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第四章

第115話 勲章授与

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 マーカイ魔王国との戦で死んだ新兵の数は六百名前後。
 だが、戦の前に強襲されて壊滅された海岸沿いの港町などの一般市民を含めると、数千人以上の犠牲者が出た。
 いかに戦争そのものは勝ったとはいえ、近年では戦そのものはほとんどが神族大陸で行われているために、人類大陸内ではほとんどの市民が戦慣れしておらず、身も心も深い傷を負っている。
 犠牲になった者への悲しみは割り切れるものではない。
 だからこそ、その暗雲を少しでも払うかのように、帝国はこの戦で活躍した者たちを大げさなほどに祭り上げた。
 次世代を担う若獅子たちが、歴戦の猛者たちを見事に退けたと大陸全土に吹聴し、人類はその悲しみを少しでも振り払うかのように歓声を上げた。
 今回の戦争で死んだ者たちを、ただの犠牲者や犬死などではなく、人類の偉大なる勝利の糧となったのだと誇るために。
 まあ、ぶっちゃけ、そうでも思わない限り、やってられないだろうからな。

「ちっ、だからって何で俺まで。こんなもん見世物もいいところだぜ」
「クソまったくだ」
「あははは、ファルガはこういうの苦手そうだしね」

 俺と一緒に気だるげに応じるファルガと、能天気なクレラン。 

「お前たち三人はいい。だが、私とムサシはまずかろう」
「そうでござる。昨日はほぼノリで受け入れられたが、拙者たちは亜人と魔族。人間にとって複雑でござろう」
「オイラはどうっすかね~? わ、手を振ってくれたっす! いえーいっす!」
 
 ウラとムサシは複雑そうな表情を浮かべ、ドラは落ち着きなくキョロキョロ。
 帝国宮殿まで繋がる大通りの一本道。
 左右見渡す限りの大勢の市民たちが埋め、そこからあぶれた人々も建物の窓、あるいは屋上によじ登って大歓声を上げている。
 その中央をまるで優勝パレードのように手を振りながらゆっくりと進む人類大連合軍の兵士たち、そして何故かその中には俺たちまでいる。

「来たぞー! 人類大連合軍だ! 英雄たちのお通りだ!」
「うおおおおお!」
「フォルナ様! フォルナ様―!」
「キャー! シャウト様よ! かっこいいい!」
「バーツ隊長! バーツ隊長!」
「うおおお、ガルバ様でっけー!」

 フォルナを先頭にして主要な将たちは馬に跨がって、市民に笑顔を見せて進んでいる。
 なんつーか、本当にプロの英雄というか、サービス精神あるというか。
 しかし、まさか俺がパレードを眺める側じゃなくて、手を振る側になるとは思わなかったな。 
 かなり緊張するな。

「すげー! かっこいい! 希望の太陽! 人類大連合軍! 俺もいつか入るんだ!」
「人類大連合軍バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」

 子供たちから老人に至るまでこの熱気。
 もはや、一種の宗教だな、これは。
 ましてや俺が歓声を受ける側に居るのは、加賀美をボコボコにした功績からだ。
 かつてのクラスメートを暴力で解決して褒められる。朝倉リューマ時代では決して考えられなかったことだ。
 非難されるのなら、別に開き直ることができた。
 しかし、褒められると逆に色々と複雑な気分で考えさせられる。

「愚弟、クソ浮かないツラだな」
「まあ、俺の人生には縁がなかったことだ。街中で注目されることはあっても、歓声をあげられるのは初めてだからな」
「クソ情けねえこと言いやがって。シャウトたちを見てみろ。昨日まではあんなに沈んでた奴らも、ちゃんと歓声に応えてる。テメェもそれぐらい応えてやったらどうだ?」

 ファルガに指さされた先には、笑顔で両手を大きく振りながら投げキッスをしたりするシャウトたちが居た。

「うおおお、シップ! お前やったな! 国の母ちゃんも喜んでるぞ!」
「俺はホークちゃんはやってくれると思ったぜ!」
「サンヌちゃん、超可愛いぜ! 結婚してくれー!」
「ハウちゃん、笑ってよー!」

