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20:失ったあとのクリスマス
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コタくんの罪が晴れたその日、私には罪がのしかかってきた。
今までコタくんが私を裏切ったものだと思い込んでいた。
だけど、そんな事実は一切なかったのだ。
なんで私は、あんな男の言葉を信じてしまったのだろう。
なんで私は、あの写真を見せられたときにコタくんに聞きに行かなかったんだろう。
なんで私は、あんな男とセックスをしてしまったのだろう。
なんで私は、あんな男のことが好きになってしまったのだろう。
いくら後悔しても私の罪は消えることはない。
確かに私はあの男に騙された。
だけど、偽の恋人関係で体の関係まで結ぶ必要はなかった。
あいつとセックスしたのは、完全に私の意志だった。
二度目、三度目ともなると、コタくんへの罪悪感は一切なくなり、欲望のままあいつと体を重ね続けた。
本当に私はあいつのことを好きだったのだろうか?
それはもう私には分からない。
コタくんが身の潔白を証明した日。
私が先生の車に乗せられて家に帰るとお母さんから、学校に呼び出されたと言われた。
明日は授業には出ないで、みんなが授業している時間帯に進路指導室へ来て欲しいという内容だった。
私はもうダメだって思った。
お母さんたちにも私がしてきた全てのことがバレちゃう。
だけど、私がしてきたのは確かに事実なので甘んじて受け入れるしかないだろう。
「ねぇ。学校で何かあったの? 夏休みからちょっとおかしいわよ?」
お母さんはコタくんとのことを含めて聞いているのだろう。
私はそれに対して、何も言うことができなかった。
すると、ソファーに座ったまま無言でスマホを眺めていた睦月が立ち上がったと思ったら、私の方へ歩いてきて思いっ切り平手打ちしてきた。
「ちょっ! 睦月何してるの?」
「良いのよ。こんなやつはもっと苦しむべきなのよ!」
「何? どうしたの睦月? あなた何か知ってるの?」
「うん。知ってるよ。こいつがお兄ちゃんのことを信用しないで、好きでもないやつに抱かれまくって、それでそいつのことを好きだと錯覚した。それだけじゃなく学校では、お兄ちゃんの席の上で騙してきたクズとセックスするくらい狂った人だってね」
私は驚いた。
なんでそこまで明確に知ってるんだろう。
お母さんは睦月の言葉を聞いて、驚愕の表情を浮かべて私の顔を見てくる。
「驚いた? 驚いたよね? 私全部知ってるんだよ。あんたがお兄ちゃんと別れたってクズ男連れてきた時あるでしょ? その後でお兄ちゃんに会いに行ったの。それで話を聞いて、それからも色々と教えてもらってたんだよ」
「コタくんが全部話したってこと……?」
「あっ、勘違いしないでね。お兄ちゃんは優しい人だから最初は全部話すのを渋ってたの。だけど、復讐するならどうせ最終的には知ることになるんだから、お兄ちゃんの口から聞きたいって言って無理やり教えてもらったんだよ。それで今日のことも知ってるの。まだ直接は聞いてないけど、昨日お兄ちゃんから『明日は睦月ちゃんにも迷惑がかかるかも』って教えてくれたんだ」
睦月は興奮しているのか、声が徐々に大きくなってくる。
「ねぇ、なんでお兄ちゃんのことを信用できなかったの? あんなにもあんたのことを愛してくれていた人を、どうして裏切ることができるの? 騙されたのは仕方ないかも知れないけど、なんでクズに簡単に体を許すの? しかもお兄ちゃんが浮気してるってクラスに言いふらして、虐めのきっかけを作ることなんてできるの? あんたも騙してきたクズと同類だよ! 最低だよ!」
