28 / 59
序章
十四
しおりを挟むトンネルがたいして長くなかったことに感謝したい。
……だがこの状況は如何なものか。
目の前のこの人は線路上で何をしてるのだろう。
「………こんばんは」
呑気にへらりと笑いながら挨拶してくるこの人が、こんな暗闇で何をしていたのかなんて私にはどうでも良かった。
まともな人だ。
そんな事を思ってしまった。
常識的だと……。
自分も線路上に立っているわけだから相手に不信感を抱くことはない。
この状況を不思議にも思わずに、私は泣きながらその人に泣きついた。
『トンネルを絶対にくぐっちゃ駄目だ。気をつけて…』
そんなダイアからのメールがあるにも関わらず……。
目を通さなかった自分を悔やみたいところだが、私はそのメールを見ることはなかった。
ピルルルルル─────
『もしもし香織!?あんた大丈夫?やっぱりきさらぎ駅が見つからなくて』
「うん、大丈夫…かな。きさらぎ駅で散々な目にあったから線路に逃げて走ってトンネル抜けたんだよ~!そうしたら親切な人がいてさ送ってくれるって言うから今送って貰ってるところ」
『……………は?!!』
素っ頓狂な声を上げる沙耶。
『はっ?ちょっと待ってよ、その人そんな場所で何してたの?!』
「知らないよ?でも良い人だよ、良かった~」
『嫌、それ大丈夫なの?』
「大丈夫って?」
チラリと車を運転してくれてる人物を見れば、相手はニコリと微笑んでくれる。
悪い人には見えないけどなぁ。
暗がりであの時は見えなかったけど若い男性。
歳は恐らく近いと思う…。
優しげな雰囲気で、おおらかさが伝わってくる。
『怪しいでしょ!!』
直ぐに降りて駅で待ちなさいと言う沙耶の言葉を、私は無視して大丈夫だと言い切った。
『はぁ───』
返ってきたのはため息。
『もう!!わかったよ、それよりそこの地名くらい教えてよね』
「地名?えっと────」
視線を彼の方に泳がせれば、彼はニコリと笑って一言。
「”やみ”だよ」
「へ?」
彼は相変わらずニコニコとしてる。
「此処はやみって言うんだ」
「やみ?」
呟いた私の声を拾ってか、沙耶の声が返ってきた。
『………やみ?』
それは問い。
だがそれに答えられることもなく、私は携帯を耳に押し当てたまま言葉を発することができなかった。
やみって………?
地名にしてはやはり聞いたことがない。
彼越しに外を見るが、外は深い暗闇。
「………………………」
押し黙る私を、やはり彼はニコニコと運転している合間に見据えてくる。
『香織大丈夫、香織!!?』
沙耶の言葉は痛いくらい聞こえているけど、私は言葉を発せられなかった。
じっとりと嫌な汗が頬を伝うのがわかった。
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる