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”さんず”から”やみ”へ
五
しおりを挟む一歩…匠が進む。
その隣を私が寄り添う。
闇雲に探すのはきっと不可能に近い。
「匠…地図か何かないかな?」
「建物を探すか」
「うん」
車に乗ったという香織。
ならその外の乗り物や建物も恐らくあるだろう。
思うに…文化は此方とそう変わらないと思う。
鏡のよう─────。
大きな違いはあれど、沙耶は小さくそんなことを思った。
鏡のような薄っぺらい境界の上で成り立ったこの世界。
例えるなら鏡のようだとそう思ったのだ。
落として割れるかのように一瞬で違うバラバラで統一性のない世界を見せる。
きっとその全てを合わせた世界が私達の元居た世界なのじゃないだろうかと…そんな事を思うのだった。
此処は差し詰め裏返しなって光をうつすことの無くなってしまった世界。
地面ばかりと対峙して闇をひたすら持続する闇の世界。
「沙耶…着いてきてるよね?」
「うん」
匠の服をキュッと力強く握り返すが、フッと嫌な想像が頭をかすめた。
匠の服を握ってるつもりで、匠じゃないかも知れない……。
そんな嫌な想像。
光は携帯の光しか見えず、匠の姿を濃い闇の中で確認するのは難しい。
光でさえまともに機能しないのだ。
匠だと思ってるだけで、もしかしたら違うかもという嫌な想像は無意識に膨らんでゆく。
それを無理矢理追い払って、匠へと話し掛ける。
無言で歩き続けるなんて事は頭がおかしくなりそうだった。
疑って怖がって一人どつぼに落ちるなんて避けたい。
「匠…怖くない?」
「ん~。暗いだけなら俺は平気かな」
クスッと匠の含み笑いが聞こえた。
「沙耶は?怖くない?」
ここで『怖い』と素直に言えたらどんなに楽だろう。
生憎、素直より強気が勝っていて、無意識に『大丈夫』だと即答していた。
うん。
この口、少しは可愛いこと言ったらどうだろう。
私の心境を知ってから知らずか匠が笑いを堪えてるのがわかった。
服越しに伝わってくる振動は笑いを堪えて肩が揺れてるそれだ。
「笑わないで~」
「ははっ、だって絶対強気な態度でそんな事言うだろうって予想ついたし」
からからと匠が笑う。
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