そういうと睦月は自分の部屋に駆け上がってしまう。
私と2人きりになったお母さんは「私はまだ何も分からないから何も言えないの。だから話してくれないかな」と悲しそうな顔をしながら言ってきた。
私はどうしてコタくんを裏切ってしまったのか、そのきっかけから今日の出来事まで全てをお母さんに説明をした。
話を聞き終えたお母さんは「あなたがしたことは許されないこと」と大きな溜息をつきながら口にする。
「だけど、そんな写真を見せられたら、私でも信じることは出来ないかも知れない。聞くことも怖くて出来ないかも知れない。だけど、あなたの罪は復讐することを決意したこと。そのために体を許したこと。そして、鼓太郎くんたちのことをクラスに言いふらして虐めのきっかけを作ったこと」
私はお母さんの言葉を静かに聞いている。
何度も考えたことだったが、睦月とお母さんに改めて言われると改めて酷いことをしたと実感する。
「学校でセックスしたのは、自分の娘でも許せる行為ではないわ。直接虐めには加担してないみたいだし、多分明日はそれが理由で呼ばれるのでしょうね。最悪学校は退学になるかも知れない。それだけは覚悟しておきなさい」
退学になるかも知れない。
私は自分がしたことは、社会的に見ても悪だったことに今更気付いてしまった。
その後帰宅してきたお父さんとも話をした。
お父さんは私がしたことを知ると、心底残念そうな顔をしたが、ミチルへの怒りも同時に湧き上がっているみたいだった。
―
翌日みんなが授業を受けている時間に、私はお母さんとお父さんと一緒に学校へ行き校長先生から自主退学勧告を言い渡された。
強制退学処分にならなかった理由としては、いじめのきっかけは作ったかも知れないけど主犯はミチルだったこと、その後のいじめには加担しなかったことで自主退学勧告と言う形になったらしい。
とはいえ、私がこれに不服を出して、学校側と退学処分が不当だと戦う気はないので実質の退学処分だ。
「校内で性行為をしたこと。これは我が校では見過ごすことは出来ません。このように厳しい処分になりますが、我々もこの結果が残念でなりません」
校長先生は私の顔を見てそう言った。
初めて校長先生の顔を間近で見たけど、生徒のことを考えてくれてるのかなって思うくらい真剣で、結構良い学校に通えていたんだなって今更ながら思ってしまった。
だけど、私の愚かな行いでその居場所を失ってしまったのだ。
「弥生……。俺はお前に厳しいことを言わないといけない」
家に帰ると、テーブルで向かい合ったお父さんが厳しい表情でそう言った。
「この結果は全て自分の行いによるものだ。復讐という言葉に唆されて、甘い誘惑に負けてしまったお前の責任だ。そして、その結果無実の鼓太郎くんや瞳ちゃんをお前は傷付けた」
うん。そうだね、お父さん。
「学校で性行為をしたこと。これに関してはお前はもう退学という形で罰を受けた。だが、鼓太郎くんや瞳ちゃんを傷付けた罰は何一つ受けていない」
分かってるよ。
「しかし、鼓太郎くんたちは恐らく謝罪などしてほしい訳ではないだろう。ひょっとしたら謝罪の言葉すら聞いてくれない可能性がある。お前は人を傷付けた。しかも最低な方法でだ。その罪はお前が死ぬまで消えることはないだろう。その罪の気持ちを忘れずに生きていく必要があることを忘れるな」
そうだよね。
謝罪なんて私の自己満足だもん。
「これから出会う人、好きになる人が現れるだろう。その時は、同じ過ちを繰り返すな。ちゃんと会話をしろ。過去を忘れずに、今と未来を生きるしかないのだから。あと、忘れないでほしい。俺と母さんは、どれだけ愚かなことをしたとしても、お前は俺たちの子供なんだ。俺たちは何があってもお前のことを愛してるからな」
