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決闘 中編

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 ディートハルトがプリンセスガードの名誉かけて戦うという提案をライナルトは受け入れ、決闘の場が設けられる事になった。
 大々的におこなれる事が決定し、王都にある闘技場が会場に使われ、一般市民の観戦も認めていた。
 観客席の最前列の席の一つにはまるで玉座の様な皇帝専用席が設けられ、その隣にアグネスの専用席が設けられた。

「先鋒、前へ!」

 審判から合図を受け、前に出るディートハルトと近衛騎士の先鋒。
 アグネスは不安と期待が重なり、食い入るようにして決闘場を凝視している。
 魔法や飛び道具、乗馬が禁止されているくらいで、ルールらしいルールはなく、単純に相手に負けを認めさせるか、戦闘不能にするか、死ぬまで戦うかの決闘であった。

「始め!」

 ディートハルトは始まりの合図と同時に剣を鞘に収める。

「どうした? 負けを認めるのか?」

「いや、そうじゃない。
 お前に俺の剣は勿体無い、素手で十分だ」

 ディートハルト手招きして挑発する。

「ふざけおって!」

 激昂し、相手がかかってくる。 
 ディートハルトは相手の剣を身体をひねってかわすと同時に前へ出て、渾身の一撃を顎に叩き込んだ。
 相手の脳は大きく揺れ、そのまま崩れ落ちる。
 一瞬で決まった勝負に、大きな歓声が上がった。

「おおお~~!! 見事じゃディートハルト~~~!!」

 アグネスは、興奮し声を荒げて声援を送る。
 それを受けてか、プリンセスガードの面々も声援を送った。

「リーダー! 最高!」

「是非、このまま五人抜きしてくださいね!」

「俺らの手をわずらわせないでくださいよっ!」

「次鋒、前へ!」

 審判の声に応じ、近衛騎士の次鋒が前にでるが、先鋒と同じく剣を抜かずに挑発した。

「いけぇ~!! やれぇ~~!! ディートハルト~~!!」

 皇帝の横で、アグネスが声をはりあげて応援する。
 ディートハルトはアグネスの声を聞くと、アグネスの方を向いてを笑顔でVサインを送り声援に答えた。

「貴様! 背を向けるとは!」

 背後から、近衛騎士が斬りかかるが、その剣を難なくかわしてみせ、距離をつめると、容赦なく打撃技を叩き込み戦闘不能にする。
 中堅も結果は同じで、身体を翻して背後に回り、組み技を仕掛け締め落とした。

「リーダーが強いのはわかるが、幾らなんでも弱すぎないか?」
 
 一応次鋒のカミルが疑問を口にした。

「確かにアレなら、俺でも倒せそうな……」

 大将の席に座るローラントも渋い顔で戦いを見守る。
 どこかか腑に落ちないものを感じていた。
 ディートハルトが剣を抜かずに戦ったのは、相手にあえてハンデを与え、部下や観客(素人)にも分かりやすく実力の差を見せる事であった。
 決してお飾りではないという事をアピールするために。

(しかし、予想以上に弱いな……
 これでは、素人と大して変わらんというか、俺が弱い者イジメをしているようだ)

 元々、負ける気がしなかったので提案した決闘であり、自分の思い通りに事がすすんでいるわけだが、想定外の弱さなのがどうも気にかかる。
 ディートハルト当人も近衛騎士の実力に困惑し始めていた。

「副将、前へ!」

 今回の決闘のきっかけとなった会話をした片割れが前へ出る。
 大将がもう片方であった。ディートハルトはそれを受け、剣を抜いた。

「どうやら、俺が相手では剣を抜かざるを得ないらしいな」

 その言葉を聞いて思わず笑い出すディートハルト。
 言葉には答えず、大将を指差した。

「何だ?」

「二人がかりで来い!」

 ディートハルトは同時に戦う事を要求する。

「後悔するなよ!」

 大将も剣を抜き、二対一の決闘が行われた。
 ルールらしいルールがないため、双方の合意があれば特に問題はない。

 ディートハルトは相手の攻撃をかわしつづけ、防ぎつづけた。
 自分から斬りかかる事は殆どなく、斬りつける場合でも相手にわざと防がせるようにして斬りつけた。
 相手二人は、次第に体力を消耗していく。
 副将の男はついに、疲れで剣を握る事もままならず、剣を地面に落とした。
 大将の男も、剣こそ持っていたが、ディートハルトの重い剣戟を何度も受けさせられ、手は痺れ持つのがやっとの状態だった。

「どうした? 拾え!」

 ディートハルトは悠然と立ち、相手に尚も向かってくるよう促す。
 しかし、相手に戦意はもうなかった。

「ま…参りました」

 大将の男が心底、悔しそうに負けを認める発言をするが、あまりに小さい声のため周囲には聞こえない。

「もっと大きな声で!」

 ディートハルトが怒鳴りつける。

「参りました!」

 大将の男は剣を投げ捨て、会場に向かって大きく叫んだ。
 審判はそれを認め、ディートハルトに軍配を上げた。

「見事じゃあ! ディートハルト~~!!」

 アグネスは興奮し、観客席から飛び降りると、ディートハルトの方へ向かって走っていく。
 ディートハルトもこれを受けて、飛びついてきたアグネスを抱き上げた。

「ははは! ざっとこんなもんですよ。
 ……さて」

 アグネスを降ろすと、近衛騎士のほうへ向き直る。

「負けを認めた事だし、謝罪してもらおうか」

「……侮辱した事をお詫びします。
 申し訳ございませんでした」

 悔しそうに頭を下げる二人。

「違う!」

 ディートハルトが二人を怒鳴りつける。

「俺は、陰で何を言われようと大して気にしない。
 事実無根の事ならまだしも、自分のしてきた事を言われただけだからな。
 だが、お前らの会話は姫様を大きく傷つけた。
 姫の騎士を侮辱するという事はな、姫を侮辱するのと同じ事。
 謝罪する相手は……」

「む?」

 アグネスはディートハルトの言っている事がよくわからなかったが。
 二人はアグネスのほうを向き直り、頭を下げて謝罪した。

「そうだ! (キリッ」
(決まったなっ!!)

 ディートハルトはアグネスに頭を下げる二人を見ながら、心の中で自画自賛していた。

「よくわからんが、余はとっても機嫌が良い! 
 もう済んだ事じゃ~! 気にせんでよいぞ!」

 アグネスは興奮のあまり、既にどういう主旨で決闘が行われたのかを忘れていた。
 上機嫌で二人を許し、何事もなく終わるかと思ったその時――

「ディートハルトよ。この度の決闘真に見事であった。
 プリンセスガードのリーダーとして恥じぬ戦いぶりであったぞ」

 皇帝ライナルトもいつの間にか闘技場に降り立ち目と鼻の先にいる。

(いつの間に……)
「はっ! 勿体無きお言葉」

 敬礼し、頭を下げる。

「余も目から鱗が落ちる思いじゃ。
 確かに、姫の騎士であるプリンセスガードを侮辱すれば、それはその主君である姫を侮辱したという事……」

 皇帝の言葉にはあからさまな殺気が篭っており、ディートハルトに何ともいえない悪寒が走る。

「そして、余の後継者であるアグネスを侮辱するという事は、余を帝国を侮辱するという事じゃ……」

「ラ…ライナルト様……?」

 近衛騎士二人は顔面蒼白となって皇帝を見ている。
 皇帝は剣を抜き、ディートハルトに柄のほうを突きつけた。

「二人の首を刎ねよ!」

 それは、思わずぞっとするような低い声だった――
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