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違法キメラ製作狂のワガママ小娘捕獲ミッション その四

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「び、ビアンカ様、それってまさか・・・・・・」

 いつの間に気づいたのか、おびえた声をあげるメルザ。

「そ、それだけはいけません! アイツは制御に問題があり、暴走する怖れが・・・・・・・」

「えぇいっ! おびえるな小者っ!」

 ビアンカは、両手を腰にあてつつ、貧乳をはると、

「たとえ制御に失敗してもっ。知らんぷりしてトンズラすれば大丈夫っ!」

 むちゃくちゃ無責任なセリフをほざき、呪文を唱えはじめる。

「そうですねっ。さすがビアンカ様!」

 納得するな、お前も。
 ――って、これは召喚呪文か。

 エレナに首をしめられつつ、俺が思ったその時。
 不意に空間が、パックリ縦に裂けたかと思うと、そこから這い出してきたのは、一匹の合成獣人だった。

 これは・・・・・・リザードマンをキメラ化したものか?

 しかし、頭部に面影を残しているものの、全身はキメラ化によって、異様な変貌を遂げている。
 体表を覆うのは、鱗ではない。発達した赤黒い筋肉が、剥き出しになっている。
 右腕だけが丸太のように太く、巨大な棍棒を握っていた。

「ふふーんっ、ビビってるわね。ゴロツキ冒険者め」

 メルザの肩に乗り、ダッシュで木の上まで逃げながら。ビアンカは、口調だけは偉そうに、

「すご腕の傭兵が来た時、メルザがびびって逃げたもんで、こいつを差し向けたんだけど・・・・・・結果は聞いてるでしょ」

 にやりと笑みを浮かべる。

 ・・・・・なるほど。傭兵ギルドの腕利きを半殺しにした、化け物キメラってのはこれか。
 まあ、そのせいで引き受け手がいなくなり、新米の俺たちに依頼がまわってきたわけだが。

「これで、あんたらもおしまいなんだから・・・・・・・って。きゃーっ! な、なんでこっちくんのよーっ!」

 木をよじ登りつつ、リザードキメラは、爬虫類の目に憎悪を浮かべ、

「グググ・・・・・・。このクソガキ、よくもオレ様を閉じ込めてくれたな。お礼に、素っ裸にひん剥いてから喰らってヤル」

 ・・・・・・召喚したキメラに襲われてどーする。

「ちょ、ちょっとリザードさん!
 こんな貧乳娘より、あっちの巨乳剣士の方が、よっぽどおいしいですよっ!」

「なに、巨乳?」

 メルザが必死に指差す方に、リザードキメラは振り向いて、

「――ほう。確かに、小便くさいガキより、よほどうまそうダ・・・・・・」

 細長い舌で、ぺろりと舌舐めずりする。

「ふう・・・・・・怖かった・・・・・・きゃんっ!?」

「だーれが貧乳娘よ! このこのっ!」

 安堵の息つく犬耳を、ポカポカ叩くビアンカ。

「す、すいませんっ! 注意をそらすため仕方なく・・・・・・・・・あたたっ、ご勘弁をっ・・・・・・」

 もめてる主従には構わず、リザードキメラは、のそりっ、とした足取りでこちらに近づき、

「ググググ・・・・・・・」

 エレナの胸や腰を、ねばつく視線でジロジロ見ると、

「叩きのめしたあと、ビキニ鎧を剥ぎ取ってヤルカラ、カクゴしろ・・・・・・」

 チロチロと赤い舌を蠢かしつつ、くぐもった声で言う。

「は、爬虫類のくせに、いやらしいわね」

 エレナの頬が、わずかに染まる。

 ・・・・・・なんと嬉しい・・・・・いや、恐ろしいヤツ。

「それにしても、まーたこんなキメラなの・・・・・・・?」

 エレナは、軽くため息つくと、

「卑屈な犬戦士にキモすぎミミズ、それにセクハラ蜥蜴って。色物キメラばっかりじゃない」

 あきれた顔でつぶやくのに、

「グゲゲ・・・・・・。色物かどうか、すぐにお前の身体に教えてやる・・・・・・さ」

 ぐっ、と重心を低くしたかと思うと、次の瞬間。
 どんっ!
 全身の筋肉をしならせて、二メートルを越す巨体が、一気に中宙まで跳ね上がる!
 鈍重なリザードマンとは思えない素早さだった。

「ヒャッハー!」 

 空中で振りかぶった棍棒を、エレナめがけて勢いよく叩きつけ――だがしかし。

「――ムッ!?」

 その口から上がったのは、とまどいの声だった。 
 視界から、エレナの姿がかき消えたのだ。と、次の瞬間。

 どごっ!

