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Ⅱ ブルーローズ♬前奏曲
E26 褒められると弱いわ
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「飯森神父様、奥様。本日は、ありがとうございました。また、お世話になると思います」
わんわんわん!
わんわんわんわん!
「ああん。また、私と遊んでね、シイナちゃん」
ひなぎくは、シイナにじゃれつかれた。
高く結った髪を回し、オードトワレ・チェリーブロッサムを振りまきながら、タイトスカートにからむシイナとくるくると踊り、肘を曲げて胸を揺らし、きゃっきゃとしている。
「ヤキモキしちゃうっEカップ! シイナちゃんと俺とどっちが好き?」
黒樹は、シイナに妬いていた。
どっちも女の子だけど、どちらかと言えば、ひなぎくの方がいい。
「はは……。比べられないですよ。比べたら、困っちゃうんだからー」
ひなぎくは、動物が好きだから、シイナも遊んで貰えると分かったのかも知れない。
「これからもよろしくお願いいたします」
礼をした後、飯森夫妻とシイナとは飯山教会で別れた。
「では、歩いて行ってみよう」
黒樹に続いて、七人で移動した。
どれ位古民家と離れているのか、試しに歩いて行ってみた。
黒樹は、ふんふんと乗り気で計測している。
そして、再び、パンダ食堂に来た。
「えー、澄花にはりんごジュース、虹花と劉樹にオレンジジュース一杯ずつ、蓮花に紅茶、和とひなぎくちゃんにコーヒーを一杯ずつ、俺にはカフェオレマックスお砂糖をあるだけお願いね。お腹空いて来てしまったよ」
「んだば、長い名前ば、コーヒーに牛乳と砂糖壺を持ってければええんだべな」
「よろすく。飯森ウエイトレスさん」
黒樹は調子よくしゃっと手を振って頼む。
注文の品が来るまでに、黒樹は切り出した。
「さて、話し合うか。おう、どうだった? 歩いて十五分位だな。俺達は」
「俺達って、小学生チームと蓮花さんは、キツそうでしたよ」
ひなぎくは、とぼけっぷりもいい所だ。
「俺達って……。俺と私? きゃああ。恥ずかしい呼び方をしないでくださいよ」
顔を隠してしまったひなぎくに、追い打ちを掛けようとする黒樹だった。
耳元で囁く。
「俺達、俺達、俺達、俺達……」
「いやあああん。あっち行ってー」
ひなぎくが、向こうを向いたまま、黒樹の顔をつかんでしまう。
がっちりだったもので、黒樹のメガネがずりこけた。
「あっち行っては、ないだろう。うぐぐぐ」
戦いのさなか、飯森ウエイトレスが注文の品を運んで来た。
カタカタしているのはご愛敬である。
こんなに、がんばって働いているのだから。
「いただきます」
「あったかいわ」
「りんごを卸した味がするよ」
ひなぎくは、皆、いい子達だと感心する。
こんなにいい子達の母親になれるのか、ふと考えてしまう。
黒樹のことを意識し過ぎだ。
黒樹の先程の俺達と言う言葉が、胸にからんで、ひなぎくをしぼり取り、ミイラになるかと思った。
ひなぎくも気持ちを切り替える。
「はい、今日のこれからの予定ね。先ず、宿泊先を探しましょう。次にリフォームの打合せ、そして、秘密の計画があるわよ」
印伝の手帳を手に、ひなぎくは、テキパキと仕切った。
直ぐにスマートフォンを取り、各方面へと連絡を取る。
そして、大きくため息をつく。
胸の揺れ方からして、肺の奥から全て吐き出したかのようだった。
「上手く行ったか?」
口髭をつんつんさせて、まるいメガネの奥から優しい瞳を覗かせた。
「ふふふふふふ。分かりました? まあまあですよ」
ごっきげんなひなぎくに黒樹はにこりとした。
誰だって、想い人がにこやかなのは嬉しい。
「今夜からの宿は取れました。これで、安心ですね。二荒神温泉福の湯さんですよ。湯治場のようで、ホテルよりは安く上がりますし、宿泊も可能ですわ。料理は出ませんので、別の所でお食事をされるか、自炊をするかですね」
「自炊なら、任せて欲しいぴくよ」
何か役に立っていないのではないかと心配していた劉樹が手を挙げた。
