45 / 123
レベル4.女騎士と女奴隷と日常①
12.女騎士とInstagram
しおりを挟む
だいぶ前。
スマホを見ながら、リファが唐突に言い出した。
「毎度思うのだが、この世界の絵の技術というのは凄まじいな」
「……は?」
俺は反射的に短くそう返して振り向くと、彼女はムフーと鼻息を吐いた。
「だってほら、Twitterを見ていると、たまにものすごく精巧な絵が流れてくることがあるのだぞ」
「精巧な絵……?」
絵師なんかフォローしてたっけこいつ?(安全のため、リファのフォローするアカウントは俺が厳しく管理している)
どれどれ、と俺が彼女の示す「絵」とやらを見てみると……。
「なんだ、写真じゃん」
「しゃしん?」
言った途端にリファは首を傾げた。
彼女が示していたのは、「今日もいい天気」というツイート文に添付された、どうってことない外の風景の画像である。
しかし、どうやら写真を見るのが初めてらしいリファレンス・ルマナ・ビューアの目には、非常に珍しいものとして写っていたらしい。
彼女の話を聞く限り、ワイヤードは現代の18~19世紀程度の文明を持っている。
写真の発明も大体そのくらいのはずだったから、知らないとしても無理はないか。
「写真っていうのは、絵とは違ってこんな風に正確に風景とか物を写し出す技術だよ」
「正確に写す……?」
いまいちピンとこないみたいだったが、俺もどうやって説明したらいいか迷っていた。
そうだなー……。
「例えばさ、俺達がこうやって物や周りの景色を見ることができるのは何でだと思う?」
「何でと言われても……。目に映るから、じゃないのか」
「そうだね。それもそうだけど……じゃあこうやって……」
俺はそこで部屋のカーテンを閉め、電気も消した。
今は夜のため、室内はほぼ真っ暗に。
「こうして周りを暗くすると、目には映らなくなるよな。それは何でだ?」
「……? そんなの、暗いからに決まってるだろう……」
「そうなんだけど、光がなくて暗いと何で見えないのかって話」
「……わからんな。至極当たり前のこと過ぎて……」
まぁそうだよね。だけど、そういうところを突き詰めて考えることが現代技術理解への一歩でもある。
「正解は、物が光を反射しないから」
「光を……反射」
「そう。太陽の光でも電気の光でも、物は自分に当たる光を全部跳ね返してるんだ」
俺は部屋の明かりを再度つけ、リビングのダッシュボードに置いてあった手鏡 (リファの)を手にとって見せる。
「こういう鏡みたいなもんだよ。部屋の光が当たると……な」
「わわっ」
鏡を傾け、鏡面で反射した光をリファの顔面に当てると、彼女は眩しそうに目をつむった。
「でもこれは鏡に限った話じゃなくて、すべてのものに言えることなんだ。皆光を反射して、それが目に届く。だから見えるようになるんだよ」
「……はぁ」
リファは肩眉をひそめながら唸るように相槌を打った。
「で、それがしゃしん、とやらとなんの関係が?」
「写真の原理は、物を反射した光をフィルムっていう……まぁ薄い板みたいなもんに焼き写すんだよ。そうすることで、風景や物を収めることができる」
「ふぃるむ……」
「要は、俺らが普段使ってる目の役割と同じさ。目に映る物を、目じゃなくて代わりにフィルムに写す。それが写真の始まりだったんだ」
と、言葉だけで言ってもうまく想像できないだろうから、実物を見せることにしよう。
えっと……ダッシュボードの中にあったはず……。
「お、あったあった。これがフィルムな」
大昔撮った時のネガとスナップを一組引っ張り出して、リファに見せる。
「これが……」
「この黒っぽいのがフィルム。これに写ったものを、こっちの厚紙みたいなのに印刷して写真ができあがるってわけ」
もっとも、今はデジタル化が進んでるから、現像なんて処理はほぼ廃れてるんだけどね。
「……目に見えるものを、収める、か……この精巧過ぎる絵は、見たものをもとに描いているのではなく、風景その物を直接写しているということだな」
「そう。目に見えるものは常に変化していくものだ。でも写真は、一回写したらそのまんま。写したものを、いつまでも保存しておける。絵みたいにね」
「なるほど……」
顎に手を当てて彼女は小さく二度三度頷いた。
原理はともかく、どういうものかくらいはわかってもらえたようだ。
「しかし、何故にそのようなものを? 精巧さ以外は、絵に描くのとほぼ変わらないのだろう?」
「……リファは絵を描いたことってある?」
軍人がそんなものを趣味にしているとも思えなかったが、案の定女騎士は静かに首を横に振った。
「私自身は何も。ただ、一時期帝国お抱えの宮廷画家の護衛を務めてたんだが、その時に何度か作業に立ち会うことはあったな」
「なるほどね。じゃあその人が絵を完成させるまでに、どれだけかかってた?」
「まぁ……数日はかかってたな。最初から最後まで見たわけではないが」
「うん。まぁ大体それぐらいだな。じゃあこの写真はどれだけ時間がかかるんだろうね?」
リファは腕を組んで大仰に考え込んだ。
そして片目を開けて、
「一般的な写生で数日だから……おそらくその10倍、いや20倍はかかるのではないか?」
「一秒だ」
「は?」
「一秒。いや、それよりも短いかな」
俺が自慢げに言うと、にわかには信じがたいといったようにリファは顔をひきつらせる。
「な、何を言ってるのだ……冗談はやめてくれ」
「冗談なんかじゃないさ。じゃあちょっと撮ってみよう。リファ、スマホ貸して」
「すまほを? あ、ああ……」
怪訝そうにスマホを手渡すリファ。
Twitterも解禁して暫く経つし、これぐらいはいいだろ。
そう思いながら、俺は素早く画面を操作し、機能制限を解除する。
「はい。お前のスマホに新しい能力をつけた」
「……?」
リファがディスプレイを覗き込むと、メニュー画面に浮かび上がった「新たな力」がその目に映る。
「かめ、ら?」
「そう。カメラ。写真を取るための機能さ」
「写真を、って………これでか!?」
素っ頓狂な声を上げて、彼女は自らのスマホを指差した。
「ああ。試しに起動してみな」
「……」
リファは恐る恐るアイコンをタッチして、人生初のカメラを駆動した。
一瞬の暗転の後、彼女のスマホの画面に映像が表示される。
「うぉ!? な、なんだこれ!」
一瞬混乱して、危うくスマホを落っことしそうになるリファ。
しばらく目をぐるぐるさせながら、スマホを凝視したり動かしたりすること約1分。
ようやくそれが、今自分がいるこの室内を映し出していることに気付いたようだ。
「これ……この部屋の中ではないか……え? えぇ?」
まだ信じられないのか、今度はしきりにスマホの表面と裏面とを交互に確認し始める。
「あ、穴が開いてるわけではない……では一体どうやってこの風景が……」
「ほら、裏のここにちっこい黒丸があるだろ。これがレンズ……このスマホの目みたいなものだ」
「お、これか! ……すまほにも目があったのだな」
「まぁね。で、カメラを起動中はこのレンズに映るものが画面に出る。あとは撮りたいもんにそれを向けて……この白い丸を押せばいい」
と言って、画面上のシャッターボタンを示すと、リファは丸くした目をこっちに向けた。
「それだけでいいのか?」
「ああ、試しにそれでも撮ってみな」
俺はちゃぶ台の上に置いてあるカップを指差した。
リファはぎこちない動きでカメラをそれに向ける。
そしてうまく画面の中心に収まるよう照準を合わせて、ロックオン。
「え、えい!」
ピコン♪
という軽い音がした。
撮影完了。これで今の画像は保存されたはずだ。
「……? え、何だ今の音……」
「これで終わりだよ。カップの写真が撮れたってことさ」
画面の左下に小さく表示されている、今撮影した写真をタップして拡大。
すると、リファがたった今カメラに収めたカップが綺麗に映し出されていた。
「これが、写真……」
「そうだよ。な、一瞬だったろ」
「信じられない……たった一動作で……絵よりも精巧なものを……」
感嘆の息を漏らしながら、リファはその何の変哲もないカップの写真を見つめた。
ぶっちゃけ、今の時代の人間からしても驚くべき技術であることは否めない。
昔はカメラに収めただけじゃ終わらなかったもん。
休みの日に親に頼んでフィルムを写真屋さんに渡してもらって、何十分も待ってから写真を受け取って……。
一朝一夕じゃ済まなかった作業が、今じゃボタン一つでできちゃうんだもん。かがくのちからってすげー。
「あれ、こんな風に紙に写したりは出来ないのか?」
「できるっちゃできるけど、それにはプリンターっていって……まぁ印刷するためのキカイが必要なんだ。うちにはないから出来ないけど、まぁスマホで見るだけでもいいだろ?」
「そ、それもそうだな……」
リファは言うと、また次々と部屋の中の写真を撮り始めた。
時計、テレビ、カーテン、扇風機……。写すたびに彼女はどんどんテンションが上っていく。すっかりカメラの虜になってしまったようだった。
「こんなに素晴らしいものを私でも簡単に扱えるなんて、やっぱりこの世界のキカイはすごいな、マスター!」
「ははは、よかったなリファ」
そんな風に、また一つ新たな文化を覚えてはしゃぐ女騎士を、俺は温かい目で見つめるのだった。
○
ある日。
「熱しやすく冷めやすいってのはこーゆーのをいうのかな」
「ん?」
何気なく呟くと、ベッドに寝転んでジャンプを読んでいたリファが返事をした。
俺はちゃぶ台に放置してある彼女のスマホを顎でしゃくった。
「写真。撮らねーの?」
「……ああ」
結局リファが写真を撮ったのは初日だけだった。
次の日にはカメラすら起動しない。三日坊主もびっくりな飽きっぷりである。
「確かにシャシンは便利なものだ。物を一瞬で写し、保存できる。だがそれを必要とする人間とそうでない人間がいるというのもまた然り」
女騎士はごろんと寝返りを打ちながらなんか語り始めた。
「あれからシャシンというものがワイヤードにあったら、と色々考えた。敵地の偵察だったり、貴族の肖像画にしたり、学術書の図解として載せたり……」
「はぁ……」
「だが、今の私にはどうも必要なさそうだ」
「必要ないって……」
「部屋にある物、この辺の近所の風景。そんなのを取っておいて何になる? いつだって見られるだろう」
まぁそうだけども。必要のあるなしで考えるもんじゃなくね?
