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第七章
第238話 寂しさ
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十代の二年は内容が濃くて長いが、世間や大人たちからすれば二年というのは短くてあっという間というのは聞いたことがある。
正直言って、たかが二年。しかしされど二年だ。
黄金の青春時代となるはずが二年の停滞を経て、たどり着いた我が故郷は、とても懐かしく感じた。
「ひゅ~、あれがエルファーシア王国。帝国ほどじゃないけど、何だかパナイのどかな場所にあって綺麗だね~」
「私も来るのは初めてだわ。こんな形で来るとは思わなかったけどね。そっか……ここが、朝倉君とフォルナが出会い、そして育った国なのね」
「ふふ、カントリーミュージックをBGMで流したくなるな」
「エルファーシア王国か。小生もここまで来るのは初めてだゾウ」
「なかなか落ちついとるやないか。ま、ワイには退屈かもしれんがな」
「………ここまで長かった……ゴミの癖に、私をここまで歩かせるとは……」
数日間かけて、長い長いトンネルを抜けた先に見えた、陽の光に照らされた王国。
変わってないっちゃ変わってないな。
ただ、草原や田畑に囲まれた王都まで続く道を歩くと、やはりどこか切ない気持ちにもなる。
もう、この麦畑に俺が生まれた場所はないんだ。そして、俺を知る者もだ。
七年前に失った親父とおふくろ。それから五年間は先生やウラ、そしてカミさんやハナビと一緒に暮らして、寂しさなんて感じさせてくれなかった。
だが、こうしてここで物思いにふけって歩くと、少しシンミリした気持ちにもなるわけだな。
「それにしても、加賀美くん。この格好……返って目立たないかしら?」
俺の存在は忘れられたとはいえ、ミルコやカー君、それに綾瀬といった世界でも顔の知れた有名人がいきなり現れても大騒ぎになる。
それを察した加賀美が用意した俺たちの変装スタイルなんだが……
「今のミーたちは、まるでマフィアだね」
「私なんて、就活生みたいよ?」
「うーむ、このネクタイというものは、首が絞まってたまらんゾウ」
「動きづらい」
「なんや、堅っ苦しいのう」
何でこんなもんを? つか、どうやって用意したんだよ。
今の俺たちは、全員黒いビジネススーツで男子はネクタイ着用で、女子はスカート着用。
そして極めつけは、この黒いサングラス。
ミルコの鬼の角や、カー君のように亜人丸出しだったり、綾瀬みたいに青い髪が目立ったりの奴には、ハットを被らせたり、ロングコートを羽織らせたり……
「いや、逆に目立つだろ!」
マフィアの行軍にしか見えねえ。
「なに言ってるの、朝倉くん。変装にはサングラスって相場が決まってるじゃん」
「いや、だから目立つだろうが! 普通、外套とかそういうもんを用意するだろうが!」
「ちっちっち、パナい甘いよ朝倉くん。俺がラブ・アンド・マニーに居た頃から、一部の社員にはスーツ着用を義務付けている。そう、今の時代、スーツ着てたら、あっラブ・アンド・ピースだ! ってな具合になるわけなのだよ! 多分」
「いや、テメエはずっと監獄に……綾瀬、実際にどうなんだ?」
「確かに……、スーツ着てるわね」
なんか、スゲー無理やりな理論に言いくるめられている俺たちだが、しかしこの人数で全員外套被ってゾロゾロしてても、怪しさ全開なのは間違いない。
どっちにしろ、これしかねえのか? と思ったとき、ふざけた口調の加賀美が急にマジメな顔になった。
「それにさ、墓参りにスーツは基本っしょ? まあ、十代の綾瀬ちゃんや朝倉君は制服でもよかったんだけどね」
「あっ…………」
「せっかく旧友に会うんだったら、まあ、あまりみっともない格好じゃなく、ちゃんとした俺たちらしい格好のほうが、礼儀っしょ?」
う~わ~、こいつ、ムカつく。こういう核心的で納得せざるを得ないことをサラッと言いやがるから困る。
そうなんだよな。俺としては二年ぶり。こいつらとしては、前世ぶり。
それなりの格好という加賀美の言葉は何も間違っちゃいなかった。
「なあ、その墓参りってワイも行かなあかんのか? 全然、知らんやつやし」