ひなぎくは、黙って劉樹の頭を撫でる。
すると、劉樹はもじもじと恥ずかしそうにストローでオレンジジュースを混ぜた。
「古民家の貸借を明日決めに行きますね。飯森康さんとアポイントメントを取りましたので、ふるさとななつ市へ行きますわ」
ひなぎくは、和と蓮花に目をやった。
「その際、高校の情報を和さんが探されてもいいかと思います。蓮花さんは、国立大学と仰っていましたが、それも希望にそう学校か、早めに情報収集されてもいいのではないでしょうか。お二人は、私と別行動となりますね」
「OK」
「そうですね」
二人とも頷いた。
これで明日のスケジュールはよし。
「飯山教会の方は、明後日契約書を持って行きますね。その際、おおよその構想は、昨日の下見でできましたので、リフォーム例を提示したいと思います」
いつもの石橋を叩いても渡らないとまで黒樹に言われ続けたひなぎくが、今は早く展開できるのは、ひらめきがあったからだ。
「シイナちゃんのお座布団は持ち帰られましたが、小屋がお外にありましたので、それは、触らずにしたいとの意向をお伝えいたします。また、井戸が使えるのでしたなら、確認の上、アトリエの周りを園芸目的で綺麗にしたり、アトリエで使いたいと考えていますわ」
びっしりと書かれた手帳をめくった。
「リフォーム会社は、古民家を暮らせるようにするのと教会をアトリエにするのでは目的が違うので、二社選んであります。パリでリストアップしていたけれど、今になって役に立つとは思わなかったわ」
黒樹の方を見て微笑んだ。
何か、アドバイスがあったのだろう。
「古民家の方は、なるべく早く住めるようにしたいと考えています。アトリエは、リフォームが終わった頃に搬送ができるように、アート作品の搬送会社にもスケジュールを組めるようにしたいですね。搬送業者も芸術の秋とやらで多忙だと仰っていましたから、そこは慎重に行きたいです」
「何かあったら、言ってくれっすよ」
和が口を尖らせて照れ笑いをした。
「アトリエの企画ですが、私の中では決まっています」
やっと、こくりと一口、コーヒーをいただいた。
さほど冷めていなかったので、思ったよりも時間が経っていないのかと思った。
「何をするの?」
澄花が、ひなぎくが喜々として話すのを楽しみにしているようだった。
「皆も知っていると思うけれど、『ピカソとその生き方』です。一番やりたいことから始めたいからね」
黒樹は、早口だと突っ込みを入れたかったが、早口のひなぎくは、調子のいい証拠だから黙っていた。
ひなぎくは、おとなしい印象が強い。
もっともっと前へ出て、もっともっときらきらとして欲しい。
皆は、おんせんたま号で、二荒神温泉福の湯に着いた。
湯治場とは思ってもみなかった程綺麗で、スーパー銭湯のようなお風呂に、布団を借りて畳の上で寝ることもできる。
食事は、自炊も考えていたが、近くの売店で済ませることにした。
「きゃー、サンドイッチ、美味しそう」
「パン、いいよねー」
「ねー」
「いいっすねー」
「バゲットが懐かしいぴく」
「そうか、パン食よね……。困らせてしまって、ごめんなさい」
ひなぎくは、自分が生まれは日本だから、米食に抵抗がなかったせいか、黒樹の子ども達のお食事事情を考えられていなくて、反省した。
食事前に、黒樹に後を任せ、ひなぎくは買い物に行くと出掛けて行った。
帰宅後、黒樹は別の部屋だったものだから、スマートフォンのSNSで連絡を取る。
〔子ども達は、どうでしたか?〕―ひ
黒―〔ママン、ママンって泣いていた〕
〔ええ!〕―ひ
黒―〔泣いていたか……は、内緒だ〕
〔酷いですよ〕―ひ
黒―〔内緒は、内緒だ〕
〔まだまだ、がんばりますね〕―ひ
黒―〔おお、そうか〕
ブブブブ……。
マナーモードの知らせにひなぎくは心を躍らせる。
耳に当てると一言だけだ。
「明日からも忙しくなるな」
黒樹にそう言われ、何か照れ臭かった。
タタタタタタタ……。
その夜、ひなぎくは、福の湯にある家事室へ行き、一人、ミシンを踏んだ。
「青いバラをどうぞ」
「持っているから」
暫く忘れていたあの声が聞こえた。
わんわんわん!
