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レベル50.女騎士と女奴隷と新しい日々
1.5.八越未來の歪愛録-1
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抜かりはなかった。
たしかにちゃんと計画通りできてた。
挨拶は完璧だった。
名前も噛まずに言えた。
ちゃんとこれからお世話になりますって言えた。
同じ大学に通うってことも言って一人の後輩として認識してもらえた。
そして今までずっと貴方を見てきたことも言えた。
ずっとずっと貴方を忘れることなく想いながら毎日過ごしてきたってこれでわかってもらえたはず。
「そうだったんですね。こちらこそ宜しくお願いします。いやぁ嬉しいなぁ――」
貴方は確かにそう言ってくれたよね。
私は最初こちらこそ宜しくって言ったんだからこれはもう私と一生添い遂げるって覚悟を決めてくれたってことよね? そうだよねだって私はあなたに一生を捧げる宣言のつもりだったんだもんそれに答えてくれるってことはそれを承知の上で同意したってことだもんね。
その気持ちが伝わったから『嬉しい』なんだよね。
その言葉を聞けて私も嬉しくて嬉しくてそれだけで下着が濡れそうになってきたくらいなの。
私という存在に出会えたことを喜んでもらえて、これはもうれっきとした相思相愛の仲ってことでいいよね? これからは私だけを見てくれるってことなんだよね?
告白とか求婚とかそんなもの必要ないもん。だってもうお互いの気持ちは通じ合ってるんだから。
ああ早くもっと話してデートしたい手をつなぎたいキスしたいエッチしたいデートコースはそんなに豪華じゃなくていいよちょっと駅前とかお店とかをぶらぶらするだけでいいあなたと歩けるだけで幸せだし街の有象無象に私達の幸せをみせつけることができればそれでいいもの食べ物は質がクソ高いだけの外食なんかじゃダメ割り勘とか奢るとかそういう駆け引きの話題が嫌いなんだよねあなたはうん私も大ッ嫌いそんなことで揉めるならやっぱり私の手料理のほうがいいよね私頑張って練習したんだよカレーが大好物なんだよねもちろんちゃんとわかってるんだから栄養偏らないように野菜もたっぷり入れてあげるそういう心遣いも忘れないわああでもあまり上手に作りすぎるとあなたのプライドを損ねちゃうからあえて初めは少し手加減して作るのあなたが結構料理の腕に自信持ってることは知ってるから安心して私にとってはあなたが一番なんだから出過ぎた真似なんかしちゃダメそうでないとあなたが私のこと嫌いになるかもしれないからちゃんと節度はわきまえなきゃそうそう初めては私の部屋にしようって決めてるの手料理を振る舞ったら一緒にお風呂に入って二人で身体洗いっこしようね化粧とかファッションとかは金かけてこなかったけど肌だけはちゃんとお手入れは欠かさなかったんだからだっていつあなた見られてもいいようにしないといけないんだものそれとあなたが日の焼けた褐色肌の女が好きだって知ってから日焼けサロンにも通ってたんだよこれで興奮しないわけないよねきっと私の身体の舐めるように見つめて洗いっこにかこつけて色々触ってきちゃうよね大丈夫全然気にしないよ私達は愛し合ってるんだからそれくらい当然だよ私だってあなたにいろんなところを触ってもらいたいし舐めたり揉んだりしてほしいって思ってるから十分に気持ちが高ぶったらベッドに移動していっぱいいっぱいいっぱいエッチしようねもちろん避妊具なんてつけなくていいんだよ男の子だもん初めては中出ししたいよねもちろんいいよ私も同じだからあなたがしてほしいこと全部してあげる最初は正常位がいいかな騎乗位がいいかな私はバックがいいなあなたに突かれて愛されてる自分を鏡に映して見たらきっと失神しちゃうくらい気持ちよくなっちゃうし子宮もぐんぐん下がって絶対に赤ちゃんできちゃうってくらい排卵しちゃう中出ししてくれたら私頑張って着床するからあなたの子だものきっと元気いっぱいな子に育つよねあなたは子供何人くらいほしいかな私は二人は欲しいなそれで女の子がいいの実はそうなった時のためにもう名前も考えてあるのよ一人はエリでもう一人はマナっていうの漢字はまだ決めてないけどすごく可愛いでしょやだ何言ってるのいくらなんだって娘に嫉妬するような真似なんかしないわよだってあなたが一番愛してるのは私だけだもんねそうだよねそうだよね初めての挨拶であんなに嬉しそうに接してくれたんだからそれ以上に愛情振りまく人間なんているわけないよね私があなたにとっての一番なんだもんね絶対そうだよねだから何も不安になることなんかないのこれからもこの先ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと一緒に暮らして幸せを奏でていくんだから大丈夫大丈夫ここがスタートラインでありゴールなのもう離れないもう離さないあなたは私だけのもの私はあなただけのものそれは私達が生まれたときから決まってることなの赤い糸で結ばれた運命なの運命は何があったって覆らないの絶体絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対。
なのに。
「なんなのよあの二人はよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」
私は絶叫し、さっきまで顔をうずめていた枕のカバーを引き裂いた。
そんなに力がある方では無かったので、膝で固定して何度も何度も力を込めた。
十数センチほどできた裂け目に手を突っ込み、中の羽毛をぶち撒ける。
掴んでは投げ、抉っては叩きつける。
「私が一番なのに! 私だけが彼のことを好きなのに! 私だけが好きになっていいのに! なんで邪魔するの! なんで私が知らない間に仲良くなってるのよ! 何勝手に出てきて茶々入れてんのよ、ずるいよずるいよずるいよ一緒に暮らしてるだなんて! 私はこんなにも好きなのにこんなにも愛してるのにずっと前から想ってきたのに! なんで私じゃなくてお前らなのよお前らは誰なのよお前らはいつからいるんだよお前らなんか知らないのになんでなんでなんでなんでぇぇぇぇぇッッッ!!!」
ひとしきり叫んだ後、ベッドの上で私は肩で息をしながら枕の残骸を見つめた。
頭上でひらひらと白い羽毛の雪が舞い落ちる。
私はずっと、彼を見てきた。
いつも、どんな時も。喫茶店はもちろん、買い物先や大学の教室まで。あなたの行くところにはどこでもついていった。
あなたと同じ空気を吸えるというだけで私は幸せ。あなたの姿を遠くから見られるだけで幸せ。見るたびにあなたのことがわかっていけることが幸せ。
彼を好きだと思う気持ちは誰にも負けない。誰にも譲るつもりはない。
だからこそ彼と同じ大学を目指し、同じ家に引越すことを決めた。
そうすれば、いっぱいあなたとお話できる。気兼ねなくあなたと接することができる。
その一心で必死になって勉強した。
本当はすぐにでも彼と関係を築きたかった。だけど我慢しなきゃ、夢が叶わなくなる。あの大学は難関校。ちょっとでも気を抜けば、一巻の終わり。
だからそのために、私は秋入学試験間近の一夏の間、彼へのストーキングをやめた。
喫茶店にも、大学にも、彼の家にも……彼が行きそうなところへは一切足を運ばず、ほぼ女子寮にこもって勉強した。だってそうでないと気が緩んじゃいそうだったから。
それが、こんな……こんなことになるなんて……!
いきなり現れた二人の留学生と名乗る女達。
ホームステイなんて言ってたけど……絶対嘘。
私にはわかるもん。
あいつらは……私と同じ臭いがする。
……。
「いや! 違う! 違う違う違う!」
そう思いかけた私は激しく首を振った。
同じなわけがない!
あんな奴らと私は違う! 私の愛は誰にも負けない。どんな奴らにだって私の彼への好意には及ばない!
