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第24話 独裁
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「さてさて。今後、側近にしようとしている者たちの顔見せじゃったな。それがウヌらか」
ベッドの上で寝そべりながら、歪んだ目と笑みを浮かべるフタナリーナ。
タックたちを一瞥して、重たい口を開いた。
「聞いたぞ? ウヌら港町では随分と派手に大立ち回りをしたとな……我らスケヴェルフに反逆する愚か者どもめが」
ニタニタと笑いながらも、相手を押しつぶすかのような威圧感が重く圧し掛かる感覚にタックたちは襲われた。
一瞬で手や背中に汗をかいていた。
そして同時に、オルガスたちもビクリと肩を震わせた。
「は、母上、なぜそのことを!? 昨日のことは……」
昨日のことは隊の中だけで緘口令を敷いているはずだった。
だからこそ、タックたちを自身の側近とするつもりだった。
だが、既にそのことを女帝に知られていることは予想外だったため、オルガスたちの頬に汗が流れた。
「帝国を内部から変える……じゃったか? 何やら、青臭いことをしようとしているようじゃな。のう? 野良犬共」
全て知っているぞ。その瞳と言葉がそう告げていた。
そして、自分たちが今のこの帝国に牙を剝こうとしていることも。
その瞬間、全員が緊張と共に、何が起こってもすぐに動けるようにと身構えた。
だが……
「ぐわはははは……まあ、いいのではないか?」
「「「「えっ……?」」」」
しかし、次の瞬間、フタナリーナが口にした意外な言葉に全員が呆気にとられた顔をした。
「あ、あの、は、母上……い、今なんと?」
「ん? なんだ、オルガス。別にいいのではないかと言っているのだ。帝国内部から儂に牙を剝こうとする犬どもを飼ってみるのもな」
聞き間違いではなかった。フタナリーナは、タックたちの目的を知りながらも、「別に構わない」と自分たちを受け入れようというのだ。
「は、母上、それは一体どういう……」
しかし、その真意がまるで分からない一同は困惑した表情を浮かべる。
すると、フタナリーナが語り始めた。
「強烈過ぎる戦乱の世で、儂は百年以上生きがいを感じながら覇道を進んできた。そして、ついに大陸を制覇した儂は、同時にその生きがいを失った。分かるか?」
途端に退屈そうに呟くフタナリーナの問いに、誰も答えられない。
フタナリーナが失ったのは……
「……好敵手が居なくなったのじゃ……故に、刺激がない」
それは、タックたちには到底理解できないものであった。
「そ、それじゃ、ただ、刺激が欲しいだけに私たちを飼おうとって言ってんの!? 女帝!」
すると、フタナリーナの発言に憤りを隠せないのか、ヴァギヌアが勇んで叫んだ。
「ふぇええ、ダメだよヴァギヌアちゃん、落ち着いて!」
「おい、貴様! 無礼なことをするなと言ったではないか!」
慌ててアマクリたちが止めようとするも、ヴァギヌアの瞳は怒りに満ちていた。
「ふざけんじゃないわよ! 私の……友達も……それを蹂躙したあんたの国に降ることがどれほどのヴァカ屈辱か……どれほどのヴァカ苦痛か……だけど、それでも今のこの大陸の現状を少しでも変えることが出来るならばと決意した私たちに対し……ましてや事情を承知してながら、そんな私たちに対する言葉が、退屈しのぎって言いたいの!?」
刺激が無くて退屈だと告げるフタナリーナの言葉に、自分たちが侮辱されたと思ったヴァギヌアが己の想いを曝け出してぶつける。
「ヴァギヌアさん……」
そのとき、タックはこれまでヴァギヌアを「明るいトレジャーハンター。処女。スケヴェルフに不満を持って反抗した」ぐらいにしか思っていなかったが、その奥深くにある重たい想い、ヴァギヌアにはヴァギヌアなりに帝国に反抗するだけの根っこがあるようだと理解した。
しかし、フタナリーナは不敵な笑みを浮かべた。
「そうじゃぁ、儂はそんな無礼な王じゃ。しかし、そんな無礼な奴がどうして誰にも殺されず、大陸の王になれたと思う?」
「なっ……」
「誰一人儂に勝てなかったからじゃ。クソの役にも立たぬ理想ばかり掲げる弱者共がな」
自分は勝った。お前たちは負けた。そう告げるフタナリーナの言葉に、ヴァギヌアは言葉を失った。
「そして儂が、貴様らが憤るほどの悪政を強いているのであれば、何故儂は死なぬ? 大規模な謀反で追い詰められぬ?」
「そ、それは……」
「簡単じゃぁ。結局どいつもこいつも、何だかんだで、儂の作る世を享受しているからじゃ。つまり、平和な世にとっての害悪は、むしろそれを壊そうというウヌらかのう?」
その暴論に、思わず「違う」と叫ぼうとするヴァギヌアだったが、言葉に詰まってそれ以上放つことが出来なかった。
それはヴァギヌアだけでなく、アマクリも、黙っていたタックも同じだった。
「のう、小僧? そう思わぬか?」
「っ、つう……」
「ほれ、小僧、もそっと近うよれ」
「ぇ……」
すると、フタナリーナがタックを手招き。
「お、お待ちくだされ、母上!」
「こ、この男は、わ、我のダーリンで……」
オルガスとエクスタが慌ててその間に入って止めようとするが……
「ぐわはははは、よいよい、娘のお気にのアレを奪い取ろうとは思わ……いや、娘と一緒に一人の男を犯すのも面白そうじゃ!」
「「母上!?」」
「おい、いいから来い、小僧」
有無も言わせずタックを呼び寄せるフタナリーナ。
今はとりあえず言われたとおりに動くしかないタックは、ベッドまで近づく。
すると、フタナリーナはタックの頭を撫でながら……
「ほぉ、めんこい顔だ……で、ワシのを小さいというだけの……男ッ気のなかった我が娘二人を夢中にさせたモノはどんなものかのう?」
怪しく邪悪に笑い、余計にタックを恐れさせた。
一方でタック自身は……
(な、なんなんだ、この人は……この、不気味で大きな何かに包み込まれて……争いたくない……でも……やっぱりプンプン検知される……銀河マリファナ……間違いなくこの人は取り入れてる! どうやって? 誰が? いいや……決まってる! そして、どうしてこれほどまで異常な世界が享受されているか……この人が強いだけじゃない! 裏で糸を引いているのは――――)
全力で拒否をしたい相手なのに、どうしても顔色を窺って争いを避けたいという、これまで感じたことのないプレッシャーにタックは襲われていた。
と同時に、銀河戦士としての自分の役目、この世界に今いる目的を思い出す。
(何としても確認しなきゃ……もしこの人の背後に――――)
だが、そのとき……
「……ほう、なるほどなるほど」
「え?」
「小僧……ふははは、そういうことか」
女帝は何かを見透かしたかのようにニヤニヤと笑った。
一体何が?
そう思ったとき……
「女帝様、お取込み中失礼いたします。例のネズミ共を連れて来ましたが……」
その時、甲冑に身を包んだエルフの兵士が王寝の間に現れ、片膝つきながらフタナリーナに報告した。
「ああ、構わぬ。まとめて歓談してやる」
今、自分たちと話をしているというのに、他者をこの場に連れてくるという行為。それもまた、失礼だと誰もが思う一方で、もはや口答えが出来ぬ状況であった。
そして、そんな中で、白の兵たちに連れられて、縄で両手を拘束されている五人の人間の女たちが現れた。
見た目は誰もがタックたちより二回りほど上の中年と言ったところで、各々が、街の一般人、教会のシスター、酒場の料理人、商人、といったバラバラの格好をしていた。
「母上……こやつらは……ね……ネズミ……ですか?」
「ああ。反乱を企ているどこかの馬鹿どもの隠密じゃ。帝都に潜入して情報をどこかに流しているのが、儂の網にかかった」
隠密。そう言われて、タックは諜報員のようなものかと理解した。
光輝く表舞台とは違い、闇に生き、影に生き、名を上げないことを第一として、裏の世界で生き、綺麗ごとでは通らぬこの世で、国家のためにとその手を汚し続ける者たち。
それだけに、連れてこられた者たちは皆、民間人の服装でありながらも、その眼光は鋭かった。
「さて……ネズミ共よ。ウヌらはどこの馬鹿どもにそそのかされた?」
ゆっくりとベッドから立ち上がり、捕虜の隠密たちの前まで歩み寄るフタナリーナ。
すると、シスターの礼服に身を包んだ女が、強い口調で返す。
「我らは何も語らぬ。どのような拷問をしようとも無駄。殺すならさっさと殺――――」
「つまらん」
それは、一瞬の出来事だった。
「「「「「ッ!!???」」」」」
シスターの女が言葉を全て言い終わる前に、フタナリーナはシスターの頭を掴んでそのまま投げた。
その先には、透明な窓ガラスがあり、そして……
「なっ、つ、お、あ……うわあああああああああああ!」
窓ガラスを突き破り、シスターの女は外へと放り出された。
ここは、山のように高く地上から離れた場所。
――グシャ
「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」」」」」