わんわんわんわん!
「ああん。また、私と遊んでね、シイナちゃん」
ひなぎくは、シイナにじゃれつかれた。
高く結った髪を回し、オードトワレ・チェリーブロッサムを振りまきながら、タイトスカートにからむシイナとくるくると踊り、肘を曲げて胸を揺らし、きゃっきゃとしている。
「ヤキモキしちゃうっEカップ! シイナちゃんと俺とどっちが好き?」
黒樹は、シイナに妬いていた。
どっちも女の子だけど、どちらかと言えば、ひなぎくの方がいい。
「はは……。比べられないですよ。比べたら、困っちゃうんだからー」
ひなぎくは、動物が好きだから、シイナも遊んで貰えると分かったのかも知れない。
「これからもよろしくお願いいたします」
礼をした後、飯森夫妻とシイナとは飯山教会で別れた。
「では、歩いて行ってみよう」
黒樹に続いて、七人で移動した。
どれ位古民家と離れているのか、試しに歩いて行ってみた。
黒樹は、ふんふんと乗り気で計測している。
そして、再び、パンダ食堂に来た。
「えー、澄花にはりんごジュース、虹花と劉樹にオレンジジュース一杯ずつ、蓮花に紅茶、和とひなぎくちゃんにコーヒーを一杯ずつ、俺にはカフェオレマックスお砂糖をあるだけお願いね。お腹空いて来てしまったよ」
「んだば、長い名前ば、コーヒーに牛乳と砂糖壺を持ってければええんだべな」
「よろすく。飯森ウエイトレスさん」
黒樹は調子よくしゃっと手を振って頼む。
注文の品が来るまでに、黒樹は切り出した。
「さて、話し合うか。おう、どうだった? 歩いて十五分位だな。俺達は」
「俺達って、小学生チームと蓮花さんは、キツそうでしたよ」
ひなぎくは、とぼけっぷりもいい所だ。
「俺達って……。俺と私? きゃああ。恥ずかしい呼び方をしないでくださいよ」
顔を隠してしまったひなぎくに、追い打ちを掛けようとする黒樹だった。
耳元で囁く。
「俺達、俺達、俺達、俺達……」
「いやあああん。あっち行ってー」
ひなぎくが、向こうを向いたまま、黒樹の顔をつかんでしまう。
がっちりだったもので、黒樹のメガネがずりこけた。
「あっち行っては、ないだろう。うぐぐぐ」
戦いのさなか、飯森ウエイトレスが注文の品を運んで来た。
カタカタしているのはご愛敬である。
こんなに、がんばって働いているのだから。
「いただきます」
「あったかいわ」
「りんごを卸した味がするよ」
ひなぎくは、皆、いい子達だと感心する。
こんなにいい子達の母親になれるのか、ふと考えてしまう。
黒樹のことを意識し過ぎだ。
黒樹の先程の俺達と言う言葉が、胸にからんで、ひなぎくをしぼり取り、ミイラになるかと思った。
ひなぎくも気持ちを切り替える。
「はい、今日のこれからの予定ね。先ず、宿泊先を探しましょう。次にリフォームの打合せ、そして、秘密の計画があるわよ」
印伝の手帳を手に、ひなぎくは、テキパキと仕切った。
直ぐにスマートフォンを取り、各方面へと連絡を取る。
そして、大きくため息をつく。
胸の揺れ方からして、肺の奥から全て吐き出したかのようだった。
「上手く行ったか?」
口髭をつんつんさせて、まるいメガネの奥から優しい瞳を覗かせた。
「ふふふふふふ。分かりました? まあまあですよ」
ごっきげんなひなぎくに黒樹はにこりとした。
誰だって、想い人がにこやかなのは嬉しい。
「今夜からの宿は取れました。これで、安心ですね。二荒神温泉福の湯さんですよ。湯治場のようで、ホテルよりは安く上がりますし、宿泊も可能ですわ。料理は出ませんので、別の所でお食事をされるか、自炊をするかですね」
「自炊なら、任せて欲しいぴくよ」
何か役に立っていないのではないかと心配していた劉樹が手を挙げた。
ひなぎくは、黙って劉樹の頭を撫でる。
すると、劉樹はもじもじと恥ずかしそうにストローでオレンジジュースを混ぜた。
「古民家の貸借を明日決めに行きますね。飯森康さんとアポイントメントを取りましたので、ふるさとななつ市へ行きますわ」
