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6章 ライゼン・獣人連合編

289話 神域にて

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 ※注 今回チョットふざけ過ぎました、申し訳ありません。


 神域──それは神の地、いと尊きかたの御座おわす世界。
 そこに決まった形はなく、ある時は宇宙空間に透明の床が遥か彼方まで敷かれた幻想の世界であったり、またある時は純白の閉鎖空間。どこかのアニメで見たような大昔に建てられた神殿だった事もある。
 だから、目の前の光景がどのようなものであってもおかしいという事は無い。
 もしかしたら、現世では戦の最中だという事実から目を背けたいが為、安らぎを求めた俺の深層心理が影響したという可能性だって否定は出来ない。

「あ゛~~~~~」
「zzzzz……」
「・・・・・・・」

 ──んな訳あるか!

 立ったままの俺は、畳敷たたみじきの八畳間で、中心に置かれたコタツに下半身を突っ込んだいつもの三人(?)を見下ろしながら心の中で叫ぶ。

「……で、どういう状況だよ?」
「は~極楽極楽、コタツ文化は最高だね」

 オイ最高神。くつろぐだけならまだしも、言うに事欠いて極楽とか、いつからテメエは仏教に宗旨替えした?

「zzzzz……」

 うん、だからティアよ。神様にも睡眠が必要なのだと、今日俺は初めて知ったぞ?

「状況も何もシン殿、冬にコタツに入る事のどこに、違和感があるというのです?」

 そして毎回アンタだよな、ジュリエッタ。

「……で、そこのだらけた親娘はともかく、従者のアンタは何してるんだよ?」
「見て分かりませんか?」

 分かりすぎるから聞いてるんだよ!
 なんでこの異世界に転生して一九年にもなろうとする俺の前で! そこの神様どもがコタツでくつろぎ、おまけに従者はポテチをつまみながら熱心に読書してんだよ!? しかも、B5判の薄いヤツ!!
 ……そう大声で突っ込んでやりたかったが、その行為がどれほど無意味なものであるかも俺はよく知っている。
 高さ五〇センチほどに積み上げられたバベルの塔にうんざりしながら俺は、読み終わったのか、畳の上に散らばっている本を一冊手にとり、中を見ようと表紙に目を向け──

 バシンッ!!

 畳に叩きつけた。

「何をするのですシン殿!? このような貴重な文化財に対して!」
「何が文化財だ、この腐れ従者が!! どんだけニッチな所を攻めてんだゴラァ!!」

 俺は、今しがた叩きつけた『少年スィンと厚い胸板 ~踏み外した階段、もう戻れない~』という禍々まがまがしいタイトルの本を指差し、絶叫に近い大声で叫ぶ。
 別にこの貴腐人・・・がどんな趣味嗜好の持ち主だろうと構いはしない……しないが、問題は表紙の絵柄だ。
 そこに描かれているのは、おそらくスィンと思われる黒髪の、愁いを帯びた瞳が印象的な少年、そしてそれを力強く抱き寄せる上半身裸の──蜥蜴人。
 どう考えても実在の人物・団体がモデルとしか思えんわ!!

「なんだこのピンポイントな表紙は!? 名前といい絵柄といい、俺とルフトじゃねえか! ついにテメエら、作成そっち側に回りやがったか!!」

 ヤヴァイ! 腐界指数が! 神域の汚染がとどまるところを知らない。

「シン殿……まさかとは思いますが、この絵の美少年が自分だとでもおっしゃるのですか? それはいささか自意識が天翔あまかけるがごとき勢いかと」

 んなこと言ってんじゃねえよ!
 そういう時、話のモデルに身近なヤツを使わないのは最低限のマナーだって言ってんだよ。
 ──だというのに

「ご安心下さい。たとえ見た目がどうあろうとも話しの内容は……え~と確か──」



   少年スィンと厚い胸板 ~踏み外した階段、もう戻れない~

 不慮の事故で両親を失った薄幸の美少年スィンは、父親から教わった薬の知識を使い、薬師として旅を続ける。
 ある時、旅の途中で意気投合した蜥蜴人のリュートは、魔物の牙からスィンを護った際、深手を負ってしまいます。
 キズは薬で治ったものの、いつもなら魔物などに後れを取るような事のないリュート。
 そんなスィンの疑問に、

