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第六章
第206話 ないしょばなし
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大層な肩書きも、俺から見ればそいつは近所の幼馴染の親父だった。
お節介で、人当たりよくて、それでいて強く、そして誠実で、国の誰からも尊敬されていた男。
だが、今のように鋭い眼差しと厳しい表情は初めて見る。
その目は、俺を近所の悪ガキではなく、一人の男として向き合っているように見えた。
「ヴェルト……改めて頼みたい。全人類を守るために、お前に立ち上がってもらいたい」
「だから嫌だっつってんだろうが」
それでも俺はそう言った。ハッキリ言って俺にはそんな大役絶対に嫌だからだ。
世界を救うため? 英雄? 三種族を率いる?
やめてくれ。めんどくせえ。
「タイラー。いきなり呼び出したかと思えば、無茶ぶりしやがって。どういうことだよ。つか、何でハウを使って呼び出してんだよ」
俺とフォルナとムサシがたどり着いた森を入って少し進むと、僅かに開けた場所にたどり着いた。
そこに立っていたのは、タイラーと、何故自分がそこにいるかも分からずに首を傾げている小型のドラだけだった。
開口一番でそう言ってきたタイラーだったが、俺の隣に居たフォルナもさすがに黙っていなかった。
「タイラー。昨日はその話はウヤムヤになりましたが、どうやらあなたがラブ・アンド・マニーの組織の重要な関係者であることは間違いなさそうですわね。お父様もそのことを承知ですの?」
「はい、この度は姫様に要らぬ混乱を招いてしまい申し訳ございませんでした。さらにはヴェルトのことについてもです」
「本当ですわ。まったく、ワタクシのヴェルトに次から次へと色々な女性を充てがって……」
「形だけでも組織のバランスを保つには最も適していると判断しましたので」
ジョーダンじゃねえよ、このオヤジ。そんなんで結婚とかマジで人の人生ナメてんのか?
まあ、逆らうけどさ。
「御託はどーでもいいよ。んで、話はそれだけか? つか、何でドラがここに居るの?」
「いや、オイラも分かんねーっす。何か、重要な話があるからオイラも来いとか言われて……」
「おい、タイラー。まさかドラがカラクリドラゴンで珍しいから、売るとか考えてんじゃねえよな? 勘弁しろよ? こいつは俺の旅には重要なんだ」
半分冗談と半分牽制のつもりで言ってやった。
だが、俺のそんな冗談交じりの言葉に、タイラーは真剣な眼差しで答えた。
「かつて、カラクリドラゴンは神族大陸にのみ生息されていたと言われているが、ハッキリ言ってあまりにも希少すぎて目撃情報も少なく、生態も謎に包まれている。ヴェルト、何でだと思う?」
「えっ、いや、知んねーけど。あれじゃねえの? こいつを作ったご主人様が、思いの他に引きこもりだったからじゃねえの?」
ドラのご主人様。話を聞く限り、俺の探している女である可能性を持っている奴。
そう、色々と紆余曲折してきたが、俺の旅の目的は正にそれなんだ。
だから、それを達成するまではドラに居てもらわなくちゃ困る。
まあ、そうでなくても、ここまでの旅でかなり情が移ってるのもあるが……
「ヴェルト、簡単なことだ。生息していないからだよ」
「はっ?」
「カラクリドラゴンは、神族大陸にて目撃されただけであって、神族大陸に生息しているわけではない。だが、人類大陸、魔族大陸、亜人大陸にも生息していない。ならば、どこだ? カラクリドラゴンはどこから来た生物だ?」
いや、そもそも生物かどうかも微妙な所だとは思うが、何やらドラの生態が随分と重要な空気を醸し出している。
どこから来たか? 作られたからじゃねえのかよ?