「グッ・・・・・・1?」

 後頭部を一撃されて、リザードキメラは前によろめく。

「あらら。鱗もないのに、石頭ねー」

 慌てて振り向けば、あきれた口調でつぶやきつつ、剣を見つめるエレナの姿。

「全く、刃が欠けたらどうしてくれるのよ。お金ないのに」

「グ・・・・・・こ、コイツ・・・・・・」

 余裕の口調で言われて、キメラの目が、怒りに染まる。

「ちょっと何してんの! そんな胸デカ女、さっさと懲らしめちゃいなさいっ」

 木の陰に隠れて、コソコソ応援するビアンカ。

 って、コンプレックスの塊か。お前は。

「グオォォォォォオッ!」

 雄たけび上げて、リザード・キメラが猛然とエレナに襲いかかる!
 巨大な棍棒を風車のように振り回すものの――

「・・・・・・やっぱこの格好だと、嘘みたいに身体が軽いわねー」

 その全てを、軽やかにかわしつつ、エレナは、ぽりぽりと頬をかく。
 まるで足に羽が生えているようだった。

「グヌヌ、ナ、ナメルナァッ!」

 唸りをあげた棍棒が、横なぎにエレナの姿をとらえ――しかし、次の瞬間。

「ナ、ナンダトッ!?」

 血走った爬虫類の目が、驚愕に見開く。
 確かに、エレナをとらえたはずの一撃が、身体を素通りしたのだ。

「しかも――風の付与魔力で、残像まで使えるし。・・・・・・はぁ、これで、もっとまともな鎧なら・・・・・・」

 不意に、すぐそばで聞こえた声に、ぎょっとして目を向ければ。棍棒の上に立ったエレナが、にっこり微笑み、

「――いくらキメラ化しても。ここが急所なのは変えられないで・・・・・・しょっ!」

 どがっ!
 すらりと伸びた右足が、獣人の鼻面を思い切り蹴り飛ばす!

「グべっ!?」

 地響きたてて、獣人が仰向けに倒れるのと同時に。
 エレナも、左ひざと右つま先で華麗に着地を決める。豊かな胸が、ぷるんっ、と上下に弾んだ。

「そ、そんな。リザードキメラまでやられるなんて・・・・・・
 ――はっ、そういえば」

 呟くビアンカの頬に、一筋の汗が流れる。

「ビキニ鎧を着た、露出狂の女剣士と。戦闘のたび、服を破るエロ魔道士の、最強かつ最低なパーティがいる、と噂に聞いたけど、まさか・・・・・・?」

「だーれが露出狂の女剣士だって?」

 不意に耳元で囁かれ、ビアンカの身体が、ぎくっ、と震える。
 おそるおそる、隣に目をやれば――腕を組み、唇をへの字に結んだエレナの姿!

「――ヤ、ヤバッ!?」

 わたわた逃げ出すビアンカとメルザ。その脳天に、

「好きでこんなもの着てるわけじゃなーいっ!」

 ごち、ごちんっ!

 エレナの振り下ろした剣の柄が、続けざまにヒットして、

『ふにゃ~』

 バタバタンっ!

 主従仲良く、折り重なって倒れこむ。
 今までの喧騒が嘘のように、森に静寂が落ち――そこに。

 パチパチパチパチ・・・・・・

 鳴り響いたのは、俺の拍手だった。

「やあ。さすが『旋風のエレナ』ですな。相変わらず見事な腕前・・・・・・」

 爽やかな笑み浮かべ、言い終わるより早く。

 ばきっ!

「おごっ!?」

 エレナの繰り出した飛び蹴りが、俺のアゴをまともにとらえた!
 四回ほど転がる俺に、エレナは、びしっ! と指を突きつけ、

「なんであんたの魔法はいつも、女子の服まで破くのよっ!」

「いてて・・・・・・しょうがないだろ。俺のせいじゃなくて、呪いの副作用なんだから」

「呪文を使うたび、女の服だけ破くなんて、馬鹿げた呪いがありますかっ」

「あるかもなにも。 実際に俺が受けたんだからしょうがない」

「威張るなっ!」

 ぎゅむっ!

 エレナの靴底が、俺の頭を踏みつける。

「そ、そもそもっ。フード着たまま戦って、ピンチになったエレナも悪いぞ」

 なんとか声を上げる俺に、

「――し、仕方ないでしょ。このビキニ鎧、呪いがかかってて脱げないんだから」

 ややふてくされた声で言ったあと、エレナは、ずいっ、と俺に顔を近づけて、

「だいたい。こんな恥ずかしい鎧を着たのは、全部あんたのせいでしょーがっ!」

「うっ・・・・・・。そ、そーでした・・・・・・」

 仕方なく俺は、反論の言葉を引っ込める。

「――ということで。あんたのローブ、貸してもらうわよ」

 返事も待たず、エレナは、俺のローブを剥ぎとると、ビキニ鎧の上に羽織る。

 俺は肩をすくめて首を振り、

「――やれやれ。密猟者を退治したと思ったら、追いはぎにあうとは・・・・・・いてっ」

「バカ言ってないで、帰るわよ。あとで警備所の兵士に運んでもらうから、ビアンカと犬耳キメラ、ちゃんと縛っておいてね」

 言い捨てると、ビキニ鎧姿の追いはぎは、スタスタと歩きはじめたのだった。
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