暴君王子は恋を知る

まぁ

文字の大きさ
上 下
4 / 43

4

しおりを挟む
「初めて?恋愛そのものが初めてって意味じゃないのか?」
「違う……キスなんてした事ない」
「じゃあセックスも?」
「せっ……!し、知らない!」
 カッと頭が沸騰しそうになるアンリ。そんな見た目とは裏腹に初心なアンリに和史は戸惑った様子だった。
「そうか初めてか……正直人の泣き顔は好きだけど、求める泣き顔はそういう無理やりな感じではないんだよな」
 何をサラリと危険な発言をしているのだろうとアンリは思った。すると和史は拘束していたアンリの手を放す。自由になったアンリは起き上がって涙を拭った。
(みっともない所を見られてしまった……)
 何一つ抵抗も出来ず、されるがままされて、挙句果てには泣いてしまうなんて所を見られたアンリは恥ずかしさで爆発しそうだった。
「無理やりは嫌だからな。もうこれ以上は止めておくよ」
「無理やりもなにも、この先は永久にない!」
「そうか?アンリは恋をしたいんだよな?なら俺と付き合えよ」
「は、はぁ!自意識過剰もたいがいにしろ!」
 傲慢な和史に吠えるアンリだが、和史自身は何も堪えていないようだ。むしろそんなアンリの反応を見て楽しんでいる。
「さて、どうせクリーニングが終わるまでは出れないんだ。今日はここで休もう」
「はぁ?でもよくクリーニングのサービスがあったな」
「ラブホ自体にはそんなサービスはないさ。ちょっとした伝手に連絡していただけさ」
 ならその伝手とやらに替えの衣類も用意させておけと言いたくなったアンリだが、それがこの男の作戦だったとは知りもしない。
「とりあえず今日は何もしないから寝ろよ」
「今日も明日もない!それにオレがここを使うからお前は床でも寝てろ!」
「こんだけデカいベッドなんだ。一人で占拠するな」
 寝転がった和史はグイっとアンリの手を引きアンリを無理やり横にした。
「む、無理やりしないんじゃないのか?」
「うるさいな。寝るだけだろ。さっさと寝ろ」
 そう言ってアンリの頭をポンポンと優しく叩く。あくまでも無理やりはしないスタンスのようで、和史はそのまま目を閉じた。和史の言葉を信じ、アンリも安心はできないが眠る事にした。
(こうして誰かが隣にいるのっていつぶりだろ?落ち着かないな……)
 幼い頃、その晩は嵐だった事もあり、一人で眠るのが怖かったアンリは、兄のアレンと一緒に寝たのを覚えている。そんな幼い頃と違い、今隣にいるのは大人の色気を持つ男だ。落ち着かないと思っていたが、次第に眠気が襲ってきて、いつの間にか眠っていた。


 翌朝になり、目を覚ましたアンリは、横にいた人物がいない事に気が付いた。
「あ、あれ?あいつがいない……」
 サイドテーブルにはアンリの服と、流暢な英語で書かれた書置きが置いてあった。
「仕事なので先に出ます。また連絡下さい?」
 ケータイの番号らしきものが一緒に書かれてあったが、アンリは「誰が連絡するか!」と捲し立てる。これは一夜の過ち。もう二度と会う事もない。キスをされた事は不覚だが、二度目はない。そう思いアレンは兄がオフィスに使っているホテルへと向かった。


「アンリ!昨日はどこに行ってたんだ?」
 これまで朝帰りもお泊りもした事がない弟なだけに、アレンは疑問に思ったのか、アンリ登場と共に問いただした。
「き、昨日はちょっと……」
 もごもごと答えにくそうなアンリ。すると扉をノックする音が聞こえ、扉が開かれた。
「失礼します。朝食のご用意が出来ましたのでお持ちしました」
 どうやらボーイがやって来たようだ。そう思ってそのボーイを見た時、アンリは固まった。よく聞けばあの時の男にそっくりだ。いや、目の前にいる男は今朝方まで一緒にいたあの和史ではないか。
「お、お前は!」
 優し気で上質な笑みを浮かべ、髪をオールバックにしてそれらしく見えるが、間違いなく和史だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

処理中です...