だが、俺が答えを言う前に、タイラーは答えを言った。
「神族の力によって作られた生命体。物質に命を与え、更には感情や学習機能、更に進化の能力まで兼ね備えた、神族の兵器……『カラクリモンスター』だ……」
いや、そんな「とっておき」みたいな言い方されても、なんか雰囲気的にそれぐらいのことは察していた分、反応に困る。
「お前がドラと呼ぶこれも、神族の使者や末裔が世界の情勢を監視している間に、来るべき日に備えて実験や調整を繰り返した兵器の一つだろう。運悪く人間に捕まったようだがな。正直、帝国が襲撃された時の映像でこいつを見たとき、度肝を抜かれた」
「みたいだな。まあ、運が悪かったみたいだ。愛すべきご主人様と離れ離れに暮らすことになっちまった可愛そうなやつだ。俺はそのご主人様にこいつを届けてやるのが一つの目的なんでな」
「なるほど。どうやらお前は無自覚に色々と世界の深淵に触れているようだな。あの天空族の娘といいな」
俺の反応がイマイチだったのに対し、タイラーはむしろ「話が早い」と言いたげな表情だ。
「ヴェルト、あなた、一体どんな旅をしてきたのですの?」
「えっと、殿? え~っと、ドラがあれで、ドラがドラで、神様?」
フォルナは少し驚いて……って、ムサシィ! なんでお前が話についてけないんだよ! お前、想像以上にお馬鹿だな!
「ヴェルトよ。昨日のジーゴク魔王国軍との戦いの回避により、我々は第一の目標をクリア出来た。加速していた戦争の流れを一時弱めること。そしてこれを機に、我々は本格的に動き出さねばならない」
「本格的? ああ、組織をでっかくすることか? 魔族と亜人と仲良くすることか?」
まあ、特に驚くことはないだろう。俺はそう思っていた。
だが、タイラーが目を見開いて告げたその言葉に、俺は耳を疑った。
「我らは今回の戦で多大なコネクションと信頼を得た。そして、お前のおかげで組織にはかつてないほどの人材や力が集まる。その力を持って………ある二つのことをやらねばならない」
「二つのこと?」
「まず、このドラとやらを我々で預からせて欲しい。神族の兵器研究のためにな。そしてもう一つは、三大未開世界の一つでもある、天空世界を支配下に置きたい」
「……………………………………………………はっ?」
「これで、将来的な神族の兵器対策ができ、さらに神族の封印を解く可能性のある天空族を引き込むことで、不安要素を排除することができる。天空族こそ、ロア王子のように鍵となる『三つの紋章眼』の一つが発現する種族。ヴェルト、その説得をお前とエルジェラという娘に任せたい」
ドラの提供と、天空世界を支配下……? それが、タイラーの言った言葉だ。
「ちょっ、ど、どういうことっすか? オイラよくわかんねーっすけど!」
タイラーの発言にドラがパニック状態だ。
だが、逆に俺はかなり気持ちが静まって、冷静になっちまった。
「だから、やんねーって言ってんだろうが。ドラは俺の子分だから手元においておく。それに、天空世界を支配ってのがよく分からん」
「ヴェルト。お前が戦争に参加しないことにとやかく言う気はないが、これはもはやお前の気分で選んで貰っては困る事態だ。正直、親友の息子でもあり、息子の友人でもあり、私にとっても可愛いやんちゃぼーずだったお前に、こんなことを強いるのは心苦しい。お前は、マニーやマッキーが気分で選んだのかもしれないが、今となってはお前以外の人材は居ないと私も他の者たちも確信している」
なんだ? おかしい……話の流れがどうしても整理できない。
俺の頭の中で、妙な引っ掛かりがあったからだ。
「タイラー……ちょっと聞きてえことがあるんだけどさ」
「なんだ?」
「ラブ・アンド・マニー……もう名前は変わってラブ・アンド・ピースに変わったが。その組織そのものは金儲けとか色々と非道なことを繰り返したようだが、その実態は、神族との戦争を回避するための組織ってことなんだよな?」
「そうだ。組織を巨大化させて資金力を持って、魔族や亜人とのつながりを持つことで世の中の戦争をコントロールして戦争バランスを調整することにより、神族が容易く手出しできない戦力を世界に保たせる。その上で、独自のルートで神族復活に関わるものを探し、場合によってはそれを断つ。そのための組織だ」
そう、加賀美みてーなのを使ったりして、恨まれたり手を汚したりもしてきただろう。
だが、その甲斐あってかその組織の力は歴然となったし、世界的にもその名を広めた。
そして今、魔族や亜人の主要人物とそれなりに繋がりと信頼を得た俺という存在を知り、その目的達成に対して色々と成すべきことが見えてきた。
「タイラー。あと二つ聞きたいことがある」
そうだ。何も間違ってねえ。
何も間違ってねえから、気になった。
「あんたは誰の命令で動いているんだ?」
「……………!」
「そして、あんたは何を隠している? いや……隠すというか……あんた、なんか俺に嘘ついてねぇか?」
ビンゴ。
タイラーが言葉に詰まった。
お節介で、人当たりよくて、それでいて強く、そして誠実で、国の誰からも尊敬されていた男。
だが、今のように鋭い眼差しと厳しい表情は初めて見る。
その目は、俺を近所の悪ガキではなく、一人の男として向き合っているように見えた。
「ヴェルト……改めて頼みたい。全人類を守るために、お前に立ち上がってもらいたい」
「だから嫌だっつってんだろうが」
それでも俺はそう言った。ハッキリ言って俺にはそんな大役絶対に嫌だからだ。
世界を救うため? 英雄? 三種族を率いる?
