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第4話

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 その日の夜は、何かがユリアスの胸の辺りで動くのを感じて目を覚ました。窓から差し込むのはかすかな月の光で、月明かりに照らされたベットは金色に光を受ける。

「ミィ……」

 ユリアス耳に届くのは細い寂しそうな声で、ざらざらとした何かがユリアスの目の下をツーっと舐める。朧げな意識の中でユリアスは目の前に佇む子猫を捉える。
 開かれた瞳は金色に輝き、背後から差し込む月の光が重なり神秘的な美しさを持っていた。

「目、覚めた……?」

 朦朧とする意識の中声をかけると、まるでその声に反応するように隣に寝そべって座っているユリアスの服を引っ張る。
 ミィ、ミィと激しく発せられた声の子はユリアスに何かを求めているようだった。

「ふふ、」
 
 その子に向かって手を伸ばせば怖くないのか、自然とユリアスの手を受け入れ撫でられるその感覚に身を委ねる。
 ゴロゴロ、とティトのように喉を鳴らせば声の主をの方を向いたユリアスの腕と胸の間に縮こまるように眠りにつく。そしていつの間にか、ユリアスも再び深い眠りについていた。
—————————



 目が覚めたのは太陽が高く昇った時刻。
 寝坊した!と、急いで起き上がればそこは見慣れない家の一室。

「そうだ……ここはシュワルツ伯父さんの家だ」

 すると、昨日まであったはずの温もりがない事に気がつく。
 ベッドを触ればそこはもう冷たく、もしかしたらどこかへ出て行ってしまったのかもしれない、と思い思わず駆け出す。

「っローラさん!!」

 再び焦燥感に駆られ、キッチンへ繋がるドアを開ければそこにいるのは昨日とは見違えるほど綺麗に元気になった青髪のその子がいた。
 はぁぁぁ、と安心してその場に倒れ込むようにして座れば、椅子に座ってご飯を食べていたその子はユリアスの元へ走る。

「わ!ってて……あれ、君」

 昨日の夜見た時は金色に光っていたはずの瞳は、いつの間にか黒色へと変わり金色のかけらも残っていなかった。
 少し猫っ毛な癖のある青い髪に手を伸ばせば、ユリアスの手が触れる前に自分から頬を近付ける。まだどこかにいなくなったかもしれないという焦りと安心からくる心臓の鼓動はうるさく、その子を優しくそれでもどこかへ行かないように抱きしめる。

「はぁああ……どこかに行ったのかと思った……」

 抱き締めるその柔らかな感覚と小ささが体にフィットして、密着させる。だけど、少し強く抱きしめすぎたのか、んん!という声が聞こえて力を抜くと、その小さな両手で両頬を挟まれ、めっ!と言われる。

「……なんだぁそれ、可愛いなぁ」
「ん、ちゃさ」
「ん?」
「ご、めなちゃ、」

 口をへの字にしてへにょ、とした顔に合わせて、尻尾も耳もぺたっと垂れる。
 そうか、耳も尻尾も感情に比例するのか、そんな事を思っているとなかなか返事がもらえずオロオロとし始まる。

「大丈夫、怒ってないよ」

 そうしてその子を抱き上げれば、服をギュッと掴まれる。そうして腕に巻き付く尻尾はやはり自我を持っており、ぎゅっと巻き付くともう離れなかった。
 その様子を見ていたローラとシュワルツは二人を仲睦まじく見つめていた。

「ユーリ!はよ!そういえば、こいつの名前なんだ?」
「ジャック、おはよう」
 
 そうか、名前か……と思いローラ達の方を見つめるユリアスだが、二人も身元はわからないのか首を横に振るだけだった。
 そのまま椅子に座るユリアスは、抱いている獣人の子に話しかけた。

「君の名前はなんていうの?俺はユリアス」
「ぁ……な、ぃ」
「え?」

 名前がない?——————ユリアスは不思議に思ったが、この子を見つけたのが国境付近な上、着ていた服もボロボロで体も幼い事から、一緒にいた親と逸れたか、最悪捨てられたか、とあらゆる可能性を考えた。

「ローラさん」
「そうねぇ……獣人の親は家族への愛情が大きいことで有名なの。昨日も話したけど、その子の白い毛色に黒のマダラ模様はユキヒョウっていう珍しい種なの。特にユキヒョウの親は愛情深いことで有名だわ。だから捨てるなんてことは考えられないの」
「ユリアス、名前がないならお前が名前を付けてやるのはどうだ?」
「俺がですか……?」
「いい考えだと思うわ。それにその子すごくユリアスに懐いているから本人が嫌がらない限りそれが一番の案ね」

 名付け、か。
 ユリアスは必死に頭を回した。名付けなんて動物を飼ったことがない上に、そんな自信はなかった。

 青髪に金色の瞳、月の光、ムーン………ううん、と悩みに悩んだ結果、

「じゃあ……ブランはどうかな?」

 神の言葉を借りて、月の意味と幸運を運ぶという意味の名前を提案する。

「ん!ぶ、らん!い!」

 すると、その名前を気に入ってくれたのかその後もユリアスに抱かれたまま、「ぶらん!ぶらん!」と口ずさむ。
 その行動がユリアスにとってとても可愛くて思わずぎゅ~と抱き締めると、苦しかったのか「ゆ、り!!」と反抗される。

「問題はブランの出生よね……」
「出生ですか?」
「ああ、ユリアスは知らないかもしれないがユキヒョウはそう滅多にいない絶滅種なんだ。この辺りでユキヒョウの獣人はいねぇし……」
「もしブランの存在が公になったら、最悪狙われるかもしれないの。この国では獣人は奴隷や商品の対象になっていないけど、他国から来た商人はそうではないでしょう?この子の為にも、元いた家族の元へ返してあげるのが一番の安全策なのだけど……」
「……でも、ブランの家族は」
「亡くなっているか、ブランが追い出されたかの二択ね」

 ユリアスとしては今胸の中にいる可愛らしいブランを、詳しい理由を知らずにその場所へ帰すことはできなかった。
 そして、そのユリアスとローラ達の話を聞いて不安になったのか、耳と尻尾を再びぺしょと折り曲げる。

「ぶ、ら……い、らな、い子?」
「そんな事ないよ。ブランは俺にとって必要な子。みんなにとってもね」
「じゃ、かえ、なくていい?」
「………ブランは、帰りたくない?」
「ん、ぅ……あの、ね、たいたいなの」
「ん?」
「ペシって、い、たいの、」

 ユリアスはローラとシュワルツの方を見て、懇願した。

「一人くらい子供が増えたって何の問題もないさ!なぁ?」
「もちろん。ジャックとティトなんか、弟ができたって昨日の夜全然寝てくれなくて大変だったわぁ」

 すると、ブランはユリアスの服をツンツン引っ張った。

「ぱ、ぱ」
「パパ?」
「ん、ぱぱは、す、き、ちゅよ、くてねかっ、こいい、の」
「そっか~ブランはパパのことが大好きなんだ」
「ん!」

 すると、ユリアスはブランを独り占めしていたことがバレたのかジャックとティト達に攻撃された。
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