確かに実用的な面で言えば、今のリファには使いみちはないだろう。でも、写真撮影の目的ってのはそれだけじゃない。
「例えば?」
「そりゃ、純粋に趣味でさ」
「趣味で……?」
「きれいなものや美しいと感じたものを写真という形で残す。それを楽しんでやってる人もいるんだよ」
「暇なんだな」
一日中漫画読み腐ってるオメーにそう言われるとは、写真家さん方も夢にも思ってねーだろーよ。
「ですが、画家の方のように好きで絵を描いてる人もワイヤードにはいらっしゃいましたし。同じくシャシンを好きで撮っていらっしゃる人もいるだろうというのは、なんとなく理解できます」
そう横から口を挟んできたのは、女奴隷ことクローラだった。
彼女は洗浄した牛乳パックをハサミで切り開きながら言う。
「それに、絵を描くよりも簡単にできるのですから、それを趣味にしておられる方は結構大勢いるのでは? ご主人様」
「察しが良いな。そのとおりだ。スマホでお手軽にいつでも撮影できるこの時代……写真を撮るのを生きがいみたいにしてる奴らはごまんといる」
そして、と区切って、俺は人差し指を立てた。
「そういう奴ら向けのコミュニティもできるわけだ」
「こみゅにてぃ……ですか」
「同じ趣味の奴ら同士がこぞってワイワイやる集まりみたいなもんだ。それが……」
リファのスマホを取り、とあるアプリをダウンロードする。
そのまま起動し、アカウント登録まで済ませて……と。
……よし、完了。
「ほれ、リファ」
「何だ……わっ」
ベッドから上半身だけを起こした彼女に、スマホを放り投げる。
慌ててキャッチしたそれを、リファは訝しげに確認。
「いんすた……ぐらむ?」
「そ。Instagram。写真愛好家達のコミュニティツールだ」
「なんでこんなものを……」
「まぁ見てみろって」
リファは面倒くさそうに画面を操作。初めてのインスタを体験した。
途端。目の色が変わった。
「な、何だこれは!? シャシンがいっぱいある!」
「それがInstagram。色んな人が自分で取った写真を好き勝手投稿していくものだ」
「すごい。まるですまほの中で美術展でも開いてるような感じだな!」
言い得て妙な例え。
さながらポケット写真館。クオリティもバカにできないから面白いんだよな。
「もちろん、お前も写真を投稿できるぞ」
「私も!?」
「ああ。今まで撮ってきたのあるだろ。それ投稿してみなよ」
「え、あれをか!? で、でも……案の変哲もない家具とか食べ物とかのシャシンしかないぞ……」
「そういうのでいいんだよ」
「へ?」
「よく見てみ。他の人が上げてる写真も、別にそんな大仰なもんでもないだろ」
俺の言ったとおり、リファが見ているその写真群はどれも料理とかペットとか近所の公園とか、一般人なら誰だって撮影可能なものばかりであった。
「ほんとだ……よくよく見れば」
「で、そういう写真に、皆がコメントしたりされたりして、交流を深めるわけ」
「こめんと……?」
「Twitterのリプライみたいなもんだ。ほら」
俺はとある投稿写真(ペットの犬)のコメント欄をタップするよう促す。
すると……。
・Automatico M1918
かわいい~♡
・SMLE MKⅢ
もふもふした~い!
・Mosin-Nagant
やばい萌え死ぬ(わら
・Chauchat
It's so cute!
・Selbstlader 1906
かわいいですね! コーギーですか?
「な。こんな風に投稿した写真を共有することで、盛り上がれるってわけ」
「すごいですね。こんなことで一喜一憂できるなんて。おめでたいというか、羨ましいです」
と、さり気なくインスタ利用者をDisるクローラさん。こいつ度々無意識に毒吐くよな。
とはいっても、たしかにつまんない人にはつまんないからなぁ。
そもそも写真を撮るのがそんな興味ないというリファには、勧めても無駄だったか。
と、思ったのもつかの間。
「す、素晴らしいぞ!!」
女騎士は目を輝かせながら立ち上がった。そりゃもう俺もクローラも引くくらい。
「1枚のシャシンでこんなにも多くの賞賛が得られるとは! この世界でのシャシンというものの付加価値を私は見くびっていたようだ!」
「え、あ、まぁ……」
「マスターマスター! 私もシャシンをここに上げてみたいぞ! どうやるのだ?」
「あー、左上の投稿ボタンを押して……」
ものすごい勢いで訊いてくるリファに気圧され、俺はたじろぎながらもやり方を説明した。
その他にもフォロー、コメント投稿、いいねなどなど。一通りのレクチャーを教え込まれた彼女はさっそくインスタに初写真をアップ。
上げたのは、一番最初に撮ったちゃぶ台の上のカップ。添えたコメントは以下。
『お気に入りのマグカップ♡』
「こ、こんなんでいいのかな」
「いいんじゃな~い(ギター侍風)」
「こ、こめんととか……つくかな。つくといいな」
「そんなすぐには無理だよ。まだ始めたばっかなんだし、来たら通知が鳴るようになってるから、それで……」
ピコリン♪
来た。
マジかよオイ。投稿何秒後だよ。
コメント打つ時間はあったにしても、写真を見て何か感じて、コメント考えるまでが1フローだろ。なんだこの投稿されるのを前々から予測してましたよと言わんばかりの速さ!
何、インスタ民ってそこまで脳神経が研ぎ澄まされてんの? 利用者全員ニュータイプ持ってたりすんの?
で、その超感覚をお持ちのコメント投稿者さんは一体どのような感想を……。
・Wood_Village
超いいじゃん! 恋人からの贈り物かなんか?
……めちゃくちゃ馴れ馴れしいな。
まぁインスタの民度なんてたかが知れてるし、これくらい……。
いや待てよ、確かTwitterん時でも同じことあったなそういや……。前は確かFF外からリプ飛ばしてきた奴にブチキレてたんだっけ。
まさか今回も……。
と、波乱の展開を危惧した俺はリファの反応を伺う。
が。
「こ、ここここここ恋人だなんて! そ、そそそそそそそんなわきゃにゃいだりょ! にゃにをいってるのだこいちゅっ!」
顔を真っ赤にして絶賛取り乱し中でござった。
コメント一つでこんな反応できるなんて幸せだねホント。投稿者冥利に尽きるって感じ?
