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匠と沙耶
十二
しおりを挟む「心配だから着いてくよ」
嘘偽りのない言葉だとわかる。
匠らしいと言えば匠らしい……。
今日は無理そうだと視線を逸して一つ小さな、バレないくらいのため息をついた。
そんな私の様子を、匠が無表情に見据えていたのを私は知らない。
私が再び視線を匠に戻したときには、いつもと変わらない優しい表情の匠だったから。
「そう言えば用事って何?俺も着いてくとか行ったけど着いて来ちゃって良かった?直ぐ終わるって言うからコンビニかなんかかと思って着いて来ちゃったけど」
「…うん。たいした用事ではないんだけど」
苦笑いの匠になんて言おう。
素直に言うことはできないし、ましてや下手に嘘をつきたくない。
「コンビニに────」
出たのはそんな言葉だった。
本当、私って馬鹿。
「沙耶…嘘つくのだけはやめてね?」
「………………………」
お見通しなんだ。
きっと。
でなかったらこんな怒ってるような声色じゃないはずだから………。
ソロッと視線をやれば、バッチリ視線が絡まる。
ジッと見据えられて、いつの間にか歩みは止まっていた。
硬直したように動かない私に、匠はクスリと笑う。
「ごめん、少し感情的になりすぎたかも。怖がらせてごめんね、沙耶が嘘ついて香織ちゃんを追い掛けちゃいそうだったから」
「…………」
返す言葉もない。
やはり見透かされてる。
その通りだ。
匠が謝る必要は全くない。
「行くなら行くって言って。そうすれば俺も着いてくんだから」
「………うん……」
そんなの言えるはずない。
わかっていて言ってるからタチが悪い。
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