今はこうでも、最後はきっと彼だって私を選ぶに決まってる。
そうだよね? だってあなたは私の運命の人だもの。
私にはあなたしかいないように、あなたにだって私しかいないはずだよね?
そう、全ては運命。
私達が結ばれることは全て決まっているの……。
あなたと初めて会ったあの日。
あの出来事から、ずっと。
そして私は部屋の中を見渡す。
引っ越しが済んできれいに整えられた、2LDKのリビング。大学生として、これから暮らす私の新しい家。
特に物珍しいものもなく、必要最低限のものだけが揃ったシンプルな部屋。
机、テレビ、PC、ベッド、タンス……。
そして。
それら及び壁と天井に無数に貼られた……彼の写真。
笑った顔、困り顔、怒り顔……。
色んな彼がいつも私を見つめてくれてる。
これさえあれば……何も要らない。
本物の彼と結ばれたら……この写真達すら必要なくなるだろう。
ここに越してくればそうなると思ってたのに。
私は荒い息を吐きながら自分の左の人差し指と中指を見つめた。
さっきゴミ袋を渡した時、軽く触れた指。
あの人の体温が、匂いが、細胞がまだ残ってる……愛しいあの人の……身体の一部が!
「……っっ!」
既に彼のことで頭がいっぱいだった私に、それを舐め、咥え、しゃぶることは何ら不思議なことではなかった。
「はぁっ♥ はぁっ♥ ふぁぁぁ♥」
嬌声が抑えられない。部屋中に私の甘い声が響き渡る。
隣から苦情が来ようが知ったことか。今の私にはそんなことはどうでもいい。
好き。
好きっ好きっ!
あなたのことが大好き……!
想えば想うほど、とりとめもなく彼への気持ちが奥から奥から湧き出てくる。
すんすんと匂いをかぎ、彼の残り香を目一杯堪能する。
頭がクラクラしてきた。まともに思考ができなくなる。
もっとあなたを感じたい! もっと……もっともっともっと!
我慢できなくなった私は仰向けになると、口内に拘束していた左指を解放した。
そのまま右手でスカートをめくりあげ、履いていたスキャンティを少しだけ降ろして自らの秘部を曝け出す。
そして。
「んっ……んんっ♥……んんぅーーっッ♥」
耐え難い快感とともに、ものの数秒で絶頂に達した。
毎日欠かさずやってた彼の写真に囲まれながらの自慰行為。今回のはこれまでに類を見ないオーガズムだった。
彼が直接私の膣内に入ってきたのだ、興奮しないわけがない。
シーツにどんどん私から噴き出た液体が染み渡っていく。
それは私と彼が結ばれた証。私から彼への想いの深さの表れ。
本当は直接したかったけれど……まだ今日はその時じゃないみたい。
悔しいなぁ、彼自身はこの真上の部屋にいるってのに……こんなんで我慢しなきゃいけないなんて悔しいなぁ。
それもこれも全部……あいつらのせい。
木村渚……だっけ? あっちの方は彼が全然相手にしてないからどうでもいい。
だけどあの二人組はダメ。絶対に許さない。あんな奴らに彼は渡さない。
邪魔立てするなら……。
「殺す……」
ボフン!
と、破れて中身が飛び散った枕に私の拳が打ち下ろされた。
いつかはこの拳を……あいつらに……!