「蜥蜴人は冬は動きが鈍ってな……まあ、こんな時もあるさ」

 そう言って笑うリュートを見て、スィンは何とかできないかと頭を巡らせ、遂に冬でも蜥蜴人が元気になる薬を作り上げました。
 さっそくリュートにそれを飲ませると、

「おお、本当だ! 外の寒さなど気にならない、身体の芯から火照って……あ……」
「リュート、どうしたの?」
「い、いや、チョット……身体が、熱く……そう、熱く、うずいて……」

 なんという事でしょう。
 スィンの作った薬は、確かに、冬の寒さを感じさせないほど身体を熱く燃え上がらせてくれました。
 しかし同時に、その肉体の内側から溢れ出るたかぶりは、どうしようもない程に蜥蜴人リュートの身体を焦がし、理性を吹き飛ばしてしまったのです!
 リュートの大柄で鍛えられた肉体がスィンの身体を易々やすやすと組み敷くと、二人の肌が触れ合う事を邪魔する無粋な布切れを剥ぎ取ります。

「リュート!? ダメだ、やめ──」
「スィン……俺は! 俺はぁっ──!!」



「──そして二人は階段を転げ落ちるように、快楽と言う名の底なし沼へ……」
「止めろ! そして臨場感たっぷりに朗読するんじゃねえ!!」

 頼むからやめろ。聞いてるこっちが居たたまれねえんだよ!

「とまあ、このように全くのフィクションで……」
「ウソつけ! 下でのやり取りを覗いて、上手い事ネタに織り込んでるじゃねえか」
「なんですって!? シン殿……まさか?」
「そっちじゃなくて薬の部分だよ! ……ったく、とんでもねえモン作りやがって、どんな腐れた脳みそしてやがる」

 ──イヤ失言。答えるな、マジで。こっちの脳まで腐るから。
 ……それにしても

「ところで、さっきまで聞こえていた戯言と寝息が聞こえないな?」
「──!! スーッ、スーッ……」

 いやいやいや。
 ティアさんよ、息遣いきづかいがさっきと明らかに違うから。
 そしてそうか、最後の砦も陥落したのか……いや、俺は信じてる! ティアはまだコッチ(?)に戻ってこれると!

「ムニャムニャ……シン、ボクは寝てるよ」

 ……そうだな、お前は相も変わらず色々とヒドイな。突っ込みを入れるのもいとわしいよ。
 ………………………………。
 わかってる。コイツ・・・が全ての元凶だ。
 なにが文化だ。こんな、人を堕落させるだけのものが存在するのがいけない。
 コイツ等の目を覚まし、少しでもまともに戻してやれねば!
 強い決意を固めた俺は──

 ガシッ!

「ムニャム──!! し、シン、一体何を!?」
「こんな物があるからあああっ!!」

 ダメ人間製造機コタツを両手で掴んだ俺は、止めるエルダーの声を無視して、思い切り放り投げた。
 遥か上方へ飛んで行ったそれ・・は、ある一定の高さに到達すると、まるで始めから無かったかのように存在が掻き消える。どうやらティアかエルダー、アレを作り出したやつの干渉域の外まで飛んだおかげで、存在そのものが無かった事になったのだろう。
 やった! 俺は神々を堕落の淵から呼び戻すことができたんだ!

「フッ、おまえ等をダメにする悪魔の発明はこれで消え去った。観念して──!?」
「シン殿、コタツはお嫌いでしたか?」
「やっぱり、冬はコタツとコレ・・だよね~」
「スーッ! スーッ!」

 ガクンッ──!

 膝から崩れ落ちるようにその場に突っ伏した俺が見たものは、剥ぎ取ったコタツの下から現れた──掘り炬燵ごたつの様な空間に張られたお湯と、そこに差し込まれた足、足、足……。
 確かに温泉とコタツが冬の定番なのは間違い無い……けどよ、向こうの世界には、それを一つにして楽しむなんてエクストリームなリラクゼーションは存在しねえよ!

「つまり、僕らがパイオニアという訳だね♪」
「あ、シン殿。こちらは先程の続編で『少年スィンと新しい世界 ~硬い背中に顔を埋めて~』ですが、読み聞かせをしましょうか?」
「いらんわ! そして謝れ! 下界で一生懸命戦ってるみんなに!!」

 俺の絶叫は誰の心に響く事も無く、果て無き空間の彼方へ吸い込まれていった。

 ──泣きたい。
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