「まぁ何はともあれよかったじゃない。返信すれば?」
「へ、へんしん? あ、ああ。もちろん返すとも」
「なんて?」
「ば、バカ見るなっ! あっち向いてろバカマスター!」
先程よりも更に顔を紅潮させて、リファは手をブンブン振った。主の忠誠心はどこいったよ女騎士。
「こいびと……ふへへ……」
ものすごい気持ち悪い笑みを浮かべながら文字をタイピングする彼女。
で、返事を打ち終えた後、すぐさまベッドから飛び降りた。
「よし! 出かけるぞ」
「はい?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。何しに行くんだよ。
「決まってるだろ。シャシンを撮りに行くのだ」
「え?」
「外でたくさんシャシンを撮って、このいんすたぐらむに上げるのだ! きっともっといっぱいこめんとがもらえるぞっ♪」
「でもリファさん……」
おずおずとクローラが挙手しつつ言う。
「外、雨ですよ……」
そう。外はしとしとと雨が降り注いでいる。
別に激しいというレベルではないが、外出するには適さない天気だ。
だがインスタの魅力に取り憑かれたっぽいリファには、そんなことは瑣末なことだったらしい。
「何を言っているクローラ! こんな時のための傘と雨合羽だろうが!」
「えー……」
まずいな、紹介するタイミングを誤ったようだ。どうせならもっと晴れ渡った空の日に勧めてあげるんだったよ、迂闊。
「それに、雨なら雨の日にしか見られない風景というものもあるだろう! これは絶好のチャンスだ。ほら行くぞ二人共!」
ああくそこいつ人の話聞く気ねぇわ。完全にマイワールド入っちゃってるわ。
リファはベルトのホルスターに100均ソードを装着し、クローゼットから雨合羽を取り出すと颯爽と装備した。
こうなったら手ぇつけらんねぇからなリファは。しゃぁない、ちょっとだけ付き合ってやるか。
俺はため息を小さく吐くとよっこらせ、と重たい腰を上げた。
○
「うわすごい! カタツムリだカタツムリ! あ、カエルもいたカエルも!」
めっちゃテンションアゲアゲで目に入るものをかたっぱしから激写していくリファ。
そんな彼女を、俺とクローラは一緒の傘に入りながら生暖かい目で見ていた。
「すごく楽しそうですね。前まではカタツムリもカエルも見向きもしなかったのに」
「ま、ものの見方ってのは単純なことで変わるもんさ」
「そうですね」
苦笑しながらクローラは言う。
ただリファのはしゃぐ姿を見てるのもアレなので、軽く雑談でもしていようか。
「ワイヤードにも画家はいたらしいけど、絵ってどれくらい流行ってたんだ?」
「そうですね。画家は主に一般庶民から輩出されますが、仕事先はほとんど貴族や王族の方たちがいる場所に限定されますね」
「へぇー。リファからも帝国お抱えの宮廷画家と関わり持ってたって聞いてたから、やっぱりそうなんだ。庶民はそんなに嗜まないんだね」
「ええ。普通に働く人は、絵にうつつを抜かす暇はありませんもの」
「そういうもん? でもさっき好きで絵を描いてる人もいるって言ってたじゃん」
「確かに画家の方は好きで描いておられるのでしょう。ですが、『好き』だけでは生きていけませんよ」
こちらを上目遣いで見つめながら、女奴隷は笑った。
好きだけでは生きていけない。それが意味することはつまり……。
「売れなきゃ意味ないってことか」
「おっしゃる通りです。絵を欲しがる方は貴族以上の階級の方のみ。そういう人達に買ってもらうために、どなたも必死なのですよ」
「自分の描きたいものより、買い手が望む絵を描かなければならない。ってことか」
「はい。そういう意味で葛藤する方も結構いたと思います」
それに比べて、とクローラは区切って視線をリファに戻した。
「ああやって、誰もが簡単に自分の好きなように作品を作れて、それを不特定多数の人に気に入ってもらえる。……この世界の技術は、暮らしを便利にさせるだけでなくて、娯楽に関しても様々な趣向が凝らされているのですね……」
「……ああ。インスタだけじゃない。他にももっと沢山の娯楽はあるぞ。より多くの人の『好き』で生きてけるようにな」
「ふふ、そうですね。クローラも、自分の『好き』なことを見つけられるといいなって思います」
そう二人して笑いながら語らっていると、リファが大声でこちらを呼んだ。
「おーい、何やってる! はやく次の場所に移動するぞ! ついてこーい!」
「おっと、お呼びがかかったし、行こうか」
「はい、ご主人様」
○
数十分後
「ふぅ、結構撮ったな」
この短い間で、ゆうに200枚以上も撮影したらしい。
ブレまくりなのからぼやけてるのまで様々だったが、リファ女史は満足そうだった。
今俺達がいる場所は、浅川にかかる大きな石橋「南浅川橋」の上。随分遠くまで来ちまったみたいだな。
撮った画像を一枚ずつインスタに投稿していく彼女に俺は声をかけた。
「リファ、もうこの辺にしとこうぜ。そろそろ帰ろう」
「ん? ああそうだな。うむ。これだけ集まれば大丈夫だろう」
そう言ってリファは踵を返し、帰路に着こうとした
その時、今まで降っていた雨が止んだ。
同時、空一面に広がる曇天の隙間から、眩しい日の光が差し込んできた。
「お、止んだな」
「そうみたいですね」
持っていた傘を閉じて、クローラが返事をした。リファもかぶっていたレインコートのフードを外す。
やれやれ、止むんならもっと早く止んでくれりゃよかったのに。と俺は天空に向けて無言で文句を言った。まぁ言ったってしょうがないんだけど。
「よし、じゃあ帰るか。おいリファ?」
俺は背後のリファをせかしたが、彼女はとある一点を見つめたまま微動だにしなかった。
一体どうしたんだろう。
不思議に思って、俺達は彼女の視線が向く先を見た。
そして思わず驚きの声を漏らす。
「……虹だ」
そう。川の上空を横切るように、くっきりと大きな虹がアーチを描いていた。
虹なんて久しぶりに見たな。しかもこんな間近でお目にかかれるとは。
七色の光がキラキラと煌めくその様は、まさに圧巻の一言。
「すごい……」
「綺麗です……」
リファもクローラも、あまりの美しさにため息をこぼした。
だが、パツキンの方はそれだけでは終わらなかった。
ここぞとばかりにスマホを取り出し、写真に収めんと躍起になる。
「今日はついてるぞ……まさかこんなところでこんなものが見られるなんて」
ウキウキ顔でそう言いながら彼女はカメラを起動。
そしてレンズを、その虹に向けた。
狙いはバッチリ。後はシャッターを切るだけだ。
……と、思っていたのだが。想定外の出来事が起きた。
「あ、あれ虹じゃない!」
「ホントだ!」
「やばいあれすっごい大きいよ! はやく写真撮らなきゃ!」
「あたしもあたしも!」
「早く早く! 急がないと消えちゃうよ!」
黄色い声とともに、何人かの若者達がこぞって石橋に群がり始めた。
全員が全員、ポケットやカバンからスマホを取り出し、リファと同じように虹へとカメラを向けた。
そして。
♪ピコンピコンピコンピコンピコンピコン
♪パシャパシャパシャパシャパシャパシャ
♪シャラランシャラランシャラランシャララン
奏でられるそれぞれのシャッター音のハーモニー。
狂ったように撮影者達は、シャッターボタンを連打。
その間、一切誰もしゃべらない。全くの無言。音を鳴らすのは、スマホのみ。
まるで銃器を的に向けて、一斉掃射しているようなその光景。
それを見た女騎士は……。
「あ……え……ぅ」
完全に萎縮してしまっていた。
一心不乱に撮影を続ける連中を、おたおたと見渡すばかり。
別に物理的な邪魔が入ったわけではない。ただ見えない何かが、彼女の撮影を……意欲を根こそぎ奪い去っていったのだ。
どうしていいのかわからず、焦ってしまったせいなのか、とうとう持っていたスマホを落としてしまった。
「あっ……」
女騎士は急いでしゃがみこみ、人々の足にぶつからないように這い、落ちたスマホを探す。
手をまさぐるようにして動かし、ようやく拾い上げた頃。野次馬達は撮影をとうに終えて、ばらばらに散っていった後だった。
「……」
虹はまだ消えていなかった。今ならまだ間に合う。
だが石橋の上でたった一人残されたリファは、スマホを両手で握りしめてうつむいたままだった。
結局、彼女は虹の写真を撮ることはなかった。
○
帰り道
「よかったのか? 撮らなくて」
「……ん」
何気なく訊いてみると、リファはトボトボと歩きながら小さく返事をした。
「あれだけきれいな虹だったんだ。私の他にも、撮りたいと思う奴はいてもおかしくはない」
「……そう」
「最初に虹を見た時は、すごく綺麗で、絶対に残しておかなくてはと思ったんだ。でも、彼らを見ていたら……」
そう言い、リファはスマホを取り出してInstagramを起動した。
「マスター、これ、『ぐーぐる』みたいに特定の写真を検索できたりはしないか?」
「……下の虫眼鏡のマーク」
そう言うと、彼女は立止まって俺の言ったとおりに検索フォームを開く。
そしてそこに、とあるワードを入力した。
『虹』
結果はすぐに出た。
出るわ出るわ、似たようなアングルで撮られた虹の写真。
