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第四章

041:ウザ絡み

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前半は元パーティメンバーが絡んでくるので胸糞かもです。


☆★☆★☆★☆★☆★


「久しぶりだな、詩庵。お前クランを設立したんだってな」


 雪宮さんをダンジョンで助けてから、一週間ほど経ったある日のことだった。
 俺が朝学校に着くと、同級生でもあり、龍の灯火のリーダーでもある坂本優吾と、パーティメンバーの花咲紫が俺に話し掛けにきた。
 つか、もう無関係のはずなのに、別のクラスに来てまでなんでそんな話をしてくるんだ?


「あぁ、まだ小さなクランだけどな。――それがどうかしたか?」

「いや、正直驚いてるんだよ。まさか詩庵がまだハンターをやってるとは思わなくてな。同じハンター仲間なんだし、クラン結成のお祝いでもしようかと思ってな」


 優吾は俺のことを無能だと言っていることがバレたと知ってから、蔑むような視線を隠すことはしなくなっていた。
 今も俺のことを見下しながら、ニヤニヤと口を歪めながら嘲笑している。
 こいつの本性ってこんな感じだったんだな。
 最初は明るくて爽やかな好青年って感じで、最高のリーダーだと思ってたんだけどな。


「そうか。ありがとな。じゃあ、用はもう済んだだろ? そろそろ自分たちのクラスに戻ってくれないか?」

「ちょっと! 優吾がわざわざ貴方に話し掛けてくれたのに、何なのよその態度は」


 優吾を軽く見られたと感じたのか、花咲さんが俺に食って掛かってきたが、それを優吾は「落ち着けよ、紫」と言いながら頭を撫でて宥める。
 花咲さんは優吾の手のひらの感触を気持ち良さそうに味わっていた。

 目の前で繰り広げられるお花畑な光景に俺は辟易としてしまう。


「そういうイチャラブは、自分たちだけの世界でやってくれないか?」

「妬むなよ、詩庵。――まぁ、いいさ。この間お前新しいダンジョンを見つけたんだってな。それで知ったんだが、お前のクランってHランクまで上がってるみたいだな? しかも、調べてみたら設立してまだ間もないじゃないか。何か悪いことをしているんじゃないのか? それとも周りのメンバーが強いのか?」


 先週見つけたダンジョンは、調査の結果未発見ダンジョンだと認定された。
 その通知がハンターギルドで公開されたのは昨日の夜のことだった。
 新しいダンジョンを発見すると、ハンターネームやクラン名を登録できる。
 そこで俺の名前を発見して、クラン一覧を見てここに来たってことらしい。

 それにしても、優吾の頭の中には俺が強くなった可能性っていうのは完全に考慮されていないんだな。
 確かに、一年の冬休み前までの俺のことを見ていたら、まさか強くなっているだなんて想像できないのだろうがな。


「確かに俺のクランのメンバーは強いよ。けど、龍の灯火と比べるとまだまだだから、当面はお前たちの背中を追わせてもらうよ」

「――その言い方だといつか抜かすって言ってるみたいだが?」


 優吾の目が細くなり、俺のことを睨みつけてくる。


「事実だよ。俺たちの目標はSランククランになることだからな」

「はっ、お前たちがSランクになれるなら、俺たちがなれない道理はないだろ? まぁ、強い仲間が出来て自分も強くなったと勘違いしているのかも知れないが、いつか仲間に肉壁にされないように気を付けてくれよ」


 俺の大切な仲間を侮辱するような発言に、ついに俺は優吾に対してキレてしまった。


「は? お前何言ってくれてんだよ? 俺の信頼する仲間がそんな非道なことするわけがねぇだろ。巫山戯たこと言ってるんじゃねぇぞ、こら」


 俺が席を立ち上がって優吾にメンチを切ったその時、「し、しぃくん何してるの? 喧嘩? ダメだよ、喧嘩なんて」とこのタイミングで登校した凛音が俺の元にやってきて、「ほら、どうどうどう」と興奮した馬を落ち着かせるような動作をする。
 かなり慌てているのに、そんなことをしてきた凛音が面白くて、「ぶふっ」っと噴き出すとヒートアップした俺の心も落ち着いてきた。

 冷静になって周りが見えてくると、教室内がかなりザワザワとしていた。
 あ~、早いとこ謝ってさっさと帰ってもらうか。


「汚い言葉遣いをして悪かったな、優吾。――だけどな、俺のことはまだ良いけど、仲間のことを悪く言うのはもうやめてくれな?」

「――ふん。別にお前たちのことなんて眼中にないからな。ダンジョンで死なない程度に頑張るんだな」


 そう言うと踵を返して自分たちの教室へ戻っていく。
 花咲さんは教室から出て行くときに俺のことを睨むことを忘れない。


「ごめんな、凛音。お陰で助かったよ」

「いや、本当だよ、しぃくん。それにしても、しぃくんがあんなになるなんて珍しいね。お昼休みのときに色々聞かせてよね」

「分かった。じゃあ、そろそろ席に着いた方がいいぞ。SHRが始まる時間だからな」


 そう言われて時計を見た凛音は、慌てて自分の席へ戻って行く。
 それにしても、クラスメイトたちからの視線が痛すぎる……。
 なんで昔みたいな口調になっちゃったんだろうな、これは反省案件だわ……。