「できるわけないわよ」
突如そんな声が響いた。
もう聞き慣れた……いや、聞き飽きたいつもの声だ。
あたしは首だけ動かして声の主を見る。
「いっつもあんたはそう。そうやって人のいないところで不平不満を喚き散らすだけ。肝心なときには何にもできやしない」
そいつは椅子に座ってだらしなくもたれかかりながら、挑発的な目つきでこちらを見つめていた。
私はそいつに背を向けるように寝返りをうつ。こいつの顔は見るだけで吐き気がする。
「さっきの挨拶だって何よ。まともに見られたもんじゃなかったわ。終始オドオドしてて、何言ってるのかさっぱりわからない。よくそれでそこまでポジティヴな思考ができるもんだわね」
「うるさい!」
怒鳴っても、そいつはお構いなしにお喋りを止めない。
「少なくともあんたなんかよりあいつらの方がよっぽど彼にお似合いだと思うけどねぇ。ちゃんと普通に会話もできないようじゃ同じ土俵にすら立てない――」
「うるさいっつってんでしょ!!!」
私は飛び起きてそいつに枕を投げつけた。
だが、すんでのとこでかわされた。
ガシャン!! と音がして、代わりに命中した姿見が倒れる。
「短気ねぇ。図星刺されたからって怒りなさんな。あたしに当たったって状況は変わんないわよ」
彼女はニヤニヤと笑いながらベッドに腰掛けると、私の頬にそっと手を添えた。
「落ち着きなさいよ。あたしはあんたの味方だから。力になったげる」
「……どういうことよ?」
「あの二人組……リファレンス? あとクローラだっけ? あいつら自己紹介のときなんて言ってた? どこの国の出身だったって?」
「……わい、やーど」
「そう、ワイヤード」
にい、と口の端を歪めて彼女はベッドから立ち上がった。
「偶然か、それとも必然か……いや、これこそを運命と呼ぶのかもしれないわね」
「……何が言いたいの?」
「あんたが言ってた『あいつらは同じ臭いがする』ってやつ……あながち間違いじゃなかったってことよ」
「……」
「こことは違う異世界の人間……あんたにはちょいと相手が悪いわ。こういう時こそあたしの出番」
彼女はべろりと長く尖った舌を剥き出しにして自分の唇を舐め、自慢げに言った。
「そう、同じ異世界人であるあたしのね」
軽く自分の胸を叩いて奴は私の前に立つ。
そして前かがみの姿勢になって私に視線を合わせると、こつんと額をぶつけた。
「バトンタッチよ、あたしのパートナーさん」
たしかにちゃんと計画通りできてた。
挨拶は完璧だった。
名前も噛まずに言えた。
ちゃんとこれからお世話になりますって言えた。
同じ大学に通うってことも言って一人の後輩として認識してもらえた。
そして今までずっと貴方を見てきたことも言えた。
ずっとずっと貴方を忘れることなく想いながら毎日過ごしてきたってこれでわかってもらえたはず。
「そうだったんですね。こちらこそ宜しくお願いします。いやぁ嬉しいなぁ――」
貴方は確かにそう言ってくれたよね。
私は最初こちらこそ宜しくって言ったんだからこれはもう私と一生添い遂げるって覚悟を決めてくれたってことよね? そうだよねだって私はあなたに一生を捧げる宣言のつもりだったんだもんそれに答えてくれるってことはそれを承知の上で同意したってことだもんね。
その気持ちが伝わったから『嬉しい』なんだよね。
その言葉を聞けて私も嬉しくて嬉しくてそれだけで下着が濡れそうになってきたくらいなの。
私という存在に出会えたことを喜んでもらえて、これはもうれっきとした相思相愛の仲ってことでいいよね? これからは私だけを見てくれるってことなんだよね?
告白とか求婚とかそんなもの必要ないもん。だってもうお互いの気持ちは通じ合ってるんだから。
ああ早くもっと話してデートしたい手をつなぎたいキスしたいエッチしたいデートコースはそんなに豪華じゃなくていいよちょっと駅前とかお店とかをぶらぶらするだけでいいあなたと歩けるだけで幸せだし街の有象無象に私達の幸せをみせつけることができればそれでいいもの食べ物は質がクソ高いだけの外食なんかじゃダメ割り勘とか奢るとかそういう駆け引きの話題が嫌いなんだよねあなたはうん私も大ッ嫌いそんなことで揉めるならやっぱり私の手料理のほうがいいよね私頑張って練習したんだよカレーが大好物なんだよねもちろんちゃんとわかってるんだから栄養偏らないように野菜もたっぷり入れてあげるそういう心遣いも忘れないわああでもあまり上手に作りすぎるとあなたのプライドを損ねちゃうからあえて初めは少し手加減して作るのあなたが結構料理の腕に自信持ってることは知ってるから安心して私にとってはあなたが一番なんだから出過ぎた真似なんかしちゃダメそうでないとあなたが私のこと嫌いになるかもしれないからちゃんと節度はわきまえなきゃそうそう初めては私の部屋にしようって決めてるの手料理を振る舞ったら一緒にお風呂に入って二人で身体洗いっこしようね化粧とかファッションとかは金かけてこなかったけど肌だけはちゃんとお手入れは欠かさなかったんだからだっていつあなた見られてもいいようにしないといけないんだものそれとあなたが日の焼けた褐色肌の女が好きだって知ってから日焼けサロンにも通ってたんだよこれで興奮しないわけないよねきっと私の身体の舐めるように見つめて洗いっこにかこつけて色々触ってきちゃうよね大丈夫全然気にしないよ私達は愛し合ってるんだからそれくらい当然だよ私だってあなたにいろんなところを触ってもらいたいし舐めたり揉んだりしてほしいって思ってるから十分に気持ちが高ぶったらベッドに移動していっぱいいっぱいいっぱいエッチしようねもちろん避妊具なんてつけなくていいんだよ男の子だもん初めては中出ししたいよねもちろんいいよ私も同じだからあなたがしてほしいこと全部してあげる最初は正常位がいいかな騎乗位がいいかな私はバックがいいなあなたに突かれて愛されてる自分を鏡に映して見たらきっと失神しちゃうくらい気持ちよくなっちゃうし子宮もぐんぐん下がって絶対に赤ちゃんできちゃうってくらい排卵しちゃう中出ししてくれたら私頑張って着床するからあなたの子だものきっと元気いっぱいな子に育つよねあなたは子供何人くらいほしいかな私は二人は欲しいなそれで女の子がいいの実はそうなった時のためにもう名前も考えてあるのよ一人はエリでもう一人はマナっていうの漢字はまだ決めてないけどすごく可愛いでしょやだ何言ってるのいくらなんだって娘に嫉妬するような真似なんかしないわよだってあなたが一番愛してるのは私だけだもんねそうだよねそうだよね初めての挨拶であんなに嬉しそうに接してくれたんだからそれ以上に愛情振りまく人間なんているわけないよね私があなたにとっての一番なんだもんね絶対そうだよねだから何も不安になることなんかないのこれからもこの先ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと一緒に暮らして幸せを奏でていくんだから大丈夫大丈夫ここがスタートラインでありゴールなのもう離れないもう離さないあなたは私だけのもの私はあなただけのものそれは私達が生まれたときから決まってることなの赤い糸で結ばれた運命なの運命は何があったって覆らないの絶体絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対。
なのに。
「なんなのよあの二人はよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」
私は絶叫し、さっきまで顔をうずめていた枕のカバーを引き裂いた。
そんなに力がある方では無かったので、膝で固定して何度も何度も力を込めた。
十数センチほどできた裂け目に手を突っ込み、中の羽毛をぶち撒ける。
掴んでは投げ、抉っては叩きつける。
「私が一番なのに! 私だけが彼のことを好きなのに! 私だけが好きになっていいのに! なんで邪魔するの! なんで私が知らない間に仲良くなってるのよ! 何勝手に出てきて茶々入れてんのよ、ずるいよずるいよずるいよ一緒に暮らしてるだなんて! 私はこんなにも好きなのにこんなにも愛してるのにずっと前から想ってきたのに! なんで私じゃなくてお前らなのよお前らは誰なのよお前らはいつからいるんだよお前らなんか知らないのになんでなんでなんでなんでぇぇぇぇぇッッッ!!!」
ひとしきり叫んだ後、ベッドの上で私は肩で息をしながら枕の残骸を見つめた。
頭上でひらひらと白い羽毛の雪が舞い落ちる。
私はずっと、彼を見てきた。
いつも、どんな時も。喫茶店はもちろん、買い物先や大学の教室まで。あなたの行くところにはどこでもついていった。
あなたと同じ空気を吸えるというだけで私は幸せ。あなたの姿を遠くから見られるだけで幸せ。見るたびにあなたのことがわかっていけることが幸せ。
彼を好きだと思う気持ちは誰にも負けない。誰にも譲るつもりはない。
だからこそ彼と同じ大学を目指し、同じ家に引越すことを決めた。
そうすれば、いっぱいあなたとお話できる。気兼ねなくあなたと接することができる。
その一心で必死になって勉強した。
本当はすぐにでも彼と関係を築きたかった。だけど我慢しなきゃ、夢が叶わなくなる。あの大学は難関校。ちょっとでも気を抜けば、一巻の終わり。
だからそのために、私は秋入学試験間近の一夏の間、彼へのストーキングをやめた。
喫茶店にも、大学にも、彼の家にも……彼が行きそうなところへは一切足を運ばず、ほぼ女子寮にこもって勉強した。だってそうでないと気が緩んじゃいそうだったから。
それが、こんな……こんなことになるなんて……!
いきなり現れた二人の留学生と名乗る女達。
ホームステイなんて言ってたけど……絶対嘘。
私にはわかるもん。
あいつらは……私と同じ臭いがする。
……。
「いや! 違う! 違う違う違う!」
そう思いかけた私は激しく首を振った。
同じなわけがない!
あんな奴らと私は違う! 私の愛は誰にも負けない。どんな奴らにだって私の彼への好意には及ばない!
今はこうでも、最後はきっと彼だって私を選ぶに決まってる。
そうだよね? だってあなたは私の運命の人だもの。
私にはあなたしかいないように、あなたにだって私しかいないはずだよね?
そう、全ては運命。
私達が結ばれることは全て決まっているの……。
あなたと初めて会ったあの日。
あの出来事から、ずっと。
そして私は部屋の中を見渡す。
引っ越しが済んできれいに整えられた、2LDKのリビング。大学生として、これから暮らす私の新しい家。
特に物珍しいものもなく、必要最低限のものだけが揃ったシンプルな部屋。
机、テレビ、PC、ベッド、タンス……。
そして。
それら及び壁と天井に無数に貼られた……彼の写真。
笑った顔、困り顔、怒り顔……。
色んな彼がいつも私を見つめてくれてる。
これさえあれば……何も要らない。
本物の彼と結ばれたら……この写真達すら必要なくなるだろう。
ここに越してくればそうなると思ってたのに。
私は荒い息を吐きながら自分の左の人差し指と中指を見つめた。
さっきゴミ袋を渡した時、軽く触れた指。
あの人の体温が、匂いが、細胞がまだ残ってる……愛しいあの人の……身体の一部が!
「……っっ!」
既に彼のことで頭がいっぱいだった私に、それを舐め、咥え、しゃぶることは何ら不思議なことではなかった。
「はぁっ♥ はぁっ♥ ふぁぁぁ♥」
嬌声が抑えられない。部屋中に私の甘い声が響き渡る。
隣から苦情が来ようが知ったことか。今の私にはそんなことはどうでもいい。
好き。
好きっ好きっ!
あなたのことが大好き……!
想えば想うほど、とりとめもなく彼への気持ちが奥から奥から湧き出てくる。
すんすんと匂いをかぎ、彼の残り香を目一杯堪能する。
頭がクラクラしてきた。まともに思考ができなくなる。
もっとあなたを感じたい! もっと……もっともっともっと!