やめてくれ。めんどくせえ。
「タイラー。いきなり呼び出したかと思えば、無茶ぶりしやがって。どういうことだよ。つか、何でハウを使って呼び出してんだよ」
俺とフォルナとムサシがたどり着いた森を入って少し進むと、僅かに開けた場所にたどり着いた。
そこに立っていたのは、タイラーと、何故自分がそこにいるかも分からずに首を傾げている小型のドラだけだった。
開口一番でそう言ってきたタイラーだったが、俺の隣に居たフォルナもさすがに黙っていなかった。
「タイラー。昨日はその話はウヤムヤになりましたが、どうやらあなたがラブ・アンド・マニーの組織の重要な関係者であることは間違いなさそうですわね。お父様もそのことを承知ですの?」
「はい、この度は姫様に要らぬ混乱を招いてしまい申し訳ございませんでした。さらにはヴェルトのことについてもです」
「本当ですわ。まったく、ワタクシのヴェルトに次から次へと色々な女性を充てがって……」
「形だけでも組織のバランスを保つには最も適していると判断しましたので」
ジョーダンじゃねえよ、このオヤジ。そんなんで結婚とかマジで人の人生ナメてんのか?
まあ、逆らうけどさ。
「御託はどーでもいいよ。んで、話はそれだけか? つか、何でドラがここに居るの?」
「いや、オイラも分かんねーっす。何か、重要な話があるからオイラも来いとか言われて……」
「おい、タイラー。まさかドラがカラクリドラゴンで珍しいから、売るとか考えてんじゃねえよな? 勘弁しろよ? こいつは俺の旅には重要なんだ」
半分冗談と半分牽制のつもりで言ってやった。
だが、俺のそんな冗談交じりの言葉に、タイラーは真剣な眼差しで答えた。
「かつて、カラクリドラゴンは神族大陸にのみ生息されていたと言われているが、ハッキリ言ってあまりにも希少すぎて目撃情報も少なく、生態も謎に包まれている。ヴェルト、何でだと思う?」
「えっ、いや、知んねーけど。あれじゃねえの? こいつを作ったご主人様が、思いの他に引きこもりだったからじゃねえの?」
ドラのご主人様。話を聞く限り、俺の探している女である可能性を持っている奴。
そう、色々と紆余曲折してきたが、俺の旅の目的は正にそれなんだ。
だから、それを達成するまではドラに居てもらわなくちゃ困る。
まあ、そうでなくても、ここまでの旅でかなり情が移ってるのもあるが……
「ヴェルト、簡単なことだ。生息していないからだよ」
「はっ?」
「カラクリドラゴンは、神族大陸にて目撃されただけであって、神族大陸に生息しているわけではない。だが、人類大陸、魔族大陸、亜人大陸にも生息していない。ならば、どこだ? カラクリドラゴンはどこから来た生物だ?」
いや、そもそも生物かどうかも微妙な所だとは思うが、何やらドラの生態が随分と重要な空気を醸し出している。
どこから来たか? 作られたからじゃねえのかよ?