時間、場所。まったくもって俺らがさっきまでいた場所と同じ。投稿者があの野次馬どもであることは明白だった。
「……やっぱり」
はぁ、とリファはため息を吐いた。
「皆同じような写真……この中に私の写真が加わったところで……何か意味があるんだろうか」
「……」
「他の写真も……色々な人達に知ってほしくて上げたつもりだった。でもそれも、既に数多の者が投稿しているのだな」
「リファ……」
「マスター。彼らはこんなふうに、とっくに似たようなシャシンが上がっていることを知っててやっているのか?」
「……ああ」
リファの問いに俺は静かに頷く。
「何故だ? 彼らは何のためにシャシンを撮っている!? いや、それに感想をつける者達もそうだ! なぜそうまでして似たり寄ったりなものを作り出し、それを見て楽しめるのだ!?」
「落ち着けよリファ」
俺はそう言って詰問してくる彼女をなだめた。
確かにこれは異世界人には難しい問題だったかもしれない。
写真を見たこともない人間には、なんのためにそれがあるかすら理解できない。当然のことだ。
実用性という観点で見れば、大いに役立つだろうという結論にすぐたどり着く。
だが、芸術品として見た場合、それは非常に難しい問題になる。
「確かに似たような写真ってのは世に溢れ出てる。そんな中で新たに撮った写真ってのは、一見何の価値もないように思えるだろうさ。でも違うんだよ。撮った本人には、そいつにしかわからない価値ってのがあるんだ」
「本人しかわからない、もの……? なんなのだそれは」
「それはね……」
俺は一旦そこ区切ると、小さく息を吐いて言った。
「思い出、だよ」
「……おもいで」
「うん。『私はここでこういうものを見ました』ってのは写ってるものこそありふれてるかもしれない。けれど、そこで起きた出来事ってのは、そこでしかないものなんだ。わかる?」
「……」
「だから別にあいつらはただ単に虹っていう珍しいもんを写したいんじゃない。今この時、この場所で、虹が出た場面に『自分が居合わせた』ってことを伝えたいんだ」
もちろん、この持論が100%そうかっていうとそうでもない。
実際「撮って褒められたい」ことだけを目的にしている奴だって大勢いる。
人気が出そうな写真を撮りたいがために、食べ物を粗末にしたり人に迷惑かけたり……。本当バカらしいったらありゃしない。
「そうだったのか……。皆同じように見えて、実は世界に一つだけしか存在しないものだったんだな」
「最初のカップの写真を想像してみるとわかりやすいかもな。別な奴が上げてる全く同じカップを見たとしても、写ってるものが同じだから価値も同じものだって感じるか?」
「それは違う! あれは、マスターが私に買ってくれた大切なやつで……」
「な? 自分にしかわかり得ない価値はあるだろ。そういうことだよ。だから『お気に入りのマグカップ』って文を添えたんだろうし」
「私にしか、分からない価値……か」
どれだけ他人に褒められようが、自分がそれに思い入れがなければただのゴミになる。
自分にとって大切なもの。自分が感動したもの。
本当に写真に残すべきなのは、そういうものなんだと俺は思う。
それはきっと、一生の宝物になる。
そうすれば、写真を見ることでその時のことをいつでも思い出せるから。
「……頭空っぽにして無差別に撮るのもいいんだけどさ。でもそれだと、自分にとってかけがえのない大事なものと、そうでないものの境界が薄れちまう。だから、まずそういうところから考えてみてもいいんじゃない? そうした方がずっと楽しくなるだろうし、後になって撮っといてよかったって思えるかもよ」
「かけがえの、ないもの……」
俺の言葉を受けて、リファはますます考え込んでしまった。
が、しばらく答えが出たのか「あっ」と小さく声が出た。
「見つかった?」
「あ、いや……まぁ……」
初コメントをつけられたときと同様、リファは顔を赤くしてもじもじし始めた。
どうしたんだろう。人には言いにくいことなんだろうか。
彼女は目を泳がせながら、もごもごと聞き取りにくい声で何か言っていた。
しかし、やがて意を決したように目をギュッと閉じて……。
――スマホを、俺に向けた。
「え、えいっ」
♪ピコン
音がしてシャッターが切られる。
リファはゆっくりと目を開けて、撮った写真――おそらく俺のマヌケヅラが写ってんだろう――を確認。瞬間、晴れやかな笑顔が表情に出た。
「……リファ?」
「ふぇ? や、その……かけがえのないものって言われたから、つい……」
「……」
「だ、だってマスターはこの世界に一人しかいないし。私にとっても、すごく大事な人で……だから、私が残しておくべきなのは……こういうものなんじゃないかと……」
俺もクローラも、そう言い繕う彼女のリアクションを見た後、同時に吹き出した。
「な、なんでわらうの!?」
「いやごめんごめん。なんか健気だったから可愛くて……」
「かわっっっ!? な、何をふざけたことを!」
「クローラもそう思います。今のリファさん、すごく愛くるしかったですよ?」
「お前までそんなことを……! なんなのだ二人して、もぉ!」
地団駄を踏みつつ、別な意味で顔を赤くするリファ。これもこれで可愛い。
かけがえのないもの……か。違いねぇ。
「リファ。ちょいとスマホ貸して」
「……?」
片眉をひそめて、女騎士は手に持ったそれを俺に渡してくれる。
俺はまた素早く画面を操作して、カメラを起動し……。
「リファ、クローラ。こっち来て、俺の横に並んで」
「え?」
「? はい……」
不思議そうな顔をしつつ、言われたとおりにする二人。その真ん中に挟まるようにして俺が立つ。
そしてスマホを持った手をまっすぐ伸ばした。
そのディスプレイに表示されたのは、外側のレンズに写った景色ではなく……。
「あれ、これ……私達です?」
「本当だ……なんで、向こう側の景色が出ないのだ?」
「実はスマホには、内側にもレンズがあるんだ。ここんとこ」
と言って、俺は受話口の横にある直径5ミリ程度のそれを指差す。
「こんなところにまで……」
「で、これをどう使うかって言うと……」
俺はそのまま、三人の顔がカメラの内側に入ったタイミングでシャッターボタンを押した。
♪ピコン
セルフィーショット完了。
三人の集合写真、完成である。
「「わぁ……」」
それを見た二人は、虹を見たときよりも更にうっとりとした声をあげた。
「すごいです……私達が写真になってます!」
「これが『自撮り』ってやつさ。自分で自分を写すこと。撮りたいものと一緒に写れば、より『かけがえのなさ』っぽさが引き立つだろ」
「た、たしかにそうだな」
仲良く肩を寄せ合う俺達。これこそ本当に世界に一枚しかない写真だ。
「……うん。こういう写真のほうが、撮ってて楽しいかもしれない」
「わかってくれたようで何より」
リファは、今の写真をクローラと一緒にしげしげと見つめながらはにかんだ。
「マスター。ありがとう。私、これからは、私やマスター、クローラのシャシンをいっぱい撮ることにするよ。そして、大切な思い出を残していく」
「そっか……頑張れ」
「ああ! 任せてくれ」
スマホを大事そうにギュッと抱え、若き女騎士は明るく返事をした。
○
数日後。
「ただいま。あれ、リファは?」
「おかえりなさいませ、ご主人様。リファさんは外出中です。『自撮りの旅』に出かけるとかで」
ちゃぶ台の上でPCを操作しながら、クローラが会釈をしつつそう報告した。
まったく、外出る時は一声かけろって言ったのに。まぁそんな遠出しないだろうから問題はないだろうけど。
にしても、今回はえらく長続きしてんな。またすぐ飽きて放り出すかと思ってたのに。
「クローラは、今日も調べ物?」
「いえ、今日はリファさんのシャシンを見物しております」
「リファの?」
俺が彼女のPCを覗き込むと、そこにはインスタが表示されていた。今クローラがブラウズしているのは、リファのマイページ。
そっか、PCでも見られるんだったね。
どれ、一体どんな写真を投稿しているのかしらっと……。
「普段は凛々しいご主人様も、こんな愛らしい一面があるのですね。クローラ、ちょっとキュンとしてしまいました」
? 俺が愛らしい? どういうことだ?
不思議に思って確認してみると……。
―――――――――――――――――――――――
・Reference.L.V
マスターの寝顔撮った。今日も可愛い。
・Reference.L.V
寝ぼけながら歯を磨くマスター。涎がこぼれててだらしない。
・Reference.L.V
本日の夕食を作るマスター。夢中でこっちには気付いていない模様。
・Reference.L.V
散歩中につまずいて転倒するマスター。涙目で強がってた。
・Reference.L.V
バスで整理券を取り忘れて運転手に平謝りするマスター。ちなみに私はちゃんと取った。
・Reference.L.V
スーパーで牛乳を奥の方から取るマスター。こういうのって良くないんじゃなかったか?
・
・
・
……。
カチッ、カチッ。
―――――――――――――――――――――――
・アカウントを削除しますか?