我慢できなくなった私は仰向けになると、口内に拘束していた左指を解放した。
そのまま右手でスカートをめくりあげ、履いていたスキャンティを少しだけ降ろして自らの秘部を曝け出す。
そして。
「んっ……んんっ♥……んんぅーーっッ♥」
耐え難い快感とともに、ものの数秒で絶頂に達した。
毎日欠かさずやってた彼の写真に囲まれながらの自慰行為。今回のはこれまでに類を見ないオーガズムだった。
彼が直接私の膣内に入ってきたのだ、興奮しないわけがない。
シーツにどんどん私から噴き出た液体が染み渡っていく。
それは私と彼が結ばれた証。私から彼への想いの深さの表れ。
本当は直接したかったけれど……まだ今日はその時じゃないみたい。
悔しいなぁ、彼自身はこの真上の部屋にいるってのに……こんなんで我慢しなきゃいけないなんて悔しいなぁ。
それもこれも全部……あいつらのせい。
木村渚……だっけ? あっちの方は彼が全然相手にしてないからどうでもいい。
だけどあの二人組はダメ。絶対に許さない。あんな奴らに彼は渡さない。
邪魔立てするなら……。
「殺す……」
ボフン!
と、破れて中身が飛び散った枕に私の拳が打ち下ろされた。
いつかはこの拳を……あいつらに……!
「できるわけないわよ」
突如そんな声が響いた。
もう聞き慣れた……いや、聞き飽きたいつもの声だ。
あたしは首だけ動かして声の主を見る。
「いっつもあんたはそう。そうやって人のいないところで不平不満を喚き散らすだけ。肝心なときには何にもできやしない」
そいつは椅子に座ってだらしなくもたれかかりながら、挑発的な目つきでこちらを見つめていた。
私はそいつに背を向けるように寝返りをうつ。こいつの顔は見るだけで吐き気がする。
「さっきの挨拶だって何よ。まともに見られたもんじゃなかったわ。終始オドオドしてて、何言ってるのかさっぱりわからない。よくそれでそこまでポジティヴな思考ができるもんだわね」
「うるさい!」
怒鳴っても、そいつはお構いなしにお喋りを止めない。
「少なくともあんたなんかよりあいつらの方がよっぽど彼にお似合いだと思うけどねぇ。ちゃんと普通に会話もできないようじゃ同じ土俵にすら立てない――」
「うるさいっつってんでしょ!!!」
私は飛び起きてそいつに枕を投げつけた。
だが、すんでのとこでかわされた。
ガシャン!! と音がして、代わりに命中した姿見が倒れる。
「短気ねぇ。図星刺されたからって怒りなさんな。あたしに当たったって状況は変わんないわよ」
彼女はニヤニヤと笑いながらベッドに腰掛けると、私の頬にそっと手を添えた。
「落ち着きなさいよ。あたしはあんたの味方だから。力になったげる」
「……どういうことよ?」
「あの二人組……リファレンス? あとクローラだっけ? あいつら自己紹介のときなんて言ってた? どこの国の出身だったって?」
「……わい、やーど」
「そう、ワイヤード」
にい、と口の端を歪めて彼女はベッドから立ち上がった。
「偶然か、それとも必然か……いや、これこそを運命と呼ぶのかもしれないわね」
「……何が言いたいの?」
「あんたが言ってた『あいつらは同じ臭いがする』ってやつ……あながち間違いじゃなかったってことよ」
「……」
「こことは違う異世界の人間……あんたにはちょいと相手が悪いわ。こういう時こそあたしの出番」
彼女はべろりと長く尖った舌を剥き出しにして自分の唇を舐め、自慢げに言った。
「そう、同じ異世界人であるあたしのね」
軽く自分の胸を叩いて奴は私の前に立つ。
そして前かがみの姿勢になって私に視線を合わせると、こつんと額をぶつけた。
「バトンタッチよ、あたしのパートナーさん」
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