「小生も席を外そうか?」
「めんどい」
まっ、カー君とユズリハに関して言えば、関係ないといえば関係ない。
だが、それでも別に構わなかった。
「まっ、そう言うなって。墓参りってのは、祈りだけじゃなく、自分の決意表明の場でもあるんだよ。残された自分はこうやって生きると、死んだやつらに宣言するためのな」
再会した旧友たちだけじゃない。新たに出会ったこいつらと、俺はこれから駆け抜けていくと、紹介してやるために。
「さて、行くか」
二年ぶりの王都に足を踏み入れてみる。
感じたのは、やはり懐かしいってことだな。
円形状の巨大なサークルに覆われた王都は東西南北四つの門がある。
門をくぐって中に入ると、そこには俺の想像のままの街並。
左右に並ぶ露店や住宅。行き交う人々。
笑顔が満ちて、エネルギーが溢れている。
「おーい、今日は珍しいもんが入ってっから、見てってくんな。亜人大陸より直送の野菜でい!」
「あら、最近は質のいい輸入食材が多くて、迷っちゃうわ」
「そうそう、これも姫様たちのおかげってことで、どうよ? 安くしとくぜい?」
「なあ、昼はどうする?」
「当然、トンコトゥ一本で!」
ああ、変わってないな。チラホラ見知った顔が何人もすれ違う。
二年ぐらいじゃ、それほど顔も変わってないし、街並みも大きく変わってるわけじゃない。
「ほう、なかなか盛況だゾウ。良い活気だゾウ」
「いい国ね、エルファーシア王国。人々が国家に安心して身をゆだねならが、商いをしている」
「まっ、クソ真面目すぎて俺にはパナイ物足りないけどね~」
そりゃー、帝国や公益の栄えた商業国家などと比べたら質素なもんだろう。
エルファーシア王国は、常に優秀な人材を人類大連合軍として輩出しているが、国そのものは大陸の端っこにあるような場所。
しかしそれでもこの活気は、国の豊かさを示している。
「変わってねーな、相変わらず」
戦争とは無縁の、平和ボケした感覚の漂う世界。
俺もかつてはこの空気の居心地がよすぎて、戦争に行こうとかそんな気持ちにはさせられなかったな。
だが、それでも街を歩いて感じたことがある。
「へい、そこの黒服の兄ちゃん達、見ないツラだね。どうだ? ウチで昼飯でも」
「おっ、いいガタイの奴がいるね~、どうよ、うちの武器屋?」
こんな怪しさ全開の格好でも、それほど変な目で見ることなく、普通に話をかけてくる。
そんな空間に少しカー君たちは戸惑いながらも、俺はふと違和感を覚えた。
「なんだ?」
「朝倉くん?」
なんかが、違う。
あまり変わっていない故郷なのに、何かが違う気がする。
俺はその違和感の正体になかなかたどり着けなかった。
だが、次にユズリハが特に意味もなく言った言葉が、俺の違和感の正体を言い当てていた。
「ふん、おいゴミ。お前、この国では有名人なのか?」
そこで、ハッとなり、俺はサングラスを外してみた。
多少危険かもしれないが、素顔を晒して街を見渡してみた。
酒場のおっさん、武器屋のじいさん、買い物途中の主婦、どれもこれも見たことあるツラだ。
だが、全員俺と目が合ったのに、誰もがそのまま横を素通りした。
「ああ、そっか……やっぱ、俺は忘れられてるんだな」
昔は、俺が歩くだけで誰かが声をかけてきた。
『おや、ヴェルトが姫様を泣かしているぞ!』
『あらあら、夫婦喧嘩もほどほどになさいね、二人とも』
『あっ、ヴェルトだー、フォルナと手を繋いでる~、二人は夫婦~、ヒューヒュー!』
『フォルナが泣いてるぞ! ヴェルトが泣かしたんだ! いーけないんだ、いけないんだ!』
『おーい、ヴェルトの坊主! 良い魚が入ったんだ。この間、親父さんには世話になったからな。お礼に後で取りに来てくれ!』
『おい、ヴェルト、ウラちゃん、二人してそんな大荷物抱えてどっかに旅行かい?』
『おーい、二人とも、どーしたんだ?』
もう、あの日々は返ってこねーんだな。
「そうか、違和感。俺、この国で歩いてると以前なら誰からも声かけられてた。フォルナと歩いてりゃからかわれ、ウラと歩いてたら微笑まれ、そうやって、ヴェルト・ジーハはこの国の奴らに関心を持たれていたんだ」
もしかしたらという期待が無かったといえば嘘になる。
