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命のたまご
31 茜の結婚
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茜は、誰に似たのかな。
新卒採用で、うさぎのぬいぐるみの会社、『あろーず』に入社した。
もっふもふのふっわふわの本物みたいだけど可愛いぬいぐるみを作る会社だ。
本社のショールームは銀座だが、縫製は下町で行われている。
「行ってまいります。慧ぱーぱ。櫻まーま」
入社式のその日に大事件が起こるとは思わなかった。
しかも櫻の仕立てた黄色い菊の振袖姿が引き起こすとは。
◇◇◇
まさかの茜が、入社した人の代表で、檀上のマイクへと向かう。
「絹矢茜さん」
名を呼ばれたので、席を立ち、歩き始めようとした。
「ん……」
やだ、緊張している筈ないのに、前に歩けない。
ス……。ステーン。
周りは、笑いたいのをこらえてか、涙を流している者もいる。
「す、すみません。僕が素敵なお着物を踏んでしまったようです」
「え? や、やだ。私ったら……!」
それでも、茜は、立ち上がり、裾を払って檀上に上がった。
マイクの前に立つ。
もう、紙など読み上げない。
「私は、銀座の『あろーず』という森に迷い込んだときから、素敵な王子様に出逢いました。可愛いだけではない、立派なうさぎさんです。ハートをその名の通り『弓』に射抜かれました。今日、私は、絹矢の名を捨ててもいい。某茜となって、『あろーず』に骨を埋めるつもりで働きたいです」
先程の裾を踏んだ男性が自分のことかと顔を赤らめている。
何のことかと分からないが、ほっとな内容に周りもどよめく。
そして、パラパラとした拍手から、大きな拍手に変わっていった。
新入社員もだが、役員の方々からもいただいた。
「あの……。失礼しました!」
ばっと頭を下げると、席へと駆け戻る。
先程の男性が、照れながら謝ってきた。
「僕は、真田と申します。真田佐助です」
茜は、涙を拭く為のハンカチを渡されて、よく分からずに握りしめてしまった。
「これから、よろしくお願いいたします。絹矢茜です」
◇◇◇
それから、暫く経ってのこと。
慧ぱーぱと真田くんがどんな話をしたのかは知らない。
予約してあったお寿司屋さんへ、家族ぐるみで出掛けていった。
貸し切りだった。
「僕の故郷は、神奈川なのですよ」
その言葉に、櫻まーまは、胸を撫でおろした。
自分が、遠距離恋愛で苦労をしたからだ。
「一緒の会社で、いいわね」
お付き合いをして直ぐにというのは、拙速だろうと、ゆっくり付き合うように、茜は釘を刺された。
それ以外は、歓迎ムードだろうと誰もがそう思った。
◇◇◇
ある晴れの日のこと。
一部の身内だけ集まって貰ってのお式でしたが、大きな拍手で、歓迎された。
新卒採用で、うさぎのぬいぐるみの会社、『あろーず』に入社した。
もっふもふのふっわふわの本物みたいだけど可愛いぬいぐるみを作る会社だ。
本社のショールームは銀座だが、縫製は下町で行われている。
「行ってまいります。慧ぱーぱ。櫻まーま」
入社式のその日に大事件が起こるとは思わなかった。
しかも櫻の仕立てた黄色い菊の振袖姿が引き起こすとは。
◇◇◇
まさかの茜が、入社した人の代表で、檀上のマイクへと向かう。
「絹矢茜さん」
名を呼ばれたので、席を立ち、歩き始めようとした。
「ん……」
やだ、緊張している筈ないのに、前に歩けない。
ス……。ステーン。
周りは、笑いたいのをこらえてか、涙を流している者もいる。
「す、すみません。僕が素敵なお着物を踏んでしまったようです」
「え? や、やだ。私ったら……!」
それでも、茜は、立ち上がり、裾を払って檀上に上がった。
マイクの前に立つ。
もう、紙など読み上げない。
「私は、銀座の『あろーず』という森に迷い込んだときから、素敵な王子様に出逢いました。可愛いだけではない、立派なうさぎさんです。ハートをその名の通り『弓』に射抜かれました。今日、私は、絹矢の名を捨ててもいい。某茜となって、『あろーず』に骨を埋めるつもりで働きたいです」
先程の裾を踏んだ男性が自分のことかと顔を赤らめている。
何のことかと分からないが、ほっとな内容に周りもどよめく。
そして、パラパラとした拍手から、大きな拍手に変わっていった。
新入社員もだが、役員の方々からもいただいた。
「あの……。失礼しました!」
ばっと頭を下げると、席へと駆け戻る。
先程の男性が、照れながら謝ってきた。
「僕は、真田と申します。真田佐助です」
茜は、涙を拭く為のハンカチを渡されて、よく分からずに握りしめてしまった。
「これから、よろしくお願いいたします。絹矢茜です」
◇◇◇
それから、暫く経ってのこと。
慧ぱーぱと真田くんがどんな話をしたのかは知らない。
予約してあったお寿司屋さんへ、家族ぐるみで出掛けていった。
貸し切りだった。
「僕の故郷は、神奈川なのですよ」
その言葉に、櫻まーまは、胸を撫でおろした。
自分が、遠距離恋愛で苦労をしたからだ。
「一緒の会社で、いいわね」
お付き合いをして直ぐにというのは、拙速だろうと、ゆっくり付き合うように、茜は釘を刺された。
それ以外は、歓迎ムードだろうと誰もがそう思った。
◇◇◇
ある晴れの日のこと。
一部の身内だけ集まって貰ってのお式でしたが、大きな拍手で、歓迎された。
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