 あいつらもプロだな。心ん中じゃ色々とまだ複雑なもんがあるっていうのに。

「なあ、ファルガ。シーやガウの死は、当然エルファーシア王国も知ってるんだろ?」
「ああ」
「そっか。なんつーか……しんどいな……」

 シーやガウの遺族だけじゃない。
この戦いでも多くの、さらに神族大陸で戦っている奴らにだって家族は居る。
 だが、それを言うなら亜人や魔族も同じ。
 今回人類大連合軍がぶっ殺したサイクロプスたちにも家族は居るだろう。
 本当に考えだしたらキリがないほどのメンドくさい世界。

「加賀美……お前が狂ってると思った世界は確かにしんどいぜ……でもな……」

 だが、それだけで片付けたくねえ。
 実際に戦ってみて、目の当たりにして、そう思うようになった。


「全軍止まれ!」


 俺がウダウダ考えている時に、突如響いたフォルナの号令に全軍がビシッと止まった。
 気づけば、周りの大歓声も徐々に収まり始め、俺たちは帝国宮殿前の巨大な大広場に集められていた。
 見渡す限りの人、人、人。
 帝国民全員が集まっているのではないかと思うほど、広場には市民、軍関係者、さらに豪華な服を纏った貴族らしき連中まで集まっている。
 帝国はエルファーシア王国の十倍近い国力だとは聞いていたが、このスケールの大きさを見ると納得できる。
 その状況下、俺たちの視線の先は、急遽設置されたと思われる巨大な舞台。
 壇上には、恐らくは大臣クラスのお偉いさん、そして…………

「あれが、帝国の王様か…………」

 自力で立つことすら不可能だと思われる老いさらばえた老人が舞台の中央に居た。
 だが、一人だけ身にまとうオーラが違う。
 枯れ枝のように細い手足に、真っ白い長い髪とヒゲ。
 その眼光には既に力がないものの、そこに居るだけで温かい存在感を感じられる。

「そうだ。あれが、人類大連合軍創設者にして、アークライン帝国の王。シークレイ・アークライン陛下だ」
「ヨボヨボだな……」
「まあ、歳だからな。だが、息子や娘はテメエとほぼ同世代だ。ガキの頃からお前も知ってるだろ? 『少年勇者』と呼ばれた人類の希望」
「ああ。帝国の王子だってのはな。その英雄様の父親ってわけか。まあ、チートな息子のバカ親ってわけじゃなさそうだな。なんか、存在感を感じるぜ」

 そういえば、生まれて初めてエルファーシア王国王以外の王様を見たな。
 いや、鮫島も王様だから、あれもありか?
 と言っても、結構ここから舞台まで距離があるから、あんまりハッキリとは見えないけどな。
 

「みなのもの、静粛に! これより、勲章授与式典を始める!」


 俺がそんなことを考えていると、静まり返った宮殿前大広場に向かい、王の傍らに立つ中年のオヤジが大声を張り上げた。
 後から聞いたら、帝国軍総司令という、結構えらいおっさんだったそうだが。


「まずは皆の者、此度の帝国危機を見事に救った働き、真に大儀であった! 今回が初陣であり、ましてや多くがアークライン帝国外の他国出身の者でありながら、命を投げ出して戦い抜き、見事マーカイ魔王国軍を撃退した皆に、人類として、帝国民として心より感謝を申し上げる!」

「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」」」

「無論、残念ながら戦死した英雄たちを含め、この場にいた戦士が一人でも欠けていたならば、人類の危機は防げなかったであろう。本来なら誰もが等しく序列なく評価されるべきであるが、本日はこの戦で一際大きな功績を残した者たちに特別に勲章を授与することとする!」


 本来なら全員が称えられるべき。そう言う総司令のおっさんの言葉は本音だろうな。
 だが、それでも尚、特別に称えられるべき功績を残したものには、人類皆で持ち上げようってことだ。
 それは国民も、兵士も、誰も文句のつけ用がないほどの功績ってことだろうから。


