10 / 19
第10話 束の間の休息
しおりを挟む
同日、夜。
「大学生って土曜日も講義あるんですね」
優海の隣を歩いていた柊也が、「大変そうだなぁ」と苦笑する。
柊也は高校生になったばかりでまだ進路は決めていないが、もし自分も大学に行ったらこんな感じになるのか、などと考えたのだ。
そんな柊也に向けて優海は、
「今日はたまたまなんです。いつもはもっと暇なんですよ」
両手を振りながらそう答え、可愛らしく目を細めた。
優海が言った通り、今日はいつもより忙しかったらしい。
大学の講義に、その後はアルバイト。優海が行く先々に、柊也は継と一緒について行った。傍から見ればストーカーのようだったかもしれない。
(一日、ただ優海さんを追っかけてただけだったからな。まあ何もない方がいいんだけど)
柊也は気づかれないよう、そっと優海の様子を窺う。
昼間の優海は時折不安そうな表情を見せたりもしたが、今はすぐ傍に継と柊也がついているからなのか、少しは落ち着いているようだ。
(今のとこは大丈夫そうだな、うん)
柊也は安心しながら一人頷き、次にはその顔を空へと向けた。
(けど、これからどうなるか……)
視線の先には、昨日妖魔が逃げた後と同じ、星の瞬く夜空が広がっている。
もちろん、妖魔に会わない方がいいに決まっている。このまま何も起きずに終わってくれるとありがたい、と柊也は思った。
だが、妖魔とは基本的に夜になってから活動するものなのだ。
昼間はそれほど気を張らずに警護ができていたが、日が暮れてしまうとそうもいかなくなってくる。
柊也はどことなく落ち着かない気持ちを静めようと、大きく深呼吸をした。
※※※
少しして。
「優海さん、体調の方はどう?」
柊也たちの数歩ほど後ろを歩いていた継が、優海に声を掛ける。
優海はすぐさま振り返ると、継に柔らかな笑みを向けた。
「そうですね、今日はいつもより調子が良い気がします」
「それならいいんだけど」
優海の言葉に、継も口元を緩める。
継は警護中に、優海の不調の原因はやはり昨日の妖魔のせいだと結論付け、柊也も同意していた。
今、優海が発した言葉によって、それは裏付けられている。
調子が良いということは、現在妖魔の影響を受けていないと考えられた。
(妖魔に憑かれると体調を崩したりすることがあるって教わってはいたけど、ホントだったんだな)
別に継の教えを信じていなかったわけではないが、柊也は実際に優海の状況を目の当たりにして、ようやく納得したのである。
事務所で優海の話を聞いた時に、継は何となくではあったが、妖魔が関係しているのは間違いないだろうと睨んだそうだ。
だが、柊也にはあえて言わなかった。
『これも勉強だから自分で気づけ』ということだったらしい。
先ほど、優海がアルバイトをしていた時だ。そのことで柊也は継から厳しい目を向けられた。
「何となく顔色が悪かったから、おかしいとは思った」
そう柊也が答えれば、継は途端にそれまでの硬かった表情を崩し、
「さすが僕の助手だね」
と心底嬉しそうに、今度は柊也の頭をぐりぐりと撫でまわした。
「別に助手じゃねーし、頭撫でんな!」
柊也は助手扱いと頭を撫でられるのを必死に拒否したが、それでも継が認めてくれたことには、ほんの少し心の中がくすぐったくなったのである。
「大学生って土曜日も講義あるんですね」
優海の隣を歩いていた柊也が、「大変そうだなぁ」と苦笑する。
柊也は高校生になったばかりでまだ進路は決めていないが、もし自分も大学に行ったらこんな感じになるのか、などと考えたのだ。
そんな柊也に向けて優海は、
「今日はたまたまなんです。いつもはもっと暇なんですよ」
両手を振りながらそう答え、可愛らしく目を細めた。
優海が言った通り、今日はいつもより忙しかったらしい。
大学の講義に、その後はアルバイト。優海が行く先々に、柊也は継と一緒について行った。傍から見ればストーカーのようだったかもしれない。
(一日、ただ優海さんを追っかけてただけだったからな。まあ何もない方がいいんだけど)
柊也は気づかれないよう、そっと優海の様子を窺う。