→はい いいえ
―――――――――――――――――――――――
インスタ蝿、滅殺。
スマホを見ながら、リファが唐突に言い出した。
「毎度思うのだが、この世界の絵の技術というのは凄まじいな」
「……は?」
俺は反射的に短くそう返して振り向くと、彼女はムフーと鼻息を吐いた。
「だってほら、Twitterを見ていると、たまにものすごく精巧な絵が流れてくることがあるのだぞ」
「精巧な絵……?」
絵師なんかフォローしてたっけこいつ?(安全のため、リファのフォローするアカウントは俺が厳しく管理している)
どれどれ、と俺が彼女の示す「絵」とやらを見てみると……。
「なんだ、写真じゃん」
「しゃしん?」
言った途端にリファは首を傾げた。
彼女が示していたのは、「今日もいい天気」というツイート文に添付された、どうってことない外の風景の画像である。
しかし、どうやら写真を見るのが初めてらしいリファレンス・ルマナ・ビューアの目には、非常に珍しいものとして写っていたらしい。
彼女の話を聞く限り、ワイヤードは現代の18~19世紀程度の文明を持っている。
写真の発明も大体そのくらいのはずだったから、知らないとしても無理はないか。
「写真っていうのは、絵とは違ってこんな風に正確に風景とか物を写し出す技術だよ」
「正確に写す……?」
いまいちピンとこないみたいだったが、俺もどうやって説明したらいいか迷っていた。
そうだなー……。
「例えばさ、俺達がこうやって物や周りの景色を見ることができるのは何でだと思う?」
「何でと言われても……。目に映るから、じゃないのか」
「そうだね。それもそうだけど……じゃあこうやって……」
俺はそこで部屋のカーテンを閉め、電気も消した。
今は夜のため、室内はほぼ真っ暗に。
「こうして周りを暗くすると、目には映らなくなるよな。それは何でだ?」
「……? そんなの、暗いからに決まってるだろう……」
「そうなんだけど、光がなくて暗いと何で見えないのかって話」
「……わからんな。至極当たり前のこと過ぎて……」
まぁそうだよね。だけど、そういうところを突き詰めて考えることが現代技術理解への一歩でもある。
「正解は、物が光を反射しないから」
「光を……反射」
「そう。太陽の光でも電気の光でも、物は自分に当たる光を全部跳ね返してるんだ」
俺は部屋の明かりを再度つけ、リビングのダッシュボードに置いてあった手鏡 (リファの)を手にとって見せる。
「こういう鏡みたいなもんだよ。部屋の光が当たると……な」
「わわっ」
鏡を傾け、鏡面で反射した光をリファの顔面に当てると、彼女は眩しそうに目をつむった。
「でもこれは鏡に限った話じゃなくて、すべてのものに言えることなんだ。皆光を反射して、それが目に届く。だから見えるようになるんだよ」
「……はぁ」
リファは肩眉をひそめながら唸るように相槌を打った。
「で、それがしゃしん、とやらとなんの関係が?」
「写真の原理は、物を反射した光をフィルムっていう……まぁ薄い板みたいなもんに焼き写すんだよ。そうすることで、風景や物を収めることができる」
「ふぃるむ……」
「要は、俺らが普段使ってる目の役割と同じさ。目に映る物を、目じゃなくて代わりにフィルムに写す。それが写真の始まりだったんだ」
と、言葉だけで言ってもうまく想像できないだろうから、実物を見せることにしよう。
えっと……ダッシュボードの中にあったはず……。
「お、あったあった。これがフィルムな」
大昔撮った時のネガとスナップを一組引っ張り出して、リファに見せる。
「これが……」
「この黒っぽいのがフィルム。これに写ったものを、こっちの厚紙みたいなのに印刷して写真ができあがるってわけ」
もっとも、今はデジタル化が進んでるから、現像なんて処理はほぼ廃れてるんだけどね。
「……目に見えるものを、収める、か……この精巧過ぎる絵は、見たものをもとに描いているのではなく、風景その物を直接写しているということだな」
「そう。目に見えるものは常に変化していくものだ。でも写真は、一回写したらそのまんま。写したものを、いつまでも保存しておける。絵みたいにね」
「なるほど……」
顎に手を当てて彼女は小さく二度三度頷いた。
原理はともかく、どういうものかくらいはわかってもらえたようだ。
「しかし、何故にそのようなものを? 精巧さ以外は、絵に描くのとほぼ変わらないのだろう?」
「……リファは絵を描いたことってある?」
軍人がそんなものを趣味にしているとも思えなかったが、案の定女騎士は静かに首を横に振った。
「私自身は何も。ただ、一時期帝国お抱えの宮廷画家の護衛を務めてたんだが、その時に何度か作業に立ち会うことはあったな」
「なるほどね。じゃあその人が絵を完成させるまでに、どれだけかかってた?」
「まぁ……数日はかかってたな。最初から最後まで見たわけではないが」
「うん。まぁ大体それぐらいだな。じゃあこの写真はどれだけ時間がかかるんだろうね?」
リファは腕を組んで大仰に考え込んだ。
そして片目を開けて、
「一般的な写生で数日だから……おそらくその10倍、いや20倍はかかるのではないか?」
「一秒だ」
「は?」
「一秒。いや、それよりも短いかな」
俺が自慢げに言うと、にわかには信じがたいといったようにリファは顔をひきつらせる。
「な、何を言ってるのだ……冗談はやめてくれ」
「冗談なんかじゃないさ。じゃあちょっと撮ってみよう。リファ、スマホ貸して」
「すまほを? あ、ああ……」
怪訝そうにスマホを手渡すリファ。
Twitterも解禁して暫く経つし、これぐらいはいいだろ。
そう思いながら、俺は素早く画面を操作し、機能制限を解除する。
「はい。お前のスマホに新しい能力をつけた」
「……?」
リファがディスプレイを覗き込むと、メニュー画面に浮かび上がった「新たな力」がその目に映る。
「かめ、ら?」
「そう。カメラ。写真を取るための機能さ」
「写真を、って………これでか!?」
素っ頓狂な声を上げて、彼女は自らのスマホを指差した。
「ああ。試しに起動してみな」
「……」
リファは恐る恐るアイコンをタッチして、人生初のカメラを駆動した。
一瞬の暗転の後、彼女のスマホの画面に映像が表示される。
「うぉ!? な、なんだこれ!」
一瞬混乱して、危うくスマホを落っことしそうになるリファ。
しばらく目をぐるぐるさせながら、スマホを凝視したり動かしたりすること約1分。
ようやくそれが、今自分がいるこの室内を映し出していることに気付いたようだ。
「これ……この部屋の中ではないか……え? えぇ?」
まだ信じられないのか、今度はしきりにスマホの表面と裏面とを交互に確認し始める。
「あ、穴が開いてるわけではない……では一体どうやってこの風景が……」
「ほら、裏のここにちっこい黒丸があるだろ。これがレンズ……このスマホの目みたいなものだ」
「お、これか! ……すまほにも目があったのだな」
「まぁね。で、カメラを起動中はこのレンズに映るものが画面に出る。あとは撮りたいもんにそれを向けて……この白い丸を押せばいい」
と言って、画面上のシャッターボタンを示すと、リファは丸くした目をこっちに向けた。
「それだけでいいのか?」
「ああ、試しにそれでも撮ってみな」
俺はちゃぶ台の上に置いてあるカップを指差した。
リファはぎこちない動きでカメラをそれに向ける。
そしてうまく画面の中心に収まるよう照準を合わせて、ロックオン。
「え、えい!」
ピコン♪
という軽い音がした。
撮影完了。これで今の画像は保存されたはずだ。
「……? え、何だ今の音……」
「これで終わりだよ。カップの写真が撮れたってことさ」
画面の左下に小さく表示されている、今撮影した写真をタップして拡大。
すると、リファがたった今カメラに収めたカップが綺麗に映し出されていた。
「これが、写真……」
「そうだよ。な、一瞬だったろ」
「信じられない……たった一動作で……絵よりも精巧なものを……」
感嘆の息を漏らしながら、リファはその何の変哲もないカップの写真を見つめた。
ぶっちゃけ、今の時代の人間からしても驚くべき技術であることは否めない。
昔はカメラに収めただけじゃ終わらなかったもん。
休みの日に親に頼んでフィルムを写真屋さんに渡してもらって、何十分も待ってから写真を受け取って……。
一朝一夕じゃ済まなかった作業が、今じゃボタン一つでできちゃうんだもん。かがくのちからってすげー。
「あれ、こんな風に紙に写したりは出来ないのか?」
「できるっちゃできるけど、それにはプリンターっていって……まぁ印刷するためのキカイが必要なんだ。うちにはないから出来ないけど、まぁスマホで見るだけでもいいだろ?」
「そ、それもそうだな……」
リファは言うと、また次々と部屋の中の写真を撮り始めた。
時計、テレビ、カーテン、扇風機……。写すたびに彼女はどんどんテンションが上っていく。すっかりカメラの虜になってしまったようだった。
「こんなに素晴らしいものを私でも簡単に扱えるなんて、やっぱりこの世界のキカイはすごいな、マスター!」
「ははは、よかったなリファ」
そんな風に、また一つ新たな文化を覚えてはしゃぐ女騎士を、俺は温かい目で見つめるのだった。
○
ある日。
「熱しやすく冷めやすいってのはこーゆーのをいうのかな」
「ん?」
何気なく呟くと、ベッドに寝転んでジャンプを読んでいたリファが返事をした。
俺はちゃぶ台に放置してある彼女のスマホを顎でしゃくった。
「写真。撮らねーの?」
「……ああ」
結局リファが写真を撮ったのは初日だけだった。
次の日にはカメラすら起動しない。三日坊主もびっくりな飽きっぷりである。
「確かにシャシンは便利なものだ。物を一瞬で写し、保存できる。だがそれを必要とする人間とそうでない人間がいるというのもまた然り」
女騎士はごろんと寝返りを打ちながらなんか語り始めた。
「あれからシャシンというものがワイヤードにあったら、と色々考えた。敵地の偵察だったり、貴族の肖像画にしたり、学術書の図解として載せたり……」
「はぁ……」
「だが、今の私にはどうも必要なさそうだ」
「必要ないって……」
「部屋にある物、この辺の近所の風景。そんなのを取っておいて何になる? いつだって見られるだろう」
まぁそうだけども。必要のあるなしで考えるもんじゃなくね?