「――そうよ。だから、これからは私たちにも相談して。世の中には悪意を持った人間がどこにいるのか分からないのだから」
ありがとう。
ありがとう、お父さん。お母さん。
何も言えずに涙を零していた私を、お父さんとお母さんは抱き締めてくれた。
―
後日私たちは、コタくんの家と瞳ちゃんの家に謝罪をしに行った。
しかし、結果は謝罪をする間も無く門前払いだった。
あんなに優しそうだったコタくんのお母さんが、私の顔を見るなり鬼のような形相で何度も叩いてきた。
私はコタくんだけではなく、お母さんのことも同時に傷付けていたことにようやく気付いた。
瞳ちゃんの家も同様だ。
家に遊びに行くと「弥生ちゃんゆっくりしていってね」と穏やかな笑顔で話し掛けてきてくれた瞳ちゃんのお父さんも、私の顔をまるで汚物を見るような目で見てきた。
私が犯した罪はそれだけ大きかったのだ。
―
私が退学になってから一週間が経過した。
退学になってからというもの家の空気は最悪だった。
両親が私のことを腫れ物を触るかのように過度に気遣うことで、妹の睦月が両親に対して反発をするのだ。
それはそうだろう。
睦月にとって私は嫌悪する存在なのだから。
私のことを産んで育ててくれた両親とは違う。
姉妹であっても同年代の女同士。
私のした醜い行為を受け入れて許すことなんてできるわけがないだろう。
家族で話し合った結果、私は隣の市にいる祖母と祖父の家で暮らすことになった。
今の家庭環境を考えたらそれが最善だと思う。
退学してから二週間が過ぎた土曜日に、私は荷物をまとめて祖母と祖父の家にお父さんが運転する車で向かった。
事情をある程度聞いていた2人は、私のことを優しく迎えてくれた。
お父さんとお母さんは「2人が落ち着いたら家族全員で話し合って、また一緒に暮らそうな」と言って家に帰っていく。
コタくんとの思い出が一切ない場所に来て、静かな生活を送ることができるようになった。
そうなると必然的に過去のことを思い出してしまう。
コタくんと付き合った夏祭りやプールデート、クリスマスに初めて肌を重ねた日。
幸せな思い出がたくさん蘇ってくると、その分私は苦しくなってしまう。
なぜ私はこんな苦しい思いをしているんだろう。
なぜ私はこんな風になってしまったのだろう。
私は徐々に幸せだった生活を奪った悪魔のことを憎しみ始めた。
あいつが私を騙さなかったら、私はコタくんと幸せなままいられたのだ。
今だって一緒に学校で楽しくお話をしていただろう。
その幸せをあいつは奪った。
許せない。
許せるわけがない。
復讐してやる。
私はスマホを持ち上げると、LIMEを開いて悪魔とのトークをタップする。
『久しぶり。今度また一緒に遊ぼうよ』
―
またクリスマスの時期がやってきた。
一昨年と去年のクリスマスは、コタくんがお家に遊びに来てとても楽しかったし、とても幸せだった。
祖父と祖母にはクリスマスを祝うという文化がなかったので、私はちょっとだけクリスマス気分を味わいたくて外出することにした。
スマホを眺めていたら、イルミネーションが綺麗な通りがあるということだったので、それを見てみたくなったのだ。
部屋にこもっていると、幸せだったときの思い出がフラッシュバックしてしまうので、それから逃げたかったというのも理由のひとつだ。
私は夜になると、スマホで見たイルミネーションで有名な通りに来た。
見渡す限りカップルばかりで、女の子一人で見に来ている人は誰もいなかった。
私が馬鹿なことをしていなかったら、コタくんと一緒に見に来れてたのかもしれない。
