに自信があったのか、私に剣を止められた彼は、信じられないと言った表情で私を見つめた。
「な……んで……」
「まぁ、そんなに怒らなくても良い。ソイツには毒魔法を掛けたが、死んではおらん。HPが1になったところで魔法が解けるようにしておる。安心せい」
私と剣を鍔迫り合いながら呟く男の言葉に、リートはのんびりした口調でそう呟いた。
それから彼女は立ち上がり、私の肩を抱きながら続けた。
「あと、先程の護衛の話じゃが、それも不要じゃ。……お主等では、妾達の足元にも及ばん」
「何を……ッ!」
「イノセ、殺さぬ程度に懲らしめてやれ」
「……これまた難しい注文を……」
まだ力を上手く制御出来ないと言うのに……。
とはいえ、どうせまた奴隷に拒否権は無いだのと言われて却下されるのが目に見えているので、従っておくしか無い。
ひとまず私は剣を動かし、男の剣を絡め取るようにして手から離させる。
カランカランと乾いた音を立てながら剣が転がるのを横目に見つつ、私は男の懐に潜り込み、ひとまず鳩尾に肘鉄を喰らわせてみた。
すると、男の体はくの字に曲がり、少しして目を見開きながらその場に崩れ落ちた。
腹を押さえて膝をつき、背中を丸めて呻き声を上げている。
「あの……お客様……」
すると店長と思しき中年の、シルバーヘアのオジサンが、そうオズオズと声を掛けてきた。
あぁ……流石にこの惨状は迷惑か、と、私は床に倒れ伏す男二人を一瞥した。
店主が出てきたことに驚いたのか、私が肘鉄を喰らわせた方はすぐに腹を押さえたまま立ち上がり、毒魔法を喰らった方を引きずるようにしてそそくさと出ていってしまった。
「えっと……」
「申し訳ありません」
謝ろうとした正にその時、リートがそう謝りながら頭を下げた。
まさか彼女から謝ると思っていなかったので、私はつい驚いてしまう。
すると、リートは顔を上げて、続けた。
「少々我慢が利かずに、このような乱闘騒ぎを起こしてしまい、本当に申し訳ない。金ならある程度は出せるし、片付けや雑用も出来る範囲ならするのじゃが……」
「い、いえ、そんな……」
リートの謝罪に、オジサンはどこか驚いたような様子でそう言う。
いや、私も驚いた。普段の横暴さからは想像も出来ない腰の低さだ。
ポカンと口を開けて固まっていると、オジサンは頬をポリポリと掻いて、続けて口を開いた。
「一応、一連のやり取りは見ていましたし……あの二人はこの辺じゃ有名なチンピラで、この店でも良く女性客に声を掛けたりしていて、こちらも迷惑していたんですよ。一応冒険者だから力では勝てませんし、声を掛ける女性客も冒険者は避けるものですから、皆逆らえないみたいで……やり方は気になりますが、彼等もこれで少しは懲りたと思うので、むしろ感謝したいくらいです」
その言葉に、私とリートは顔を見合わせた。
慰謝料くらいは払わなければならないかと思っていたが、まさか感謝されるとは思ってもいなかった。
しかし、なるほど……私達は普通の服を着ていたから、冒険者ではないと思ったのか。
一応剣は持っていたが、食事の邪魔にならないようにテーブルの横に立てかけていたから、気付かなかったのかもしれない。
何はともあれ、迷惑な連中だ。
「それでも、妾達が乱闘を起こしたことには変わらん」
言いながら、リートは私達の定食の伝票を確認する。
それからレジカウンターまで行って伝票を置き、持っていた小袋から何枚か貨幣を出し、ジャラジャラと払った。
慌てた様子で店員の青年がレジに立ち、彼女が払った貨幣を数える。
その間に彼女は私の服を引っ張り、小声で「行くぞ」と言ってきた。
「えっ、なんでッ……」
「ちょっと! 倍以上あるじゃないですか!」
驚いていると、背後から青年がそんな声を上げてくるのが聴こえた。
すると、すでに店の扉を開けていたリートはそれに振り返り、不敵な笑みを浮かべて言った。
「迷惑代じゃ。邪魔したのぉ」
それだけ言って、スタスタと歩いて行ってしまう。
袖を掴まれている私は引きずられるように付いて行くことしか出来ないが、しばらく歩いていてようやく我に返り、慌てて彼女の隣に並んで口を開いた。
「良かったの? 恩を売るチャンスだったのに」
「別に良いことをしたわけではないしのぉ。あんなことで感謝される方が、居心地が悪いわい」
「……大体、なんであの時魔法なんて使ったの? 別に無視したままさっさと店を出れば良かったのに」
言ってから、店を出た後も付き纏われた可能性があるかと考え直す。
まぁ、それでも店内で乱闘を起こすことに比べれば、店の外でやった方が良かったのは間違い無いだろう。
あそこでやった意味なんて無いよなぁ、なんて考えていると、リートがこちらをジッと見ていることに気付いた。
「……リート?」
「……ッ」
つい名前を呼ぶと、彼女はビクッと肩を震わせ、目を見開いた。
しかし、すぐにどこか不機嫌そうな表情になり、プイッと顔を背けた。
「……別に理由なんて無いわい。しつこかったから我慢出来なかっただけじゃ」
その言葉に、私は少し間を置いてから、小さく苦笑して「そっか」と呟いた。
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