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第八章

第274話 中二病の瞳

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 正直、エルファーシア王国であいつの状況を少し聞いて、気になってはいたものの、すぐにどうこうすることはできなかった。
 全部予想とか想定とかそういう話であったし、あいつがどこで何をしているかは分からなかった。
 だが、さっきのコスモスの話で、状況が少し変わった。
 コスモスが出会った「オネーチャン」。そしてドラが探していた「ご主人様」。
 俺にはそれが同一人物ではないかという予感がしていた。
 そしてさらに、その人物は俺には心当たりがあった。

「ドラか。まさか、お前がドラの事まで知っているとはな」
「ああ。あいつが、今どこに居るかは知らないのか?」
「いや、そういえばもう随分と会っていないな。帝国側で管理しているとだけは聞いていて、タイラー将軍も奴は元気だと言っていたしな」

 ウラたちには、そもそもその話すら届いていないわけか。ドラが脱走したということを。

「なんだよ、お前ら仲間同士で会ってねえのか?」
「仲間同士?」
「ああ。ムサシとかクレランとか、ファルガとかさ」
「確かに、不思議だ。私たちは短い旅とはいえ、共に絆を深めていた。だが、二年前を境に、旅をする目的も特になくなり、バラバラになった。ファルガやクレランともずっと会っていない。ムサシとは帰郷したときぐらいだしな」

 また、それも随分とさみしい関係になっちまったもんだな。
 全員異なる種族とはいえ、せっかく出会ったメンツだろうに。
 それに、結構全員で色々と乗り越えてきたから、絆も深まっていると思っていたんだがな。
 だが…………

「どうしてだか、わからない。ただ、急に理由がなくなったんだ。私もそもそも、なんで旅をしていたのかも良く分からなくなってきていた。しかし、丁度、かつての故郷の仲間たちとも再会し、魔族と人間、亜人との友好の架け橋として人選されたりで、正直仕事に没頭してばかりだったからな」

 その話を聞いていて、少し切なくなった。
 自惚れてると言われても構わないが、恐らくウラたちの旅の目的が無くなった理由は、そこに俺が居なかったからだ。
 元々ファルガとウラの旅は、俺の勝手から始まり、二人はそれについて来ただけだったんだ。
 その俺の存在を忘れたことで、パーツがひとつ抜け落ちたような感覚のまま今の仕事に就き、こいつらは二年の時を過ごした。
 あの時はあの時で、俺たちにできないことはねえぐらいの無敵のチームだと思っていたが、こんな簡単にバラバラになるとは淋しいもんだ。

「まあ、タイラー将軍とは数日後に会うことになっているからな。その場でドラのことも聞いてみる」
「数日後? なんだ、国に帰るのか?」
「いや、数日後には『サミット』があるからな。正直、チロタンとラガイアの件を片付けておきたかったのも、それが理由だ」

 サミット? それって前世で聞いたことがあるな。

「サミット? 確かお偉いさんたちが集まる奴か?」
「ああ。ラブ・アンド・ピースの私とタイラー将軍とユーバメンシュが間に立ち、人類大陸からは、アークライン帝国の王、光の十勇者数名。魔族からは、ジーゴク魔王国魔王、マーカイ魔王国魔王。亜人大陸からは三カ国の王と四獅天亜人のエロスヴィッチが出席し、第一回の会議を開くことになっている。今後の種族間条約や、領土分配などをテーマにな」

 それはまた、こいつも随分と偉くなったもんだ。いや、元々お姫様か。
 そーいや、監獄の中で読んだ新聞にも書いてあった気がするな。
 つか、何が領土分配だよ。どいつもこいつも、どーせ腹の探り合いをするだけだろうが。
 まあ、それでも歴史的な快挙ではあるんだけどな。


「なんと。種族間でそのような会議をするようになるとはな。世界も変わったものだ」


 その時、騒いでいるキシンたちの輪の中には入らずに、スモーキーアイランドの住民たち同様に避難させられていた、アウリーガが俺とウラの会話に入ってきた。

「よっ、生きていたか」
「なんとかな。十年も体を動かしていないので、危うく巻き込まれて死ぬところだった」
「ワリーな。俺の娘が、あんたたちの寝床を壊しちまった」
「はは、まあ、面白いものを見せてもらった。久々に心が沸き立ったよ」

 どこかスッキリとした表情のアウリーガ。
 もう、生涯戦うことはないのかもしれないが、それでもその目は今すぐにでも死にたいと言っていた昨日までとは全然違う。
 危うく死ぬところだった? それはつまり、死ぬ気はもうないってことだろ?