だけど、そんな未来はもう私には訪れることはないだろう。
私はイルミネーションを見上げながら通りを歩いていると、少し前に私が大好きな2人の顔が見えた。
コタくんと瞳ちゃんだ。
なんだかコタくんがとても真剣な顔をしている。
私はコタくんのその表情を過去に見たことがあった。
それは中学二年生の夏祭りで私に告白をしてくれた時の表情と一緒だったのだ。
その表情を見て私は全てを察してしまった。
コタくんが真剣な面持ちで瞳ちゃんに何かを伝えている。
瞳ちゃんが口を開いた瞬間にコタくんはとても嬉しそうな、そして安堵した表情を浮かべる。
そして、コタくんは瞳ちゃんに小さな袋を手渡した。
それが何なのか分かってる。
私はこの場からすぐにでも走って逃げたいのに、何故か体が動いてくれなかった。
その後2人は抱き締め合ってから、ゆっくりとお互いの顔を近づけてキスをする。
次の瞬間私の視界がボヤけて、何も見えなくなってしまった。
その場に私は崩れ落ちてしまう。
コタくんは、私に注いでくれていた愛情の全てを、これから先は瞳ちゃんに全て注ぐのだろう。
コタくんの愛情は本当に暖かくて、人を幸せにしてくれる。
私はコタくんのことを信用出来ずに、最終的に身も心も裏切ってしまったのだ。
視界が正常に戻った頃には、すでに2人の姿は消えていた。
私は過去のことを後悔しながら、祖父と祖母の待つ家に帰るのだった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
これで完結です。
この小説は、薄い本界隈でNTR漫画が流行っているというのを目にしたので、どんな感じなのかと読んでみたのがきっかけでした。
数冊購入してみたのですが、そのほとんどパターンが弱みを握られてレイプをされてからの快楽落ち。
やめたいけどもう彼氏のじゃ物足りずにレイパーに身を委ねて、最終的に彼氏(心優しくて彼女想い)がその光景を目撃する、もしくは動画が送られてきて、傷付きながらも自慰行為をして泣き寝入りって感じでした。
なんかムカついたんですよね。
なんで良い人が傷付いて泣き寝入りしないといけないのか?
なんでレイパーが勝つ世界になっているのか。
取り敢えず試しに読んでみた薄い本全てが気持ち悪かった。
売れてるってことはそれだけの需要があると思うんだけど。
やはり個人的には、善人は幸せになってほしいと思っている。
現実は恐らく善人は負けるパターンが多いだろう。
だったら創作物の世界くらいは幸せになってほしいと願ってしまう。
なのでこの小説は、薄い本のNTRをベースにしているので、基本的にNTRた女の子目線で進行しました。
そして最後に視点が彼氏に変わって、ざまぁ(ってほどではなかったかもですが)する感じです。
最後弥生をどうするかは悩みました。
裏切ったとはいえ、騙されていたのですから。
それでも体を許してしまったこと、瞳まで巻き込んだいじめのきっかけを作ったことを見て許しではなく、断罪のままにした感じです。
私は甘いと言われるかもですが、実は裏切った女の子でもちゃんと謝罪をして、数年間彼氏なども作らず、遊びにも特に行かず元カレのことを思うことが出来ていたのなら許してあげてほしいなと思っているタイプです。
なので、弥生も数年後はひょっとしたらコタくんや瞳ちゃんに許してもらえるかもしれません。(コタくんには瞳ちゃんがいるので恋人関係にはなれませんが)
あと、ミチルへの復讐を誓った弥生ですが、どうするかは考えていません。
個人的には前述した感じで、将来的に許してもらえる関係に戻れるような行動を取っているといいなって思っています。
クリスマスまでに何かしらの決着がついたんですかね?