確かに実用的な面で言えば、今のリファには使いみちはないだろう。でも、写真撮影の目的ってのはそれだけじゃない。
「例えば?」
「そりゃ、純粋に趣味でさ」
「趣味で……?」
「きれいなものや美しいと感じたものを写真という形で残す。それを楽しんでやってる人もいるんだよ」
「暇なんだな」
一日中漫画読み腐ってるオメーにそう言われるとは、写真家さん方も夢にも思ってねーだろーよ。
「ですが、画家の方のように好きで絵を描いてる人もワイヤードにはいらっしゃいましたし。同じくシャシンを好きで撮っていらっしゃる人もいるだろうというのは、なんとなく理解できます」
そう横から口を挟んできたのは、女奴隷ことクローラだった。
彼女は洗浄した牛乳パックをハサミで切り開きながら言う。
「それに、絵を描くよりも簡単にできるのですから、それを趣味にしておられる方は結構大勢いるのでは? ご主人様」
「察しが良いな。そのとおりだ。スマホでお手軽にいつでも撮影できるこの時代……写真を撮るのを生きがいみたいにしてる奴らはごまんといる」
そして、と区切って、俺は人差し指を立てた。
「そういう奴ら向けのコミュニティもできるわけだ」
「こみゅにてぃ……ですか」
「同じ趣味の奴ら同士がこぞってワイワイやる集まりみたいなもんだ。それが……」
リファのスマホを取り、とあるアプリをダウンロードする。
そのまま起動し、アカウント登録まで済ませて……と。
……よし、完了。
「ほれ、リファ」
「何だ……わっ」
ベッドから上半身だけを起こした彼女に、スマホを放り投げる。
慌ててキャッチしたそれを、リファは訝しげに確認。
「いんすた……ぐらむ?」
「そ。Instagram。写真愛好家達のコミュニティツールだ」
「なんでこんなものを……」
「まぁ見てみろって」
リファは面倒くさそうに画面を操作。初めてのインスタを体験した。
途端。目の色が変わった。
「な、何だこれは!? シャシンがいっぱいある!」
「それがInstagram。色んな人が自分で取った写真を好き勝手投稿していくものだ」
「すごい。まるですまほの中で美術展でも開いてるような感じだな!」
言い得て妙な例え。
さながらポケット写真館。クオリティもバカにできないから面白いんだよな。
「もちろん、お前も写真を投稿できるぞ」
「私も!?」
「ああ。今まで撮ってきたのあるだろ。それ投稿してみなよ」
「え、あれをか!? で、でも……案の変哲もない家具とか食べ物とかのシャシンしかないぞ……」
「そういうのでいいんだよ」
「へ?」
「よく見てみ。他の人が上げてる写真も、別にそんな大仰なもんでもないだろ」
俺の言ったとおり、リファが見ているその写真群はどれも料理とかペットとか近所の公園とか、一般人なら誰だって撮影可能なものばかりであった。
「ほんとだ……よくよく見れば」
「で、そういう写真に、皆がコメントしたりされたりして、交流を深めるわけ」
「こめんと……?」
「Twitterのリプライみたいなもんだ。ほら」
俺はとある投稿写真(ペットの犬)のコメント欄をタップするよう促す。
すると……。
・Automatico M1918
かわいい~♡
・SMLE MKⅢ
もふもふした~い!
・Mosin-Nagant
やばい萌え死ぬ(わら
・Chauchat
It's so cute!
・Selbstlader 1906
かわいいですね! コーギーですか?
「な。こんな風に投稿した写真を共有することで、盛り上がれるってわけ」
「すごいですね。こんなことで一喜一憂できるなんて。おめでたいというか、羨ましいです」
と、さり気なくインスタ利用者をDisるクローラさん。こいつ度々無意識に毒吐くよな。
とはいっても、たしかにつまんない人にはつまんないからなぁ。
そもそも写真を撮るのがそんな興味ないというリファには、勧めても無駄だったか。
と、思ったのもつかの間。
「す、素晴らしいぞ!!」
女騎士は目を輝かせながら立ち上がった。そりゃもう俺もクローラも引くくらい。
「1枚のシャシンでこんなにも多くの賞賛が得られるとは! この世界でのシャシンというものの付加価値を私は見くびっていたようだ!」
「え、あ、まぁ……」
「マスターマスター! 私もシャシンをここに上げてみたいぞ! どうやるのだ?」
「あー、左上の投稿ボタンを押して……」
ものすごい勢いで訊いてくるリファに気圧され、俺はたじろぎながらもやり方を説明した。
その他にもフォロー、コメント投稿、いいねなどなど。一通りのレクチャーを教え込まれた彼女はさっそくインスタに初写真をアップ。
上げたのは、一番最初に撮ったちゃぶ台の上のカップ。添えたコメントは以下。
『お気に入りのマグカップ♡』
「こ、こんなんでいいのかな」
「いいんじゃな~い(ギター侍風)」
「こ、こめんととか……つくかな。つくといいな」
「そんなすぐには無理だよ。まだ始めたばっかなんだし、来たら通知が鳴るようになってるから、それで……」
ピコリン♪
来た。
マジかよオイ。投稿何秒後だよ。
コメント打つ時間はあったにしても、写真を見て何か感じて、コメント考えるまでが1フローだろ。なんだこの投稿されるのを前々から予測してましたよと言わんばかりの速さ!
何、インスタ民ってそこまで脳神経が研ぎ澄まされてんの? 利用者全員ニュータイプ持ってたりすんの?
で、その超感覚をお持ちのコメント投稿者さんは一体どのような感想を……。
・Wood_Village
超いいじゃん! 恋人からの贈り物かなんか?
……めちゃくちゃ馴れ馴れしいな。
まぁインスタの民度なんてたかが知れてるし、これくらい……。
いや待てよ、確かTwitterん時でも同じことあったなそういや……。前は確かFF外からリプ飛ばしてきた奴にブチキレてたんだっけ。
まさか今回も……。
と、波乱の展開を危惧した俺はリファの反応を伺う。
が。
「こ、ここここここ恋人だなんて! そ、そそそそそそそんなわきゃにゃいだりょ! にゃにをいってるのだこいちゅっ!」
顔を真っ赤にして絶賛取り乱し中でござった。
コメント一つでこんな反応できるなんて幸せだねホント。投稿者冥利に尽きるって感じ?
