花が招く良縁

まぁ

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 翌朝早くに美奈穂は上司である相川に二三日の休暇を取りますと連絡した。事情を知る相川からは「わかった…帰ったらみっちり仕事くれてやるからな!」と、半分脅しめいた事を言われたが、それでも相川には感謝をした。
 始発の新幹線で東京へと向かう中、慶と美奈穂は言葉をあまり交わさなかった。何故東京に来てくれと言ったのか?聞いてみたが、今は話せないとの事だ。東京駅に到着すると、慶はどこかに電話をした。そして言われるがままタクシーに乗り込み、渋谷で下ろされた。
「美奈穂さん…」
 今や日本中の大有名人でもある慶は、美奈穂の手を取り変装する事もなく一軒のカフェに入った。カフェにいた客は慶を見るなり驚いたが、本人は気にしていないようだ。一体何があるのか…それはカフェの窓際にある席に着いた時ようやくわかった。
 窓際の席では慶の婚約者でもある高城麗子が座っていた。
「麗子さん…俺はあんたに言わなきゃいけない…」
「慶さん…わたくし…」
 か細く澄んだ声の持ち主の麗子は、慶の隣にいる美奈穂を見て状況が掴めたのか、今にも泣きそうだった。
「俺はこの人と結婚する…だからあんたとは結婚も出来ない。もうこれ以上付きまとわないでくれ!」
 はっきりとそう言い切った慶。客の中にはその様子を写メに納める人達もいる。きっとSNS等で出回るだろう…美奈穂は少し困惑した。それよりも慶の言った美奈穂と結婚する宣言の方が頭でずっとリピートしてる。
「どうして…どうしてわたくしじゃダメなの…」
「俺は前から言ってる…あんたに興味はないって…」
「ひどい…ひどいですわ…」
「あぁ…俺はひどいよ。けど…これだけは言っておく!俺はこそこそ嗅ぎまわったり姑息な手を使って状況作り出したりするあんたのやり方には納得できない…」
 涙を流す麗子は、鞄から取り出した品のいいレースのハンカチで口元を押さえる。このドラマのような修羅場に客は全員まじまじと見入っていた。
「わたくしは事実を述べたまでですわ!慶さんは婚約者ですし、それに…どうしてその方がいいんですの?その方は庶民の方でしょ?何の家柄も取り柄もない…わたくしも、慶さんの叔父様もきっと納得しませんわ!」
「そんな事あんたに関係ない…俺が好きなのも、結婚したいと思うのも美奈穂さんだけだ!」
 公衆の面前で堂々と言われ、美奈穂は顔を真っ赤にして俯いていた。だがそれもつかの間だった。
「嫌ですわ!わたくしは絶対に慶さんと結婚するの!こんな女…慶さんに相応しくありませんわ!どうせ汚い手を使って慶さんをたぶらかしたのよ!」
(あぁ…なんだかイライラしてきたかも…)
 いつまでこの平行線のやり取りが続くのだろうか?このままでは終わらないと悟った美奈穂。
矛先が慶から美奈穂に移り、よく出来た泥沼ドラマのようなセリフを浴びせられた美奈穂はカチンときた。
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