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「そんなに気になる?」
サトルさんから声をかけられ、おれは、はっと我に返った。
食い入るように見つめていたサイドミラーから、もぎ離すように視線を外す。
麟太郎の姿なんてとっくに見えなくなっていたのに、おれは未練がましくなにをしてるんだろう。
「そりゃ気になるよね。あんなに後味の悪い別れ方したら」
と、サトルさん。
おれは、ハンドルを握るサトルさんに向かって頭を下げた。
「すみません、あいつが失礼なことばかりいって」
「大丈夫だよ。僕のほうこそ、おとなげないことしたって反省してる。売られたケンカは買わない主義なんだけど、いつのまにかムキになってた。まだまだ人間ができてないってことなんだろうな」
サトルさんは苦笑しながらそういうと、ちらっとおれを見てから、おだやかに続けた。
「だいぶつかれてるみたいだね。顔色もあんまりよくないし。食欲はありそう?」
「はい…たぶん」
「ランチの店、一応予約してあるんだけど、そんな気分じゃないか」
「…すみません」
「大丈夫。謝らなくていいよ」
目の前の信号が赤になり、サトルさんは、やわらかくブレーキを踏んで車を止める。それからいった。
「よかったら、家にくる?簡単なものしか出せないけど、そのぶん気を張る必要もないから」
「…サトルさんが手料理をふるまってくれるってことですか?」
「もちろん。実をいうと料理は得意なんだ。めんどうな仕事が増えるといけないから、オフィシャルには内緒にしてるんだけどね」
いたずらっぽく笑うサトルさんに、おれはなんの躊躇もなくうなずいていた。
サトルさんから声をかけられ、おれは、はっと我に返った。
食い入るように見つめていたサイドミラーから、もぎ離すように視線を外す。
麟太郎の姿なんてとっくに見えなくなっていたのに、おれは未練がましくなにをしてるんだろう。
「そりゃ気になるよね。あんなに後味の悪い別れ方したら」
と、サトルさん。
おれは、ハンドルを握るサトルさんに向かって頭を下げた。
「すみません、あいつが失礼なことばかりいって」
「大丈夫だよ。僕のほうこそ、おとなげないことしたって反省してる。売られたケンカは買わない主義なんだけど、いつのまにかムキになってた。まだまだ人間ができてないってことなんだろうな」
サトルさんは苦笑しながらそういうと、ちらっとおれを見てから、おだやかに続けた。
「だいぶつかれてるみたいだね。顔色もあんまりよくないし。食欲はありそう?」
「はい…たぶん」
「ランチの店、一応予約してあるんだけど、そんな気分じゃないか」
「…すみません」
「大丈夫。謝らなくていいよ」
目の前の信号が赤になり、サトルさんは、やわらかくブレーキを踏んで車を止める。それからいった。
「よかったら、家にくる?簡単なものしか出せないけど、そのぶん気を張る必要もないから」
「…サトルさんが手料理をふるまってくれるってことですか?」
「もちろん。実をいうと料理は得意なんだ。めんどうな仕事が増えるといけないから、オフィシャルには内緒にしてるんだけどね」
いたずらっぽく笑うサトルさんに、おれはなんの躊躇もなくうなずいていた。
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