「この者は?」
「元人類大連合軍に所属していた、アウリーガという。初めまして。まあ、こんなふうに和やかに魔族と話すのはあまりなかったから、少し驚いている。王族などは政治の関係で個人個人での交流はあったようだが、俺のような下っ端はそういうことはなかったからな」
「そうか……この島に居たということは色々あったということを察する。騒がせてすまなかったな。私は、ラブ・アンド・ピースという組織に所属する、ウラ・ヴェスパーダ」
「ヴェスパーダ? それはひょっとして、ヴェスパーダ魔王国の?」
「ああ、そうだ」

 互いに名を名乗る二人だが、ウラの名前を聞いて、アウリーガは少し驚いたような表情を見せた。
 まあ、さすがにそれぐらいは分かるだろうな。

「ヴェスパーダ魔王国の者が、どうして国ではなく組織に?」
「………ヴェスパーダは父の代で滅んだ………真勇者ロアに敗れてな」
「なんと、七大魔王国家が……ん? ロア……それはまさか、ロア王子? ……そうか、王子が……強くなられたのだな」

 アウリーガはそれ以上深くは聞こうとせず、小さく「そうか」と呟いただけだった。
 だが、すぐに顔を上げた。

「そういえば、ヴェルト君……ロア王子で思い出した。先ほどの戦いで、君の娘が紋章眼の持ち主のようだったが……」

 紋章眼。ああ、あの中二病体質のことか。

「みたいだな。何やら世界的にもとんでもない代物らしいけどな」
「そうだ……まさか、………」

 アウリーガは何やら難しい顔で黙り込んだ。
 だが、確かに無理もねえか。さっきのマッキーの話では、紋章眼は神族復活の鍵にもなる超重要な存在。
 その意味を、こいつは知っているんだろうな。
 だが、アウリーガが次に呟いた言葉は、想定以上のものだった。

「まさか、三つ目の紋章眼を、こんなところで見ることになるとはな……」

 三つ目? その言葉に俺が聞き返そうとしたとき、ようやく、ハシャイでいた俺の仲間たちも騒ぎを収めて俺たちの会話に入ってきた。

「アウリーガ殿。紋章眼を三つも見たことがあると? 信じられないゾウ」
「それはサプライズ。ミーも、真勇者ロアと、ヴェルトのドウダーだけだと思っていたからな」
「それは本当かしら? 兄さんとコスモスちゃん以外に、いったい誰が………」
「おっ、なになに? 噂のパナイ神眼の話し?」
「ワシも、紋章眼は名前だけしか聞いたことないからのう」

 会話に加わってきたのは、カー君、キシン、アルーシャ、マッキー、そしてバルナンド。
 ほかの連中はコスモスとラガイア囲んで雑談続行中だった。


「アルーシャ姫。あなたもロア王子もまだ幼かったが、実は十年前、あなた方と同年代に一人、紋章眼を持った、ある王国の幼い姫が居ました」

「……えっ! そ、そんな人が………」

「知らないのも無理はありません。何故ならその姫は、些細な両親との喧嘩が理由で七歳の頃に家出し、国を飛び出したのですから」

 
 お、おいおいおいおい、また随分とブッ飛んだ奴だな。七歳で家出して国から飛び出すとは。


「私も聖騎士様の右腕として仕えていたので、その姫が紋章眼を持っていたというのは偶然知りました。まあ、私はそのすぐ後に、その………心を壊して、気づいたらここに来ていたので、その後のことは分かりません。ただ、アルーシャ姫がそれを知らないということは、その姫はまだ隠しているか、それとも家出したまま世界から姿を消したのか……というところのようですね」

「え、ええ……紋章眼を持った姫なんて……ウラ姫は知っていた?」

「いや、私も初めて聞いたぞ。ちなみに、その姫……いやどこの国の王族だ? 人間? 魔族? それとも、亜人か?」
 

 そうだ。その姫が今も生きているのか、それとも俺たちの知っている奴なのかは分からないが、一体何者なのかというのは気になるところ。
 すると………


「姫の名は……『クロニア・ボルバルディエ』……遥か昔、地底世界の種族と結ばれた王の子孫……ボルバルディエ王国の姫君だ」


 あまりにもサラッと言われすぎて、俺たちは言葉を失った。
 だが、徐々にその言葉の意味を理解しだし、俺たちは種族を問わずに驚かざるを得なかった。
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