綾瀬が俺を覚えていたことで、「ひょっとしたら」という気持ちもあった。
でも、もう、この国にヴェルト・ジーハは存在しないのかと、何だか切なくなった。
正直言って、たかが二年。しかしされど二年だ。
黄金の青春時代となるはずが二年の停滞を経て、たどり着いた我が故郷は、とても懐かしく感じた。
「ひゅ~、あれがエルファーシア王国。帝国ほどじゃないけど、何だかパナイのどかな場所にあって綺麗だね~」
「私も来るのは初めてだわ。こんな形で来るとは思わなかったけどね。そっか……ここが、朝倉君とフォルナが出会い、そして育った国なのね」
「ふふ、カントリーミュージックをBGMで流したくなるな」
「エルファーシア王国か。小生もここまで来るのは初めてだゾウ」
「なかなか落ちついとるやないか。ま、ワイには退屈かもしれんがな」
「………ここまで長かった……ゴミの癖に、私をここまで歩かせるとは……」
数日間かけて、長い長いトンネルを抜けた先に見えた、陽の光に照らされた王国。
変わってないっちゃ変わってないな。
ただ、草原や田畑に囲まれた王都まで続く道を歩くと、やはりどこか切ない気持ちにもなる。
もう、この麦畑に俺が生まれた場所はないんだ。そして、俺を知る者もだ。
七年前に失った親父とおふくろ。それから五年間は先生やウラ、そしてカミさんやハナビと一緒に暮らして、寂しさなんて感じさせてくれなかった。
だが、こうしてここで物思いにふけって歩くと、少しシンミリした気持ちにもなるわけだな。
「それにしても、加賀美くん。この格好……返って目立たないかしら?」
俺の存在は忘れられたとはいえ、ミルコやカー君、それに綾瀬といった世界でも顔の知れた有名人がいきなり現れても大騒ぎになる。
それを察した加賀美が用意した俺たちの変装スタイルなんだが……
「今のミーたちは、まるでマフィアだね」
「私なんて、就活生みたいよ?」
「うーむ、このネクタイというものは、首が絞まってたまらんゾウ」
「動きづらい」
「なんや、堅っ苦しいのう」
何でこんなもんを? つか、どうやって用意したんだよ。
今の俺たちは、全員黒いビジネススーツで男子はネクタイ着用で、女子はスカート着用。
そして極めつけは、この黒いサングラス。
ミルコの鬼の角や、カー君のように亜人丸出しだったり、綾瀬みたいに青い髪が目立ったりの奴には、ハットを被らせたり、ロングコートを羽織らせたり……
「いや、逆に目立つだろ!」
マフィアの行軍にしか見えねえ。
「なに言ってるの、朝倉くん。変装にはサングラスって相場が決まってるじゃん」
「いや、だから目立つだろうが! 普通、外套とかそういうもんを用意するだろうが!」
「ちっちっち、パナい甘いよ朝倉くん。俺がラブ・アンド・マニーに居た頃から、一部の社員にはスーツ着用を義務付けている。そう、今の時代、スーツ着てたら、あっラブ・アンド・ピースだ! ってな具合になるわけなのだよ! 多分」
「いや、テメエはずっと監獄に……綾瀬、実際にどうなんだ?」
「確かに……、スーツ着てるわね」
なんか、スゲー無理やりな理論に言いくるめられている俺たちだが、しかしこの人数で全員外套被ってゾロゾロしてても、怪しさ全開なのは間違いない。
どっちにしろ、これしかねえのか? と思ったとき、ふざけた口調の加賀美が急にマジメな顔になった。
「それにさ、墓参りにスーツは基本っしょ? まあ、十代の綾瀬ちゃんや朝倉君は制服でもよかったんだけどね」
「あっ…………」
「せっかく旧友に会うんだったら、まあ、あまりみっともない格好じゃなく、ちゃんとした俺たちらしい格好のほうが、礼儀っしょ?」
う~わ~、こいつ、ムカつく。こういう核心的で納得せざるを得ないことをサラッと言いやがるから困る。
そうなんだよな。俺としては二年ぶり。こいつらとしては、前世ぶり。
それなりの格好という加賀美の言葉は何も間違っちゃいなかった。
「なあ、その墓参りってワイも行かなあかんのか? 全然、知らんやつやし」
「小生も席を外そうか?」
「めんどい」
まっ、カー君とユズリハに関して言えば、関係ないといえば関係ない。
だが、それでも別に構わなかった。
