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第26話 モグラ(2)

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 気にするなと微笑むクローナに、アークスは胸が締め付けられた。
 先日のように、森の中で兵たちの鮮血飛び散って遺体が転がる光景が、クローナたちにとっての日常茶飯事。
 それをどうにかできるかもしれない希望として自分はこうして保護された。
 それなのに、なんの力にもなれないことを気にするなと言われても、アークスは気にせずにはいられなかった。

「では、行くぞ。連中が来る西南に部隊を重点配置! 魔導士部隊は即座に岩でも土壁でもなんでも早急に防壁を作るのじゃ!」

 一方で、トワイライトもオルガスもすぐに切り替えて護衛の全兵士に指示を出す。
 その指示に兵たちも言われたとおりに陣形を変えて慌ただしく動いていく。
 が……

「あれ?」
「……むっ?」
「ッ!? 地面が揺れ……」
「あっ、これは!」

 そのとき、地面が揺れた。まるで地の底から何かが近づいてくるかのように。
 
「え、な、なにこれ? え? ……来る! 地中から……その数、80体! これは地中作業用重機! ……って、なんだ?」

 何が何だかわからず、揺れに耐えきれずに尻もちついてしまうアークス。
 すると、トワイライトたちは目を大きく見開き……

「おのれ! こんなときに……全軍、その場で停止するのじゃ! 『モグラキカイ』じゃ!」
「え? モグ……」

 それはまたしてもアークスには聞いたことのない単語。
 その言葉が場に響き渡った瞬間。

「ギャアアアアアア!」
「い、ひいいい」
「いやああああ、げぶっ」

 地中から何かが飛び出した。 
 周囲から突然の悲鳴。
 そして、地中から飛び出した何かによって貫かれて大破する馬車。
 そこには……

「デリート」
「デリート」
「デリート」

 地中からキカイが現れた。
 ただし、アークスが先日見たキカイたちとは違う。
 その両手は筒の武器ではなく、まるで獣のように鋭い爪が備わっていた。

「き、キカイだー!」
「た、たすけ、助けてくれー!」
「ちっ、なんてことだ! おい、あそこ! 助けに……」
「待ってください、隊長! 下から、ぎゃあああ!?」

 西南から近づいてくるといわれたキカイに対して陣形を変えようとしていた連合軍兵士たちだが、キカイたちかまさかの地中から現れた。
 民も兵士も関係なく、場が一気に混乱してしまった。

「な、なにあれ……」
「モグラキカイです! まさかこんなときに……」
「モグラキカイ!?」
「はい、地中を移動するキカイです! 他にも空を飛ぶトリキカイ、川など水を移動するサカナキカイなどの目撃情報はありますが……普段滅多に見ないのです! 私も初めて見ました!」
「そ、そんな……」

 神出鬼没で現れるキカイたち。それは陸の上を移動しているだけではない。
 空からも、水の中からも、そして地面の下からも現れる。
 いつどこから現れるかも分からないキカイ。

「ちっ、ミスったのじゃ」
「まかさ今日に限って……小生も見るのは2回目ですが……姫、すぐに――――」

 そして、それは「今この真下」からもであった。

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