上 下
4 / 204
第1章:奴隷契約編

003 引き出された力

しおりを挟む
 クラインによって連れてこられたのは、恐らくこの国の騎士団が訓練に使っているであろう訓練場だった。
 大体高校のグラウンドと同じくらいの大きさの広場に、私達は集められていた。
 当然訓練場は外なので、下は地面だった。
 しかし、履き替える靴も無かったし、仕方が無いので上履きのままで出た。
 クラインを囲う形で円になると、彼は笑みを浮かべて、口を開いた。

「先程話に出た通り、貴方達は戦闘経験の無い人達ばかり。それなのに、いきなり戦えと言われても、戦うことなど出来ない。……そういうことですね?」
「……えぇ、まぁ……」

 クラインに聞かれ、山吹さんは渋々と言った様子で頷く。
 それに、彼は微笑み、「ご安心を」と言った。

「皆様、自分の手に指輪が付いているのが分かりますか?」

 その言葉に、私達は全員、自分の手を見つめた。
 右手薬指に付いた指輪を見ていると、クラインは私達が自分の指輪を確認したことを察したのか、続けた。

「その指輪は、貴方達の体に備わっている力を引き出し、戦いを支援する力を持っています。この指輪があれば、特別な訓練が無くとも、戦うことが出来ます」
「……質問良いですか?」

 オズオズと手を上げながら、山吹さんがそう言った。
 彼女の言葉に、クラインは微笑みつつ首を傾げ、「何ですか?」と言う。
 それに、山吹さんは一度最上さんをチラリと見やってから、再度クラインに視線を戻して続けた。

「私達が召喚された部屋で、最上さんが台座から落ちましたよね? もし、私達に魔女とやらと戦う力があるのならば、台座から落ちてもある程度受け身を取ったり着地したりすることが出来ると思いますし……何より、元々の怪我もあるとはいえ、あの高さから落ちただけであれだけ痛がるだなんて、魔女とやらの攻撃に耐えられるとは到底思えません。本当に、私達に魔女を倒す力なんてあるんですか?」

 矢継ぎ早に言う山吹さんの言葉を、クラインは顎に手を当てて、吟味するように聞いていた。
 話を聞き終えると、彼は自身の顎を撫でながら「ふむ……」と呟き、すぐにフッと微笑んだ。

「良い質問ですね」

 あっけらかんとした態度で言うクラインに、山吹さんはピクッと眉を潜めた。
 しかし、すぐに彼は続けた。

「彼女の仰る通り、この指輪は、今はまだ皆様に備わった力を引き出せていません。指輪が皆様の力を引き出すには、まだ手順が必要なのです」
「……手順って何?」

 聞き返す東雲に、クラインはスッと自身の左手を顔の高さまで持ち上げ、手の甲をこちらに見せる形で構えた。
 その手は、男性の物とは思えないような、細くてしなやかな感じの……女の人のような、綺麗な手をしていた。
 つい見惚れていると「指輪が付いている方の手を、私と同じように構えて下さい」と言ってくるので、ひとまずクラインの真似をして、同じような体勢を取る。
 指輪が付いている手は利き手によって変わるのか、ほとんどは右手で構えている中に、何人か左手で構えている人がいた。
 それを見て、クラインは続けた。

「それでは、今から私の言う言葉を復唱して下さい。我に潜在し大いなる力よ、今ここに姿を現し、我が身に宿れ」

 ……なんか、すごい厨二病みたいなやつが来た……。
 一人で軽く引いてしまうが、他のクラスメイト達が各々で唱え始めたので、慌てて私も唱えることにした。

「わ、我に潜在し、大いなる力よ……今ここに姿を現し、我が身に宿れ」

 小さく呟いた瞬間、構えた指輪が強く瞬き始めた。
 直後、体の奥深くから、何かが込み上げてくるのを感じる。
 まるで体の芯が燃えるような感覚と、その熱が体中に広がって行くような感覚。
 一瞬体中が燃えるように熱くなったかと思えば、すぐに何事も無かったかのように、その温度が消える。

「……けほっ……」

 小さく咳をしながら、私は瞼を開いた。
 すると、私の手には、剣が握られていた。
 それだけでなく、無色透明だった宝石は緑色の光を放ち、何だか少し熱を持ったような感覚があった。

 まるで……アレだ。
 長時間使い過ぎて熱くなったスマホみたいな感じ。
 温度自体はそこまで高く無いし、慣れれば気になる程ではない。
 そんな風に吟味しつつ顔を上げた私は、周りを見てギョッとした。
 なぜなら、皆の髪色が、何やらカラフルな感じに染まっていたから。

「……これはまた……どういう状況ですか?」

 そう言いながら自分の格好を見下ろすのは、山吹さんだった。
 彼女の髪と目は鮮やかな金色に染まり、左手には盾が装着されている。

「チッ……何なのよこれ!」

 不機嫌そうに言いながら、東雲は持っていた棍棒のようなもので、足元の地面を強く突いた。
 すると、ゴンッと鈍い音がした。
 彼女の髪は真っ白に染まり、その目はかなり白みの強い灰色になっている。

