花が招く良縁

まぁ

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「十五郎さんは単に慶さんの報復が怖いだけですわ」
「恭子…よけいな事を…」
「慶さんの華道の腕は親戚含め一番なのですから、もし結婚承諾しなかったら華道止めるなんて言い出したらそれこそ惨事ですもの」
 さすがにそんな事は言わないだろうと思ってチラリと慶を見ると、困惑したような顔をしていた。どうやら恭子の読みは本当らしい…
「では話はこれまでにしましょう。美奈穂さん…あなたはこれから西園寺家の人間になるのです。西園寺家の妻ならばお花やお茶の一つは出来なくてはいけませんよ」
 なんとなく予想はしていた。きっと名家に嫁入りする世の女子達は、今も昔も変わらずこういう事をしなくてはいけないのかと思った。

 翌日の新聞やニュースのどこを見ても慶と麗子の話題は嘘だったかのように消えていた。あれだけの騒ぎだ。しばらくはマスコミも騒ぐかと思ったが、まったく何もない。そしてカフェでの事件も、一部SNSで話題となっただけでそれについての音沙汰もない。どういう風にして西園寺家がもみ消したのかはわからないが、この時西園寺家の規模や力を改めて知る事となる。
(お金持ちの権力は伊達じゃないって事ね…)
 新聞を眺めながらそう思った。
 結局丸三日間東京の西園寺本家で過ごした美奈穂は、まだ騒動が完全に収まっていないという事もあり、あまり人目につかないように帰宅した。帰宅後は普通の日常を取り戻した。あれからそう再々休みが取れないという事もあり、慶の個展には行けなかったが、準備段階の様子は見せてもらった。どの花も素晴らしかった。テーマ事に作品が作られており、秋の花などを中心に生けられたものが目立った。
 個展開催の様子をテレビで見た。連日賑わっているとの事で、美奈穂は嬉しくもありちょっぴり寂しい気持ちにもなった。個展開催は約二週間…それまで美奈穂は風香と一緒に過ごした。

 季節はすっかり秋の終盤に差し掛かっていた。高かった日中の日差しも柔らかくなり、日が沈むのも早くなった。木々は紅葉となり風も涼しいから寒いに変わってきた。夕方になるとコート一枚羽織らなくては寒さを凌げない。
 瀬戸内に面した地域は比較的温暖な気候なのだが、それでも寒いものは寒かった。寒さを堪えながら自宅に戻った美奈穂。今日は慶が東京から帰って来る日だ。
 いつもは慶が夕食の準備などしてくれるのだが、今日は自分で作りたいと思い、手には近くのスーパーで買った食材が入った袋を下げている。もちろん慶ほどの腕前ではないものの、料理は愛情と豪語する由美の言葉通り愛情を込めて洋食でも作ろうと思った。
「ただいま…ってまだ帰ってないね…」
 玄関を開け、暗い部屋に明かりを灯した。まだ慶は帰って来ていない。荷物を置き台所で夕食の準備を始めた美奈穂は、鼻歌混じりの歌を歌いながら料理を始めた。料理を作り終えるころになり、ようやく慶が帰って来たので、美奈穂は玄関まで向えに行った。
「お帰りなさい!って…どうしたんですか?それ…」
 帰宅した慶の手には綺麗に包装された花を抱えていた。
「ただいま美奈穂さん。近所の花屋さんで作ってもらったんだ。本当は自分でやりたかったんだけど…時間も時間だったし、向こうで作って持って帰る時に萎れたりしたら嫌だったから」
「はぁ…でも綺麗ですね…」
「うん。だって美奈穂さんに渡す為に造ってもらったし」
 慶の言葉の意味がイマイチ呑み込めない美奈穂は首を傾げた。すると慶は優しく微笑んだ。
「一応叔父さんとかからはOKもらったけどさ、俺、美奈穂さんにちゃんと言わなかったから…」
「えっと…何がですか?」
「俺と結婚してくれますか?」
 ようやく状況を掴めた美奈穂は、三秒程目を見開いで驚いたが、三秒後には目に涙を溜め慶を見た。
「よ…よろしくお願いしますぅ…」
 ぐずぐずと泣きながら返事を返したので、慶は盛大に笑って花束を美奈穂の手に移した。そして美奈穂を抱きしめると「これからよろしくね」と耳元で囁いた。
「私…もう若くないし、けっこうめんどくさい性格してるけど…頑張るから」
「はいはい…もう泣かないで下さいよ」
「だって…」
 泣きじゃくる美奈穂の額にキスを一つ落とし、その後二人の唇は重なった。
「愛してます…美奈穂さん」
「私も…慶さんの事…愛してます…」
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