昼間の優海は時折不安そうな表情を見せたりもしたが、今はすぐ傍に継と柊也がついているからなのか、少しは落ち着いているようだ。
(今のとこは大丈夫そうだな、うん)
柊也は安心しながら一人頷き、次にはその顔を空へと向けた。
(けど、これからどうなるか……)
視線の先には、昨日妖魔が逃げた後と同じ、星の瞬く夜空が広がっている。
もちろん、妖魔に会わない方がいいに決まっている。このまま何も起きずに終わってくれるとありがたい、と柊也は思った。
だが、妖魔とは基本的に夜になってから活動するものなのだ。
昼間はそれほど気を張らずに警護ができていたが、日が暮れてしまうとそうもいかなくなってくる。
柊也はどことなく落ち着かない気持ちを静めようと、大きく深呼吸をした。
※※※
少しして。
「優海さん、体調の方はどう?」
柊也たちの数歩ほど後ろを歩いていた継が、優海に声を掛ける。
優海はすぐさま振り返ると、継に柔らかな笑みを向けた。
「そうですね、今日はいつもより調子が良い気がします」
「それならいいんだけど」
優海の言葉に、継も口元を緩める。
継は警護中に、優海の不調の原因はやはり昨日の妖魔のせいだと結論付け、柊也も同意していた。
今、優海が発した言葉によって、それは裏付けられている。
調子が良いということは、現在妖魔の影響を受けていないと考えられた。
(妖魔に憑かれると体調を崩したりすることがあるって教わってはいたけど、ホントだったんだな)
別に継の教えを信じていなかったわけではないが、柊也は実際に優海の状況を目の当たりにして、ようやく納得したのである。
事務所で優海の話を聞いた時に、継は何となくではあったが、妖魔が関係しているのは間違いないだろうと睨んだそうだ。
だが、柊也にはあえて言わなかった。
『これも勉強だから自分で気づけ』ということだったらしい。
先ほど、優海がアルバイトをしていた時だ。そのことで柊也は継から厳しい目を向けられた。
「何となく顔色が悪かったから、おかしいとは思った」
そう柊也が答えれば、継は途端にそれまでの硬かった表情を崩し、
「さすが僕の助手だね」
と心底嬉しそうに、今度は柊也の頭をぐりぐりと撫でまわした。
「別に助手じゃねーし、頭撫でんな!」
柊也は助手扱いと頭を撫でられるのを必死に拒否したが、それでも継が認めてくれたことには、ほんの少し心の中がくすぐったくなったのである。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
暁に散る前に
はじめアキラ
キャラ文芸
厳しい試験を突破して、帝とその妃たちに仕える女官の座を手にした没落貴族の娘、映。
女官になれば、帝に見初められて妃になり、女ながらに絶大な権力を手にすることができる。自らの家である宋家の汚名返上にも繋がるはず。映は映子という名を与えられ、後宮での生活に胸を躍らせていた。
ところがいざ始まってみれば、最も美しく最もワガママな第一妃、蓮花付きの女官に任命されてしまい、毎日その自由奔放すぎる振る舞いに振り回される日々。
絶対こんな人と仲良くなれっこない!と思っていた映子だったが、やがて彼女が思いがけない優しい一面に気づくようになり、舞の舞台をきっかけに少しずつ距離を縮めていくことになる。
やがて、第一妃とされていた蓮花の正体が実は男性であるという秘密を知ってしまい……。
女官と女装の妃。二人は禁断の恋に落ちていくことになる。
岩清水市お客様センターは、今日も奮闘しています
渡波みずき
キャラ文芸
若葉は、教職に就くことを目指していたが、正月に帰省した母方の祖父母宅で、岩清水市に勤める大叔父にからかわれ、売り言葉に買い言葉で、岩清水市の採用試験合格を約束する。
大学を卒業した若葉は、岩清水市役所に入庁。配属は、市民課お客様センター。何をする課かもわからない若葉を連れて、指導係の三峯は、市民の元へ向かうのだが。
第三回キャラ文芸大賞奨励賞(最終選考)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる