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善と悪と運命
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まだ幼さを残す表情が苦痛に歪み、顔に多数の傷がある彼女…エイカが木に手をつき息を切らしながら少しずつ歩いていた。
遠くからは怒鳴り声、足音が迫ってきていた。
「逃げなきゃいけないの、に…」
その言葉とは裏腹に、視界が歪み次第に暗くなっていった。そして意識を失った。
意識を失ったエイカに一つの影が重なった。影が徐々になくなり光が腕を照らすと左の手首に黄色のイナズマの紋章が描かれていた。そして顔も照らされ、男がエイカの右足にある炎の紋章を見つめているが見えた。
「炎の一族…」
男のつぶやいた声に意識を失っていたはずのエイカの眉が少し動いた。風が葉を揺らし、その音でエイカが目を開けた。
「…っ、…!!」
目の前にいる男に気づき、エイカは急いで離れようとしたが体が思うように動かず立ち上がれなかった。
(こんな近くのやつに気づかないなんて…くそっ!!)
エイカの最後の抵抗で男を睨み上げると、男の表情が少し悲しげに歪んだ。
「あなたの瞳は冷たいのですね…」
そう呟いた男はエイカに手を伸ばしたが、その手をエイカは思いっきり振り払った。
「触、るな…!私に触るな!!!」
叫び声に男は怯えることもなく、もう1度手を伸ばしてきた。そのことに恐怖を感じ、エイカは腰に下げた剣を抜き男に向けた。
「…なぜ逃げない?切られると思わないのか」
「逃げる必要がなかったので…」
「なんだと?」
男の言葉でエイカは剣を握る手に力を込めるが、男はピクリとも動かなかった。
「あなたの瞳は恐ろしく冷たい…。ですが、その奥には光が差している。善の光が…」
「善の光?意味がわからない。私のこの手が見えないのか」
剣を握る手とは反対の手をエイカは男に見せた。その手は血がついており、禍々しい何かを感じた。
「この手は既に汚れている。それなのに善の光があるとでも思ってるのか?」
「はい、あります」
言い切る男が血がついた手を自分の手で包み優しく握った。
「っ、なにやって…!」
「あなたの手は汚れてなんかいません。だってあなたの手はこんなにも温かいのですから」
優しい微笑みを浮かべる男の手を振り払いエイカはまた剣を向けた。
「お前…なんなんだ…!」
「俺の右目は普通の目じゃない。完璧な判断(パーフェクトジャッジメント)の能力を持ってるんです」
「完璧な判断(パーフェクトジャッジメント)だと?ふざけるな、善と悪を見抜くことなどできるはずがない」
「できるのです。現に俺はいま俺は、あなたの善の心を見ているのですから」
男は剣に手を伸ばし触れようとした瞬間、エイカが先に動き男の腹を蹴り飛ばし離れた木に背をぶつけた。エイカはひるんだ男の目の前に片足に力を入れ一歩で近づき、剣を向けた。しかし、男は避けることなどしなかった。
ー なんだこいつは…。自分の命をなんとも思ってないのか?…いや、違うこいつは…
エイカは右足を地面につけ、勢いを止めると男の後ろの木に剣を刺し顔を近づけた。
「最後にお前に問う、私に攻撃をしなかった理由はなんだ」
「あなたを傷つけたくはなかった。それが一番の理由です」
「…」
エイカは木から剣を抜くと男から離れた。男は立ち上がるとエイカの手をそっと握った。言葉を発するわけでもなく笑顔を向ける男にエイカは顔を背けた。
「お前…名は?」
「ケイです。あなたは?」
「…エイカだ」
そう答えるとエイカは男に背を向け歩き去ろうとした。が、それをケイが手首をつかみ引き止めた。
「待ってください!」
「…なんだ」
「その傷でどこに…」
エイカは掴まれた手首を見て、自分の手についた血がケイの手につくのを見て、勢いよく手を振り払った。
「私に構うな」
「っ、」
ケイはエイカの言葉で一歩後ろへ下がってしまったが、怯まずエイカの手をつかんだ。
「あなたを放っておくことはできません!」
「なに言って…っ、…」
エイカは振り返ろうとした瞬間に、目の前が真っ暗になり意識を失った。エイカが地面にあたる前にケイが受け止めた。
「放っておくことなんてできないんですよ…」
ケイはエイカを抱き上げるとしっかりと抱きしめ歩き出した。この出会いは偶然か必然か、はたまた善か悪か。そんなことはまだ2人もわかってはいなかった。
遠くからは怒鳴り声、足音が迫ってきていた。
「逃げなきゃいけないの、に…」
その言葉とは裏腹に、視界が歪み次第に暗くなっていった。そして意識を失った。
意識を失ったエイカに一つの影が重なった。影が徐々になくなり光が腕を照らすと左の手首に黄色のイナズマの紋章が描かれていた。そして顔も照らされ、男がエイカの右足にある炎の紋章を見つめているが見えた。
「炎の一族…」
男のつぶやいた声に意識を失っていたはずのエイカの眉が少し動いた。風が葉を揺らし、その音でエイカが目を開けた。
「…っ、…!!」
目の前にいる男に気づき、エイカは急いで離れようとしたが体が思うように動かず立ち上がれなかった。
(こんな近くのやつに気づかないなんて…くそっ!!)