皆様の感想を読んで、勢いで書いたこともありかなり雑だったなぁと反省です。
もうちょっとミチル側の犯行を丁寧に設計したら良かったですね。とはいえ、かなりの短期間で勢いのみ書いたので、それはそれで良かったなと思う部分もあったりするので個人的には満足だったりします。
前半はラブコメしまくってたので、一瞬NTRをタグなどで匂わせずに公開したらコメント欄が炎上しまくるんだろうなって思いましたが、さすがにそんな鬼畜なことは出来ないと思い留まった私には人の心が残っていたようです。良かった……。
今までコタくんが私を裏切ったものだと思い込んでいた。
だけど、そんな事実は一切なかったのだ。
なんで私は、あんな男の言葉を信じてしまったのだろう。
なんで私は、あの写真を見せられたときにコタくんに聞きに行かなかったんだろう。
なんで私は、あんな男とセックスをしてしまったのだろう。
なんで私は、あんな男のことが好きになってしまったのだろう。
いくら後悔しても私の罪は消えることはない。
確かに私はあの男に騙された。
だけど、偽の恋人関係で体の関係まで結ぶ必要はなかった。
あいつとセックスしたのは、完全に私の意志だった。
二度目、三度目ともなると、コタくんへの罪悪感は一切なくなり、欲望のままあいつと体を重ね続けた。
本当に私はあいつのことを好きだったのだろうか?
それはもう私には分からない。
コタくんが身の潔白を証明した日。
私が先生の車に乗せられて家に帰るとお母さんから、学校に呼び出されたと言われた。
明日は授業には出ないで、みんなが授業している時間帯に進路指導室へ来て欲しいという内容だった。
私はもうダメだって思った。
お母さんたちにも私がしてきた全てのことがバレちゃう。
だけど、私がしてきたのは確かに事実なので甘んじて受け入れるしかないだろう。
「ねぇ。学校で何かあったの? 夏休みからちょっとおかしいわよ?」
お母さんはコタくんとのことを含めて聞いているのだろう。
私はそれに対して、何も言うことができなかった。
すると、ソファーに座ったまま無言でスマホを眺めていた睦月が立ち上がったと思ったら、私の方へ歩いてきて思いっ切り平手打ちしてきた。
「ちょっ! 睦月何してるの?」
「良いのよ。こんなやつはもっと苦しむべきなのよ!」
「何? どうしたの睦月? あなた何か知ってるの?」
「うん。知ってるよ。こいつがお兄ちゃんのことを信用しないで、好きでもないやつに抱かれまくって、それでそいつのことを好きだと錯覚した。それだけじゃなく学校では、お兄ちゃんの席の上で騙してきたクズとセックスするくらい狂った人だってね」
私は驚いた。
なんでそこまで明確に知ってるんだろう。
お母さんは睦月の言葉を聞いて、驚愕の表情を浮かべて私の顔を見てくる。
「驚いた? 驚いたよね? 私全部知ってるんだよ。あんたがお兄ちゃんと別れたってクズ男連れてきた時あるでしょ? その後でお兄ちゃんに会いに行ったの。それで話を聞いて、それからも色々と教えてもらってたんだよ」
「コタくんが全部話したってこと……?」
「あっ、勘違いしないでね。お兄ちゃんは優しい人だから最初は全部話すのを渋ってたの。だけど、復讐するならどうせ最終的には知ることになるんだから、お兄ちゃんの口から聞きたいって言って無理やり教えてもらったんだよ。それで今日のことも知ってるの。まだ直接は聞いてないけど、昨日お兄ちゃんから『明日は睦月ちゃんにも迷惑がかかるかも』って教えてくれたんだ」
睦月は興奮しているのか、声が徐々に大きくなってくる。
「ねぇ、なんでお兄ちゃんのことを信用できなかったの? あんなにもあんたのことを愛してくれていた人を、どうして裏切ることができるの? 騙されたのは仕方ないかも知れないけど、なんでクズに簡単に体を許すの? しかもお兄ちゃんが浮気してるってクラスに言いふらして、虐めのきっかけを作ることなんてできるの? あんたも騙してきたクズと同類だよ! 最低だよ!」