「まぁ何はともあれよかったじゃない。返信すれば?」
「へ、へんしん? あ、ああ。もちろん返すとも」
「なんて?」
「ば、バカ見るなっ! あっち向いてろバカマスター!」
先程よりも更に顔を紅潮させて、リファは手をブンブン振った。主の忠誠心はどこいったよ女騎士。
「こいびと……ふへへ……」
ものすごい気持ち悪い笑みを浮かべながら文字をタイピングする彼女。
で、返事を打ち終えた後、すぐさまベッドから飛び降りた。
「よし! 出かけるぞ」
「はい?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。何しに行くんだよ。
「決まってるだろ。シャシンを撮りに行くのだ」
「え?」
「外でたくさんシャシンを撮って、このいんすたぐらむに上げるのだ! きっともっといっぱいこめんとがもらえるぞっ♪」
「でもリファさん……」
おずおずとクローラが挙手しつつ言う。
「外、雨ですよ……」
そう。外はしとしとと雨が降り注いでいる。
別に激しいというレベルではないが、外出するには適さない天気だ。
だがインスタの魅力に取り憑かれたっぽいリファには、そんなことは瑣末なことだったらしい。
「何を言っているクローラ! こんな時のための傘と雨合羽だろうが!」
「えー……」
まずいな、紹介するタイミングを誤ったようだ。どうせならもっと晴れ渡った空の日に勧めてあげるんだったよ、迂闊。
「それに、雨なら雨の日にしか見られない風景というものもあるだろう! これは絶好のチャンスだ。ほら行くぞ二人共!」
ああくそこいつ人の話聞く気ねぇわ。完全にマイワールド入っちゃってるわ。
リファはベルトのホルスターに100均ソードを装着し、クローゼットから雨合羽を取り出すと颯爽と装備した。
こうなったら手ぇつけらんねぇからなリファは。しゃぁない、ちょっとだけ付き合ってやるか。
俺はため息を小さく吐くとよっこらせ、と重たい腰を上げた。
○
「うわすごい! カタツムリだカタツムリ! あ、カエルもいたカエルも!」
めっちゃテンションアゲアゲで目に入るものをかたっぱしから激写していくリファ。
そんな彼女を、俺とクローラは一緒の傘に入りながら生暖かい目で見ていた。
「すごく楽しそうですね。前まではカタツムリもカエルも見向きもしなかったのに」
「ま、ものの見方ってのは単純なことで変わるもんさ」
「そうですね」
苦笑しながらクローラは言う。
ただリファのはしゃぐ姿を見てるのもアレなので、軽く雑談でもしていようか。
「ワイヤードにも画家はいたらしいけど、絵ってどれくらい流行ってたんだ?」
「そうですね。画家は主に一般庶民から輩出されますが、仕事先はほとんど貴族や王族の方たちがいる場所に限定されますね」
「へぇー。リファからも帝国お抱えの宮廷画家と関わり持ってたって聞いてたから、やっぱりそうなんだ。庶民はそんなに嗜まないんだね」
「ええ。普通に働く人は、絵にうつつを抜かす暇はありませんもの」
「そういうもん? でもさっき好きで絵を描いてる人もいるって言ってたじゃん」
「確かに画家の方は好きで描いておられるのでしょう。ですが、『好き』だけでは生きていけませんよ」
こちらを上目遣いで見つめながら、女奴隷は笑った。
好きだけでは生きていけない。それが意味することはつまり……。
「売れなきゃ意味ないってことか」
「おっしゃる通りです。絵を欲しがる方は貴族以上の階級の方のみ。そういう人達に買ってもらうために、どなたも必死なのですよ」
「自分の描きたいものより、買い手が望む絵を描かなければならない。ってことか」
「はい。そういう意味で葛藤する方も結構いたと思います」
それに比べて、とクローラは区切って視線をリファに戻した。
「ああやって、誰もが簡単に自分の好きなように作品を作れて、それを不特定多数の人に気に入ってもらえる。……この世界の技術は、暮らしを便利にさせるだけでなくて、娯楽に関しても様々な趣向が凝らされているのですね……」
「……ああ。インスタだけじゃない。他にももっと沢山の娯楽はあるぞ。より多くの人の『好き』で生きてけるようにな」
「ふふ、そうですね。クローラも、自分の『好き』なことを見つけられるといいなって思います」
そう二人して笑いながら語らっていると、リファが大声でこちらを呼んだ。
「おーい、何やってる! はやく次の場所に移動するぞ! ついてこーい!」
「おっと、お呼びがかかったし、行こうか」
「はい、ご主人様」
○
数十分後
「ふぅ、結構撮ったな」
この短い間で、ゆうに200枚以上も撮影したらしい。
ブレまくりなのからぼやけてるのまで様々だったが、リファ女史は満足そうだった。
今俺達がいる場所は、浅川にかかる大きな石橋「南浅川橋」の上。随分遠くまで来ちまったみたいだな。
撮った画像を一枚ずつインスタに投稿していく彼女に俺は声をかけた。
「リファ、もうこの辺にしとこうぜ。そろそろ帰ろう」
「ん? ああそうだな。うむ。これだけ集まれば大丈夫だろう」
そう言ってリファは踵を返し、帰路に着こうとした
その時、今まで降っていた雨が止んだ。
同時、空一面に広がる曇天の隙間から、眩しい日の光が差し込んできた。
「お、止んだな」
「そうみたいですね」
持っていた傘を閉じて、クローラが返事をした。リファもかぶっていたレインコートのフードを外す。
やれやれ、止むんならもっと早く止んでくれりゃよかったのに。と俺は天空に向けて無言で文句を言った。まぁ言ったってしょうがないんだけど。
「よし、じゃあ帰るか。おいリファ?」
俺は背後のリファをせかしたが、彼女はとある一点を見つめたまま微動だにしなかった。
一体どうしたんだろう。
不思議に思って、俺達は彼女の視線が向く先を見た。
そして思わず驚きの声を漏らす。
「……虹だ」
そう。川の上空を横切るように、くっきりと大きな虹がアーチを描いていた。
虹なんて久しぶりに見たな。しかもこんな間近でお目にかかれるとは。
七色の光がキラキラと煌めくその様は、まさに圧巻の一言。
「すごい……」
「綺麗です……」
リファもクローラも、あまりの美しさにため息をこぼした。
だが、パツキンの方はそれだけでは終わらなかった。
ここぞとばかりにスマホを取り出し、写真に収めんと躍起になる。
「今日はついてるぞ……まさかこんなところでこんなものが見られるなんて」
ウキウキ顔でそう言いながら彼女はカメラを起動。
そしてレンズを、その虹に向けた。
狙いはバッチリ。後はシャッターを切るだけだ。
……と、思っていたのだが。想定外の出来事が起きた。
「あ、あれ虹じゃない!」
「ホントだ!」
「やばいあれすっごい大きいよ! はやく写真撮らなきゃ!」
「あたしもあたしも!」
「早く早く! 急がないと消えちゃうよ!」
黄色い声とともに、何人かの若者達がこぞって石橋に群がり始めた。
全員が全員、ポケットやカバンからスマホを取り出し、リファと同じように虹へとカメラを向けた。
そして。
♪ピコンピコンピコンピコンピコンピコン
♪パシャパシャパシャパシャパシャパシャ
♪シャラランシャラランシャラランシャララン
奏でられるそれぞれのシャッター音のハーモニー。
狂ったように撮影者達は、シャッターボタンを連打。
その間、一切誰もしゃべらない。全くの無言。音を鳴らすのは、スマホのみ。
まるで銃器を的に向けて、一斉掃射しているようなその光景。
それを見た女騎士は……。
「あ……え……ぅ」
完全に萎縮してしまっていた。
一心不乱に撮影を続ける連中を、おたおたと見渡すばかり。
別に物理的な邪魔が入ったわけではない。ただ見えない何かが、彼女の撮影を……意欲を根こそぎ奪い去っていったのだ。
どうしていいのかわからず、焦ってしまったせいなのか、とうとう持っていたスマホを落としてしまった。
「あっ……」
女騎士は急いでしゃがみこみ、人々の足にぶつからないように這い、落ちたスマホを探す。
手をまさぐるようにして動かし、ようやく拾い上げた頃。野次馬達は撮影をとうに終えて、ばらばらに散っていった後だった。
「……」
虹はまだ消えていなかった。今ならまだ間に合う。
だが石橋の上でたった一人残されたリファは、スマホを両手で握りしめてうつむいたままだった。
結局、彼女は虹の写真を撮ることはなかった。
○
帰り道
「よかったのか? 撮らなくて」
「……ん」
何気なく訊いてみると、リファはトボトボと歩きながら小さく返事をした。
「あれだけきれいな虹だったんだ。私の他にも、撮りたいと思う奴はいてもおかしくはない」
「……そう」
「最初に虹を見た時は、すごく綺麗で、絶対に残しておかなくてはと思ったんだ。でも、彼らを見ていたら……」
そう言い、リファはスマホを取り出してInstagramを起動した。
「マスター、これ、『ぐーぐる』みたいに特定の写真を検索できたりはしないか?」
「……下の虫眼鏡のマーク」
そう言うと、彼女は立止まって俺の言ったとおりに検索フォームを開く。
そしてそこに、とあるワードを入力した。
『虹』
結果はすぐに出た。
出るわ出るわ、似たようなアングルで撮られた虹の写真。
時間、場所。まったくもって俺らがさっきまでいた場所と同じ。投稿者があの野次馬どもであることは明白だった。