だが、俺が答えを言う前に、タイラーは答えを言った。
「神族の力によって作られた生命体。物質に命を与え、更には感情や学習機能、更に進化の能力まで兼ね備えた、神族の兵器……『カラクリモンスター』だ……」
いや、そんな「とっておき」みたいな言い方されても、なんか雰囲気的にそれぐらいのことは察していた分、反応に困る。
「お前がドラと呼ぶこれも、神族の使者や末裔が世界の情勢を監視している間に、来るべき日に備えて実験や調整を繰り返した兵器の一つだろう。運悪く人間に捕まったようだがな。正直、帝国が襲撃された時の映像でこいつを見たとき、度肝を抜かれた」
「みたいだな。まあ、運が悪かったみたいだ。愛すべきご主人様と離れ離れに暮らすことになっちまった可愛そうなやつだ。俺はそのご主人様にこいつを届けてやるのが一つの目的なんでな」
「なるほど。どうやらお前は無自覚に色々と世界の深淵に触れているようだな。あの天空族の娘といいな」
俺の反応がイマイチだったのに対し、タイラーはむしろ「話が早い」と言いたげな表情だ。
「ヴェルト、あなた、一体どんな旅をしてきたのですの?」
「えっと、殿? え~っと、ドラがあれで、ドラがドラで、神様?」
フォルナは少し驚いて……って、ムサシィ! なんでお前が話についてけないんだよ! お前、想像以上にお馬鹿だな!
「ヴェルトよ。昨日のジーゴク魔王国軍との戦いの回避により、我々は第一の目標をクリア出来た。加速していた戦争の流れを一時弱めること。そしてこれを機に、我々は本格的に動き出さねばならない」
「本格的? ああ、組織をでっかくすることか? 魔族と亜人と仲良くすることか?」
まあ、特に驚くことはないだろう。俺はそう思っていた。
だが、タイラーが目を見開いて告げたその言葉に、俺は耳を疑った。
「我らは今回の戦で多大なコネクションと信頼を得た。そして、お前のおかげで組織にはかつてないほどの人材や力が集まる。その力を持って………ある二つのことをやらねばならない」
「二つのこと?」
「まず、このドラとやらを我々で預からせて欲しい。神族の兵器研究のためにな。そしてもう一つは、三大未開世界の一つでもある、天空世界を支配下に置きたい」
「……………………………………………………はっ?」
「これで、将来的な神族の兵器対策ができ、さらに神族の封印を解く可能性のある天空族を引き込むことで、不安要素を排除することができる。天空族こそ、ロア王子のように鍵となる『三つの紋章眼』の一つが発現する種族。ヴェルト、その説得をお前とエルジェラという娘に任せたい」
ドラの提供と、天空世界を支配下……? それが、タイラーの言った言葉だ。
「ちょっ、ど、どういうことっすか? オイラよくわかんねーっすけど!」
タイラーの発言にドラがパニック状態だ。
だが、逆に俺はかなり気持ちが静まって、冷静になっちまった。
「だから、やんねーって言ってんだろうが。ドラは俺の子分だから手元においておく。それに、天空世界を支配ってのがよく分からん」
「ヴェルト。お前が戦争に参加しないことにとやかく言う気はないが、これはもはやお前の気分で選んで貰っては困る事態だ。正直、親友の息子でもあり、息子の友人でもあり、私にとっても可愛いやんちゃぼーずだったお前に、こんなことを強いるのは心苦しい。お前は、マニーやマッキーが気分で選んだのかもしれないが、今となってはお前以外の人材は居ないと私も他の者たちも確信している」
なんだ? おかしい……話の流れがどうしても整理できない。
俺の頭の中で、妙な引っ掛かりがあったからだ。
「タイラー……ちょっと聞きてえことがあるんだけどさ」
「なんだ?」
「ラブ・アンド・マニー……もう名前は変わってラブ・アンド・ピースに変わったが。その組織そのものは金儲けとか色々と非道なことを繰り返したようだが、その実態は、神族との戦争を回避するための組織ってことなんだよな?」
「そうだ。組織を巨大化させて資金力を持って、魔族や亜人とのつながりを持つことで世の中の戦争をコントロールして戦争バランスを調整することにより、神族が容易く手出しできない戦力を世界に保たせる。その上で、独自のルートで神族復活に関わるものを探し、場合によってはそれを断つ。そのための組織だ」
そう、加賀美みてーなのを使ったりして、恨まれたり手を汚したりもしてきただろう。
だが、その甲斐あってかその組織の力は歴然となったし、世界的にもその名を広めた。
そして今、魔族や亜人の主要人物とそれなりに繋がりと信頼を得た俺という存在を知り、その目的達成に対して色々と成すべきことが見えてきた。
「タイラー。あと二つ聞きたいことがある」
そうだ。何も間違ってねえ。
何も間違ってねえから、気になった。
「あんたは誰の命令で動いているんだ?」
「……………!」
「そして、あんたは何を隠している? いや……隠すというか……あんた、なんか俺に嘘ついてねぇか?」
ビンゴ。
タイラーが言葉に詰まった。
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