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旅行 追撃

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「イザーク! 俺の馬を!」

 後方にいるイザークに馬を持ってくるように指示を出す。

「はっ!」

 命を受け、ディートハルトの馬に跨り、ディートハルトの元へ向かった。

「いいか! 俺は野盗の首領らしき男を今から追う。
 お前達はこのまま、この先にある村まで向かえ、そこから先へは移動せずに俺が戻るまで待機していろ」

「了解しました」

 ディートハルトは自身の馬に跨ると、盗賊の首領らしき男が逃げた方へ向かって馬を走らせる。
 首領の男は命からがらアジトとして使っている穴倉に逃げ帰っていた。

「はあ……はあ……何だよ、あの黒いの……
 こんなの聞いてねーぞ」

 今回の仕事は、仲間全員で行ったため自分以外は誰もいない、しかし、50人以上いた仲間が全て殺されたとは考えにくい。
 一人くらい、先に逃げ帰って来ている者がいてもおかしくないのだが、未だに戻ってこない仲間を思うと嫌な予感がしてくる。

「ここがお前らのアジトってわけか……」

 思い出したくもない声が聞こえてきた。
 振り返ると、仲間達を何人も斬り捨てた男が立っている。

「ひっ!」

「別に、荷物も人員も無事だったし、お前の事などどうでもいいが聞きたい事があってな……」

 男は黙って、ディートハルトを見る。
 まるで、死を覚悟しているようだった。

「お前達、俺達が通る事をまるで知っているようだった。何故あそこで待ちかまえていた?
 伏兵まで忍ばせて用意周到だったし、行商人を襲うのに、そこまで手の込んだ事をするとは思えん」

 男は答えない。
 答えないのは予測の範囲だが、そうなると嫌な事をしなくてはならない。

「あまり、拷問なんてしたくないんだが。
 一応、言っておくぞ? 正直に答えればこの場は見逃す」
 
 ディートハルトは手をかざし痛みを与える魔法を放った。

「ぎゃああああ!!」

 激痛で悶え苦しむ。
 男はどこにも傷ができていない事を恐ろしく思った。
 一体、自分は何をされたのだろうか。 

「おい! 正直に話せ!」
(闇の魔法が何故闇と呼ばれるのかわかる気がする。
 こんな魔法、使う方も精神を病むな。)

 男はなおも答えなかったが、ディートハルトが止むを得ず、再び手をかざすと口を開いた。

「……ある男に頼まれた」

 男は、怯えながら語りはじめた。

「どんな?」

「さあ……素性はわからねえ。
 たが、大金を用意してくれて、略奪した物資も自由にしていいと言われた。
 そいつの身ぐるみを剥ごうとしたら、仲間が逆に殺されちまって……」

「殺された?」

「ああ……吹き矢かなんかわからねえが、物陰に潜んでいた相手の仲間にな。
 得体の知れねえ強さっていうか、勝てる気がしなかった」

 男の声は震えていた。

「単に俺達から略奪をしろと言われただけか?」

「いや、女子供には手をつけるなって言われた。
 そうすれば、報酬を払うし、女性を殺す様な真似をしたら、報酬はなしでお前達を皆殺しにするってな」

 うすうす勘付いていたが、話を聞いて大体想像がつくディートハルト。
 おそらく、皇帝が自分達を試したといったところだろう。

「そうか……お前の命は保証するが、この件に関してはオルテュギアで証言してもらうぞ?」

 ディートハルトは誰にでも聞こえやすく分かりやすく、声を大きくゆっくりにして喋った。

「しょ…証言? 何を?」

「今の話をある人達にして貰えればそれでいい」

 もし、皇帝が関与しているなら、この男を皇帝や皇太子、父親のいる前に連れていき証言をさせる。
 そうする事で、皇帝に少しでも恥を掻かせてやりたいと思ったのだ。
 皇帝に喧嘩を売る様な行為だが、元々嫌いだし、今回の件に関しては非常に憤っている。

「……それは困りますね」

 背後から男が現れた。

「情報局か?」

 当然皇帝が絡んでいるとなればその手足となって動くのは情報局である事は想像ついた。
 おそらく、プリンセスガード一行を監視する様に任務を受けているチームが編成されているのだろう。
 あれだけいた盗賊が首領以外、誰一人、帰っていないこないところを見ると、残りメンバーは証拠隠滅のため、野盗達の残党狩りをしているのかもしれない。

「そうです」

「どうしてこんな真似を?」

「主は『貴方達』が本当に『孫』を守れるのかどうかを気にしておられまして、『貴方達が本当に守れるのかどうか試せ!』と命を受けました」

 具体的に何をどうしろとは命じないところが皇帝らしく、ディートハルトの嫌いな一面でもあった。

「なるほど……
 それで野盗達を脅し、金で釣って襲わせたと……そういう事か?」

「そうです」

「『孫』を危険に晒すとは思わなかったのか?」

「女性二人が氷術師なのは知っておりますし、女子供には手を出すなと厳命してあります」

「こいつら盗賊が約束を守るとでも?
 素性がバレて『孫』を人質に取ったら?
 馬車馬が暴走して事故が起きたら?
 それ以前に、戦いの最中、流れ矢が『孫』に当たったらどうするつもりだった?」

 ディートハルトからすれば、どんなに用意周到に作戦を立てても思い通りに事が進まない方が当たり前であった。
 怖い話を読んで怖がらせようとすれば、勝手に話を遮って話に突っ込みを入れ始める。
 発火法で火を起して驚かせようとすれば、相手が既に火術を知っている。
 立てた作戦が、作戦通りに進むことなど、小説の中だけというのがディートハルトの持論である。
 実際問題として、この件を皇帝が知れば、目の前の男は直ぐさま死刑だろう。
 あくまで皇帝はプリンセスガードを試せとしか言っていない、多少でもアグネスに死の危険が迫るような仕事を認めるとは思えない。
 証言の話をしてから、ようやっと姿を現したのも、このままだと皇帝に首を斬られてしまうから説得しようというものだろう。

「私たちは一行を常に監視しております。何があっても危険に晒す事などありえません。もしもの時のための光術師も雇っております」

「そうか……」

 ディートハルトは男の頬を思いっきりぶん殴った。
 男はぶっ飛び、壁に激突する。白目を向き、歯は折れていた。

「おい! お前達も災難だったな……
 その男はお前の好きにしていいぞ。じゃあな」

 ディートハルトは洞窟を後にして、イザーク達の待機する村へと向かう。
 ディートハルトは姫を守った騎士としてお褒めの言葉を頂戴する事を密かに期待していたが、悪党退治に参加させなかった事をアグネスは怒っており、待っていたのは叱責の言葉であった。
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