ひなぎくは、和と蓮花に目をやった。
「その際、高校の情報を和さんが探されてもいいかと思います。蓮花さんは、国立大学と仰っていましたが、それも希望にそう学校か、早めに情報収集されてもいいのではないでしょうか。お二人は、私と別行動となりますね」
「OK」
「そうですね」
二人とも頷いた。
これで明日のスケジュールはよし。
「飯山教会の方は、明後日契約書を持って行きますね。その際、おおよその構想は、昨日の下見でできましたので、リフォーム例を提示したいと思います」
いつもの石橋を叩いても渡らないとまで黒樹に言われ続けたひなぎくが、今は早く展開できるのは、ひらめきがあったからだ。
「シイナちゃんのお座布団は持ち帰られましたが、小屋がお外にありましたので、それは、触らずにしたいとの意向をお伝えいたします。また、井戸が使えるのでしたなら、確認の上、アトリエの周りを園芸目的で綺麗にしたり、アトリエで使いたいと考えていますわ」
びっしりと書かれた手帳をめくった。
「リフォーム会社は、古民家を暮らせるようにするのと教会をアトリエにするのでは目的が違うので、二社選んであります。パリでリストアップしていたけれど、今になって役に立つとは思わなかったわ」
黒樹の方を見て微笑んだ。
何か、アドバイスがあったのだろう。
「古民家の方は、なるべく早く住めるようにしたいと考えています。アトリエは、リフォームが終わった頃に搬送ができるように、アート作品の搬送会社にもスケジュールを組めるようにしたいですね。搬送業者も芸術の秋とやらで多忙だと仰っていましたから、そこは慎重に行きたいです」
「何かあったら、言ってくれっすよ」
和が口を尖らせて照れ笑いをした。
「アトリエの企画ですが、私の中では決まっています」
やっと、こくりと一口、コーヒーをいただいた。
さほど冷めていなかったので、思ったよりも時間が経っていないのかと思った。
「何をするの?」
澄花が、ひなぎくが喜々として話すのを楽しみにしているようだった。
「皆も知っていると思うけれど、『ピカソとその生き方』です。一番やりたいことから始めたいからね」
黒樹は、早口だと突っ込みを入れたかったが、早口のひなぎくは、調子のいい証拠だから黙っていた。
ひなぎくは、おとなしい印象が強い。
もっともっと前へ出て、もっともっときらきらとして欲しい。
皆は、おんせんたま号で、二荒神温泉福の湯に着いた。
湯治場とは思ってもみなかった程綺麗で、スーパー銭湯のようなお風呂に、布団を借りて畳の上で寝ることもできる。
食事は、自炊も考えていたが、近くの売店で済ませることにした。
「きゃー、サンドイッチ、美味しそう」
「パン、いいよねー」
「ねー」
「いいっすねー」
「バゲットが懐かしいぴく」
「そうか、パン食よね……。困らせてしまって、ごめんなさい」
ひなぎくは、自分が生まれは日本だから、米食に抵抗がなかったせいか、黒樹の子ども達のお食事事情を考えられていなくて、反省した。
食事前に、黒樹に後を任せ、ひなぎくは買い物に行くと出掛けて行った。
帰宅後、黒樹は別の部屋だったものだから、スマートフォンのSNSで連絡を取る。
〔子ども達は、どうでしたか?〕―ひ
黒―〔ママン、ママンって泣いていた〕
〔ええ!〕―ひ
黒―〔泣いていたか……は、内緒だ〕
〔酷いですよ〕―ひ
黒―〔内緒は、内緒だ〕
〔まだまだ、がんばりますね〕―ひ
黒―〔おお、そうか〕
ブブブブ……。
マナーモードの知らせにひなぎくは心を躍らせる。
耳に当てると一言だけだ。
「明日からも忙しくなるな」
黒樹にそう言われ、何か照れ臭かった。
タタタタタタタ……。
その夜、ひなぎくは、福の湯にある家事室へ行き、一人、ミシンを踏んだ。
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