「……やっぱり」
はぁ、とリファはため息を吐いた。
「皆同じような写真……この中に私の写真が加わったところで……何か意味があるんだろうか」
「……」
「他の写真も……色々な人達に知ってほしくて上げたつもりだった。でもそれも、既に数多の者が投稿しているのだな」
「リファ……」
「マスター。彼らはこんなふうに、とっくに似たようなシャシンが上がっていることを知っててやっているのか?」
「……ああ」
リファの問いに俺は静かに頷く。
「何故だ? 彼らは何のためにシャシンを撮っている!? いや、それに感想をつける者達もそうだ! なぜそうまでして似たり寄ったりなものを作り出し、それを見て楽しめるのだ!?」
「落ち着けよリファ」
俺はそう言って詰問してくる彼女をなだめた。
確かにこれは異世界人には難しい問題だったかもしれない。
写真を見たこともない人間には、なんのためにそれがあるかすら理解できない。当然のことだ。
実用性という観点で見れば、大いに役立つだろうという結論にすぐたどり着く。
だが、芸術品として見た場合、それは非常に難しい問題になる。
「確かに似たような写真ってのは世に溢れ出てる。そんな中で新たに撮った写真ってのは、一見何の価値もないように思えるだろうさ。でも違うんだよ。撮った本人には、そいつにしかわからない価値ってのがあるんだ」
「本人しかわからない、もの……? なんなのだそれは」
「それはね……」
俺は一旦そこ区切ると、小さく息を吐いて言った。
「思い出、だよ」
「……おもいで」
「うん。『私はここでこういうものを見ました』ってのは写ってるものこそありふれてるかもしれない。けれど、そこで起きた出来事ってのは、そこでしかないものなんだ。わかる?」
「……」
「だから別にあいつらはただ単に虹っていう珍しいもんを写したいんじゃない。今この時、この場所で、虹が出た場面に『自分が居合わせた』ってことを伝えたいんだ」
もちろん、この持論が100%そうかっていうとそうでもない。
実際「撮って褒められたい」ことだけを目的にしている奴だって大勢いる。
人気が出そうな写真を撮りたいがために、食べ物を粗末にしたり人に迷惑かけたり……。本当バカらしいったらありゃしない。
「そうだったのか……。皆同じように見えて、実は世界に一つだけしか存在しないものだったんだな」
「最初のカップの写真を想像してみるとわかりやすいかもな。別な奴が上げてる全く同じカップを見たとしても、写ってるものが同じだから価値も同じものだって感じるか?」
「それは違う! あれは、マスターが私に買ってくれた大切なやつで……」
「な? 自分にしかわかり得ない価値はあるだろ。そういうことだよ。だから『お気に入りのマグカップ』って文を添えたんだろうし」
「私にしか、分からない価値……か」
どれだけ他人に褒められようが、自分がそれに思い入れがなければただのゴミになる。
自分にとって大切なもの。自分が感動したもの。
本当に写真に残すべきなのは、そういうものなんだと俺は思う。
それはきっと、一生の宝物になる。
そうすれば、写真を見ることでその時のことをいつでも思い出せるから。
「……頭空っぽにして無差別に撮るのもいいんだけどさ。でもそれだと、自分にとってかけがえのない大事なものと、そうでないものの境界が薄れちまう。だから、まずそういうところから考えてみてもいいんじゃない? そうした方がずっと楽しくなるだろうし、後になって撮っといてよかったって思えるかもよ」
「かけがえの、ないもの……」
俺の言葉を受けて、リファはますます考え込んでしまった。
が、しばらく答えが出たのか「あっ」と小さく声が出た。
「見つかった?」
「あ、いや……まぁ……」
初コメントをつけられたときと同様、リファは顔を赤くしてもじもじし始めた。
どうしたんだろう。人には言いにくいことなんだろうか。
彼女は目を泳がせながら、もごもごと聞き取りにくい声で何か言っていた。
しかし、やがて意を決したように目をギュッと閉じて……。
――スマホを、俺に向けた。
「え、えいっ」
♪ピコン
音がしてシャッターが切られる。
リファはゆっくりと目を開けて、撮った写真――おそらく俺のマヌケヅラが写ってんだろう――を確認。瞬間、晴れやかな笑顔が表情に出た。
「……リファ?」
「ふぇ? や、その……かけがえのないものって言われたから、つい……」
「……」
「だ、だってマスターはこの世界に一人しかいないし。私にとっても、すごく大事な人で……だから、私が残しておくべきなのは……こういうものなんじゃないかと……」
俺もクローラも、そう言い繕う彼女のリアクションを見た後、同時に吹き出した。
「な、なんでわらうの!?」
「いやごめんごめん。なんか健気だったから可愛くて……」
「かわっっっ!? な、何をふざけたことを!」
「クローラもそう思います。今のリファさん、すごく愛くるしかったですよ?」
「お前までそんなことを……! なんなのだ二人して、もぉ!」
地団駄を踏みつつ、別な意味で顔を赤くするリファ。これもこれで可愛い。
かけがえのないもの……か。違いねぇ。
「リファ。ちょいとスマホ貸して」
「……?」
片眉をひそめて、女騎士は手に持ったそれを俺に渡してくれる。
俺はまた素早く画面を操作して、カメラを起動し……。
「リファ、クローラ。こっち来て、俺の横に並んで」
「え?」
「? はい……」
不思議そうな顔をしつつ、言われたとおりにする二人。その真ん中に挟まるようにして俺が立つ。
そしてスマホを持った手をまっすぐ伸ばした。
そのディスプレイに表示されたのは、外側のレンズに写った景色ではなく……。
「あれ、これ……私達です?」
「本当だ……なんで、向こう側の景色が出ないのだ?」
「実はスマホには、内側にもレンズがあるんだ。ここんとこ」
と言って、俺は受話口の横にある直径5ミリ程度のそれを指差す。
「こんなところにまで……」
「で、これをどう使うかって言うと……」
俺はそのまま、三人の顔がカメラの内側に入ったタイミングでシャッターボタンを押した。
♪ピコン
セルフィーショット完了。
三人の集合写真、完成である。
「「わぁ……」」
それを見た二人は、虹を見たときよりも更にうっとりとした声をあげた。
「すごいです……私達が写真になってます!」
「これが『自撮り』ってやつさ。自分で自分を写すこと。撮りたいものと一緒に写れば、より『かけがえのなさ』っぽさが引き立つだろ」
「た、たしかにそうだな」
仲良く肩を寄せ合う俺達。これこそ本当に世界に一枚しかない写真だ。
「……うん。こういう写真のほうが、撮ってて楽しいかもしれない」
「わかってくれたようで何より」
リファは、今の写真をクローラと一緒にしげしげと見つめながらはにかんだ。
「マスター。ありがとう。私、これからは、私やマスター、クローラのシャシンをいっぱい撮ることにするよ。そして、大切な思い出を残していく」
「そっか……頑張れ」
「ああ! 任せてくれ」
スマホを大事そうにギュッと抱え、若き女騎士は明るく返事をした。
○
数日後。
「ただいま。あれ、リファは?」
「おかえりなさいませ、ご主人様。リファさんは外出中です。『自撮りの旅』に出かけるとかで」
ちゃぶ台の上でPCを操作しながら、クローラが会釈をしつつそう報告した。
まったく、外出る時は一声かけろって言ったのに。まぁそんな遠出しないだろうから問題はないだろうけど。
にしても、今回はえらく長続きしてんな。またすぐ飽きて放り出すかと思ってたのに。
「クローラは、今日も調べ物?」
「いえ、今日はリファさんのシャシンを見物しております」
「リファの?」
俺が彼女のPCを覗き込むと、そこにはインスタが表示されていた。今クローラがブラウズしているのは、リファのマイページ。
そっか、PCでも見られるんだったね。
どれ、一体どんな写真を投稿しているのかしらっと……。
「普段は凛々しいご主人様も、こんな愛らしい一面があるのですね。クローラ、ちょっとキュンとしてしまいました」
? 俺が愛らしい? どういうことだ?
不思議に思って確認してみると……。
―――――――――――――――――――――――
・Reference.L.V
マスターの寝顔撮った。今日も可愛い。
・Reference.L.V
寝ぼけながら歯を磨くマスター。涎がこぼれててだらしない。
・Reference.L.V
本日の夕食を作るマスター。夢中でこっちには気付いていない模様。
・Reference.L.V
散歩中につまずいて転倒するマスター。涙目で強がってた。
・Reference.L.V
バスで整理券を取り忘れて運転手に平謝りするマスター。ちなみに私はちゃんと取った。
・Reference.L.V
スーパーで牛乳を奥の方から取るマスター。こういうのって良くないんじゃなかったか?
・
・
・
……。
カチッ、カチッ。
―――――――――――――――――――――――
・アカウントを削除しますか?
→はい いいえ
―――――――――――――――――――――――
インスタ蝿、滅殺。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる