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第九章

第281話 昨日は奥様、今日は嫁

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 空間そのものが「?」で出来たかのような空気が流れたが、もう言葉の通りだ。

「あ、あの、それって、ヴェルト君、ど、どういうことなのかしら? ウラ姫を幸せにすることで、君が責任を取るとか、意味が分からないのだけれど」
「だ、か、だから、その、なんだ? あいつが一番幸せになれると思うことを俺がしてやるって言ってんだよ」
「だから、それが意味不明だって言っているのよ! つまり、どうすればウラ姫が幸せになるというの?」

 いや、俺も意味不明なこと言ってんのは分かってるけど、もう、なんつうか、それしか思いつかなかったんだから、仕方ねーだろうが。
 もう、マッキーとアルテア、更にキシンは笑いを超越しすぎて涙流しながら腹抱えて痙攣している。
 かなりジト目で軽蔑の眼差しのアルーシャが、カー君より前のめりになって俺に問いただしてきた。

「ヴェルト君……」
「おう」
「コスモスちゃんはあなたの何?」
「娘」
「エルジェラ皇女は?」
「マッマ」
「私は?」
「……セフ……な、かま?」
「……何か幻聴が聞こえたけど、今は置いておくわ。で、ウラ姫は……?」
「……家族……」

 すると、アルーシャはニッコリだけど怖い笑顔を見せて、もう一度俺に聞いてきた。

「聞き方を変えるわ。エルジェラ皇女はあなたにとって、法律上ではなににあたるのかしら?」
「……奥様」
「なるほど。つまり配偶者として捉えていいわけね」

 確認するように口に出して言うアルーシャ。エルジェラは「あらあら」と少し顔を赤らめて嬉しそう。

「じゃあ、私は? 友達とか仲間という回答は認めないから」
「……あ、い、じん?」
「なるほど。愛する人、つまり、本妻ね。まあ、まだ籍は入れていないから、妥協に妥協を重ねて、婚約者で構わないわ」

 その時、「アルーシャちゃん現実見るっしょ」と言ったマッキーが氷の弾丸で撃ちぬかれた。


「では、最後の問いかけよ。ウラ姫は……君の何になるの? 妹? それとも養子? さあ、どうなるのかしら?」


 汗がダラダラ流れるのがよく分かる。自信満々に言え? 無理だよ、そんなもん。
 でも、アルーシャの取調べよりも、カー君の言葉のほうが俺には重くのしかかっていた。
 メチャクチャでもちゃんと答えろと。
 つか、マッキーとアルテアとキシンは寝転がって爆笑しすぎ。もう、俺の回答を既に分かっているかのように、心待ちにしながら、しかし我慢できずに先きにもう笑っている始末。
 なぜ笑う。俺が他人なら、俺のような男はドン引きだぞ?


「ウラは…………たとえ記憶を失っても、ウラを一番に幸せに出来るのは俺だけで、ウラは俺の嫁になるのが一番幸せだから! だから、ウラを俺の嫁にすることにした! だから、俺はウラをとっ捕まえに行くことにした! 悪かったな、コラァ!」

「ひはははははははははははははははははは!」

「あーはっはっはっはっはっはっはっはっ!」

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」


 言い終わった瞬間に大爆笑。そして……

「こんの、ゲスヴェルくん!」

 アルーシャにぶん殴られた。


「どういう選択肢よ、それは! なに? 確かに君がエルファーシア王国の王になるなら、側室がとか色々考えもしたけど、この状況下でそれを言うの? 別に、エルジェラ皇女とウラ姫とフォルナ、そして私の誰か一人を選べとは言わないけど、何でそんな風に恋愛感情はあまりないけど奥さんにしたり、嫁を作ったりと出来るのよ!」

「ひははははははは、さり気に自分をエントリーしているあたりにアルーシャちゃんのパナイ可愛らしさがあるっしょ」

「黙っていなさい、マッキー君!」


 またマッキーがぶっ飛ばされた。
 完全にトバッチリだ……

「君はね、もう、悔しいけど言うわね。君は美奈のことが恋愛的な観点から好きだったのではないのかしら?」
「……それを今言うか?」
「なに、顔を赤くしているの! そんな顔、私たちに一度もしてくれたことないじゃない!」

 ひっぱたかれた。乾いた音が響いたが、もういくらでも罵ってくれと開き直った。

「なのに、君は、恋愛的な観点から言えばそれほどでもない人を奥さんにして子供を作って、ウラ姫をお嫁さんにして、私を―――――」
「うるせえ、知るか! もう、俺の人生なんだから、ガタガタ言うな!」
「なんてゲスヴェルくんなのよ! 世界征服目指すとはいえ、開き直りすぎよ! 思いつきでどれだけの行動をしているのよ!」
「あ~そうだね、ゲスだよゲスだよ、そうでゲスだよ。つか、ウラが俺を好きで好きでしょうがないから、仕方ねえだろうが!」
「しかも言うに事欠いて、女の子の所為にするとか、どれだけ最低なのよ! もーいや! なんで私はこんな人のこと好きなのよ!」