エイカの最後の抵抗で男を睨み上げると、男の表情が少し悲しげに歪んだ。
「あなたの瞳は冷たいのですね…」
そう呟いた男はエイカに手を伸ばしたが、その手をエイカは思いっきり振り払った。
「触、るな…!私に触るな!!!」
叫び声に男は怯えることもなく、もう1度手を伸ばしてきた。そのことに恐怖を感じ、エイカは腰に下げた剣を抜き男に向けた。
「…なぜ逃げない?切られると思わないのか」
「逃げる必要がなかったので…」
「なんだと?」
男の言葉でエイカは剣を握る手に力を込めるが、男はピクリとも動かなかった。
「あなたの瞳は恐ろしく冷たい…。ですが、その奥には光が差している。善の光が…」
「善の光?意味がわからない。私のこの手が見えないのか」
剣を握る手とは反対の手をエイカは男に見せた。その手は血がついており、禍々しい何かを感じた。
「この手は既に汚れている。それなのに善の光があるとでも思ってるのか?」
「はい、あります」
言い切る男が血がついた手を自分の手で包み優しく握った。
「っ、なにやって…!」
「あなたの手は汚れてなんかいません。だってあなたの手はこんなにも温かいのですから」
優しい微笑みを浮かべる男の手を振り払いエイカはまた剣を向けた。
「お前…なんなんだ…!」
「俺の右目は普通の目じゃない。完璧な判断(パーフェクトジャッジメント)の能力を持ってるんです」
「完璧な判断(パーフェクトジャッジメント)だと?ふざけるな、善と悪を見抜くことなどできるはずがない」
「できるのです。現に俺はいま俺は、あなたの善の心を見ているのですから」
男は剣に手を伸ばし触れようとした瞬間、エイカが先に動き男の腹を蹴り飛ばし離れた木に背をぶつけた。エイカはひるんだ男の目の前に片足に力を入れ一歩で近づき、剣を向けた。しかし、男は避けることなどしなかった。
ー なんだこいつは…。自分の命をなんとも思ってないのか?…いや、違うこいつは…
エイカは右足を地面につけ、勢いを止めると男の後ろの木に剣を刺し顔を近づけた。
「最後にお前に問う、私に攻撃をしなかった理由はなんだ」
「あなたを傷つけたくはなかった。それが一番の理由です」
「…」
エイカは木から剣を抜くと男から離れた。男は立ち上がるとエイカの手をそっと握った。言葉を発するわけでもなく笑顔を向ける男にエイカは顔を背けた。
「お前…名は?」
「ケイです。あなたは?」
「…エイカだ」
そう答えるとエイカは男に背を向け歩き去ろうとした。が、それをケイが手首をつかみ引き止めた。
「待ってください!」
「…なんだ」
「その傷でどこに…」
エイカは掴まれた手首を見て、自分の手についた血がケイの手につくのを見て、勢いよく手を振り払った。
「私に構うな」
「っ、」
ケイはエイカの言葉で一歩後ろへ下がってしまったが、怯まずエイカの手をつかんだ。
「あなたを放っておくことはできません!」
「なに言って…っ、…」
エイカは振り返ろうとした瞬間に、目の前が真っ暗になり意識を失った。エイカが地面にあたる前にケイが受け止めた。
「放っておくことなんてできないんですよ…」
ケイはエイカを抱き上げるとしっかりと抱きしめ歩き出した。この出会いは偶然か必然か、はたまた善か悪か。そんなことはまだ2人もわかってはいなかった。
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