激しい衝撃と肉の潰れた音と、外から悲鳴が響き渡った。
ベッドの上で寝そべりながら、歪んだ目と笑みを浮かべるフタナリーナ。
タックたちを一瞥して、重たい口を開いた。
「聞いたぞ? ウヌら港町では随分と派手に大立ち回りをしたとな……我らスケヴェルフに反逆する愚か者どもめが」
ニタニタと笑いながらも、相手を押しつぶすかのような威圧感が重く圧し掛かる感覚にタックたちは襲われた。
一瞬で手や背中に汗をかいていた。
そして同時に、オルガスたちもビクリと肩を震わせた。
「は、母上、なぜそのことを!? 昨日のことは……」
昨日のことは隊の中だけで緘口令を敷いているはずだった。
だからこそ、タックたちを自身の側近とするつもりだった。
だが、既にそのことを女帝に知られていることは予想外だったため、オルガスたちの頬に汗が流れた。
「帝国を内部から変える……じゃったか? 何やら、青臭いことをしようとしているようじゃな。のう? 野良犬共」
全て知っているぞ。その瞳と言葉がそう告げていた。
そして、自分たちが今のこの帝国に牙を剝こうとしていることも。
その瞬間、全員が緊張と共に、何が起こってもすぐに動けるようにと身構えた。
だが……
「ぐわはははは……まあ、いいのではないか?」
「「「「えっ……?」」」」
しかし、次の瞬間、フタナリーナが口にした意外な言葉に全員が呆気にとられた顔をした。
「あ、あの、は、母上……い、今なんと?」
「ん? なんだ、オルガス。別にいいのではないかと言っているのだ。帝国内部から儂に牙を剝こうとする犬どもを飼ってみるのもな」
聞き間違いではなかった。フタナリーナは、タックたちの目的を知りながらも、「別に構わない」と自分たちを受け入れようというのだ。
「は、母上、それは一体どういう……」
しかし、その真意がまるで分からない一同は困惑した表情を浮かべる。
すると、フタナリーナが語り始めた。
「強烈過ぎる戦乱の世で、儂は百年以上生きがいを感じながら覇道を進んできた。そして、ついに大陸を制覇した儂は、同時にその生きがいを失った。分かるか?」
途端に退屈そうに呟くフタナリーナの問いに、誰も答えられない。
フタナリーナが失ったのは……
「……好敵手が居なくなったのじゃ……故に、刺激がない」
それは、タックたちには到底理解できないものであった。
「そ、それじゃ、ただ、刺激が欲しいだけに私たちを飼おうとって言ってんの!? 女帝!」
すると、フタナリーナの発言に憤りを隠せないのか、ヴァギヌアが勇んで叫んだ。
「ふぇええ、ダメだよヴァギヌアちゃん、落ち着いて!」
「おい、貴様! 無礼なことをするなと言ったではないか!」
慌ててアマクリたちが止めようとするも、ヴァギヌアの瞳は怒りに満ちていた。
「ふざけんじゃないわよ! 私の……友達も……それを蹂躙したあんたの国に降ることがどれほどのヴァカ屈辱か……どれほどのヴァカ苦痛か……だけど、それでも今のこの大陸の現状を少しでも変えることが出来るならばと決意した私たちに対し……ましてや事情を承知してながら、そんな私たちに対する言葉が、退屈しのぎって言いたいの!?」
刺激が無くて退屈だと告げるフタナリーナの言葉に、自分たちが侮辱されたと思ったヴァギヌアが己の想いを曝け出してぶつける。
「ヴァギヌアさん……」
そのとき、タックはこれまでヴァギヌアを「明るいトレジャーハンター。処女。スケヴェルフに不満を持って反抗した」ぐらいにしか思っていなかったが、その奥深くにある重たい想い、ヴァギヌアにはヴァギヌアなりに帝国に反抗するだけの根っこがあるようだと理解した。
しかし、フタナリーナは不敵な笑みを浮かべた。
「そうじゃぁ、儂はそんな無礼な王じゃ。しかし、そんな無礼な奴がどうして誰にも殺されず、大陸の王になれたと思う?」
「なっ……」
「誰一人儂に勝てなかったからじゃ。クソの役にも立たぬ理想ばかり掲げる弱者共がな」
自分は勝った。お前たちは負けた。そう告げるフタナリーナの言葉に、ヴァギヌアは言葉を失った。
「そして儂が、貴様らが憤るほどの悪政を強いているのであれば、何故儂は死なぬ? 大規模な謀反で追い詰められぬ?」
「そ、それは……」
「簡単じゃぁ。結局どいつもこいつも、何だかんだで、儂の作る世を享受しているからじゃ。つまり、平和な世にとっての害悪は、むしろそれを壊そうというウヌらかのう?」