 二人を中心にどよめくクラスメイト達を、クラインが静める。

「皆様落ち着いて下さい。皆様の姿や武具は、指輪が皆様の力を引き出した結果なのです」
「……どういうこと……ですか……?」

 訝しむように尋ねる山吹さんに、クラインは少し間を置いてから、山吹さんの指輪を静かに指さした。

「指輪に、力を込めてみて下さい」
「……?」

 クラインの言葉に訝しみつつも、山吹さんは指輪を見つめて、力を込めるような素振りをした。
 それを見て他のクラスメイト達も真似をし始めるので、私もそれに倣って、指輪に力を込めてみた。
 すると、視界に何やら大量の文字が並んだ。

「うわッ!?」

 突然のことに、つい驚きの声を上げてしまう。
 しかし、なんとか立て直し、私は改めて目の前の文字を見つめた。

 名前:猪瀬こころ Lv.1
 武器:剣
 HP 100/100
 MP 80/80
 SP 50/50
 攻撃力:50
 防御力:40
 俊敏性:50
 魔法適性:0
 適合属性:土、林
 スキル:---

「こ、これは一体……?」
「今見えているものは、皆様の能力値になります。HPは生命値、MPは魔力値、SPは体力値です」

 クラインはそれから、詳しく説明をしてくれた。
 それによると、HPってのはゲームでのヒットポイントのようなもので……まぁ、これがゼロになれば死ぬ。
 で、MPはその身体に備わっている魔力のようなもので、魔法を使う際に消費するらしい。
 SPってのは体力のことで、スタミナとか……あとは、スキルとやらを使う時に消費するらしい。
 今はレベル1なので覚えているスキルは無いが、いずれレベルが上がってスキルが増えてくると、SPを消費してスキルを使えるようになるらしい。
 ちなみに、スキルっていうのは、まぁ必殺技のようなものだ。

 で、あとのステータスは言葉のままの意味。
 魔法適性っていうのは、自分の体が魔法を使うのにどれくらい向いているかを示す、大まかな指標だ。
 あとは、適合属性っていうのも、割と言葉のままの意味。
 この世界には魔法の属性が七つあるらしく、普通の人間が使える属性は二つまでとされている。
 その二つの属性のことを、適合属性という。
 それ以外の属性の魔法等は使えなくはないが、MPやSPを適合属性よりも多く消費したり、体に負荷が掛かったりとあまり良いことはない。

「今の皆様のレベルでは、まだ魔女に打ち勝つことが出来ません。大体……レベル50を超えて、オーバーフローを済ませた後がベストでしょう」
「オーバーフロー……?」

 聞き慣れない単語に、山吹さんがそう聞き返した。
 すると、クラインは「はい」と頷く。

「皆様のステータスに、レベルというものが見えますよね?」
「……見えますけど……」
「この世界の人間は、レベルの上限が50です。けど、皆様はレベル50に達すると、オーバーフローというものを経て、さらにレベルを上げることが可能になります」
「……そのオーバーフローというものは、単純に、レベル50に達した際の指標のようなものですか?」
「まぁ、大まかに言えばそうですね。あとは……レベル50に達すると、皆様の願いに応じて、その願いを叶えることに特化したステータスに変化します」

 クラインの言葉に、私はなるほどと思いつつ、目の前に表示されるステータスを見つめた。
 まぁ、ゲームのようなものか。
 魔物を倒したりして経験値を集めてレベルを上げ、レベル50になればオーバーフローとか言うものを経て、それぞれの願いに応じて独自のステータスを持つようになる。
 ……私の願いって……何だろう……?

「……分かりました。では、そのレベルを上げる為にはどうすれば良いのですか?」
「それについては、しばらくの間は城下町の周りにいる魔物を倒して経験値を稼いで下さい。その指輪により戦い方は体が分かっているので、戦うこと自体は問題無いです」
「でもさぁ、流石にこの人数で一斉に動くのは色々面倒じゃね?」

 クラインの言葉に、東雲はそう言いながら、棍棒を肩に担ぐ。
 それに、山吹さんも「そうだね」と小さく呟いた。

「流石に十二人で動くのは大変だし、危険な気もする。城下町の周りがどんな感じなのかは分からないけど、森とかだとしたら、身動きが取れなくなる可能性もあるし」
「確かにそうですね……」

 二人の意見を聞いたクラインは、顎に手を当ててしばらく考え込んだ。
 それから、ポンッと手を打ち、明るい声で言った。

「では、四人グループを作るのはどうでしょう?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。 苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。 ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?

ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。 【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。 その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ? (なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

専属奴隷として生きる

佐藤クッタ
恋愛
M性という病気は治らずにドンドンと深みへ堕ちる。 中学生の頃から年上の女性に憧れていた 好きになるのは 友達のお母さん 文具屋のお母さん お菓子屋のお母さん 本屋のお母さん どちらかというとやせ型よりも グラマラスな女性に憧れを持った 昔は 文具屋にエロ本が置いてあって 雑誌棚に普通の雑誌と一緒にエロ本が置いてあった ある文具屋のお母さんに憧れて 雑誌を見るふりをしながらお母さんの傍にいたかっただけですが お母さんに「どれを買っても一緒よ」と言われて買ったエロ本が SM本だった。 当時は男性がSで女性がMな感じが主流でした グラビアも小説もそれを見ながら 想像するのはM女性を自分に置き換えての「夢想」 友達のお母さんに、お仕置きをされている自分 そんな毎日が続き私のMが開花したのだと思う

処理中です...