上 下
25 / 105
第二章 新たなメンバーは黄

第25話 スターレンジャーと握手会

しおりを挟む
 正義のヒーローである『星空戦隊スターレンジャー』の仕事は、テレビの中で悪の組織から地球の平和を守ることだけではない。

 のちの未来をになう者――子供たちを笑顔にすることも重要な任務の一つなのだ。


  ※※※


 澄み切った青空がどこまでも広がっている。その下の空間は、子供たちの賑やかな声と笑顔で満ち溢れていた。

「わぁ! スターレンジャーがいるー!」
「かっこいいー!」

 子供たちの可愛らしい声が遊園地に響く。

 スターレンジャーのヒーローショーが終わった後の握手会である。

 戦隊ヒーローにショーは付き物ではあるが、ただそれだけでなく、握手会を兼ねている場合も多い。アイドルに限らず、ヒーローだって握手をするのだ。

 ヒーローショーや握手会などは、ファンサービスの一環であるとても大切なイベントで、ファンの大多数を占める子供たちとの交流を主な目的としている。

 実際には、チケットやグッズの売り上げなどの収入を狙った大人の事情の部分も大きいが、その辺りについては夢を壊してしまうことになるので、子供たちには絶対に秘密にしておかなければならない。

「ほんものだー!」
「ほんとうにスターレンジャーとあくしゅできるのー?」
「すごーい!」

 つい数時間前にテレビで見ていたヒーローが、今、自分の目の前にいるのである。子供たちが興奮を隠せないのも頷けるというものだ。

 その熱気はテレビ放映時から冷めきってはおらず、むしろより一層増していると言っても過言ではなかった。

 それに子供たちだけではない。連れ添っている母親の大半は、スターレンジャーの中身のイケメンに目を奪われていたりもするのである。

「よく来たな」

 スターレンジャーのリーダー、スターレッド役である相馬そうま千紘ちひろが、まだ幼い男の子と目線を合わせるようにしゃがみ込む。
 頭を優しく撫でながら、とても小さな手を握ると、男の子のこれまで緊張していた表情がぱっと華やいだ。そのまま、隣で手を繋いでいた母親にしがみつく。

「ママー、レッドにあたまなでてもらったー!」
「レッド大好きだもんね、よかったわね」

 その微笑ましい様子に、千紘も思わず顔を綻ばせた。

 普段、身近に幼い子供がいない千紘には、正直なところ子供の扱いというものがよくわからない。
 別に子供が苦手だとか嫌いというわけではない。ただどう接していいのか、距離感がいまいち掴めないだけなのだ。

 初めての握手会を前に、思い切って周りの人間に相談してみたところ、「とにかく笑顔でいればいい」と、とてもシンプルなアドバイスをもらった。

 それを聞いた時の千紘は、「本当にそんな簡単なことでいいのだろうか」などと疑問に思ったのだが、実際にやってみて納得した。

 笑顔で接しているだけで、相手の子供も同じように笑ってくれる。そしてこちらにもまた笑顔が伝染する。好循環というものが生まれるのだ。

(こうやって見てるとみんな笑顔で楽しそうだな)

 しゃがみ込んだままの千紘が目を細めていると、不意に頭上から少し上ずった声が降ってきた。

「あ、あの、私も握手して頂いてもいいでしょうか……?」

 先ほどの若い母親の声だ。

 反射的に千紘が顔を上げると、頬をほんのり赤く染めた母親と目が合う。

「もちろんいいですよ」

 何の躊躇ためらいもなく立ち上がり、快く頷いてみせると、母親はほっとしたような表情になった。断られるのではないかと思っていたのだろう。

 今回のヒーローショーの入場は有料だが、握手会も入場料に含まれている。子供だけでなく母親だって入場料を払っているのだ。千紘にとって断る理由はどこにもない。

(握手くらい、別に減るもんでもないからな)

 もし母親が入場料を払っておらず、握手をする権利がなかったとしても、千紘はそれくらいならこっそりしたって全然構わないと考えたのである。

 千紘がにっこりと笑みを浮かべ、右手を差し出すと、

「あ、ありがとうございます!」

 母親は即座に子供の手を離し、両手で力強く握り返してきた。男性顔負けの握力だ。

(これは結構痛いな……)

 がっしりと強く手を握られたままの千紘はそんなことを思いつつも、営業用の爽やかな笑顔を崩すことはしない。これも子供たちに笑顔を届けるヒーローとして大事なことである。

 そんな千紘の両隣ではスターブルーの深見ふかみ秋斗あきと、スターイエローの成海なるみりつが和やかな雰囲気で、それぞれ子供たちと触れ合っていた。

 こうしてスターレンジャー初のヒーローショーと握手会は、終始穏やかに過ぎていったのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...