上 下
92 / 105
第三章 緑と黒――そして集まる五人

第92話 扉の先で待つ者

しおりを挟む
 ギウス四天王を倒した後、千紘たちは部屋の奥に階段を見つけた。
 それをまた五人揃って上っていく。

 そろそろ最上階に着くかと思った頃、広い廊下に出た。

「あっちに何かすごい大きな扉があるけど」

 ノアがそう言って少し先を指差すと、全員がそちらに顔を向ける。

 視線の先にあったのは、ひときわ大きい両開きの扉だ。

 それは木製であることには変わりがないのだが、これまでのものとはまるで違って、装飾がとにかく豪華である。
 センス云々うんぬんは置いておくとして、その豪華さは明らかに他とは異なっていた。

「んー、この先は絶対怪しいよな。何か『ようこそ』って言われてるような気がする……」

 大きな扉の前に立った秋斗が、両手を腰に当てながら唸る。
 秋斗だけでなく、ここにいる誰もがきっと同じことを思っているだろう。

「むしろ、ここしか怪しいところはないんじゃないか?」

 皆の考えを代弁した千紘は腕を組み、周囲に視線を走らせた。

 やはり、近くに怪しいところは他に見当たらない。ただ目の前の扉だけが異質なのだ。
 どう考えても「ここに何かがありますよ」と言わんばかりの怪しい扉だが、目的地――黒幕の居場所はきっとこの先だろうと目星をつけ、千紘たちは一も二もなくその扉を開けることにしたのである。


  ※※※


 不用心なのか、それとも千紘たちを誘うためか、豪奢ごうしゃな扉に鍵はかかっていない。

 慎重に扉を開いた先に広がっていたのは、大広間だった。

「うわ、すごい広いな……」

 中に一歩踏み込んだ途端、瞠目どうもくした秋斗が小さく声を漏らす。

 地下にあった広間よりもずっと広いそこは、謁見えっけんの間とでも呼べばいいだろうか。
 この城はとうの昔に廃城になっているのだから、謁見の間としての機能もすでに失っているはずだが、一番奥の玉座らしき椅子には誰かが座しているようだった。

 千紘が懸命に目を凝らす。

「誰だ……?」

 そこで玉座にいる人物が立ち上がった。

「五人で現れたということは、グリーンの洗脳が解けたってことだね」

 静かに発せられた低い声に、千紘たちは息を呑んで、足を止める。

 冷徹な中にもわずかに優しさを含んでいるように錯覚させる声音は、千紘たち全員がよく知ったものだった。

「お前は……まさか、ギウスデス!」
「私のことを覚えていてくれたんだね、嬉しいよ」

 千紘が声を張り上げると、大きな体躯たいくに黒をまとったギウスデスはほんの一瞬だけではあるが、微笑んだように見えた。もちろん遠目にそう見えただけで、本当に笑ったのかは定かでない。

 ギウスデスは『宇宙化学組織ギウス』を作った張本人で、千紘たちスターレンジャーが倒さなければならないラスボスだ。

 四天王と同様に年齢は不明だが、見た目はだいたい三十歳前後、ノアよりも少し年上に見える。

 ちなみに、『ギウスデス』という名前は組織を作った時から名乗っていて、誰も本名は知らないという設定になっている。ドラマの中に本名は一切出てこないので、設定すらされていない可能性が高い。

 しかし、今はそんなことはどうでもいい。

「黒幕はやっぱりお前か」

 うめくようにそう口にした千紘は、入り口に突っ立ったままで、奥歯を噛み締める。

 ギウス四天王が具現化されていたのだから、ギウスデスも具現化されていて何らおかしくはない。
 それはわかっている。

 だが、できればあって欲しくなかったというのが千紘の本音だった。

 まだ遠くにいるギウスデスは、ノアの洗脳が解けたことにも動じる様子はなく、ただその場にたたずんでいるだけである。

「四天王と同じで、お前も具現化されてるんだろ?」

 秋斗が千紘の隣に並び、冷静な口調でギウスデスに問う。

 ギウスデスは無言で一つ大きく頷いてみせると、今度ははっきりと千紘たちにわかるように、不敵な笑みを浮かべたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...