そういうと睦月は自分の部屋に駆け上がってしまう。
私と2人きりになったお母さんは「私はまだ何も分からないから何も言えないの。だから話してくれないかな」と悲しそうな顔をしながら言ってきた。
私はどうしてコタくんを裏切ってしまったのか、そのきっかけから今日の出来事まで全てをお母さんに説明をした。
話を聞き終えたお母さんは「あなたがしたことは許されないこと」と大きな溜息をつきながら口にする。
「だけど、そんな写真を見せられたら、私でも信じることは出来ないかも知れない。聞くことも怖くて出来ないかも知れない。だけど、あなたの罪は復讐することを決意したこと。そのために体を許したこと。そして、鼓太郎くんたちのことをクラスに言いふらして虐めのきっかけを作ったこと」
私はお母さんの言葉を静かに聞いている。
何度も考えたことだったが、睦月とお母さんに改めて言われると改めて酷いことをしたと実感する。
「学校でセックスしたのは、自分の娘でも許せる行為ではないわ。直接虐めには加担してないみたいだし、多分明日はそれが理由で呼ばれるのでしょうね。最悪学校は退学になるかも知れない。それだけは覚悟しておきなさい」
退学になるかも知れない。
私は自分がしたことは、社会的に見ても悪だったことに今更気付いてしまった。
その後帰宅してきたお父さんとも話をした。
お父さんは私がしたことを知ると、心底残念そうな顔をしたが、ミチルへの怒りも同時に湧き上がっているみたいだった。
―
翌日みんなが授業を受けている時間に、私はお母さんとお父さんと一緒に学校へ行き校長先生から自主退学勧告を言い渡された。
強制退学処分にならなかった理由としては、いじめのきっかけは作ったかも知れないけど主犯はミチルだったこと、その後のいじめには加担しなかったことで自主退学勧告と言う形になったらしい。
とはいえ、私がこれに不服を出して、学校側と退学処分が不当だと戦う気はないので実質の退学処分だ。
「校内で性行為をしたこと。これは我が校では見過ごすことは出来ません。このように厳しい処分になりますが、我々もこの結果が残念でなりません」
校長先生は私の顔を見てそう言った。
初めて校長先生の顔を間近で見たけど、生徒のことを考えてくれてるのかなって思うくらい真剣で、結構良い学校に通えていたんだなって今更ながら思ってしまった。
だけど、私の愚かな行いでその居場所を失ってしまったのだ。
「弥生……。俺はお前に厳しいことを言わないといけない」
家に帰ると、テーブルで向かい合ったお父さんが厳しい表情でそう言った。
「この結果は全て自分の行いによるものだ。復讐という言葉に唆されて、甘い誘惑に負けてしまったお前の責任だ。そして、その結果無実の鼓太郎くんや瞳ちゃんをお前は傷付けた」
うん。そうだね、お父さん。
「学校で性行為をしたこと。これに関してはお前はもう退学という形で罰を受けた。だが、鼓太郎くんや瞳ちゃんを傷付けた罰は何一つ受けていない」
分かってるよ。
「しかし、鼓太郎くんたちは恐らく謝罪などしてほしい訳ではないだろう。ひょっとしたら謝罪の言葉すら聞いてくれない可能性がある。お前は人を傷付けた。しかも最低な方法でだ。その罪はお前が死ぬまで消えることはないだろう。その罪の気持ちを忘れずに生きていく必要があることを忘れるな」
そうだよね。
謝罪なんて私の自己満足だもん。
「これから出会う人、好きになる人が現れるだろう。その時は、同じ過ちを繰り返すな。ちゃんと会話をしろ。過去を忘れずに、今と未来を生きるしかないのだから。あと、忘れないでほしい。俺と母さんは、どれだけ愚かなことをしたとしても、お前は俺たちの子供なんだ。俺たちは何があってもお前のことを愛してるからな」
「――そうよ。だから、これからは私たちにも相談して。世の中には悪意を持った人間がどこにいるのか分からないのだから」
ありがとう。
ありがとう、お父さん。お母さん。
何も言えずに涙を零していた私を、お父さんとお母さんは抱き締めてくれた。
―