 キレるアルーシャ。笑いが止まらないマッキーたち。そして呆れる仲間たち。
 もはや言葉がないとばかりに苦笑している皆を代表して、カー君が軽く咳払い。

「ま、まあ、それなら仕方ない。ヴェルト君の嫁というのであれば、世界を征服する君の子孫を生む母体。このまま放っておくわけにはいかないゾウ」

 もう、無理やり理由を作ってそういうことにした。
 
「やれやれ。どのみち、ウラ姫がサミットに参加せんと、ワシらも困るからのう。それまではもう暫く同行しよう」
「いや~、このコイバナの行く末を見ないと損じゃん。あたしも行くね」

 ウラを捜索して連れ戻す。そのことにバルナンドは渋々、アルテアはノリで名乗りを上げた。

「ヒュー、ヴェルト。ミーは何曲結婚式ソングを作ればいい? 腕が鳴る」
「素敵です。良かったわね、コスモス。ウラさんも、あなたのマッマになってくれるのよ?」
「ウラちゃんが、ウラマッマに?」
「これは、そのうち小説にでもして売るっしょ。ゲスヴェルくんのラブコメで」
「やれやれ、ほんま世話のかかるあんさんや」
「ぐわはははははは、あの女にも、可愛い女の子を生ませるなら協力してやる」
「えっ、またどこか行くのか? ゴミ。めんどい」
「ふう~、困ったお兄ちゃんだ」

 それに従うように皆も頷き始め、こういう状況であるため、アルーシャも最後には「分かったわよ」と頷いた。

「でも、探すってどうするのかしら? ウラ姫の行き先を誰も知らないから、ラブ・アンド・ピースも混乱しているのでしょう?」
「確かに、心当たりがなければ仕方ないゾウ。ここは神族大陸も魔族大陸も、行くにはちょうどいい距離に位置しているからな」

 確かにそうだ。ウラの行きそうなところっていえば、真っ先に思い浮かぶのは、エルファーシア王国だ。先生の家に帰ってるのか?
 すると、その時だった。

「僕なら分かるよ、お兄ちゃん」

 それは以外にもラガイアからだった。

「ラガイア?」
「僕は魔力を感知できる。どうやら、ウラ姫は魔族大陸にいる……それほど遠くにいない……転移か何かの魔法でも使ったのかな?」

 おお、なんと便利な! そーいや、こいつは離れた場所から、自分の兄やウラの魔力を感知してたな。可愛くて素直で役に立つとか、このお利口さんめ!

「うおおおおおお、弟よーっ!」
「お、お兄ちゃん、は、はずかしいじゃないか……やめてくれ……悪い気はしないけど」

 でかしたと、俺はラガイアを抱きかかえて頭を撫でてやった。
 少しくすぐったそうにしながら照れるラガイアに、もっと撫でてやりたくなった。

「で、ラガイアボーイ。例のプリンセス・ウラは、魔族大陸のどこにいる?」
「魔族大陸か。ケッ、もう二年も行ってねえのか?」

 魔族大陸なら話は早い。
 なぜならここに、ラガイアだけでなく、元魔王が二人も居るからだ。
 つーか、ぶっちゃけこのメンツならどこの大陸でも問題ないんだけどな。
 だが、場所をと聞かれて、途端にラガイアは顔をしかめた。

「むっ……この位置……」

 何がある? そう思って皆の視線が集まる中、ラガイアは神妙な顔で口を動かした。

「死霊と屍人の王国……『ヤーミ魔王国』の海域だ」

 しりょう? 弟が俺の分からねえ単語を使うのは兄として少し複雑な気分ではあるが、そこにウラが居るなら行くだけだ……ん? なんで、キシンとチーちゃんが微妙な顔してんだ?

「それはまたよりにもよって……ミステリアスなところに」
「けっ、あの噂の幽霊国家か」

 幽霊国家? どういうことだ。

「それは本当でありますか!」

 その時、俺たちの話が耳に入ったのか、ロイヤルガードたちが血相を変えて俺たちに詰め寄ってきた。

「ウラ姫が、ヤーミ魔王国に……そう言えば、いつでも行けるようにと『あの魔王』にウラ姫様は転移の札を……そうか、それで……」
「おいおい、お前らだけで理解するなよ。七大魔王国家の一つなんだろうけど、それほどビビる国か?」

 ここにはチロタンも、かつて七大魔王最強候補のキシンも居るんだ。
 ビビる必要も……

「ヤーミ魔王国は元々情報規制がある国でありますが、今回のサミットにあたり、ウラ姫も出席を打診し、開国を申し出たのですが、ヤーミ魔王国は受け入れず……それどころか……」

 それどころか?


「ウラ姫にヤーミ魔王国に嫁げと。そうすれば考えてやるなどという無礼千万なことを申し出た国であります」


 ロイヤルガードたちは怒りで唇を噛み締めている。
 なるほど、そんなことが。しかし、ウラはなんでそんなところに? 
 まさか、やけになって結婚とかするわけじゃねえよな?
 それは困るぞ。俺はお前を嫁にするって決めたばかりなのに……

「また、ヤーミ魔王国も陰湿で……もしウラ姫が嫁に来れば、協力だけでなく、自分たちの力でウラ姫の望みも叶えてやろうなどと言って……」

 ウラの望み? なんだ?
 今のウラの一番の望みは何か? ヤーミ魔王国の全容がまるで分からない俺には、なかなかたどり着けない問題だった。
 

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