「まずは、光の十勇者・フォルナ・エルファーシア姫、前へ!」


 始めに呼ばれたのは、フォルナだ。

「うおおおお、フォルナ様だ!」
「か、かわいいいいい!」
「フォルナ様フォルナ様!」
「姫さまあああああ!}

 大歓声に押されて舞台へと上がるフォルナ。 
 しっかし、随分と慣れてるな。何の迷いもなく堂々としてる。
 舞台の中央で止まったフォルナは、王と軍総司令官と向かい合い、軍人らしく綺麗な直立姿勢をとった。


「フォルナ姫はマーカイ魔王国軍の総大将ラガイア王子を討ち取り、その武威を、そして人類の誇りを世界に示した。また、他国の王族でありながら、帝国民の誰よりも過酷で熾烈な戦いに飛び込み、その働きが戦の勝利を決定的にした! 万の感謝と万の礼でも足りぬ程の功績は、人類史に、帝国史に、そして我々の心に大きく刻み込まれた。それはやはり特別に称えられ、評価されるべきであり、人類を代表して心より感謝を申し上げる。ありがとう」

「ありがとう、フォルナ姫」

「ありがたく」


 王様の手からフォルナに宝剣が渡された瞬間……


「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」」」


 すげえ、腹の底から熱くなるほどの大歓声だ。
 天地が震えてやがる。
 勲章授与式なんて、校長先生が全校生徒の前で賞状を渡す程度のものだと思っていた。
 だが、これは違う。
 俺は今まさに、歴史的瞬間を目の当たりにしているんだ。

「へ、へへ、手に汗が…………すげえじゃねえか、フォルナの奴」
「愚弟。あれはお前のもんになるんだぞ?」
「…………あいつ、あんなスゲーのに、何で昔と変わらず俺のこと好きなんだ? とっくに思い出にされてると思ったのに」
「今度、愚妹に聞いてみろ。ただし、聞いた瞬間にぶっとばされるだろうがな」

 本当に遠い世界の住人に感じるのに、あの女は今朝俺のベッドに忍び込んで、俺のモノを咥……ほにゃららしてたんだよな。
 なんだか不思議な気分だぜ。

「続いて、敵軍主力の将を見事に討ち取った、バーツ・クルンテープ殿! 前へ!」
「オウッ!」

 うおおお、バ、バーツまで!

「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」」」

 すげえ、堂々としてる。
 昔、からかっていたガキじゃない。
 あいつもまた、暗黒の時代を終わらせるなんてバカなことを言っていたがガキから成長し、その夢想を実現させるだけの力と実績を積み重ねた風格が漂っている。


「第三に、人類大連合軍の指揮系統壊滅状態の危機に、その役職を越えて戦場に散らばる部隊と兵をまとめ上げ、その的確な指揮を持って見事に全軍指揮官の代役を果たした、シャウト・リベラル殿! 前へ!」

「はい!」

「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」」」


 シャウトまで………
 まったく、どいつもこいつも………どんどんと手の届かないところの住人のくせに、俺なんかと絡んできやがって………


「では、今回の特別勲章の最後を発表する!」


 勲章と宝剣を渡されて、舞台の左よりに整列して並ぶ、フォルナ、バーツ、シャウト。
 つか、すげーな。全員がエルファーシア王国出身じゃねえか。
 なのに、帝国民からのこの大歓声。人気もあるし、スター扱いだな。


「最後の者たちは人類大連合軍でも帝国軍の者でもない! しかし、兵士でない身でありながらも、この帝国の窮地に颯爽と現れ、全人類がマーカイ魔王国軍の猛勢に絶望する中で、その強烈な存在感で大きな光を放ち、全軍を鼓舞し続けた! その多大なる活躍がなければ、アークライン帝国は間違いなく滅亡していたであろう! それはやはり、兵士たち同様に深い感謝を持って称えられるべきであろう!」


 ………ん?


「加勢した者たちは複数名であるが、今回はその代表者一名にこの場に上がっていただきたい! その者は、今回の戦争を裏で手引きした黒幕である、マッキーラビットを一騎打ちの末に打倒した! ヴェルト・ジーハ殿! 前へ!」

「………………はっ?」


 ……ゑ?
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