後日私たちは、コタくんの家と瞳ちゃんの家に謝罪をしに行った。
しかし、結果は謝罪をする間も無く門前払いだった。
あんなに優しそうだったコタくんのお母さんが、私の顔を見るなり鬼のような形相で何度も叩いてきた。
私はコタくんだけではなく、お母さんのことも同時に傷付けていたことにようやく気付いた。
瞳ちゃんの家も同様だ。
家に遊びに行くと「弥生ちゃんゆっくりしていってね」と穏やかな笑顔で話し掛けてきてくれた瞳ちゃんのお父さんも、私の顔をまるで汚物を見るような目で見てきた。
私が犯した罪はそれだけ大きかったのだ。
―
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両親が私のことを腫れ物を触るかのように過度に気遣うことで、妹の睦月が両親に対して反発をするのだ。
それはそうだろう。
睦月にとって私は嫌悪する存在なのだから。
私のことを産んで育ててくれた両親とは違う。
姉妹であっても同年代の女同士。
私のした醜い行為を受け入れて許すことなんてできるわけがないだろう。
家族で話し合った結果、私は隣の市にいる祖母と祖父の家で暮らすことになった。
今の家庭環境を考えたらそれが最善だと思う。
退学してから二週間が過ぎた土曜日に、私は荷物をまとめて祖母と祖父の家にお父さんが運転する車で向かった。
事情をある程度聞いていた2人は、私のことを優しく迎えてくれた。
お父さんとお母さんは「2人が落ち着いたら家族全員で話し合って、また一緒に暮らそうな」と言って家に帰っていく。
コタくんとの思い出が一切ない場所に来て、静かな生活を送ることができるようになった。
そうなると必然的に過去のことを思い出してしまう。
コタくんと付き合った夏祭りやプールデート、クリスマスに初めて肌を重ねた日。
幸せな思い出がたくさん蘇ってくると、その分私は苦しくなってしまう。
なぜ私はこんな苦しい思いをしているんだろう。
なぜ私はこんな風になってしまったのだろう。
私は徐々に幸せだった生活を奪った悪魔のことを憎しみ始めた。
あいつが私を騙さなかったら、私はコタくんと幸せなままいられたのだ。
今だって一緒に学校で楽しくお話をしていただろう。
その幸せをあいつは奪った。
許せない。
許せるわけがない。
復讐してやる。
私はスマホを持ち上げると、LIMEを開いて悪魔とのトークをタップする。
『久しぶり。今度また一緒に遊ぼうよ』
―
またクリスマスの時期がやってきた。
一昨年と去年のクリスマスは、コタくんがお家に遊びに来てとても楽しかったし、とても幸せだった。
祖父と祖母にはクリスマスを祝うという文化がなかったので、私はちょっとだけクリスマス気分を味わいたくて外出することにした。
スマホを眺めていたら、イルミネーションが綺麗な通りがあるということだったので、それを見てみたくなったのだ。
部屋にこもっていると、幸せだったときの思い出がフラッシュバックしてしまうので、それから逃げたかったというのも理由のひとつだ。
私は夜になると、スマホで見たイルミネーションで有名な通りに来た。
見渡す限りカップルばかりで、女の子一人で見に来ている人は誰もいなかった。
私が馬鹿なことをしていなかったら、コタくんと一緒に見に来れてたのかもしれない。
だけど、そんな未来はもう私には訪れることはないだろう。
私はイルミネーションを見上げながら通りを歩いていると、少し前に私が大好きな2人の顔が見えた。
コタくんと瞳ちゃんだ。
なんだかコタくんがとても真剣な顔をしている。
私はコタくんのその表情を過去に見たことがあった。
それは中学二年生の夏祭りで私に告白をしてくれた時の表情と一緒だったのだ。
その表情を見て私は全てを察してしまった。
コタくんが真剣な面持ちで瞳ちゃんに何かを伝えている。
瞳ちゃんが口を開いた瞬間にコタくんはとても嬉しそうな、そして安堵した表情を浮かべる。
そして、コタくんは瞳ちゃんに小さな袋を手渡した。
それが何なのか分かってる。