「まっ、そう言うなって。墓参りってのは、祈りだけじゃなく、自分の決意表明の場でもあるんだよ。残された自分はこうやって生きると、死んだやつらに宣言するためのな」
再会した旧友たちだけじゃない。新たに出会ったこいつらと、俺はこれから駆け抜けていくと、紹介してやるために。
「さて、行くか」
二年ぶりの王都に足を踏み入れてみる。
感じたのは、やはり懐かしいってことだな。
円形状の巨大なサークルに覆われた王都は東西南北四つの門がある。
門をくぐって中に入ると、そこには俺の想像のままの街並。
左右に並ぶ露店や住宅。行き交う人々。
笑顔が満ちて、エネルギーが溢れている。
「おーい、今日は珍しいもんが入ってっから、見てってくんな。亜人大陸より直送の野菜でい!」
「あら、最近は質のいい輸入食材が多くて、迷っちゃうわ」
「そうそう、これも姫様たちのおかげってことで、どうよ? 安くしとくぜい?」
「なあ、昼はどうする?」
「当然、トンコトゥ一本で!」
ああ、変わってないな。チラホラ見知った顔が何人もすれ違う。
二年ぐらいじゃ、それほど顔も変わってないし、街並みも大きく変わってるわけじゃない。
「ほう、なかなか盛況だゾウ。良い活気だゾウ」
「いい国ね、エルファーシア王国。人々が国家に安心して身をゆだねならが、商いをしている」
「まっ、クソ真面目すぎて俺にはパナイ物足りないけどね~」
そりゃー、帝国や公益の栄えた商業国家などと比べたら質素なもんだろう。
エルファーシア王国は、常に優秀な人材を人類大連合軍として輩出しているが、国そのものは大陸の端っこにあるような場所。
しかしそれでもこの活気は、国の豊かさを示している。
「変わってねーな、相変わらず」
戦争とは無縁の、平和ボケした感覚の漂う世界。
俺もかつてはこの空気の居心地がよすぎて、戦争に行こうとかそんな気持ちにはさせられなかったな。
だが、それでも街を歩いて感じたことがある。
「へい、そこの黒服の兄ちゃん達、見ないツラだね。どうだ? ウチで昼飯でも」
「おっ、いいガタイの奴がいるね~、どうよ、うちの武器屋?」
こんな怪しさ全開の格好でも、それほど変な目で見ることなく、普通に話をかけてくる。
そんな空間に少しカー君たちは戸惑いながらも、俺はふと違和感を覚えた。
「なんだ?」
「朝倉くん?」
なんかが、違う。
あまり変わっていない故郷なのに、何かが違う気がする。
俺はその違和感の正体になかなかたどり着けなかった。
だが、次にユズリハが特に意味もなく言った言葉が、俺の違和感の正体を言い当てていた。
「ふん、おいゴミ。お前、この国では有名人なのか?」
そこで、ハッとなり、俺はサングラスを外してみた。
多少危険かもしれないが、素顔を晒して街を見渡してみた。
酒場のおっさん、武器屋のじいさん、買い物途中の主婦、どれもこれも見たことあるツラだ。
だが、全員俺と目が合ったのに、誰もがそのまま横を素通りした。
「ああ、そっか……やっぱ、俺は忘れられてるんだな」
昔は、俺が歩くだけで誰かが声をかけてきた。
『おや、ヴェルトが姫様を泣かしているぞ!』
『あらあら、夫婦喧嘩もほどほどになさいね、二人とも』
『あっ、ヴェルトだー、フォルナと手を繋いでる~、二人は夫婦~、ヒューヒュー!』
『フォルナが泣いてるぞ! ヴェルトが泣かしたんだ! いーけないんだ、いけないんだ!』
『おーい、ヴェルトの坊主! 良い魚が入ったんだ。この間、親父さんには世話になったからな。お礼に後で取りに来てくれ!』
『おい、ヴェルト、ウラちゃん、二人してそんな大荷物抱えてどっかに旅行かい?』
『おーい、二人とも、どーしたんだ?』
もう、あの日々は返ってこねーんだな。
「そうか、違和感。俺、この国で歩いてると以前なら誰からも声かけられてた。フォルナと歩いてりゃからかわれ、ウラと歩いてたら微笑まれ、そうやって、ヴェルト・ジーハはこの国の奴らに関心を持たれていたんだ」
もしかしたらという期待が無かったといえば嘘になる。
綾瀬が俺を覚えていたことで、「ひょっとしたら」という気持ちもあった。
でも、もう、この国にヴェルト・ジーハは存在しないのかと、何だか切なくなった。
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