 ―



「あの優吾と紫という者の詩庵様への口の利き方は、流石に我慢の限界です。詩庵様、今すぐ黒衣にあの不埒者どもを切り伏せる許可を下さいませ!」

「うん。ちょっと私も許せなかったかな? 影の中で私と黒衣ちゃん大暴れだったわよ」

「私も今しぃくんの話を聞いて、なんであのとき止めっちゃったのかな? って後悔しているところだよ……」


 ちょ、ちょっとみんな落ち着こうか。
 さっきまでは俺もかなり怒ってたけど、自分以上に怒りを露わにしてる人たちを目の当たりにすると、かなり冷静になることができるよね……。
 多分黒衣に「やっておしまい」って言ったら、ガチで今すぐカチコミに行くんだろうな、ってくらい目が据わってるし。

 こんなカオスな状況だと言うのに、俺は幸せを感じていた。
 だって、優吾が俺のことを貶したから、みんなが怒ってくれてるんだもんな。
 自分のことではなく、人のことで怒ることができる仲間たちがいるって最高だよ。


「まぁ、落ち着けって。俺たちは自分たちで出来ることを最速でやって、結果で優吾や俺たちを馬鹿にした奴らを殴ってやろうぜ」

「そうね。――詩庵の言う通りだと思うわ」

「うんうん。私たちの目標はSランククランだもんね!」

「……うぅ、詩庵様がそこまで言うなら仕方ありません。ですが、気が変わったらいつでも仰ってください」


 凛音と瀬那は大丈夫そうだが、黒衣はまだ闇に囚われているらしい……。


「あっ、そういえばしぃくんたちが見つけた、この間の新ダンジョンってAランクの認定がされたんだってね」


 凛音たちに共有するのをすっかり忘れていたが、昨晩ハンターギルドで俺たちが見つけたダンジョンが発表される前に、俺はハンター協会の人から詳細を聞いていたのだ。
 あのダンジョンは、『虚無』という名称になった。
 その由来は、一階層目に人間の悲鳴や助け声を真似るコカトリスがいるかららしい。

 確かにあれはえげつなかった。
 低ランクのハンターがその声に誘われてダンジョンの中に入ったら、速攻で狩られてたんだろうな……。
 実際に『華の集い』はコカトリスに騙されて、危うく雪宮さんを失うところだったし。

 また、難易度はAランクに指定されたのだが、これは暫定という処置になっているらしい。
 というのも、調査に当たったBランクパーティの『マッドティーパーティー』が11階層まで進んだのだが、9階層からAランクの魔獣が出てきて10階層のボスをなんとか倒すものの、これ以上進むのは危険と判断して調査を終了したとのことだった。
 その調査結果により、暫定的にAランクのダンジョンと認定されたということを説明してくれた。

 俺はこのことを共有するのを忘れていたことを全員に謝罪する。


「つか、何階層まであるか分からないけど、11階層目でAランクの魔獣が出るってそこそこヤバそうだよな……」

「そうね。だけど、今の私たちがどこまでダンジョンを攻略できるか試してみたいわね」

「確かにな。霊獣や怪と戦ってはいるものの、魔獣がどこまで強いのか正直よく分かってないしな」

「少なくとも2等級の怪を屠ることができる詩庵様でしたら、どんな魔獣が現れても負けはしないかと思います。ですが、魔獣もまだまだ未知な部分が多い存在であることは間違いありません。なので早く未知の階層まで我々で進みたいものですね」

「みんないいなぁ。私も戦えたらダンジョンに潜りたいよ」


 凛音はお箸を口に咥えながら、俺たちのことを羨ましそうに眺めてくる。


「凛音だけごめんな……。だけど、いつか一緒に潜ってもいいかもな。何かあっても俺が凛音のことを守ればいいだけだし」

「しぃくん……」


 両手を胸の前で握って祈るような姿勢になった凛音が、頬を赤らめて俺のことを見つめてくる。
 すると黒衣と瀬那から「うぅ~」という唸り声が聞こえてきた。
 俺のシックスセンスが今2人を見るのはヤバイと警鐘を鳴らしている。


「と、とりあえず今日もこっちに来た怪をみんなで協力して返り討ちにしような!」


 空元気な俺の声は、雲一つない青空に吸い込まれるのだった。
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