私はこの場からすぐにでも走って逃げたいのに、何故か体が動いてくれなかった。
その後2人は抱き締め合ってから、ゆっくりとお互いの顔を近づけてキスをする。
次の瞬間私の視界がボヤけて、何も見えなくなってしまった。
その場に私は崩れ落ちてしまう。
コタくんは、私に注いでくれていた愛情の全てを、これから先は瞳ちゃんに全て注ぐのだろう。
コタくんの愛情は本当に暖かくて、人を幸せにしてくれる。
私はコタくんのことを信用出来ずに、最終的に身も心も裏切ってしまったのだ。
視界が正常に戻った頃には、すでに2人の姿は消えていた。
私は過去のことを後悔しながら、祖父と祖母の待つ家に帰るのだった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
これで完結です。
この小説は、薄い本界隈でNTR漫画が流行っているというのを目にしたので、どんな感じなのかと読んでみたのがきっかけでした。
数冊購入してみたのですが、そのほとんどパターンが弱みを握られてレイプをされてからの快楽落ち。
やめたいけどもう彼氏のじゃ物足りずにレイパーに身を委ねて、最終的に彼氏(心優しくて彼女想い)がその光景を目撃する、もしくは動画が送られてきて、傷付きながらも自慰行為をして泣き寝入りって感じでした。
なんかムカついたんですよね。
なんで良い人が傷付いて泣き寝入りしないといけないのか?
なんでレイパーが勝つ世界になっているのか。
取り敢えず試しに読んでみた薄い本全てが気持ち悪かった。
売れてるってことはそれだけの需要があると思うんだけど。
やはり個人的には、善人は幸せになってほしいと思っている。
現実は恐らく善人は負けるパターンが多いだろう。
だったら創作物の世界くらいは幸せになってほしいと願ってしまう。
なのでこの小説は、薄い本のNTRをベースにしているので、基本的にNTRた女の子目線で進行しました。
そして最後に視点が彼氏に変わって、ざまぁ(ってほどではなかったかもですが)する感じです。
最後弥生をどうするかは悩みました。
裏切ったとはいえ、騙されていたのですから。
それでも体を許してしまったこと、瞳まで巻き込んだいじめのきっかけを作ったことを見て許しではなく、断罪のままにした感じです。
私は甘いと言われるかもですが、実は裏切った女の子でもちゃんと謝罪をして、数年間彼氏なども作らず、遊びにも特に行かず元カレのことを思うことが出来ていたのなら許してあげてほしいなと思っているタイプです。
なので、弥生も数年後はひょっとしたらコタくんや瞳ちゃんに許してもらえるかもしれません。(コタくんには瞳ちゃんがいるので恋人関係にはなれませんが)
あと、ミチルへの復讐を誓った弥生ですが、どうするかは考えていません。
個人的には前述した感じで、将来的に許してもらえる関係に戻れるような行動を取っているといいなって思っています。
クリスマスまでに何かしらの決着がついたんですかね?
皆様の感想を読んで、勢いで書いたこともありかなり雑だったなぁと反省です。
もうちょっとミチル側の犯行を丁寧に設計したら良かったですね。とはいえ、かなりの短期間で勢いのみ書いたので、それはそれで良かったなと思う部分もあったりするので個人的には満足だったりします。
前半はラブコメしまくってたので、一瞬NTRをタグなどで匂わせずに公開したらコメント欄が炎上しまくるんだろうなって思いましたが、さすがにそんな鬼畜なことは出来ないと思い留まった私には人の心が残っていたようです。良かった……。
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もふもふ獣人転生
*
BL
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風見ゆうみ
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