その暴論に、思わず「違う」と叫ぼうとするヴァギヌアだったが、言葉に詰まってそれ以上放つことが出来なかった。
それはヴァギヌアだけでなく、アマクリも、黙っていたタックも同じだった。
「のう、小僧? そう思わぬか?」
「っ、つう……」
「ほれ、小僧、もそっと近うよれ」
「ぇ……」
すると、フタナリーナがタックを手招き。
「お、お待ちくだされ、母上!」
「こ、この男は、わ、我のダーリンで……」
オルガスとエクスタが慌ててその間に入って止めようとするが……
「ぐわはははは、よいよい、娘のお気にのアレを奪い取ろうとは思わ……いや、娘と一緒に一人の男を犯すのも面白そうじゃ!」
「「母上!?」」
「おい、いいから来い、小僧」
有無も言わせずタックを呼び寄せるフタナリーナ。
今はとりあえず言われたとおりに動くしかないタックは、ベッドまで近づく。
すると、フタナリーナはタックの頭を撫でながら……
「ほぉ、めんこい顔だ……で、ワシのを小さいというだけの……男ッ気のなかった我が娘二人を夢中にさせたモノはどんなものかのう?」
怪しく邪悪に笑い、余計にタックを恐れさせた。
一方でタック自身は……
(な、なんなんだ、この人は……この、不気味で大きな何かに包み込まれて……争いたくない……でも……やっぱりプンプン検知される……銀河マリファナ……間違いなくこの人は取り入れてる! どうやって? 誰が? いいや……決まってる! そして、どうしてこれほどまで異常な世界が享受されているか……この人が強いだけじゃない! 裏で糸を引いているのは――――)
全力で拒否をしたい相手なのに、どうしても顔色を窺って争いを避けたいという、これまで感じたことのないプレッシャーにタックは襲われていた。
と同時に、銀河戦士としての自分の役目、この世界に今いる目的を思い出す。
(何としても確認しなきゃ……もしこの人の背後に――――)
だが、そのとき……
「……ほう、なるほどなるほど」
「え?」
「小僧……ふははは、そういうことか」
女帝は何かを見透かしたかのようにニヤニヤと笑った。
一体何が?
そう思ったとき……
「女帝様、お取込み中失礼いたします。例のネズミ共を連れて来ましたが……」
その時、甲冑に身を包んだエルフの兵士が王寝の間に現れ、片膝つきながらフタナリーナに報告した。
「ああ、構わぬ。まとめて歓談してやる」
今、自分たちと話をしているというのに、他者をこの場に連れてくるという行為。それもまた、失礼だと誰もが思う一方で、もはや口答えが出来ぬ状況であった。
そして、そんな中で、白の兵たちに連れられて、縄で両手を拘束されている五人の人間の女たちが現れた。
見た目は誰もがタックたちより二回りほど上の中年と言ったところで、各々が、街の一般人、教会のシスター、酒場の料理人、商人、といったバラバラの格好をしていた。
「母上……こやつらは……ね……ネズミ……ですか?」
「ああ。反乱を企ているどこかの馬鹿どもの隠密じゃ。帝都に潜入して情報をどこかに流しているのが、儂の網にかかった」
隠密。そう言われて、タックは諜報員のようなものかと理解した。
光輝く表舞台とは違い、闇に生き、影に生き、名を上げないことを第一として、裏の世界で生き、綺麗ごとでは通らぬこの世で、国家のためにとその手を汚し続ける者たち。
それだけに、連れてこられた者たちは皆、民間人の服装でありながらも、その眼光は鋭かった。
「さて……ネズミ共よ。ウヌらはどこの馬鹿どもにそそのかされた?」
ゆっくりとベッドから立ち上がり、捕虜の隠密たちの前まで歩み寄るフタナリーナ。
すると、シスターの礼服に身を包んだ女が、強い口調で返す。
「我らは何も語らぬ。どのような拷問をしようとも無駄。殺すならさっさと殺――――」
「つまらん」
それは、一瞬の出来事だった。
「「「「「ッ!!???」」」」」
シスターの女が言葉を全て言い終わる前に、フタナリーナはシスターの頭を掴んでそのまま投げた。
その先には、透明な窓ガラスがあり、そして……
「なっ、つ、お、あ……うわあああああああああああ!」
窓ガラスを突き破り、シスターの女は外へと放り出された。
ここは、山のように高く地上から離れた場所。
――グシャ
「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」」」」」
激しい衝撃と肉の潰れた音と、外から悲鳴が響き渡った。
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